「夜歩く」は横溝正史の長編推理小説。昭和23年2月から11月まで雑誌「男女」に連載され、諸事情による5ヶ月の中断を経て、昭和24年12月まで「大衆小説界」誌に掲載された作品。「本陣殺人事件」「獄門島」に続く名探偵・金田一耕助シリーズ第3作にあたり、これらの作品は「八つ墓村」や「悪魔の手毬唄」などと合わせて岡山編と呼ばれる。
三流探偵小説家である屋代寅太は、大学で知り合った仙石直記から相談を持ちかけられた。キャバレーで画家・蜂屋小市を撃ったのは、腹違いの妹である古神八千代だと言うのである。狙撃の理由は八千代に届いた奇妙な手紙と佝僂の写真にあった。そこには「汝夜歩くなかれ」と、八千代の秘密である夢遊病のことが書かれていたのだ。
東京・小金井の屋敷で同居している古神家と仙石家のツールは岡山県鬼首村にあった。古神家は仙石家にとって主君にあたる関係だったが、当主だった古神織部が亡くなった今では、未亡人のお柳さまと直記の父である仙石鉄之進が両家の主導権を握っている。また、お柳さまと鉄之進は主従を越えた関係にあり、八千代は鉄之進のタネだと疑われていた。
発砲事件が縁で蜂屋と特別な関係になった八千代は、彼を古神家の屋敷に住まわせる。これに苛立っていたのが八千代の異母兄にあたる古神守衛。二人とも佝僂であり、体型が良く似ていた。不穏な空気に包まれた屋敷で、ある夜誰とも知れぬ佝僂の首なし死体が発見される。その血まみれの現場には、夢遊病で歩き回った八千代の痕跡が残されていた。
警察では守衛を犯人と見て行方を追っていたが、しばらくして守衛の首が見つかる。蜂屋の方も行方不明で事件が膠着したまま、古神家の関係者は避暑のため岡山の鬼首村へ移動した。直記に頼まれ寅太も鬼首村に出向くが、その車中で金田一耕助という風采の上がらぬ男と出会う。こうして役者が揃ったところで、再び惨劇の幕が開くのだった……。
結末の意外性に秀でた作品であり、横溝正史の最高傑作と評価する向きもある。私もこの犯人は最後まで想定できなかった。金田一の登場場面が少なく、他の代表長編に比べると派手さに欠けるからか映像化もあまりされていないが、伏線の張り方が非常に巧妙で、叙述トリックが好きな人にはたまらない一冊だと思う。
<登場人物>
屋代寅太 … 売れない哀れな三流探偵小説家。本作の語り部。
古神織部 … 古神家の先代。典型的な生活無能力者。故人。
古神お柳 … 織部の後妻。現在古神家を統率している。
古神守衛 … 織部の先妻の息子。佝僂。八千代に好意を寄せる。
古神八千代 … お柳の娘。夜歩く夢遊病をもつ破天荒な美女。
古神四方太 … 織部の異母弟。守衛の叔父。
仙石鉄之進 … 古神家の家老筋。お柳とは主従を越えた関係。
仙石直記 … 鉄之進の息子。寅太の大学時代の友人でパトロン。
蜂屋小市 … 美男子だが佝僂の新進画家。八千代と婚約した。
源造 … 古神家の使用人。
お藤 … 古神家の女中。
お喜多 … 作州の奥に住んでいる守衛の乳母。
妙照 … 足長村海勝院の尼。ときどき直記を訪ねてくる。
沢田警視 … 警視庁の担当警視。おだやかな人物。
磯川警部 … 岡山県警の警部。金田一耕助の相棒。
金田一耕助 … 雀の巣の頭にくたびれた着物袴。ご存知名探偵。
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夜歩く (角川文庫) 文庫 – 1973/3/1
横溝 正史
(著)
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古神家の令嬢八千代に舞い込んだ「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と佝僂の写真は陰惨な殺人事件の発端であった。卓抜なトリックで推理小説の限界に挑んだ力作。
- 本の長さ336ページ
- 言語日本語
- 出版社角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日1973/3/1
- ISBN-104041304075
- ISBN-13978-4041304075
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著者について
1902年5月24日、神戸市生まれ。旧制大阪薬専卒。26年、博文館に入社。「新青年」「探偵小説」の編集長を歴任し、32年に退社後、文筆活動に入る。信州での療養、岡山での疎開生活を経て、戦後は探偵小説雑誌「宝石」に、『本陣殺人事件』(第一回探偵作家クラブ賞長編賞)、『獄門島』、『悪魔の手毬唄』などの名作を次々と発表。76年、映画「犬神家の一族」で爆発的横溝ブームが到来、今もなお多くの読者の支持を得ている。81年、永眠。
登録情報
- 出版社 : 角川書店(角川グループパブリッシング) (1973/3/1)
- 発売日 : 1973/3/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 336ページ
- ISBN-10 : 4041304075
- ISBN-13 : 978-4041304075
- Amazon 売れ筋ランキング: - 146,518位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2023年8月30日に日本でレビュー済み
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2023年12月22日に日本でレビュー済み
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前半はダラダラと世間話が続き、飽きてしまう。後半に入り、次々と事件が起こり、クライマックスに向かい状況が二転三転し、ラスト近くになっての大どんでん返し。したがって、つまらない前半に比べ後半は面白く読めた。
2023年10月20日に日本でレビュー済み
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背むしと夢遊病の家系、首無し死体、異母兄弟相姦の欲情、名刀正村、如何にも
横溝正史のワールドである。犯人も意外な人物で、入れ替わりの面白さを楽しめた
が、この物語の時代に、指紋捜査はあったはずなのに、、、、と思ってしまう。
今年のすすきの首なし事件とイメージが重なってしまった。
話題になる作品ではないが、十分楽しめた。
横溝正史のワールドである。犯人も意外な人物で、入れ替わりの面白さを楽しめた
が、この物語の時代に、指紋捜査はあったはずなのに、、、、と思ってしまう。
今年のすすきの首なし事件とイメージが重なってしまった。
話題になる作品ではないが、十分楽しめた。
2023年6月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
一人称であることから、叙述トリックを疑うもだんだん雲行きがおかしくなり、最後のどんでん返し
息をのみました
古い作品なので、障害者や女性に対する扱いに現在の価値観では有り得ない部分が有ります。そこを流せない人は読まない方が良いかもしれません
息をのみました
古い作品なので、障害者や女性に対する扱いに現在の価値観では有り得ない部分が有ります。そこを流せない人は読まない方が良いかもしれません
2021年11月28日に日本でレビュー済み
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題名は聞いたことはあるけど、未だ読んだことがなく、割引になっていたので読みました。よく出来た構造で、最後まで真相は分かりませんでした。推理ものの7割は詳細は別として、犯人の目星はつくのですが、最後まで分かりませんでした。
金田一シリーズも惨劇が終わって、名推理が始まるのだけど、この作品はそういう視点でよく出来ていると思いました。
金田一シリーズも惨劇が終わって、名推理が始まるのだけど、この作品はそういう視点でよく出来ていると思いました。
2021年8月1日に日本でレビュー済み
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横溝の作品には、あの当時の独特の雰囲気があり、やっぱり良いですね。殺人の背景になった事情とかも、今なら時代遅れなんでしょうけど。
2020年1月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
獄門島や八つ墓村などに比べて知名度は低いようですが、なんのそれにも負けないほど面白かったです。
僕は最後まで犯人が分かりませんでした。まんまと著者の罠にはまりました…。
ただ、もっと先の方に完全にネタバレをしている心無いレビューがあります。幸い私はレビューを全く見ることなく本書を読んだので良かったですが、これからの方は注意してください。
僕は最後まで犯人が分かりませんでした。まんまと著者の罠にはまりました…。
ただ、もっと先の方に完全にネタバレをしている心無いレビューがあります。幸い私はレビューを全く見ることなく本書を読んだので良かったですが、これからの方は注意してください。
2023年10月20日に日本でレビュー済み
<少しだけネタバレあり>
『本陣殺人事件』を中篇カウントすれば、『獄門島』に続く金田一耕助シリーズ第二長篇。本作の連載が始まった時点では、『獄門島』はまだ連載中であった。
事件の前半は東京、後半は岡山の山村ということで、演出次第では早くも等々力警部と磯川警部の共演が実現できた構成である。
しかし磯川警部は登場するもののほとんど台詞らしい台詞もなく、等々力警部は登場しない。
等々力警部は戦中の作品から三津木俊助らと共演していたのだが、金田一耕助と初めて交わるのは、(執筆のうえでは)ちょうどこれまた他誌で連載中の「黒蘭姫」であり、本作の東京パートで事件を担当するのは、等々力警部ではなく沢田警視である。あれっ警視か。登場しないだけで、彼の下に等々力警部はいたのかなw
ちなみに、東京パートに金田一耕助は登場しない。
岡山で思い出したが、古神の屋敷があるのは鬼首村という。
んっ、『悪魔の手毬唄』の舞台では?
と思ったそこのあなたw
あちらはおにこべ村で、本作はおにこうべ村という話もあるが、まぁどちらも訛っておにこべ村だろうw
ただし、『悪魔の手毬唄』の鬼首村は岡山と兵庫の県境、本作の村は岡山と鳥取の県境だというから、別の村としておくのがよいだろう。
岡山には古代史の四道将軍関連で桃太郎の鬼退治とも関連付けられるように、古来「鬼」の名を持つ地名が多かったとも記されていることだし、鬼首村が複数あっても、それほどおかしくない。本当にあの界隈に鬼の名を持つ土地が多いのかは知らんがw
いずれにせよ、先に挙げた先行の二作品や本作に続く第三長篇の『八つ墓村』に較べて人気や知名度は劣るが、戦後すぐに「探偵小説の鬼」になった著者が、同じく顔のない死体を扱って十分傑作だった『黒猫亭事件』でも物足りなく思って、次に臨んだという作品である。後年通俗側に舵を切った諸作品よりも、著者が謎やトリックに真っ向から取り組んだ「鬼」の作品として、もっと評価が高くてもよい。
謎やトリックの点では『八つ墓村』より上、物語としての豊かさでは「本陣殺人事件」よりも上だと思う。
このタイミングで本書を再読したのは、著者が本書のトリックを執筆の数年前から持っていたところが、新人の高木彬光のデビュー作『刺青殺人事件』で先に使われてしまい、プロットを修正せざるをえなくなり、その結果デッサンが少し狂ってしまい云々という意の文章を読んだからである。
で、『刺青殺人事件』と続けて再読したわけだが、首のない死体テーマにおける被害者と加害者の入れ代わりのパターンに挑戦したのは共通でも、類似感は特に感じなかった。代わりに顕著に感じたのは、坂口安吾の『不連続殺人事件』の影響だ。
登場人物の誰もかれも道徳意識がズレているというのは、明らかに同書を意識していた筈。
それらに加えて、ひとつ屋敷の下に複数の佝僂、複数の夢遊病者というてんこ盛り演出は、他の横溝作品の傑作と並べても遜色ないのではあるまいか。
むしろ探偵小説を読みなれた読者には、おまえが犯人やろとツッコまれやすい構成が別にあるほうが問題かもww しかも他誌ながら、本作にバトンタッチするように連載されていた「殺人鬼」にも同じ趣向があったし……。
わたしが鈍いのか、デッサンの狂いは感じることができなかったが、最終章は蛇足だったかもしれない。
彼らの悪縁を際立たせるのは悪くないだが、たとえ幼少期から植え付けられた毒々しい恨みは大学生活までに薄まっていたとしても、「愛する女の面倒をそっち方面で問題の多い男に託すか問題」がより大きくなるのではないか。
うーん、東京で首を発見した場面の解説あたりが、デッサンの狂いなのかな……?
関係ないが、章の題に「古神家の一族」があって笑った。
『犬神家の一族』より二年前の作品であるw
【注1】探偵小説のトリックの案出に憑りつかれていたこの時期、著者は探偵小説の鬼だったとしばしば自称しているが、これは江戸川乱歩の戦中の評論・感想集『鬼の言葉』の影響かもしれない。
『本陣殺人事件』を中篇カウントすれば、『獄門島』に続く金田一耕助シリーズ第二長篇。本作の連載が始まった時点では、『獄門島』はまだ連載中であった。
事件の前半は東京、後半は岡山の山村ということで、演出次第では早くも等々力警部と磯川警部の共演が実現できた構成である。
しかし磯川警部は登場するもののほとんど台詞らしい台詞もなく、等々力警部は登場しない。
等々力警部は戦中の作品から三津木俊助らと共演していたのだが、金田一耕助と初めて交わるのは、(執筆のうえでは)ちょうどこれまた他誌で連載中の「黒蘭姫」であり、本作の東京パートで事件を担当するのは、等々力警部ではなく沢田警視である。あれっ警視か。登場しないだけで、彼の下に等々力警部はいたのかなw
ちなみに、東京パートに金田一耕助は登場しない。
岡山で思い出したが、古神の屋敷があるのは鬼首村という。
んっ、『悪魔の手毬唄』の舞台では?
と思ったそこのあなたw
あちらはおにこべ村で、本作はおにこうべ村という話もあるが、まぁどちらも訛っておにこべ村だろうw
ただし、『悪魔の手毬唄』の鬼首村は岡山と兵庫の県境、本作の村は岡山と鳥取の県境だというから、別の村としておくのがよいだろう。
岡山には古代史の四道将軍関連で桃太郎の鬼退治とも関連付けられるように、古来「鬼」の名を持つ地名が多かったとも記されていることだし、鬼首村が複数あっても、それほどおかしくない。本当にあの界隈に鬼の名を持つ土地が多いのかは知らんがw
いずれにせよ、先に挙げた先行の二作品や本作に続く第三長篇の『八つ墓村』に較べて人気や知名度は劣るが、戦後すぐに「探偵小説の鬼」になった著者が、同じく顔のない死体を扱って十分傑作だった『黒猫亭事件』でも物足りなく思って、次に臨んだという作品である。後年通俗側に舵を切った諸作品よりも、著者が謎やトリックに真っ向から取り組んだ「鬼」の作品として、もっと評価が高くてもよい。
謎やトリックの点では『八つ墓村』より上、物語としての豊かさでは「本陣殺人事件」よりも上だと思う。
このタイミングで本書を再読したのは、著者が本書のトリックを執筆の数年前から持っていたところが、新人の高木彬光のデビュー作『刺青殺人事件』で先に使われてしまい、プロットを修正せざるをえなくなり、その結果デッサンが少し狂ってしまい云々という意の文章を読んだからである。
で、『刺青殺人事件』と続けて再読したわけだが、首のない死体テーマにおける被害者と加害者の入れ代わりのパターンに挑戦したのは共通でも、類似感は特に感じなかった。代わりに顕著に感じたのは、坂口安吾の『不連続殺人事件』の影響だ。
登場人物の誰もかれも道徳意識がズレているというのは、明らかに同書を意識していた筈。
それらに加えて、ひとつ屋敷の下に複数の佝僂、複数の夢遊病者というてんこ盛り演出は、他の横溝作品の傑作と並べても遜色ないのではあるまいか。
むしろ探偵小説を読みなれた読者には、おまえが犯人やろとツッコまれやすい構成が別にあるほうが問題かもww しかも他誌ながら、本作にバトンタッチするように連載されていた「殺人鬼」にも同じ趣向があったし……。
わたしが鈍いのか、デッサンの狂いは感じることができなかったが、最終章は蛇足だったかもしれない。
彼らの悪縁を際立たせるのは悪くないだが、たとえ幼少期から植え付けられた毒々しい恨みは大学生活までに薄まっていたとしても、「愛する女の面倒をそっち方面で問題の多い男に託すか問題」がより大きくなるのではないか。
うーん、東京で首を発見した場面の解説あたりが、デッサンの狂いなのかな……?
関係ないが、章の題に「古神家の一族」があって笑った。
『犬神家の一族』より二年前の作品であるw
【注1】探偵小説のトリックの案出に憑りつかれていたこの時期、著者は探偵小説の鬼だったとしばしば自称しているが、これは江戸川乱歩の戦中の評論・感想集『鬼の言葉』の影響かもしれない。