本書は表題作である「本陣殺人事件」をはじめ、「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の3篇を収録した横溝正史の推理小説。いずれの作品も名探偵・金田一耕助が活躍する。
●本陣殺人事件
昭和21年、探偵小説専門誌である「宝石」で連載が始まった「本陣殺人事件」は、横溝正史にとって戦後初の長篇推理小説。名探偵・金田一耕助の記念すべきデビュー作である。日本家屋には不向きとされていた密室殺人を戦後初めて描いた作品であり、世間から隔絶された村や呪われた名家、論理的整合性へのこだわりなど、金田一シリーズに共通するスタイルが既に完成されているのには驚かされる。
江戸時代に本陣を努めたほどの名家である一柳家。新婚初夜、雪の積もった離れで新郎新婦が血まみれの惨殺死体となって発見される。現場は日本家屋ながら密室であった。一柳家の周辺では数日前から怪しい三本指の男が目撃されており、三本指の血痕のついた金屏風との関係が疑われる。大切に育てた姪を無惨な形で失った久保銀造は、真相を突き止めるべくアメリカで知り合い面倒を見てきた金田一耕助を呼び寄せるのだった。
本作の舞台は作者の疎開地であった岡山であり、その後何度も金田一とタッグを組むことになる磯川警部も初登場するのがファンとしては嬉しい。岡山編は「獄門島」や「八つ墓村」など名作が多いが、なかでも「本陣殺人事件」は日本初の本格推理小説として高い評価を受けている。不可能犯罪の巨匠ディクスン・カーを敬愛する横溝正史だからこそできた偉業だろう。
<登場人物>
久保銀造 … 渡米し成功した果樹園経営者。一柳家の元小作人。
久保克子 … 銀造が亡兄に代わり大事に育てた姪。女学校教師。
一柳糸子 … 本陣の末裔という威厳と誇りを重んじる刀自。
一柳作衛 … 糸子刀自の夫。日本刀で刃傷沙汰を起こし死亡。
一柳賢蔵 … 糸子の長男。一柳家当主で学者。久保克子と結婚。
一柳妙子 … 糸子の長女。会社員と結婚し上海で暮らしている。
一柳隆二 … 糸子の次男。大阪の病院に勤務している医者。
一柳三郎 … 糸子の三男。兄弟中での不作。探偵小説マニア。
一柳鈴子 … 糸子の次女。虚弱で腺病質だが琴に関しては天才。
一柳良介 … 一柳家の分家の主人。賢蔵らの従兄弟。
一柳隼人 … 良介の父。軍役中に日本刀で割腹自殺した。
一柳秋子 … 良介の妻。平凡な女で子供が三人いる。
お直 … 一柳家の老下女。三本指の男から紙片を受け取る。
お清 … 一柳家の女中。
源七 … 一柳家の作男。良介と離家の雨戸を斧で叩き破った。
周吉 … 一柳家の小作。毎朝水車小屋へ米搗きに来る。
伊兵衛 … 川―村に住む老人。一柳賢蔵の大叔父。毒舌。
お冬 … どこかの島で一柳賢蔵が出会った琴を弾く女性。故人。
田口要助 … 一柳家の近所に住む百姓。三本指の男を目撃。
妹尾 … 保険会社の代理店をやっている男。
白木静子 … 久保克子が勤めていた女学校の教師で親友。
田谷照三 … 久保克子とかつて交際していた怪しい男。
清水京吉 … 右手が三本指の男。右頬に大きな傷跡がある。
木村刑事 … 久―村へ清水京吉のことを調べに行った刑事。
磯川警部 … 岡山県警の古狸。金田一耕助と初めて出会う。
金田一耕助 … 久保銀造が面倒をみている雀の巣頭の名探偵。
●車井戸はなぜ軋る
「車井戸はなぜ軋る」は昭和24年1月「読物春秋」増刊号に発表されたものを、6年後に単行本化する際、金田一の登場部分が加筆された作品。そのため、本作は探偵役である本位田鶴代の手記を読み進める形で進行し、金田一耕助は最初と最後にそれぞれワンポイントで登場するのみである。
本位田家・秋月家・小野家という3つの旧家が登場し、前時代的な確執のなか起こる殺人事件。腹違いの兄弟が戦争で入れ替わるという「犬神家の一族」と似た設定ながら、異なる結末を迎える点が面白い。本人確認のために奉納手形を使うのはその後の作品と共通しているが、本作では二重瞳孔という特殊な要素も導入されている。真相を看破してもすぐに口外せず、本位田家の老婆が亡くなるのを待つ金田一らしい優しさが素晴らしい余韻を残した。
<登場人物>
本位田弥助 … 維新当時の本位田家当主。伝説の辣腕家。故人。
本位田庄次郎 … 弥助の跡継ぎ。貨殖の道に長けていた。故人。
本位田槇 … 庄次郎の妻。亡夫に代わり本位田家を支え続ける。
本位田大三郎 … 庄次郎の跡継ぎ。二重瞳孔の持ち主。故人。
本位田大助 … 大三郎の長男。戦傷で両目を失い義眼となる。
本位田梨枝 … 大助の妻。伍一と恋仲だったという噂があった。
本位田慎吉 … 大三郎の次男。結核を患い療養所に入っている。
本位田鶴代 … 大三郎の長女。先天性の心臓弁膜症を患う。
お杉 … 本位田家の老下女。奉納手形を取りに行き転落死した。
鹿蔵 … 本位田家の下男。慎吉を診療所まで自転車で送迎する。
秋月善太郎 … 没落した秋月家の当主。井戸に身を投じて死ぬ。
秋月柳 … 善太郎の妻。大三郎との不貞を非難され井戸で自殺。
秋月りん … 善太郎と柳の娘。伍一の姉。本位田家を恨む。
秋月伍一 … 大三郎と柳の息子。大助とは同い年の異母兄弟。
小野宇一郎 … 没落した小野家当主。30年ぶりに神戸から戻る。
小野咲 … 宇一郎の後妻。神戸で酌婦をしていた評判の悪い女。
小野昭治 … 宇一郎と先妻の息子。お咲と喧嘩し家をとび出す。
吉田安 … 南方に行き消息不明だったがビルマで戦死していた。
吉田安 … 安の妻。銀の3つ年上。色白で可愛らしい顔立ち。
吉田銀 … 嫂の加奈江を嫁に貰う。小児麻痺で片脚が軽い跛。
正木 … 一人で歩けない大助を本位田家まで連れてきた復員兵。
田口実 … 崖の下でお杉の死骸を見つけ、本位田家に報らせる。
金田一耕助 … 獄門島からの帰り、事件の再調査を始めた探偵。
●黒猫亭事件
「黒猫亭事件」は昭和22年12月「小説」に発表された中篇。戦後間もなくの頃、東京近郊のG町にある酒場「黒猫」の裏庭から、顔の判別がつかない女性の腐乱屍体が発見される。また、同じ場所から首がちぎれかかった黒猫の屍体も見つかった。店は一週間前に売られ空き家になっており、男女関係で揉めていたという元経営者夫婦も行方不明。警察はマスターが妻を殺して逃げたと考え行方を追う。
一方、マダムと愛人関係にあった風間俊六から依頼され、事件を調査することになった金田一を待ち受けていたのは、犯人が何重にもしかけた巧妙なトリックだった。本作は横溝正史がいわゆる「顔のない屍体」というテーマに挑戦した作品で、二転三転する推理が楽しめる。
また、本作では金田一が珍しく風間俊六とのくされ縁を語っており、冒頭に出てくる探偵作家・Yが「獄門島」がえりの金田一と初めて出会った時のエピソードも大変おもしろいので、未読の方はぜひご一読いただきたい。
<登場人物>
糸島大伍 … G町銀座にある酒場「黒猫」のマスター。
糸島繁 … 大伍の妻で「黒猫」のマダム。風間俊六の愛人。
お君 … 「黒猫」に住み込みで働いていた若い娘。
加代子 … 「黒猫」で接客をしていた従業員。
珠江 … 「黒猫」で接客をしていた従業員。
日昭 … 崖の上にある蓮華院の老師。中風でほぼ寝たきり。
日兆 … 蓮華院の若い僧。変人で無口だが老師おもい。
桑野鮎子 … 日華ダンスホールのダンサー。糸島大伍の愛人。
小野千代子 … 糸島大伍とともに中国から引き揚げてきた女。
江藤為吉 … 「黒猫」の改造工事を請け負っている大工。
池内省蔵 … 糸島大伍から「黒猫」を譲り受けた経営者。
三宅順平 … 相当の資産を持つ洋画家。松田花子に惚れ結婚。
三宅やす子 … 順平の母。教養の相違より嫁と確執があった。
三宅花子 … やす子刀自を毒殺せんとし、誤って夫を殺し出奔。
松田米造 … 三宅花子の父。深川の大工。
風間俊六 … 土建業・風間組の親分。金田一の同窓でパトロン。
おせつ … 割烹旅館「松月」の女将。風間俊六の愛人。
おちか … 伊勢音頭の万野みたいな「松月」の女中頭。
長谷川巡査 … 東京近郊のG町にある派出所詰めの警察官。
村井刑事 … 署長や司法主任と捜査にあたる所轄の老刑事。
金田一耕助 … よれよれ着物に袴姿の探偵。幽霊を探している。
Y … 探偵作家。疎開先の岡山で金田一と出会い、親交を持つ。
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本陣殺人事件 (角川文庫) 文庫 – 1973/4/20
横溝 正史
(著)
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江戸時代からの宿場本陣の旧家、一柳家。その婚礼の夜に響き渡った、ただならぬ人の悲鳴と琴の音。離れ座敷では新郎新婦が血まみれになって、惨殺されていた。枕元には、家宝の名琴と三本指の血痕のついた金屏風が残され、一面に降り積もった雪は、離れ座敷を完全な密室にしていた……。アメリカから帰国した金田一耕助の、初登場の作品となる表題作ほか、「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」二編を収録。
- 本の長さ416ページ
- 言語日本語
- 出版社角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日1973/4/20
- ISBN-104041304083
- ISBN-13978-4041304082
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商品の説明
著者について
1902年5月24日、神戸市生まれ。旧制大阪薬専卒。26年、博文館に入社。「新青年」「探偵小説」の編集長を歴任し、32年に退社後、文筆活動に入る。信州での療養、岡山での疎開生活を経て、戦後は探偵小説雑誌「宝石」に、『本陣殺人事件』(第一回探偵作家クラブ賞長編賞)、『獄門島』、『悪魔の手毬唄』などの名作を次々と発表。76年、映画「犬神家の一族」で爆発的横溝ブームが到来、今もなお多くの読者の支持を得ている。81年、永眠。
登録情報
- 出版社 : 角川書店(角川グループパブリッシング) (1973/4/20)
- 発売日 : 1973/4/20
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 416ページ
- ISBN-10 : 4041304083
- ISBN-13 : 978-4041304082
- Amazon 売れ筋ランキング: - 44,528位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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2023年8月30日に日本でレビュー済み
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2022年7月16日に日本でレビュー済み
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「本陣殺人事件」「車いどはなぜ軋る」「黒猫亭殺人事件」の3作品を収録。どの作品もミステリーによくあるトリックが使われているのだが、古臭さを感じさせずに素直に驚きながら読めた。「本陣殺人事件」の殺人の動機が現代ではもはや動機にはなりえないのが気になったくらい。「黒猫亭殺人事件」のミステリーのトリックを重層的に組み合わせており、終盤でどんどん意外な展開が続くのが面白い。ミステリー作品はこうでなくちゃ!と思わせる。
2022年4月25日に日本でレビュー済み
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今のミステリー作家には描けない、時代背景のワードに久しぶりに出会った。
小作人、復員兵、復員船、本家、分家などなど。
やはり、そこにこそ、横溝正史の世界があり、再読も十分楽しめた。
#「本陣殺人事件」は、日本で一番有名な密室トリックではあるが、この自刃した
刀を遠くに飛ばす方法が、イマイチ、小説内の文章からイメージ出来ない。
水車の動力と琴糸で、こんなにスルリといくのだろうか?
面白かったのは、金田一のプライベートが垣間見える所で、アメリカの放浪生活
で薬物中毒者になった事があるのと、パトロンが居て資金援助のもと探偵事務所
を開業した点だ。
#「車井戸はなぜ軋る」 は、犬神家の一族の原型的な作品で、村にある三つ家
の確執と嫉妬、復員した義眼の大助は誰なのか? 入れ替わりなのか?
私的には、かなり面白かった。
#「黒猫亭事件」は、なぜ、マダム(お繁)が、二役を演じて殺人事件を起こした
かの動機やトリックの説明にやや難があり、納得できないなあ~~~。
小作人、復員兵、復員船、本家、分家などなど。
やはり、そこにこそ、横溝正史の世界があり、再読も十分楽しめた。
#「本陣殺人事件」は、日本で一番有名な密室トリックではあるが、この自刃した
刀を遠くに飛ばす方法が、イマイチ、小説内の文章からイメージ出来ない。
水車の動力と琴糸で、こんなにスルリといくのだろうか?
面白かったのは、金田一のプライベートが垣間見える所で、アメリカの放浪生活
で薬物中毒者になった事があるのと、パトロンが居て資金援助のもと探偵事務所
を開業した点だ。
#「車井戸はなぜ軋る」 は、犬神家の一族の原型的な作品で、村にある三つ家
の確執と嫉妬、復員した義眼の大助は誰なのか? 入れ替わりなのか?
私的には、かなり面白かった。
#「黒猫亭事件」は、なぜ、マダム(お繁)が、二役を演じて殺人事件を起こした
かの動機やトリックの説明にやや難があり、納得できないなあ~~~。
2020年12月18日に日本でレビュー済み
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数十年ぶりに読み返したが、やはり面白い。
犯人の動機は一見荒唐無稽に見えるが、実は秋葉あたりのアイドル崇拝者などに多い、潔癖妄想と同じ。
決して、非現実的ではない。松田聖子を昔、襲った暴漢と同じ心理だと思う。
犯人の動機は一見荒唐無稽に見えるが、実は秋葉あたりのアイドル崇拝者などに多い、潔癖妄想と同じ。
決して、非現実的ではない。松田聖子を昔、襲った暴漢と同じ心理だと思う。
2013年10月11日に日本でレビュー済み
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私が本書を購入したのは、ドラマ性の無いアクション主体の漫画を読んだからだ。現在「ミステリーボニータ」で連載中の漫画『9番目のムサシ』の第1シリーズで“顔の無い死体(死体損壊トリック)”と“クローズドサークル”により秘密組織「UB」のエージェントであるタイトルロールの主人公の篠塚高(No.9 / ♀)が身も心も結ばれた恋人でもう一人の主人公である橘慎悟(♂)を捨てた「DUTY12:果てなき日々への追憶」を読んだのが切っ掛けだった。きっと慎悟も古い版の『黒猫亭事件』を読んだに違いない。
『本陣殺人事件』(表題作)
→ 金田一耕助の探偵デビュー作。作者の疎開地であった岡山の旧家を舞台にした事件で、別名「妖琴殺人事件」。一柳家の当主である賢蔵は結婚する克子が処女ではないと知り、他人の触った火鉢ですらアルコール消毒する病的な潔癖症であったため、汚れた身で自身の妻に成り上がろうする悪女だと克子を蔑んで初夜に惨殺し自殺してしまう。弟の三郎の知恵を借り、他殺に見せかけて。
グラナダ版『シャーロック・ホームズの冒険』の「ソア橋のなぞ」の流れを汲む事件だ。他殺に見せかけた自殺、死後の凶器の隠滅、しかしながら結局は真相が暴かれる。ハンス・グロスの著書に記された穀物商の他殺に見せかけた現実の自殺事件がソアの事件のモデルであり、更には現実の事件でこの“ソア橋のトリック”は使われたことがある。或る男がドイルの遺品を守ろうと他殺に見せかけた自殺を決行し、ドイルの遺品は呪われていると世間に噂を流した。容疑者を特定できずに警察の捜査も行き詰まってしまうが、シャーロキアンの一人に“ソア橋のトリック”を利用した自殺ではないかと助言を受け、被害者とされる男による狂言だと判明した。死を賭した願いも虚しくドイルの遺品は離散してしまった。
『車井戸はなぜ軋る』
→ 弱冠17歳(数え年の時代だから、満16歳)にして金田一耕助に明敏な頭脳の持ち主と評された薄倖の女性探偵である本位田鶴代による事件解明とその惨劇の舞台となった本位田家の一員としての深い悲しみ、それが結局は先天性弁膜症を患う鶴代の心の臓の鼓動を永遠に断ち切ってしまった。本位田家に対する難癖の私怨を異父姉おりんに吹き込まれた秋月伍一は片目の瞳孔が二重になっていることを除けば本位田大助に酷似していたため、出征するまでは境遇により欠片も似ているとは思えぬ風貌にしたが、戦争という同じ境遇により再び相似を齎してしまった。そのため、伍一が戦死し大助がボロボロになりながら生還した時、不幸にも事件を解明した探偵役の少女を含め周囲の人間全員、腹違いの兄弟が戦争で入れ替わったという「犬神家の一族」に似た設定の妄想に憑りつかれてしまう。それも絡んで大助は結婚前に関係があったという伍一の死に際のウソを真に受けて妻の梨枝を惨殺し、療養所にいる弟の慎吉を殺そうとして揉み合う内に自身が命を落とす悪夢の事件が起こった。老齢により余命幾ばくもない祖母を送ったら慎吉は身を処す覚悟を固めた。最終的に秋月姉弟の逆恨みの復讐は成就したのだった。
『黒猫亭事件』
→ 密室殺人・一人二役・顔の無い死体トリックを推理小説の三大トリックとしており、3つめの顔の無い死体トリックに一人二役を組み合わせ、バー「黒猫」のお繁は糸島大伍の手から完全に抜け出し風間俊六と一緒になる夢を実現させようと企んだ。
大工の娘の“松田花子”がお繁の本名であり、洋画家で資産家の三宅順平に嫁すも教養云々で姑のやす子に疎まれ、家庭に波風が絶えず、そうして嫁姑の争いの果てに姑の毒殺を図り間違って夫を殺してしまったのだ。花子は警察の手が及ぶ前に中国に逃げて素性を隠して暮らしたが、そこで過去を知った糸島に捕まり食い物にされた。お繁は風間に会い初めて恋をしたが、そこに糸島が現れ再び食い物にされ始めた彼女は糸島を殺す決意を固めた。お繁は彼女自身と鮎子という一人二役を演じていた。糸島も知っていたことで、一種の遊びとして彼女が持ちかけた。お繁に横恋慕していた日兆は計画に利用された。千代子を殺して日兆に埋めさせ、同時に黒猫も殺した。これは千代子の殺害時に部屋中に散った血糊を誤魔化すと同時に糸島に嘘を言わせて黒猫の代役を捜させるなど、彼が積極的に関与した証拠を作る意味もあった。その後、わざと体に合わない化粧品をつけて奥に籠もって転居を持ちかけ、引き払うと同時に糸島を殺したのだ。お繁は日兆も殺す気でいたが、彼女を我が物にしようとする日兆に閉じ込められたことで逃亡の機会を失ったのである。金田一を殺そうとした時、風間が現れてお繁を制止した。すべてを風間に知られたことを悟り、お繁は自身の心臓に銃口を向け自殺した。
『本陣殺人事件』(表題作)
→ 金田一耕助の探偵デビュー作。作者の疎開地であった岡山の旧家を舞台にした事件で、別名「妖琴殺人事件」。一柳家の当主である賢蔵は結婚する克子が処女ではないと知り、他人の触った火鉢ですらアルコール消毒する病的な潔癖症であったため、汚れた身で自身の妻に成り上がろうする悪女だと克子を蔑んで初夜に惨殺し自殺してしまう。弟の三郎の知恵を借り、他殺に見せかけて。
グラナダ版『シャーロック・ホームズの冒険』の「ソア橋のなぞ」の流れを汲む事件だ。他殺に見せかけた自殺、死後の凶器の隠滅、しかしながら結局は真相が暴かれる。ハンス・グロスの著書に記された穀物商の他殺に見せかけた現実の自殺事件がソアの事件のモデルであり、更には現実の事件でこの“ソア橋のトリック”は使われたことがある。或る男がドイルの遺品を守ろうと他殺に見せかけた自殺を決行し、ドイルの遺品は呪われていると世間に噂を流した。容疑者を特定できずに警察の捜査も行き詰まってしまうが、シャーロキアンの一人に“ソア橋のトリック”を利用した自殺ではないかと助言を受け、被害者とされる男による狂言だと判明した。死を賭した願いも虚しくドイルの遺品は離散してしまった。
『車井戸はなぜ軋る』
→ 弱冠17歳(数え年の時代だから、満16歳)にして金田一耕助に明敏な頭脳の持ち主と評された薄倖の女性探偵である本位田鶴代による事件解明とその惨劇の舞台となった本位田家の一員としての深い悲しみ、それが結局は先天性弁膜症を患う鶴代の心の臓の鼓動を永遠に断ち切ってしまった。本位田家に対する難癖の私怨を異父姉おりんに吹き込まれた秋月伍一は片目の瞳孔が二重になっていることを除けば本位田大助に酷似していたため、出征するまでは境遇により欠片も似ているとは思えぬ風貌にしたが、戦争という同じ境遇により再び相似を齎してしまった。そのため、伍一が戦死し大助がボロボロになりながら生還した時、不幸にも事件を解明した探偵役の少女を含め周囲の人間全員、腹違いの兄弟が戦争で入れ替わったという「犬神家の一族」に似た設定の妄想に憑りつかれてしまう。それも絡んで大助は結婚前に関係があったという伍一の死に際のウソを真に受けて妻の梨枝を惨殺し、療養所にいる弟の慎吉を殺そうとして揉み合う内に自身が命を落とす悪夢の事件が起こった。老齢により余命幾ばくもない祖母を送ったら慎吉は身を処す覚悟を固めた。最終的に秋月姉弟の逆恨みの復讐は成就したのだった。
『黒猫亭事件』
→ 密室殺人・一人二役・顔の無い死体トリックを推理小説の三大トリックとしており、3つめの顔の無い死体トリックに一人二役を組み合わせ、バー「黒猫」のお繁は糸島大伍の手から完全に抜け出し風間俊六と一緒になる夢を実現させようと企んだ。
大工の娘の“松田花子”がお繁の本名であり、洋画家で資産家の三宅順平に嫁すも教養云々で姑のやす子に疎まれ、家庭に波風が絶えず、そうして嫁姑の争いの果てに姑の毒殺を図り間違って夫を殺してしまったのだ。花子は警察の手が及ぶ前に中国に逃げて素性を隠して暮らしたが、そこで過去を知った糸島に捕まり食い物にされた。お繁は風間に会い初めて恋をしたが、そこに糸島が現れ再び食い物にされ始めた彼女は糸島を殺す決意を固めた。お繁は彼女自身と鮎子という一人二役を演じていた。糸島も知っていたことで、一種の遊びとして彼女が持ちかけた。お繁に横恋慕していた日兆は計画に利用された。千代子を殺して日兆に埋めさせ、同時に黒猫も殺した。これは千代子の殺害時に部屋中に散った血糊を誤魔化すと同時に糸島に嘘を言わせて黒猫の代役を捜させるなど、彼が積極的に関与した証拠を作る意味もあった。その後、わざと体に合わない化粧品をつけて奥に籠もって転居を持ちかけ、引き払うと同時に糸島を殺したのだ。お繁は日兆も殺す気でいたが、彼女を我が物にしようとする日兆に閉じ込められたことで逃亡の機会を失ったのである。金田一を殺そうとした時、風間が現れてお繁を制止した。すべてを風間に知られたことを悟り、お繁は自身の心臓に銃口を向け自殺した。