アメリカ社会のヒーロー、コリン パウエルの自伝である。カリブ海出身の黒人の両親を持ち、ニューヨーク、ハレームで育ち、ニューヨーク市立大学を卒業して、アメリカ陸軍に就職した職業軍人の自伝である。
パウエルさんの著名な活躍は、日本では分かりにくいかもしれない。2004年に国務省の研修ツアーに参加した後に、この研修時に通訳を担当して下さった人たちと話していて、パウエルさんは、支持政党を超えて人気のある政治家として評価されていることが分かって、注目していた。
アメリカの軍人として最高位の統合参謀本部議長の要職に上り詰め、後年国務長官を務めたパウエル氏は、文官ではなく朝鮮戦争とヴェトナム戦争にも参戦した職業軍人として、35年以上の軍歴を果たしている、
この全三冊の洋白を読みながら、鈴木主税さんの名訳は、いつものことながら、リズミカルな訳文が、その重厚さは忘れさせる名訳である。
ニューヨーク時代の不器用な青年時代から、陸軍に入隊して、やるしかない、という現場感覚で、コツコツと積み上げる実績で、人生の基盤を築いてゆくパウエルの人生修行は描き出される。
軍隊の基本である、陸軍歩兵士官としてキャリアを始めて、基本的な技量をアメリカ国内の基地で磨きならが、現場に必要な空挺隊員の資格、砲兵隊員の資格などをコツコツ取得して、最初の任地西ドイツに旅立つ一方で、配所に帰国した折に、生涯のパートナー、アルマを結ばれて、人生が始まる。
彼の生き方の記述を読んでいて、感心するのは、ブレない見方、を早くから身につけていることであろう。経験則時応じながらも、20代、30代の若い頃であれ、慌てずに、現場に即した、冷静な＜ブレない＞で正確に現状を見極める知的な判断力、それがこの自伝を一貫して貫く＜生き様＞なのだが、その冷静さに、凡人は静かな情熱を超えた何かを見る。
軍人として、忠誠を誓ったのは、国家へであり、政治には、一党に与せずで、民主党にも共和党にも、投じている。その見方は、リベラルで、民主、共和の両党から支持される＜リベラル＞な見地を確立している。
故に、自伝執筆後に、パウエルは国務長官を歴任しているが、その退任時に国務省の全スタッフが彼の貢献を讃えて、国務省の玄関ホール吹き抜けに大多数が集まって、別れの挨拶を贈ったWashington Post紙の写真は忘れ難い。彼ほど、同僚スタッフを代表に、アメリカ市民から愛された国務長官を知らない。その裏付けを、この自伝は十二分に語っている。
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