すげえぇ!なんやこれ
というのが読了直後の感想となった99年発の長編作。角川ホラー文庫から刊行されている著者作の中では、これがマイベストとなりました。あんまりの吸引力に、身体の不調を忘れて一気読みして熱が上がってうなされた。山野をごっそり切り拓いて造成されたニュータウン/E-ヴィラ恵比寿台を舞台に置いた、現代の病理渦巻く百鬼夜行、腐肉と汚泥/腐臭と絶叫で塗り固められた毒曼荼羅、あるいは、、あるいは、、、まぁいいや。
とにかく強力、濃密。牧野式毒電波が過去最強濃度で乱反射。S.キング的ホラーに対抗すべく、牧野修が文字通り「造り出した」陸の孤島における怪奇恐慌譚。黒電話片手に「くるえくるえ」と輪唱する女の呪詛が紙面を真っ黒に塗り潰す導入からして異様な期待感に包まれるが、今作はその特濃なる期待感を最後まで裏切ない。団地内で頻発する怪現象や惨殺事件を序奏に、アチラの世界とのトビラが開き、あれやこれやの異形がわんさかと噴出していてこます。毀れた人間の描写には毎度異様なリアリティがある牧野氏ですが、本作ではその手の人間がスパイス程度でなく、それこそてんこ盛りでご登壇。何より本作がスゲーのは、そのコワレっぷりが飾りじゃなく、本筋にガツンと絡んでキテるところ。学校では虐められ、帰宅してからはホームレスウォッチングの成果をWEBで公開する15歳の少年、あるいはそのホームレスの面々から成る主役陣からして既に「普通の世界」に適応出来てないわけだけど、彼らがやがて対峙することになる「異形のモノ」たちは、突き詰めてみれば全て現世からはみ出した人間どもの「ブチ壊れた」精神に起因している〜という構造になっておるところがなんとも凄い。さらにはその「アチラ側」の世界の必然性を、理論的に説き明かしてくる爺さんとかも出てきて(この辺のタネ明かし的な巻末解説もめちゃオモロイので必読)、ホントならものっそ非現実的なモノたちが跋扈するリアルな重みが、読み進むうちに半ば強迫的に増しましてくる。リアルヘヴンへようこそとはよく言ったもんだ。クライマックスの一つで描かれる、ボロ切れのようなホームレスのおっさんが文字通り"輝く"瞬間の感動は、この濃密構造があってこそ。
肉体と精神が色んな意味で損壊させられる、中盤にかけての毒々しく濃密なグロテスク人間劇から、ラストにかけて一気に爆走を開始するストーリー展開も最高。もうね、ナニが出ても不思議でない境地で繰り広げられる、人外の聖魔入り乱れるバトルにめちゃくちゃ興奮しました。牧野作品の多くには、この世に対して違和感を覚える人たちへのエール(あるいは理解?)とも取れるディティールが在るのだけれど、今作ではそれらがいつもの次元をちょい飛び越えるガチの気合いが感じられる。ために、エンタメ的な完成度も図抜けて高くて面白い。同年に書かれた『蠅の女』が良くも悪くもお遊び的な作品だとすれば、今作はたぶんマジです。あと、これはもし上手く映像化できるなら映画でも観てみたいと思わされる作品でもありました。というわけで、こうしてワッと吐き出しとかないと、自分の内でぐるぐると渦巻くドス黒い気にアタリそうなほどに濃いぃ体験をした一冊となりました。
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リアルヘヴンへようこそ (角川ホラー文庫 66-7) 文庫 – 2005/3/1
牧野 修
(著)
語り得ぬ世界に、少年は立ち向かう。
無機的な郊外の住宅地で静かに、しかし確実に増幅していた悪意。不穏な気配を察していたのは一握りのホームレスと孤独な少年だった…。生理的、心理的、現実的、あらゆる種類の恐怖を詰め込んだ牧野ワールドの原点。
無機的な郊外の住宅地で静かに、しかし確実に増幅していた悪意。不穏な気配を察していたのは一握りのホームレスと孤独な少年だった…。生理的、心理的、現実的、あらゆる種類の恐怖を詰め込んだ牧野ワールドの原点。
- 本の長さ374ページ
- 言語日本語
- 出版社KADOKAWA
- 発売日2005/3/1
- ISBN-10404352207X
- ISBN-13978-4043522071
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登録情報
- 出版社 : KADOKAWA (2005/3/1)
- 発売日 : 2005/3/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 374ページ
- ISBN-10 : 404352207X
- ISBN-13 : 978-4043522071
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,397,082位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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大阪府出身。
1992年『王の眠る丘』で作家デビュー。
1999年『スイート・リトル・ベイビー』で第6回日本ホラー小説大賞長編賞佳作。
2002年『傀儡后』で第23回日本SF大賞受賞。
2015年『月世界小説」』で36回日本SF大賞。
ホラー映画が大好物。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2009年6月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2007年6月10日に日本でレビュー済み
誰にでも怖がられるものを目指したそうです.
確かに,恐怖満載の小説です.
呪い女のエピソードや,暗闇で自らの妄想によって恐怖を増してしまう描写は,
確かに怖いと思いました.
ホラー作品で主人公が自ら怖いところに行くのは,
そこに何もないことを確かめたいからだそうです.
ちょっと納得しました.
怖いことばかり考える自分に,ストップをかけたくなるのかも知れません.
しかし,グロイ描写があまりにも多いため,あまり現実味がありませんでした.
これだけグロイものが続くと,慣れてしまうのかも知れません.
恐怖満載すぎて,逆に怖くなくなってしまったので,☆3個です.
確かに,恐怖満載の小説です.
呪い女のエピソードや,暗闇で自らの妄想によって恐怖を増してしまう描写は,
確かに怖いと思いました.
ホラー作品で主人公が自ら怖いところに行くのは,
そこに何もないことを確かめたいからだそうです.
ちょっと納得しました.
怖いことばかり考える自分に,ストップをかけたくなるのかも知れません.
しかし,グロイ描写があまりにも多いため,あまり現実味がありませんでした.
これだけグロイものが続くと,慣れてしまうのかも知れません.
恐怖満載すぎて,逆に怖くなくなってしまったので,☆3個です.
2006年5月8日に日本でレビュー済み
ホームレスと孤独な少年が邪悪な力に立ち向かう話。社会から疎外された者が特殊な力を持って危機に立ち向かう話は昔から多く、特段目新しい内容はないはずだが、読み終わって数ヶ月経過した後でもストーリーが記憶に残っている。
大変恥ずかしい話であるが、自分でも何を高く評価しているのだかわからない。でも、ホラーを愛する人には一読を勧めたい。
大変恥ずかしい話であるが、自分でも何を高く評価しているのだかわからない。でも、ホラーを愛する人には一読を勧めたい。
2005年12月7日に日本でレビュー済み
ホラーとして恐怖もあり、グロテスクな感じも強いけど、その怖い人や物が何だか異常すぎて滑稽にみえるほどでした。
「だからつまらない」という訳ではなく、ストーリーの展開がテンポよく変わって面白く、終わり方も自分的には良いと思いました。
長めの話ですが、読み終えられると思います。
「だからつまらない」という訳ではなく、ストーリーの展開がテンポよく変わって面白く、終わり方も自分的には良いと思いました。
長めの話ですが、読み終えられると思います。