2011年春。園子温監督作品「冷たい熱帯魚」が公開される。
この映画のモチーフになったのはまさに、本書の、愛犬家連続殺人事件である。
これは、この事件に共犯(死体遺棄)として関与した男の、モノローグ。
本書の<魅力>は、慄然とする殺人絵巻も勿論そうなのだが、
主犯格関根元のなんとも、とぼけた、コミカルな、そして人を食ったキャラクターである。
(人を食った、というのは比喩でないことに注意!)
残忍さの中にもクスリ、と笑いがこみあげてしまうキャラクター描写は、おそらくは手練れ
のゴーストライターによる筆致のなせる業なのだろう。共犯者とされる<筆者>の筆でなく。
というのも、本書の記述の水準まで、自分の置かれている状況を客観化ができるくらいなら、
おそらくは事件に巻き込まれるなどということはなかったと思われるのだ。
以下は、そんな関根元の「素敵な」セリフの抜書き。
「人間の死は、生まれた時から決まっていると思っている奴もいるが、違う。それはこの関
根元が決めるんだ。俺が今日死ぬといえば、そいつは今日死ぬ。明日だといえば、明日死ぬ。
間違いなくそうなる。何しろ、俺は神の伝令を受けて動いてるんだ」
「殺しのオリンピックがあれば、俺は金メダル間違いなしだ。殺しのオリンピックは本物の
オリンピックよりもずっと面白いぞ」
「大久保清はただのバカだ。ベレー帽を被りながら何人殺ったか知らねえが、あいつは死体
を全部残している。あんな馬鹿死刑になって当然だ。その点、おれは完全犯罪主義者だから
な」
「商売繁盛 殺しも繁盛」
「関根元の殺人哲学その一、世の中のためにならない奴を殺る。その二、保険金目的では殺
さない。その三、欲張りな奴を殺る。その四はちょっと重要だ。血は流さない。だが、一番
大事なのはその五だ。死体は全部透明にする」
「言ってみりゃあ俺は殺しの鬼平よ」
著者(というか口述者と呼ぶべきだろう)は共犯として実刑判決を受けている。
関根の手口が残忍なあまり、一連の事件に巻き込まれたことを「期待可能性がなかった」と
抗弁をしている。ある種のマインドコントロールにかかってしまい、警察に通報することが
できなかった、というわけだ。しかし、これはまことにもって身勝手な理屈だ(一審判決でも
このような抗弁は採用されていないはずである)。県警の取調官に不貞腐れて悪態をつく態度
のくだりは腹立ちを覚えるくらいだ。
この悪態の背景には担当検事との間で司法取引まがいのことがあった様なのだが・・・・。
確かに、厚生省村木事件の後検察の内部では何が起こっても、もはや驚かない。
本書279頁以降の記述はさいたま地検熊谷支部。
そういえば村木事件で懲戒処分を受けた検事も同じ熊谷支部在籍中に司法取引で問題になっている!
この地検支部には何かあるのだろうか?
いずれにせよ復刊に値する一冊である。
【追記】
TBSラジオウィークエンドシャッフルのコーナー「シネマハスラー」2011年2月12日で宇多丸氏が
本書のことを絶賛していた。ポッドキャストで聞けるので興味ある方は是非。
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愛犬家連続殺人 (角川文庫 し 25-1) 文庫 – 2000/9/1
志麻 永幸
(著)
- 本の長さ312ページ
- 言語日本語
- 出版社KADOKAWA
- 発売日2000/9/1
- ISBN-104043553013
- ISBN-13978-4043553013
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登録情報
- 出版社 : KADOKAWA (2000/9/1)
- 発売日 : 2000/9/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 312ページ
- ISBN-10 : 4043553013
- ISBN-13 : 978-4043553013
- Amazon 売れ筋ランキング: - 200,394位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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イメージ付きのレビュー
4 星
人間誰しもがある奥底の猟奇的な所が見える事件
昔、共犯者で作者の志麻さんからサイン付きで本を頂いた事があるのですが、本を読んでこんな恐ろしい事が現実にあるのか!?と怖くなった事を覚えています。でも、今冷静に色々と考えてみると人間誰しもがある奥底の猟奇的な所が見える事件な気がします。またこの事件をモチーフ園子温監督のが作った映画「冷たい熱帯魚」もまた少し違った感じですが、本質的な所は描かれていてとても楽しめました( ◠‿◠ )この本を無くしてしまったのですが、1万円くらいのプレミアが付いていてビックリです!?
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2011年3月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2012年1月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
事件の残虐性は周知の通りなので割愛する。
映画『冷たい熱帯魚』の元ネタということで、
ちょっと高かったけど購入しました。
断言します。本作が再出版されることは有り得ない。
被害者の実名・マル暴の団体名・警察との取引まで描かれており、
読んで唖然となりました。
上記の『リアルさ』だけでなく、
主犯のSからの異常な圧迫感を追体験できる文章のウマさ。
多少は編集されていると思いますが、
『リアル』クライム作品として珠玉のデキです。
私が買ったものは2,000¥程度で、
読むのに問題はないレベルでした。
少々プレミアは付いていますが、納得できる作品と思います。
映画『冷たい熱帯魚』の元ネタということで、
ちょっと高かったけど購入しました。
断言します。本作が再出版されることは有り得ない。
被害者の実名・マル暴の団体名・警察との取引まで描かれており、
読んで唖然となりました。
上記の『リアルさ』だけでなく、
主犯のSからの異常な圧迫感を追体験できる文章のウマさ。
多少は編集されていると思いますが、
『リアル』クライム作品として珠玉のデキです。
私が買ったものは2,000¥程度で、
読むのに問題はないレベルでした。
少々プレミアは付いていますが、納得できる作品と思います。
2009年2月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この作品が異彩を放つのは、死体処理の臨場感と恐怖が、実際にそれを見た目撃者によって語られているということだ。巻末の解説にも書かれてあるが、その異常性と残虐性においてこれに匹敵する大量殺人者はいないわけではないが、その凶行をまじかで目撃した人間は誰一人いない、少なくとも生きた人間は。
あまりに場違いなので逆に印象深いのが、女が死体処理中に鼻歌で歌う中村美津子の「河内おとこ節」だ。男から無理やりやらされているのではない、むしろ解体を楽しんでいるというその情景を想像するのはあまりにおぞましくないか。
ただ、最近の東京江東区の女性バラバラ殺人事件(マンションで2室隣の女性を自室に拉致し殺害、遺体を切断してトイレから流すなどした事件)では遺体損壊に関しては判決では重要視されておらず、殺人そのものは愛犬家連続殺人では硝酸ストリキニーネによる薬殺である。主犯格の男が自らの殺人哲学を披露しているが、その中に「血は流さない」というのがあって、結果的にこれで著者は生きながらえたのかもしれない。
人を外見で判断してはいけないというが、禿げ上がった頭に抜け落ちた前歯、象牙の鼻緒がついた下駄を履き、暑くもないのに半袖を着て袖口から刺青がちらつく。そして左手には小指がない。どんなに口が上手くてもいかわがしい相手とは付き合わない事だ。
あまりに場違いなので逆に印象深いのが、女が死体処理中に鼻歌で歌う中村美津子の「河内おとこ節」だ。男から無理やりやらされているのではない、むしろ解体を楽しんでいるというその情景を想像するのはあまりにおぞましくないか。
ただ、最近の東京江東区の女性バラバラ殺人事件(マンションで2室隣の女性を自室に拉致し殺害、遺体を切断してトイレから流すなどした事件)では遺体損壊に関しては判決では重要視されておらず、殺人そのものは愛犬家連続殺人では硝酸ストリキニーネによる薬殺である。主犯格の男が自らの殺人哲学を披露しているが、その中に「血は流さない」というのがあって、結果的にこれで著者は生きながらえたのかもしれない。
人を外見で判断してはいけないというが、禿げ上がった頭に抜け落ちた前歯、象牙の鼻緒がついた下駄を履き、暑くもないのに半袖を着て袖口から刺青がちらつく。そして左手には小指がない。どんなに口が上手くてもいかわがしい相手とは付き合わない事だ。
2013年3月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
鼻歌まじりで遺体解体作業をこなす…
人間のヒレを鹿のヒレ肉と言って笹に包んで贈答…
貰ったその肉を食べた者はあまりの旨さに絶賛したという…
読んでいく内に一人で自宅にいるのが恐ろしくなった。
どんなホラー映画も心霊特集もこの本の前では霞んでしまう…
驚愕の書です…
人間のヒレを鹿のヒレ肉と言って笹に包んで贈答…
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読んでいく内に一人で自宅にいるのが恐ろしくなった。
どんなホラー映画も心霊特集もこの本の前では霞んでしまう…
驚愕の書です…
2009年6月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
愛犬家連続殺人と聞くと、あーそういえばそんな事件あったなぁ・・・という程度の認識で
あった。まさかこれほどまでの悪魔の所業だったとは。
気に入らない人間は殺して遺体を解体・焼却する二人の悪魔。
この本は、その二人とともに遺体処分を手伝った男の告白である。
この悪魔二人は、「ボディを透明にする」という。
骨は焼いて白い粉にし、内臓、脂肪は川に捨てる。
遺体がなければ逮捕はされないというわけだ。
本の中にもでてくるが、誰が一番怖い小説を書けるかということからうまれたのが
フランケンシュタインだという。
この本はノンフィクションでしかない怖さがあると思う。
あった。まさかこれほどまでの悪魔の所業だったとは。
気に入らない人間は殺して遺体を解体・焼却する二人の悪魔。
この本は、その二人とともに遺体処分を手伝った男の告白である。
この悪魔二人は、「ボディを透明にする」という。
骨は焼いて白い粉にし、内臓、脂肪は川に捨てる。
遺体がなければ逮捕はされないというわけだ。
本の中にもでてくるが、誰が一番怖い小説を書けるかということからうまれたのが
フランケンシュタインだという。
この本はノンフィクションでしかない怖さがあると思う。
2008年8月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
気に食わない奴には毒を盛り、サイコロステーキ状に切り刻んで川に流す・・・。本書はそんな残忍な殺人鬼である関根元の共犯者が書いた本です。ドライバーとして常に関根のお供をしていた男が書いた本だけあって、事件の記述は詳細を極めています。
私はこれまで殺人事件を扱ったノンフィクションをたくさん読んできましたが、これほど凶悪な事件にはいまだかつて出会ったことがありません。間違いなく、日本犯罪史上における第一級の殺人事件です。
ちなみにこの事件の知名度が低いのは、同じ年に阪神大震災と一連のオウム真理教事件にマスコミの関心が行ってしまったからだと言われています。
私はこれまで殺人事件を扱ったノンフィクションをたくさん読んできましたが、これほど凶悪な事件にはいまだかつて出会ったことがありません。間違いなく、日本犯罪史上における第一級の殺人事件です。
ちなみにこの事件の知名度が低いのは、同じ年に阪神大震災と一連のオウム真理教事件にマスコミの関心が行ってしまったからだと言われています。
2014年7月31日に日本でレビュー済み
文庫本が6,000円以上で取引されている異常な現状を打破する為にもぜひ復刊をお願いしたいと思います。冷たい熱帯魚で初めて興味を引かれましたが、これでは手が出せません。
未読の方は『復刊ドットコム』でリクエストお願いしたいと思います。実際このサイトでリクエストに参加しましたら復刊されましたので..。
未読の方は『復刊ドットコム』でリクエストお願いしたいと思います。実際このサイトでリクエストに参加しましたら復刊されましたので..。
2020年10月4日に日本でレビュー済み
昔、共犯者で作者の志麻さんからサイン付きで本を頂いた事があるのですが、本を読んでこんな恐ろしい事が現実にあるのか!?と怖くなった事を覚えています。
でも、今冷静に色々と考えてみると人間誰しもがある奥底の猟奇的な所が見える事件な気がします。
またこの事件をモチーフ園子温監督のが作った映画「冷たい熱帯魚」もまた少し違った感じですが、本質的な所は描かれていてとても楽しめました( ◠‿◠ )
この本を無くしてしまったのですが、1万円くらいのプレミアが付いていてビックリです!?
でも、今冷静に色々と考えてみると人間誰しもがある奥底の猟奇的な所が見える事件な気がします。
またこの事件をモチーフ園子温監督のが作った映画「冷たい熱帯魚」もまた少し違った感じですが、本質的な所は描かれていてとても楽しめました( ◠‿◠ )
この本を無くしてしまったのですが、1万円くらいのプレミアが付いていてビックリです!?
昔、共犯者で作者の志麻さんからサイン付きで本を頂いた事があるのですが、本を読んでこんな恐ろしい事が現実にあるのか!?と怖くなった事を覚えています。
でも、今冷静に色々と考えてみると人間誰しもがある奥底の猟奇的な所が見える事件な気がします。
またこの事件をモチーフ園子温監督のが作った映画「冷たい熱帯魚」もまた少し違った感じですが、本質的な所は描かれていてとても楽しめました( ◠‿◠ )
この本を無くしてしまったのですが、1万円くらいのプレミアが付いていてビックリです!?
でも、今冷静に色々と考えてみると人間誰しもがある奥底の猟奇的な所が見える事件な気がします。
またこの事件をモチーフ園子温監督のが作った映画「冷たい熱帯魚」もまた少し違った感じですが、本質的な所は描かれていてとても楽しめました( ◠‿◠ )
この本を無くしてしまったのですが、1万円くらいのプレミアが付いていてビックリです!?
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