久々にこの著者の作品を読んだ。以前は時代物、「島津奔る」「平家」を読んでいずれも途中挫折。しかし、この作品は最後まで面白く読めた。
タイトルから判るとおり満州事変を舞台としている。
この事変の調査を行ったリットン調査団がどのような報告を作成するかを逸早く知るため、松岡洋右は作成途中の文書を事前に盗み出し、内容をコピーし、気付かれないようにもとに戻すという工作を行う。
その工作の過程のサスペンスが物語りの縦軸とすれば、横軸はリットン調査団とその背後にいる欧米列強の真の思惑である。
基本的に事実に基づいて描かれた小説であるが、「報告書奪取工作」や「ARA文書」が本当にあったのかどうかはわからない。ただ、本書を読んで松岡洋右に対する見方が変った。国際連盟脱退時の全権だったこともあり、ごりごりの強硬派と思っていたのだがそうではなかった(ようだ)。『十字架上の日本』演説など初めて知ったくらいで、こういうことをもっと学校で教えるべきでないのと思う。
それにしても、いわゆる十五年戦争の事情を知れば知るほど、当時の陸軍幹部の井の中の蛙ぶりというか、視野の狭さ加減になんともいえない絶望的な気分になる。当時陸軍幹部はエリート中のエリートであったわけだが、そういうのがダメなのは今もおなじか。
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事変: リットン報告書ヲ奪取セヨ (角川文庫 い 54-14) 文庫 – 2007/6/1
池宮 彰一郎
(著)
- 本の長さ434ページ
- 言語日本語
- 出版社角川書店
- 発売日2007/6/1
- ISBN-104043687141
- ISBN-13978-4043687145
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登録情報
- 出版社 : 角川書店 (2007/6/1)
- 発売日 : 2007/6/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 434ページ
- ISBN-10 : 4043687141
- ISBN-13 : 978-4043687145
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,147,583位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年10月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
前半は、満洲を取り巻く日本軍部、政治家の考え方や、中国側の事情が分かり易く解説されており期待して読み進めた。が、掏り・盗人が登場して以降は、この書が漫画チックに堕した。松岡の国際連盟脱退演説に、各国代表が感激の拍手をする下りには苦笑を禁じえ得なかった。史実とフィクションの混在に対し無責任とも思えた。出だしが格調高い小説であるだけに、”腰砕け”が残念である。
2014年8月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
満州事変から第二次世界大戦の終戦までの、日本の転げ落ちた遠因が少なからず、解りました。
やはり、狩猟民族のアングロサクソンのこれでもか、これでもかと紡ぎ出される謀略に農耕民族の
昭和初期の日本人が、嵌められた構図が鮮明に語られていました。
現在も、相似形の事象が、様々な場所で起こっていると見受けられます。
参考にしたいと思います。
やはり、狩猟民族のアングロサクソンのこれでもか、これでもかと紡ぎ出される謀略に農耕民族の
昭和初期の日本人が、嵌められた構図が鮮明に語られていました。
現在も、相似形の事象が、様々な場所で起こっていると見受けられます。
参考にしたいと思います。
2015年8月23日に日本でレビュー済み
かつて、リットン報告書をめぐる歴史の背後に、ある秘話があったことをご存じだろうか。満州事変をめぐって各国の思惑が交錯するなか、様々な事情と使命を抱えた人々が奔走し、戦争を阻止する為に驚くべき奇策を講ずる。それを命懸けで遂行した方たちが歴史の裏側に存在したことを、本書は史実に則した、外交裏面史のノンフィクション・ノベルとして我々に教えてくれる。謂わば「幻の関東軍解体計画」のドキュメントである。今、こういう時代だからこそ、大きな衝撃と感銘を受けた本書を、もう一度読み返したくて手にとった次第である。学校の歴史の授業で教えるリットン調査団(正式名称:国際連盟日華紛争調査委員会現地調査団)といえば、せいぜい年号と、満州事変の事後処理の為、国際連盟から派遣されたという簡単な歴史的背景、リットン卿の名前と調査団のメンバーの国名くらいであるが、歴史とは決してそんな数行で語ってしまえるような、 生易しい出来事ではないことを本書は如実に描いている。
読み始めると、手に汗を握る思いで夢中になって一気に読ませるような、圧倒的な歴史の重みの説得力と魅力のある本である。それは歴史への丹念な調査、考察とともに、主要な登場人物の経歴と人間的魅力を余すことなく丁寧に描いている点も大きいのではないかと思う。松岡洋右、三浦公介然りである。国際連盟脱退時に日本の首席代表として演説を行ったことで有名な松岡洋右だが、それに至るまでに関東軍の暴走を阻止するために、種々の画策に尽力をした姿は、あまり知られてこなかったのではないだろうか。三浦公介もまた魅力溢れる人物であり、松岡のもとで奔走する。
更に大親分"湯島の吉"をはじめとする<巾着屋一家>の面々など歴史に埋もれた逸材に焦点をあて、仕事師としての魅力を存分に伝えている点も評価できるだろう。彼らは本書でリットン報告書をめぐる歴史の裏側のもう一つの主人公でもある。良いことをしようと思えば悪いことも知らなければならない。その道を生きる一流の仕事師の彼らの心意気から学ぶ事も多く、それが本書の魅力の一つともなっている。松岡氏、三浦氏、<巾着屋一家>など何れの登場人物も、夜郎自大の不穏な空気が大勢を占める状況下で戦争を阻止する為に艱苦奮闘し、たとえ思い及ばずとも命を懸けてその信念を貫いた彼らの姿には、切々と胸を衝くものがある。
戦争は始まってしまえば、それを止める事は不可能といってよいくらい至難の業となる。歴史の重みを謙虚に学び、戦争によって奪われた沢山の命と人生を思い、このような取り返しのつかない不測の事態と惨禍が再び起こらないよう、将来に亘って同じ轍を踏むことの無い事を切に願いつつ書を閉じた。本書は傾聴と一読に値するものがある良書である。
読み始めると、手に汗を握る思いで夢中になって一気に読ませるような、圧倒的な歴史の重みの説得力と魅力のある本である。それは歴史への丹念な調査、考察とともに、主要な登場人物の経歴と人間的魅力を余すことなく丁寧に描いている点も大きいのではないかと思う。松岡洋右、三浦公介然りである。国際連盟脱退時に日本の首席代表として演説を行ったことで有名な松岡洋右だが、それに至るまでに関東軍の暴走を阻止するために、種々の画策に尽力をした姿は、あまり知られてこなかったのではないだろうか。三浦公介もまた魅力溢れる人物であり、松岡のもとで奔走する。
更に大親分"湯島の吉"をはじめとする<巾着屋一家>の面々など歴史に埋もれた逸材に焦点をあて、仕事師としての魅力を存分に伝えている点も評価できるだろう。彼らは本書でリットン報告書をめぐる歴史の裏側のもう一つの主人公でもある。良いことをしようと思えば悪いことも知らなければならない。その道を生きる一流の仕事師の彼らの心意気から学ぶ事も多く、それが本書の魅力の一つともなっている。松岡氏、三浦氏、<巾着屋一家>など何れの登場人物も、夜郎自大の不穏な空気が大勢を占める状況下で戦争を阻止する為に艱苦奮闘し、たとえ思い及ばずとも命を懸けてその信念を貫いた彼らの姿には、切々と胸を衝くものがある。
戦争は始まってしまえば、それを止める事は不可能といってよいくらい至難の業となる。歴史の重みを謙虚に学び、戦争によって奪われた沢山の命と人生を思い、このような取り返しのつかない不測の事態と惨禍が再び起こらないよう、将来に亘って同じ轍を踏むことの無い事を切に願いつつ書を閉じた。本書は傾聴と一読に値するものがある良書である。
2007年7月8日に日本でレビュー済み
満州事変の際に、国際連盟から派遣されたリットン調査団の現地調査記録を事前に知ろうととした日本政府が派遣した掏摸団がいたという秘話にヒントを得た小説です。
満州事変に関連して思い出すのは関東軍、リットン調査団、小学校の教科書に載っていた松岡洋右が国際連盟の総会場から退場する写真です。
ここに至るまでに裏にこんなに色々なことが有ったとは知りませんでした。
日本の侵略だったにも関わらず、当時の国情がそれを認めることを許さなかったこと。独走した関東軍、国際世論や英米の野望を向こうに回し、事態を打開すべくあらゆる外交努力を行った松岡洋右とそれに関わった人たちの事が書かれています。
侵略の正当化は出来ませんが、与えられた情況の中で私利私欲ではなく、祖国のために命を捧げた政治家・掏摸団の元締めたちの姿に感動を覚えます。
国際外交の謀略を理解し、大国相手に十二分に渡り合える外交官が存在していたのですね。
エピローグ1に書かれている以下文章が非常に印象的です。戦争孤児で寡黙だった父が同じような事を言っていました。
「戦争は悪いものに決まっている。正義の戦争、聖なる戦争などはあり得ない。それは勝者にとっても敗者にとっても同じだ。」
一読に値します。
満州事変に関連して思い出すのは関東軍、リットン調査団、小学校の教科書に載っていた松岡洋右が国際連盟の総会場から退場する写真です。
ここに至るまでに裏にこんなに色々なことが有ったとは知りませんでした。
日本の侵略だったにも関わらず、当時の国情がそれを認めることを許さなかったこと。独走した関東軍、国際世論や英米の野望を向こうに回し、事態を打開すべくあらゆる外交努力を行った松岡洋右とそれに関わった人たちの事が書かれています。
侵略の正当化は出来ませんが、与えられた情況の中で私利私欲ではなく、祖国のために命を捧げた政治家・掏摸団の元締めたちの姿に感動を覚えます。
国際外交の謀略を理解し、大国相手に十二分に渡り合える外交官が存在していたのですね。
エピローグ1に書かれている以下文章が非常に印象的です。戦争孤児で寡黙だった父が同じような事を言っていました。
「戦争は悪いものに決まっている。正義の戦争、聖なる戦争などはあり得ない。それは勝者にとっても敗者にとっても同じだ。」
一読に値します。