電車の待ち時間に手近にあった本作を手に取った。
ちょっとドジで実直な中年ゴーストライターが、代作中のアイドルタレントの殺人事件の巻き込まれる話。
匿名の代作者としての悲哀や、ライターとしてのプライド、中年男の理解を絶するアイドルの生態などが細かく書き込まれ、飽きさせない。
楽しい作品で、読んで損をしたという印象は無い。ただ、他に本があったら、読み続けたかどうか疑問だ。待ち時間という「暇つぶし」に最適の作品だというのが実感。
ミステリとしてはもちろん、エンタメ作品として次のような点が気にかかった。
(1) 主人公のキャラが不安定で、「探偵役」になっていない
事件解決までの「締め切り」の設定はいいが、貴重な時間をたいした目的もなしにグァムで遊んだり、ろくな調査も探索もしない。ミステリの主人公として、疑惑も推理もなく、周りに振り回されるだけ。
後書きを読むと、作者の狙いは、太地康雄を想定した三枚目キャラのようだ。それはいいが、三枚目の裏に鋭い推理がないと、探偵約にはなれない。
(2) 犯人の動機が曖昧で、事件自体の説得力が無い
ネタバレになるので具体的に指摘できないが、ミステリとしての最大の弱点は、犯人の動機だろう。密室、被害者の行動など、犯人の動機が決定的な役割を果たすのだが、この結末では、「動機無き殺人」になってしまう。殺人する必然性が全くない。
また、タイトルの「ゴーストラーター」と事件の絡みが、希薄すぎる。基本「巻き込まれ型」なのだが、主人公が少しも追い込まれないため、事件探求の理由がない。そのため、夫婦の危機が解決へのモチベーションとなる。しかし、夫婦問題が事件と関わってこないため、主人公の行動は、常に意味不明の感じがある。
最初は主人公は、わざと踊らされているフリをしているのかと思ったが、実際に踊らされるだけの木偶人形で終わっている。
(3) 中心のトリックが事件と、ほぼ無関係
被害者の日記に残された「島が動く」というのが、この作品の核心となるトリック(らしい)。被害者と犯人、主人公夫婦、それに事件を結ぶキーポイントだが、それらをつなぐ根拠があまりに弱い(ない?)ため、トリックになっていない。
「島が動く」自体の発見は面白いし、被害者の実家のある豊後の情景描写も印象的。だがミステリ作品として、それらが事件と(ほぼ)無関係のため、作品の背骨がなくなっている。
……というような感想は、本作を「長編ミステリ」として読み、印象を友人にでも語る場合に出てくるもの。電車の待ち時間にページをめくる読み物としては、何の問題も無い、具合の良い本だと思う。
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ゴーストライター (カドカワノベルズ 121-1) 新書 – 1990/5/1
吉村 達也
(著)
- 本の長さ299ページ
- 言語日本語
- 出版社KADOKAWA
- 発売日1990/5/1
- ISBN-104047821012
- ISBN-13978-4047821019
登録情報
- 出版社 : KADOKAWA (1990/5/1)
- 発売日 : 1990/5/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 299ページ
- ISBN-10 : 4047821012
- ISBN-13 : 978-4047821019
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