左の側頭葉に原発するてんかん発作のある患者は、発作のあいだに強い霊的体験をする場合があり、発作のないときは発作と発作のあいだにも、宗教的な問題にとり憑かれるケースがある。
大脳辺縁系（海馬、扁桃体、中隔、視床前核、乳頭体、帯状回などが含まれる）でてんかんの局所発作が起きるときに、患者は霊的体験をすることがある。「ついに私は宇宙の真髄を見抜きました」などと言う。
全能の「神が降臨した」状態、を感じるのである。これは一般的に数秒しか続かないが、この短い側頭葉の嵐で、患者の人格が永続的に変化して発作のないときも人と違った様子のままになることがある。こうした変化を一部の脳神経科医は「側頭葉人格」と呼んでいる。
こうした（患者の）神秘的体験を正常である、とか異常であるとかを、だれがどんな根拠できめられるか、と著者は問います。著者は宗教的感情がなぜどのように脳の中で生まれるのか、を発見したいと考えており、神が存在するか否かは、全くの別問題と述べます。そして結論的には：人間の脳には宗教的な体験に関与する回路があって、一部のてんかん患者ではこれが過活動になるということ。
しかし、人間の信仰心がなぜ発生するのか、は未知の分野である。
著者は人間独自の特性である音楽や数学、ユーモアや詩作の能力についても考えます。モーツアルトの作曲能力、フェルマーやラマヌジャンのような数学者が段階的な証明を積み重ねることなしに、欠陥のない推論や定理を「発見」するのを可能にしているのは何なのか。
サヴァン症候群とは精神的能力あるいは一般的知能が非常に低いにもかかわらず、驚異的な才能の「島」を持っている人達である。著者の推測の一つは： サヴァンの脳では胎児期や新生児期の損傷により普通ではない（ニューロンの）再配線が引き起こされ、その為にある部位が何らかの理由で、通常よりも多くの入力あるいはそれに相当する刺激を受け取るようになって、大きく密になっているーーたとえば角回と呼ばれる領域が大きくなっているのではないか。数学サヴァンは右の角回が肥大しており、美術サヴァンは右の角回が肥大しているのではないか、と推測します。これら著者の推測は今後研究、検証が進むでしょう。
脳機能に関する著者の探求力はまことに熱意溢れるもので、裨益するところ大の名著です。
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