｢魔導書｣の登場により一般の人々でも本のとおりに読むだけで｢魔術｣が使えるようになり、戦いや日常生活で広く魔術が使われるようになった、
ポスト魔王討伐の世界を舞台に、魔道書作家として三歩進んで二歩下がるようなキャリアを築きつつあるアジロ・コントグルーと彼を担当する
編集者ルビ・メルクーリが二人三脚で物語を紡ぐ物語。
総じて言えば、前作同様コーディングとデバッギングをベースとしつつも文章の砕け具合や小ネタのチョイスといった細かい部分が良い意味で
前作よりも『ライトノベル的』になっています。
『アイデアをひねり出せ! 起死回生の行き当たりばったり魔術!』
前作終盤で追い込まれながらも｢ヨミ最下層がクリアできる! きらめきの攻撃魔術｣がスマッシュヒットしたことがきっかけで調子に乗り、
レッドオーシャン的な分野に挑んで大コケしたアジロとルビ。新作のアイデアも出ず、意気消沈したままいたずらに時が流れていたその時、
同業他社の編集者が現れ、どういうわけか自宅に結界を張った伝説の覆面作家の家に行き、その結界を解いて原稿を受け取って欲しいという
依頼を受け、自身の創作のヒントになるならとその依頼を受けるのだが……が簡単なあらすじ。
アジロが自分自身を追い込むことによって壁を乗り越えるためのアイデアやヒントを得ていくタイプであることをちゃんと理解し、
かつ、どうすればルビが動く気になるのかを理解した上で適切な言動を取るシーンから、ルビがアジロのよき理解者であるのと同じように、
アジロもまた、ルビのよき理解者になりつつあることがうまく暗喩されています。
『オアシスの街を守れ! スピード系モンスター向け攻撃魔術!』
オアシスに被害をもたらす俊敏なモンスター・ロードバジリスクを安全に駆逐する魔術を構築するアジロとルビそしてそれを見守りつつ、
なぜかアジロのことが気に入った伝説の覆面作家クルミ・セラフェリス。
ダンジョン飯を彷彿とさせる表現や中学の時某先輩が主張していた｢60km/hで走る車の窓から手を出した時の感触はおっぱいと同じなんだぜ｣と
同じ類の根拠の無い推論、世界の半分云々という小ネタを織り込みつつ、かつてのクルミの姿を知るアジロが、高度な魔道書を紡ぎ、
殺生を好まないといった彼女の元◯◯らしからぬ行動原理に違和感を覚える描写を入れることにより、作品世界でのみ成立する『日常の謎』を
提示させています。
『無茶振りに応えろ! 授賞式で編み出す即興魔術!』
はからずとも「最優秀新人作家賞」を受賞してしまったアジロ。無事にスピーチを済ませたものの、各賞受賞者が披露することになっている、
大喜利のようなリクエストに即興で魔術を生成するというデモンストレーションに数日前から頭を悩ませることとなり――というのが簡単なあらすじ。
そしてある事がきっかけで勇者と魔王の戦いの真実が明らかになります。
このエピソードでは多くの人は電撃小説大賞の授賞式を思い浮かべるかもしれませんが、おそらく小説版大喜利とも言える
『世音堂(http://www.zenondo.com/)』がモデルかと推察できますし、次回開催のアナウンスはまだ無いようですが、
第3回が開催されるとしたら作者には是非出場してもらいたいものです。
『その手を離すな! 二人を繋ぐ絆の魔術』
授賞式の席で元◯◯であるクルミに自分の眷属にならないかというオファーを受けたアジロ。ルビから勇者と魔王の戦いの真実を聞き、
その上でルビは自身の気持ちを押し殺し、アジロの夢の実現のために彼女の眷属になるべきだと説くが、そんな折、王都近くに超巨大モンスターが
襲来したことを契機にアジロはある決断を下す――というおはなし。
おそらく巨大モンスター・マントルアルコンとの戦い方のイメージは、家族でスマートフォンのデータ通信量を分け合う携帯通信事業者の料金プランから
着想を得たのでしょう。では彼等がどのように戦ったのかは是非本文でご確認を。
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