「自分の可能性」という誰しも一度は考えるであろう問題。特に学生時代にそれを考える人がほとんどではないでしょうか。ある種、物語の設定上「自分がなすべきこと」を与えられる他の多くの作品とは違い、この作品は「自分は何をなすべきか」ということを模索する少年少女たちが描かれている、とてもいい作品だと思います。
怪我のため、陸上をあきらめざるを得なくなった主人公、竹原高行。だが、海竜王寺八葉との出会いによって学園を去ることなく、第二科学部に腰を落ち着けることになった。友人である有屋美月も入部し、騒がしい毎日を送るが、高行は「ジーニアス」である八葉と「一般人」である美月の間のわずかな溝を感じ取り、心配していた。そんな中、第二科学部が居を構えている部室長屋に学生犯罪やサークル活動などを取り締まる「統括委員会」がやってくる。彼らから告げられたのは、長屋の取り壊しと一方的な退去勧告。当然ながら、古くから部室長屋に居を構えている住人たちは反対の姿勢を示し、抵抗運動を開始する。有屋発案の元、部室長屋のことをもっと知ってもらうためにバザーを開き、同時に取り壊し反対の署名を集めることにした第二科学部と長屋の住人たち。だが、統括委員会の副委員長寺尾は、卑劣な策をめぐらせていた。
前回は高行と八葉の出会いをメインに描いていましたが、今回は彼らに美月を混ぜた三人と長屋の住人たちによる「居場所」を守るための戦いが描かれています。統括委員会からの宣告によって、動き出す高行たち第二科学部ですが、八葉と美月では、基本的なスタンスが違うのか、やがて衝突を起こしてしまいます。ただ、高行の尽力もあってか、徐々に考え方が変わる八葉の姿が印象的でしたね。「ジーニアス」であるものの、ひどく臆病な八葉がくじけそうになったとき、高行がぶっきらぼうに支える姿がまた絵になります。いい組み合わせですよ、本当。恋愛とかそういうのを抜きにしても、です。
それぞれのキャラが個性的であるものの、とても学生らしい姿で描かれているのがこの作品の大きな魅力だと思います。馬鹿騒ぎをしたり、喧嘩をしたり、あちこち走り回ったり。笑える要素もあるし、どこか懐かしい気持ちにもなれます。ある程度大人になってしまうと、どこかで「自制」してしまいますからね。要するに「青春」が描かれています。素晴らしい作品ですね。続きを期待しています。
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ハロー、ジーニアス(2) (電撃文庫 ゆ 3-2) 文庫 – 2011/4/8
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- 本の長さ296ページ
- 言語日本語
- 出版社アスキー・メディアワークス
- 発売日2011/4/8
- 寸法10.7 x 1.6 x 15.1 cm
- ISBN-104048704230
- ISBN-13978-4048704236
登録情報
- 出版社 : アスキー・メディアワークス (2011/4/8)
- 発売日 : 2011/4/8
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 296ページ
- ISBN-10 : 4048704230
- ISBN-13 : 978-4048704236
- 寸法 : 10.7 x 1.6 x 15.1 cm
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2011年7月15日に日本でレビュー済み
部長・海竜王寺八葉、副部長・竹原高行に加え、水泳部の有屋美月も入部し、部活動としての体裁を整えつつある、第二科学部。
こうしてジーニアスの八葉は、確執のあった陸上部の伊佐勇里や灰塚清彦も含め、少しずつ他人との付き合い方を覚えていく。
そんな5月、第二科学部が入居する三十八・三十九仮説部室棟に、立ち退き騒動が持ち上がる。十年前の古証文を持ちだして来た課外活動統括委員会、学生自治会の自警団の様な組織が、部室長屋を取り壊そうというのだ。
その背景には、ジーニアスの八葉を利用したい学園都市運営機構の思惑が見え隠れしていた。
そんな権力の横暴には従えないと、有屋美月は、反対署名集めのためのバザー開催を提案する。それにのった部室長屋入居メンバーたちはノリノリでバザーを成功に導き、無事に必要な署名を集めることに成功する。
しかし、統括委員会の宮野真琴から、副委員長の寺尾荘司が、その署名を無効化する策略を仕掛けていることを告げられるのだった。
前巻は八葉と高行の関係構築に費やされたように、今巻は八葉と美月の関係構築を描くことに費やされる。
ジーニアスとして周囲から規定されてしまっていて自由がない八葉と、周囲からの期待がない分、理想の自分を求めて五里霧中にある美月がそれぞれ抱える悩み。その背景には、自分の可能性が数値化され、それに縛られることが当たり前となっている世界観がある。そんな彼女たちが、高行という人間と、今回の騒動を通じて、深く結びついていくのだ。
展開が見え見えの部分はあるかもしれないが、こうして第二科学部は立ちあがった。さて次はどんな展開になるのかが楽しみだ。
こうしてジーニアスの八葉は、確執のあった陸上部の伊佐勇里や灰塚清彦も含め、少しずつ他人との付き合い方を覚えていく。
そんな5月、第二科学部が入居する三十八・三十九仮説部室棟に、立ち退き騒動が持ち上がる。十年前の古証文を持ちだして来た課外活動統括委員会、学生自治会の自警団の様な組織が、部室長屋を取り壊そうというのだ。
その背景には、ジーニアスの八葉を利用したい学園都市運営機構の思惑が見え隠れしていた。
そんな権力の横暴には従えないと、有屋美月は、反対署名集めのためのバザー開催を提案する。それにのった部室長屋入居メンバーたちはノリノリでバザーを成功に導き、無事に必要な署名を集めることに成功する。
しかし、統括委員会の宮野真琴から、副委員長の寺尾荘司が、その署名を無効化する策略を仕掛けていることを告げられるのだった。
前巻は八葉と高行の関係構築に費やされたように、今巻は八葉と美月の関係構築を描くことに費やされる。
ジーニアスとして周囲から規定されてしまっていて自由がない八葉と、周囲からの期待がない分、理想の自分を求めて五里霧中にある美月がそれぞれ抱える悩み。その背景には、自分の可能性が数値化され、それに縛られることが当たり前となっている世界観がある。そんな彼女たちが、高行という人間と、今回の騒動を通じて、深く結びついていくのだ。
展開が見え見えの部分はあるかもしれないが、こうして第二科学部は立ちあがった。さて次はどんな展開になるのかが楽しみだ。
2011年4月16日に日本でレビュー済み
優木カズヒロさんの「ハロー、ジーニアス」最新作。
前作は「居場所をなくした挫折したハイジャンパーが、孤独な天才少女の許に居場所を作るまでの物語」で、物語としての構成が美しい力作でしたが、今回は「孤独な天才が孤独をやめ、居場所を守る物語」と言う感じでした。
前作からそうですが、物語の構成もさることながら、確固とした筆力から紡ぎ出される地の文の独特な面白さでぐいぐい読める青春エンタです。
前回はあまり出番のなかった有谷美月も、天才少女・海流王寺八葉と対比して登場することでキャラクターとしての個性をはっきりさせてきました。
前作が「主人公と天才少女の物語」だとするなら、今回はどちらかというと「天才少女と平凡な少女の物語」と言う感じでしょうか。天才には天才なりに、凡人には凡人なりに抱えたものがあり、それがまたいい感じに青春しています。
でもこの先主人公、どういう役割で立ち回るんだろう……とその存在意義を心配してみたり。第一巻での主人公の描写がかなり文学的に美しかったので、今回の「天才と周囲とをつなぐ役割」を考えるとちょっと主人公ちからが弱まっているような気も。もちろん今作のフォーカスは主人公よりヒロインよりなのでそれはそれでよかったんですが、まだ明かされていない八葉の「特化領域」とかを巡って色々活躍するのかな?
個人的な考え方として、小説は小説であるからには小説ならではの面白さがあるべきで、その面白さは構成・台詞回しよりも地の文の面白みや情緒、美しさににじみ出てくると思っています。
あらすじを説明されても分からない面白さこそ、小説の面白さ、いいから読んでみろと言われて初めて分かるものが眠っていてこその小説、と思うのですがどうでしょうか。
この作品は文句なく「小説として面白い」と、自信を持ってオススメできます。
前作は「居場所をなくした挫折したハイジャンパーが、孤独な天才少女の許に居場所を作るまでの物語」で、物語としての構成が美しい力作でしたが、今回は「孤独な天才が孤独をやめ、居場所を守る物語」と言う感じでした。
前作からそうですが、物語の構成もさることながら、確固とした筆力から紡ぎ出される地の文の独特な面白さでぐいぐい読める青春エンタです。
前回はあまり出番のなかった有谷美月も、天才少女・海流王寺八葉と対比して登場することでキャラクターとしての個性をはっきりさせてきました。
前作が「主人公と天才少女の物語」だとするなら、今回はどちらかというと「天才少女と平凡な少女の物語」と言う感じでしょうか。天才には天才なりに、凡人には凡人なりに抱えたものがあり、それがまたいい感じに青春しています。
でもこの先主人公、どういう役割で立ち回るんだろう……とその存在意義を心配してみたり。第一巻での主人公の描写がかなり文学的に美しかったので、今回の「天才と周囲とをつなぐ役割」を考えるとちょっと主人公ちからが弱まっているような気も。もちろん今作のフォーカスは主人公よりヒロインよりなのでそれはそれでよかったんですが、まだ明かされていない八葉の「特化領域」とかを巡って色々活躍するのかな?
個人的な考え方として、小説は小説であるからには小説ならではの面白さがあるべきで、その面白さは構成・台詞回しよりも地の文の面白みや情緒、美しさににじみ出てくると思っています。
あらすじを説明されても分からない面白さこそ、小説の面白さ、いいから読んでみろと言われて初めて分かるものが眠っていてこその小説、と思うのですがどうでしょうか。
この作品は文句なく「小説として面白い」と、自信を持ってオススメできます。
2011年6月26日に日本でレビュー済み
日々、おもしろい小説に出会いたいと思っています。
おもしろいの定義は、拾った作品のジャンルにもよりますが、例えば少年少女を主人公・ヒロインにしたものであれば、彼らがいろいろな出来事を受けてどのように変わっていくのかが、僕にとっては大きな割合を占めています。
その僕の定義に沿えば、この作品は間違いなくおもしろい。
この巻の軸は、ジーニアスと呼ばれる天才少女、八葉と、個性を探してもがき続ける自分が平凡だと思い込んでいる少女、美月の繋がりでした。自分たちの居場所を守るという大きな出来事の中で、その二人の距離感が、どうやって縮まっていくのか。そして、その懸け橋たらんとして頑張る主人公、高行。彼らの心情がとても丁寧に描かれていて、この筆力は類似のライトノベルの中では群を抜いていると思います。
また、個人的には既存のキャラクターを大切にしているのも好印象です。前回少ししか出番のなかった美月は今回の準ヒロインですし、灰塚や伊佐といった彼らも、八葉がいろいろな人間関係を経験するに当たっては大事な役割を果たしてくれています。焼き肉からある場所にかけてのくだりは、彼らのにぎやかな笑い声が本から聞こえてきそうなくらい、いい臨場感がありました。
この路線を続けてくれれば、類似の作品に埋没することなく、しっかりと独自の色を出し続けて行ってくれるのではないでしょうか。今後にも期待しています。
おもしろいの定義は、拾った作品のジャンルにもよりますが、例えば少年少女を主人公・ヒロインにしたものであれば、彼らがいろいろな出来事を受けてどのように変わっていくのかが、僕にとっては大きな割合を占めています。
その僕の定義に沿えば、この作品は間違いなくおもしろい。
この巻の軸は、ジーニアスと呼ばれる天才少女、八葉と、個性を探してもがき続ける自分が平凡だと思い込んでいる少女、美月の繋がりでした。自分たちの居場所を守るという大きな出来事の中で、その二人の距離感が、どうやって縮まっていくのか。そして、その懸け橋たらんとして頑張る主人公、高行。彼らの心情がとても丁寧に描かれていて、この筆力は類似のライトノベルの中では群を抜いていると思います。
また、個人的には既存のキャラクターを大切にしているのも好印象です。前回少ししか出番のなかった美月は今回の準ヒロインですし、灰塚や伊佐といった彼らも、八葉がいろいろな人間関係を経験するに当たっては大事な役割を果たしてくれています。焼き肉からある場所にかけてのくだりは、彼らのにぎやかな笑い声が本から聞こえてきそうなくらい、いい臨場感がありました。
この路線を続けてくれれば、類似の作品に埋没することなく、しっかりと独自の色を出し続けて行ってくれるのではないでしょうか。今後にも期待しています。