筆者は2010年代も半ばからは「小説家になろう」系統の作品を多く世に送り出され『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』に代表されるヒット作も多く生み出されている方です。
ただしこちらは帯にある通りビターダークな雰囲気を全面に押し出すなど初期作寄りといえるでしょう。
京阪神地域を舞台とした作品を得意とされるほか、どこか読者を煙に巻く心地よい不安、それすらも武器にする女性のしたたかさと怖さ、美しさを染み込ませる風情、「森田季節」先生の筆致をご賞味あれ。
物語は不思議な三角関係、そしてプロローグ「JR西日本 関西本線 大河原駅」からはじはじまる六つの章題からもわかる通りに線路――沿線をなぞるように展開します。
また、本作はミステリとしての側面を持ちます。よってこのレビューも謎めいた言葉でお送りします。
見せ方としては全面的に押し出すわけではない一方、少年少女の心理がぶつかり合う「青春ミステリ」、ネタバレ排除の企図から詳細は省きますが「鉄道ミステリ」としての側面も垣間見せます。
付け加えるなら鉄道に関する事前知識がない読者向けにしっかり情報も提示されているので、けしてアンフェアにはなっていません。そちらの観点は理解の助けにはなっても本質でないかもしれませんけどね。
時に。三角関係を形作るには三人の登場人物が必要、というわけで簡潔に触れておきます。
ちなみに、劇中からは端役が一切合切排されており、注目し突き詰めていくべき点はこの三人へと絞り込まれています。
ひとりは中性的、揺蕩うような内観から自身のことを見つめる少年「大神弥刀」。
ひとりは現実的、時に弱々しくも力強さも持ち合わせる普通の少女「芝宮朝日」。
そうして、そのふたりを繋ぐひとりが魔女を自称する毒吐きの少女「細川千里」。
彼ら――、彼女たち三人の誰に注目すべきかはお任せします。現実と幻想のどちらにも寄った作中の浮き立つ雰囲気を演出する上で、三角関係とはシンプルであるからこそ奥深いのだなと思ったりもしました。
まず視点を担うという意味での主人公・弥刀は現と幻に似たふたりの少女の間を翻弄されるということを受け入れ理解しているのですが、先立つのは自分が男になりきれないという自意識だったりもします。
ひるがえってその隣に立つ少女ふたりは、かたや「女」、かたや「魔女」。
いずれにしても女であることからは逃れられないふたりなのかも。
……謎めいた言葉は、いったんこの辺で置き去りにしておきましょうか。
ここで最初のアドバイス。
まずは帯をつけたままで一読ください。それから、イラストレーター「シライシユウコ」先生:画のどこか死を思わせる背景の最中にあって、並び立つ三者をご覧ください。
中心にいる千里がふたりの手を取り合っていても、指の絡ませ方が異なり見ている方向もきっと違う。
そういったわけでまず、この物語を語る上で逃げられないのが千里という女の子と、その言葉です。
千里は本書の冒頭で提示され、本作の題をなす「ともだち同盟」なる胡乱なつながりを提示した張本人であり、自分を含めた三角関係を作った張本人、そして壊した当の本人であったりもします。
奇しくも「ともだち同盟」は「嘘」、「秘密」というたった二点の禁止事項を軸にした「約束」という三点で構成された簡素な紳士協定だったりしますね、
この辺にはなにか作為的なものを感じますが、いいえ必然だったのかも。
いずれにしても魔女を自称する千里はこの作品のすべてを貫くだけの魔力を秘めています。
「毒舌」なんてひとまとまりの言葉で片づけてしまえれば楽なので、その言葉はほどきますね。
悪口を少しだけ気取った言い方をするわけでもなく、悪意と害意をそのままに文字通り体と心をむしばんで差し出したくなってしまう、千里の毒ある言葉が実に、魅力的なのです。
陳腐な物言いをするなら胡乱で蠱惑的、わかっていて破滅に飛び込んでみたくなる、無意識の願望に身を委ねたくなる。――きっと、誰も彼も、彼女も死にたくなる。
と、言うわけで男くささを感じさせない少年・弥刀と、ふたりの少女の間はそれから等間隔を保ったまま、恋愛に至ったとしてもそのままの関係を紡いでいくのかと思いきや、その均衡を崩すのはやはり千里でした。
点から線、そして面。三点であり三線。
図形として成立する最小限で構成されるだけあって、きっと三角関係ほどに不安定な図形はありません。
三角がその一点の欠けという形でほどけてしまったならば二つの点は一線上になって重なり合うだけ。
三角関係は千里の死という転機を迎えることで「物理的」に崩れます。
でも千里の言葉は根付いていて弥刀は「心理的」に取り残されます。この時点では図形はほどけたまま。
しかし、弥刀の手を現実(リアル)の方に引き寄せようとする朝日の努力をあざ笑うかのように、ここまで澱のように降り積もった千里の毒ある言葉は、物語を一気に、ファンタジーに引き寄せてきます。
千里がふたりを生と死の狭間にいる自分の領域に呼び寄せるという形で。
生と死を挟んだ程度で三角関係がほどけるか、どうか?
結論、そんな無茶な前提を納得させ、読者に呑み込ませるくらいにはここまで積み重なってきた千里の言葉が強かったというしかなく……お見事といわざるを得ません。
もちろん納得できない方もいらっしゃるとは思われます。私は魔女の言葉に溺れたい性質なのかも。
境目といえば。
男と女を挟まなければ三角関係は成り立つか、どうか?
本作のジャンル、ないしカテゴライズ、ラベリングを難しくする要素をクライマックスにかけて千里はさらに投げ込んでくるのだから恐れ入ります。
森田季節先生のセールスジャンルのひとつ「百合」とみる上では、千里と朝日の関係は相当に重く、双方が一方的で痛々しく哀しい関係性であったりもするので絶対に外してはいなかったりするのですけどね。
それと、このレビューではあえて省きましたが、朝日の、この作品における存在感もけして千里は元より弥刀に押し負けるものではないのだと申し上げておきます。
彼女は強い。本書のラストエピソードは彼女の視点から締めくくられるのがその証左なのですから。
二年とあまりのそののち、朝日が有することになったその名を冠した力強きヒロインが同じく森田季節先生の筆からこぼれ生まれることになるのだと思えば、これは感傷でしょうか。
今はただ、偶然ではないと信じたいところです。
ここで最後にアドバイス。
帯を解いて、ジャケット(ブックカバー)を脱がせて、袖を合わせる(正確には折り重ねる)のは読み終えてからのほうがよいですよ。
裸にしなければわからないといえばいささか趣がないようですが、それ以前に一目瞭然だったりします。彼女たちが誰を見ているかの答えは見た瞬間にご理解いただけると思いますから。
ご覧になられ、悟った瞬間の感動はきっと、知った上で何度でも折り返したくなる鉄道に似ています。
もっとも、本当に折り目をつけてしまえばそれもまた取り返しがつかずに、苦い味を楽しめるのかも。
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ともだち同盟 単行本 – 2010/6/26
森田 季節
(著)
千里、朝日、弥刀。二人の女子と一人の男子。三人の高校生はある誓いを交わし""ともだち""になった。しかし、その「世界」は朝日が弥刀に告白したことで揺らいでいき、ある日……。新世代青春小説の旗手、誕生!!
- 本の長さ234ページ
- 言語日本語
- 出版社角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日2010/6/26
- ISBN-104048740725
- ISBN-13978-4048740722
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商品の説明
著者について
1984年生。兵庫県神戸市出身、京都大学卒。福井県在住。2008年『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を在学中に受賞。同年9月、同作品でデビュー。不思議な読後感を残す作品世界、それを支える独特の表現によって注目されている。
登録情報
- 出版社 : 角川書店(角川グループパブリッシング) (2010/6/26)
- 発売日 : 2010/6/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 234ページ
- ISBN-10 : 4048740725
- ISBN-13 : 978-4048740722
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,124,129位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
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2021年8月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2010年7月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
現代小説でありながら、まるで古典や神話のような感覚を抱かせる、不思議な物語。青春小説でありながら、ここにあるのはひたすら背徳感にまみれた、思春期の純真さと残酷さを湛えたビターな物語。趣味嗜好が細分化された現代には似つかわしくないくらい、ジャンル分け無用の圧倒的な存在感の「物語」が、ここにはある。3人の結んだ「同盟」の行く末は、果たしてどうなったのか?衝撃のラストシーンは、あなたの心をつかんで離さないでしょう。
2018年5月28日に日本でレビュー済み
まず表紙絵が素晴らしい。
魔女を自称する千里と女の子っぽい弥刀のほうが特殊なのに、普通の価値観を持つ朝日ほうが目立って見える不思議。
魔女を自称する千里と女の子っぽい弥刀のほうが特殊なのに、普通の価値観を持つ朝日ほうが目立って見える不思議。
2010年9月7日に日本でレビュー済み
デビュー作「ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート」
でキャラ立ての巧さと変わったテキストセンス、
独特の切なさで不思議な世界観を醸していた作者だが
その後、他シリーズが出る度に地の文の稚拙さが目立ち、
ありきたりなラブコメフォーマットに無理矢理、
型をハメている感じがして私的には評価を
どんどん下げていた。
編集者に書きたくないもの書かされて個性がスポイル
されているんじゃないのかとすら思ってて
もう切ろうと思っていた作家である。
が、嬉しい事にどうやら復活したようだ。
ずっと感じていた地の文の稚拙さも感じられなかった。
オビにある「ビターダークな青春ミステリー」は言いえて妙。
推理ものじゃなけれどこれはミステリーだ。
ラストに予想外のオチがあって、こんなものも書けたのかと
感心した。
読み返すときちんと伏線は張られてたりするし。
「○○・ビター・マイ・スウィート」シリーズが
好きな人なら期待していい。
ラノベ3冊分の価値は果たしてあるかどうか。
個人的には今後もこのレベル以上の作品が出る事を期待して星4つ。
でキャラ立ての巧さと変わったテキストセンス、
独特の切なさで不思議な世界観を醸していた作者だが
その後、他シリーズが出る度に地の文の稚拙さが目立ち、
ありきたりなラブコメフォーマットに無理矢理、
型をハメている感じがして私的には評価を
どんどん下げていた。
編集者に書きたくないもの書かされて個性がスポイル
されているんじゃないのかとすら思ってて
もう切ろうと思っていた作家である。
が、嬉しい事にどうやら復活したようだ。
ずっと感じていた地の文の稚拙さも感じられなかった。
オビにある「ビターダークな青春ミステリー」は言いえて妙。
推理ものじゃなけれどこれはミステリーだ。
ラストに予想外のオチがあって、こんなものも書けたのかと
感心した。
読み返すときちんと伏線は張られてたりするし。
「○○・ビター・マイ・スウィート」シリーズが
好きな人なら期待していい。
ラノベ3冊分の価値は果たしてあるかどうか。
個人的には今後もこのレベル以上の作品が出る事を期待して星4つ。
2012年3月20日に日本でレビュー済み
序盤までは文句なしに面白い!
登場人物達の距離感が独特でちょっとミステリアスな青春物?っていう雰囲気が良かった。
ただ、後半に入って千里の世界に行った時は軽く冷めた。
ファンタジー要素も嫌いじゃないんだけど、ほんのすこしだけ雰囲気が崩れた。
コーヒーに別の種類のコーヒーを足した感じ・・・
徐々にキャラが魅力が薄れていくのも減点かな。
ただ、この背徳感は癖になると思う。
登場人物達の距離感が独特でちょっとミステリアスな青春物?っていう雰囲気が良かった。
ただ、後半に入って千里の世界に行った時は軽く冷めた。
ファンタジー要素も嫌いじゃないんだけど、ほんのすこしだけ雰囲気が崩れた。
コーヒーに別の種類のコーヒーを足した感じ・・・
徐々にキャラが魅力が薄れていくのも減点かな。
ただ、この背徳感は癖になると思う。