本書はノンフィクションだが、まるで映画やドラマのワンシーンのような描写が出てくる。
例えば、著者が五歳の少女バニスを思わずビンタしてしまう場面だ。わが子のように愛しいから、黒人差別をわが事として悩み苦しむから、手をあげてしまったのだ。それほどまでに著者はハーレムの子供たちを愛した。
あるいはこんな場面もあった。著者が日本に帰国することを告げたとき、彼女のアシスタントを務める十六歳のクリスは、自分も連れて行ってほしい、僕にはあなたが必要なんだと泣いてすがった。それほどまでに著者はハーレムの人々に愛された。
最初からそうだったわけではない。著者も人並みに黒人を恐れていた。バスの中で隣に座った黒人が差し出した『気味の悪い手』を握ることはできなかったと正直に語る。
ハーレムで暮らすことになったのは成り行きだった。留学先のコロンビア大学に徒歩で通えて、夫婦で暮らせる広さがあって家賃13ドルと格安(著者とほぼ同時期にハーヴァード大学に留学していた犬養道子の『マーチン街日記』では、一人暮らしの犬養のアパートの家賃は125ドル)のアパートがハーレムにあったからだ。
そんな背景を吹き飛ばすかのように、著者はハーレムの黒人たちと熱く濃密な関係を築いた。それができたのはカメラと出会えたからだと著者は言う。自分はいったい何がしたいのかを彼女はアメリカで発見できた。「私」の生き方を見つけた時、彼女は居場所を愛することを覚えた。
著者は、アメリカ人になりたくないと、自分探しを優先し帰国を決意する。 この著者の決断に評者は納得できない。これほどまでにハーレムの人々を愛した著者が、なぜ「私は日本人だから」という理由で、アメリカに同化されることを拒んだのか。“アメリカ人になるか日本人になるか”と二択にするのでなく、日本人でいながらアメリカ人としても生きる道はなかったのか。『マーチン街日記』でアメリカを、「異なる血の衆の合い集って合衆の国」と呼んだ犬養道子にならって、『合衆』の一人になれなかったのか。著者ならそれができたはずだ。
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ハーレムの熱い日々 (講談社文庫) 文庫 – 1979/1/29
黒人スラム街にともに暮らし、黒人たちを撮り続けた、フォトジャーナリスト・吉田ルイ子――貧困・麻薬・売春・差別に象徴されるニューヨーク・ハーレムで、人間が人間であることを取り戻すことに目覚めた黒い肌の輝きを、女の感覚とカメラの冷徹な眼でヴィヴィッドに把えたルポルタージュ。
- 本の長さ232ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日1979/1/29
- 寸法10.8 x 1 x 14.8 cm
- ISBN-104061340999
- ISBN-13978-4061340992
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (1979/1/29)
- 発売日 : 1979/1/29
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 232ページ
- ISBN-10 : 4061340999
- ISBN-13 : 978-4061340992
- 寸法 : 10.8 x 1 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 168,696位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,351位講談社文庫
- - 35,427位ノンフィクション (本)
- - 47,057位文学・評論 (本)
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トップレビュー
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2023年4月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ブラックミュージック好きな人は必読です。
2022年10月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
あの時代にハーレムに住んでいた日本人女性がいたなんて!と驚くけれど、全く古さを感じさせない。小説のように読むだけで風景が頭に浮かぶし、普通の人では決して見えていないNYが描かれていてすごく面白い。
2020年11月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
迅速に届けていただきました。梱包もよく、本の状態も内容通りでした。ありがとうございました。
2023年5月14日に日本でレビュー済み
差別は良くないと言うのは簡単だけど、幼い頃から染みついた差別感情、それは周りの全てのものからシャワーのように浴び空気のように吸って、自分の細胞に染み付いているもの。
後からの教育で、アタマでとり払うのはとても難しいと思う。
かつては、いい男と一緒になったネと言われた配偶者も、いざと言う時には「きたない黒ンボめが!」と叫ぶ。あれはアタマではなく魂の叫びだったと思う。
「自分は白人以外の者になれるなら何でもいい」と言っていた配偶者。
その言葉は、「リベラル白人の苦痛を端的に表現した言葉」だと著者は言う。「許しを乞うための黒人運動」であって、「自己憐憫と優越感の裏返し」だと。そして「ラディカル白人」についても言級するが、そうしてラベル化すると話は簡単になるが、結局それが差別へと繋がっていくのでは?
ハーレムが好きだ、白人の街とはこう違って良い、だとか、白人とは違って黒人はこう好きだという記載が散りばめられていて、逆に白人差別なのではと思うこともしばしば。
結局、著者も離婚した配偶者と大差ないのではないか。
特にキング牧師が殺された下りでは、白人→黒人への差別だけでなく、黒人→白人、つまり差別感情は相互的なものなのだと、話の最初からそうなんだけど、これをすごく意識させられた。
内容の全ては「ハーレムは私を育ててくれた」という一言に凝縮されており、乱暴に言うと何も解決しないけど、この本はきっと、それが良い。激動の中のエッセイだった。
以下は、著者の向かいに住んでた「ホモ」の挨拶に感動したのでメモ
「今日のあなたの唇はバラの蕾のよう」
「今日のドレスはあなたをニューヨークのクィーンにさせる」
こんな挨拶が出る人って素敵ね。
あと、ケントのお母さん、
「まあ、男なんて家にいつかないものサ」
「かぼちゃのパイ、あるよ。あんた大好きだったね。一つあげようね」
この2つのセリフで、人柄の空気感全てが伝わるようで、グッときた。
ブレックファーストプログラムなぞは、日本でもあったら良いな、提供側で参加したいな、仕事だから現実は難しいのだけど...。
後からの教育で、アタマでとり払うのはとても難しいと思う。
かつては、いい男と一緒になったネと言われた配偶者も、いざと言う時には「きたない黒ンボめが!」と叫ぶ。あれはアタマではなく魂の叫びだったと思う。
「自分は白人以外の者になれるなら何でもいい」と言っていた配偶者。
その言葉は、「リベラル白人の苦痛を端的に表現した言葉」だと著者は言う。「許しを乞うための黒人運動」であって、「自己憐憫と優越感の裏返し」だと。そして「ラディカル白人」についても言級するが、そうしてラベル化すると話は簡単になるが、結局それが差別へと繋がっていくのでは?
ハーレムが好きだ、白人の街とはこう違って良い、だとか、白人とは違って黒人はこう好きだという記載が散りばめられていて、逆に白人差別なのではと思うこともしばしば。
結局、著者も離婚した配偶者と大差ないのではないか。
特にキング牧師が殺された下りでは、白人→黒人への差別だけでなく、黒人→白人、つまり差別感情は相互的なものなのだと、話の最初からそうなんだけど、これをすごく意識させられた。
内容の全ては「ハーレムは私を育ててくれた」という一言に凝縮されており、乱暴に言うと何も解決しないけど、この本はきっと、それが良い。激動の中のエッセイだった。
以下は、著者の向かいに住んでた「ホモ」の挨拶に感動したのでメモ
「今日のあなたの唇はバラの蕾のよう」
「今日のドレスはあなたをニューヨークのクィーンにさせる」
こんな挨拶が出る人って素敵ね。
あと、ケントのお母さん、
「まあ、男なんて家にいつかないものサ」
「かぼちゃのパイ、あるよ。あんた大好きだったね。一つあげようね」
この2つのセリフで、人柄の空気感全てが伝わるようで、グッときた。
ブレックファーストプログラムなぞは、日本でもあったら良いな、提供側で参加したいな、仕事だから現実は難しいのだけど...。
2017年12月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
感じます。ルイ子さんが暮らしていた息吹が、活字になって読み手に語りかけます。VW乗りとしては,車両の行方が気になります・・。
2017年11月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
リアルタイムで読んでアメリカに行きたくてたまらなかった本でした、あれから40年近く経ったのに題名も忘れずにいました。あの時の感動をまた味わいました!アメリカは良い意味でも悪い意味でも奥が深いです
2020年6月5日に日本でレビュー済み
20年近く前にNYのアップタウンにハマり、ライターの堂本かおるさんに影響を受けて吉田ルイ子さんの本にたどり着きました。あれから月日は経ちジョージ・フロイド氏の事件を機に読み返しています。日本にいる時とハーレムにいる時の人権問題はまるで別世界に見えてきます。自分の感覚が鈍らないためにも本書は決して手放してはいけない本だと思います。これからの世代の人にも読んで欲しいのでどうかKindleでもいいのでこの本は在庫を絶やさないでほしいです。よろしくお願いします。