日本美術、若しくは日本建築を学ぶ方で、最早この名を知らない方はいないであろう。
ブルーノ・タウト…ドイツ人建築家でありながら、桂離宮に魅せられ、そして日本美を再発見した人物である。
本書は、そのタウトが僅か三年ばかりの日本滞在の間に見出した「日本美」「日本文化」、そして「日本」そのものについて饒舌に語る著作であり、何よりも、日本人である私達自身が自国の魅力について考える事が出来る、非常に価値の高い一冊であった。
本書は「私観」と銘打っている通り、タウト自身が日本の美術について考える事、日本人に対して提言したい事を思うがままに綴っている。
然しながら、その重みのある一つ一つの言葉をどうして軽んじる事が出来ようか。
床の間の意義、日本の芸術や信仰、そして具体的には絵画、彫刻、工芸、建築についても詳述した上で、今後の日本の進むべき方向についても展望を述べているのだ。
タウトは、日本文化を時には賛美し、時には悲哀を込め、そして時には辛らつに攻撃している。
本書には、タウト自身も芸術家であったからこそ持っていた鋭い感性、そして、外国人という立場だったからこそ気付いた日本の姿なるものが凝縮されており、多くを教えられたように思う。
尚、具体的に日本美術を取り上げている項目も中々興味深い。
例えば、絵画については、この当時でありながら既に岩佐又兵衛に言及し、その価値を認めているのは驚きに値するし、探幽を狩野派最大の画家と位置付けたり、或いは浦上玉堂を日本隋一の大画家としている所には、タウト自身の価値観が垣間見られるように思う。
また、工芸について言うなれば、日本各地の技術に着目し、それぞれの個性や魅力を紹介しているので、恥ずかしながら工芸に関する知識が疎かであった私にとっては、良き指南書ともなった。
そして建築ータウトが桂離宮を絶賛し、対して日光東照宮を「俗悪」として価値を見出さなかったのは有名な話であるし、これには異を唱えたい方も多くいるとは思うが、本書を読めば、賛否両論は別として、タウトが求める「日本美の理想」が如何なるものであったのかが理解出来るであろう。
タウトは、日本の欧米化を極端に嫌う。
そして、自国の文化すら理解しないままに闇雲に欧米の美術を絶賛する姿勢にも警鐘を鳴らす。
尤も、洋式よりも和式のトイレを賞賛するタウトには、やや「日本贔屓」が過ぎるのでは無いか…?と思わないでもないが、何よりも「自国の良さを失わないで欲しい」という彼のメッセージには非常に心を打たれた次第である。
勿論、タウトが生きた時代と現代の日本とはやや異なるので、その辺りで共感出来ない部分もあるであろう。
特に、欧米化、近代化される日本を「滑稽」な姿として捉えているが、今更になって「洋室の中をスリッパや裸足で歩くのはおかしい」と言われても、既に生活の中に根付いてしまったものは致し方なく、これが今の日本である…と言わざるを得ない点もある。
然しながら、本書で語られている内容は、決して時代錯誤という訳ではなく、寧ろ、現代の日本人だからこそ知っておくべき、考えるべき「日本美の原点」を網羅しているように思った。
以前、私の知人がタウトについて「外国人が日本の美を再発見したのは何となく悔しい」と言っていた事がある。
だが、本書を読んだ限りに於いては、私はそうは思わない。
何故なら、第三者的な冷静な立場だったからこそ日本本来の美意識に気付いてくれたのであろうし、だからこそ、彼の提言はかけがえのないものだと実感したからである。
本書は、私達自身が知らない日本の姿を教えてくれるように思う。
時代を超えて、国籍を超えて、純粋に心に響く名著である。
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日本文化私観 (講談社学術文庫 1048) 文庫 – 1992/10/5
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伊勢神宮や桂離宮などに日本美の極致を見たタウトは、建築家としての鋭い直観と透徹した哲学的瞑想とにより、神道や絵画、彫刻や工芸、建築など、日本の芸術と文化を更に深く見つめた。彼の透徹した眼識力と歴史認識は、日本人が忘却している日本の伝統的精神の復活をうながさずにはおかず、日本人と日本文化に寄せる真情は、読む人の心にせまる。名著『ニッポン』と並ぶ必読のタウトの日本文化論。
- 本の長さ344ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日1992/10/5
- 寸法10.8 x 1.4 x 14.8 cm
- ISBN-104061590480
- ISBN-13978-4061590489
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著者について
【ブルーノ・タウト】
ドイツの建築家。1880年ケーニヒスベルク生まれ。「鉄の記念塔」「ガラスの家」等の独創的な建築作品で名を成す。ベルリンに1万2000戸の集合住宅を建設。1933年から36年まで日本に滞在。1938年アンカラで客死。著書に『アルプス建築』『ニッポン』等がある。
【森とし郎】
1906年東京生まれ。早稲田大学文学部卒業。専攻はドイツ文学。早稲田大学教授。著書に『ドイツ語四週間』『実用ドイツ語会話』、訳書にB・タウト『ニッポン』等。1946年没。
ドイツの建築家。1880年ケーニヒスベルク生まれ。「鉄の記念塔」「ガラスの家」等の独創的な建築作品で名を成す。ベルリンに1万2000戸の集合住宅を建設。1933年から36年まで日本に滞在。1938年アンカラで客死。著書に『アルプス建築』『ニッポン』等がある。
【森とし郎】
1906年東京生まれ。早稲田大学文学部卒業。専攻はドイツ文学。早稲田大学教授。著書に『ドイツ語四週間』『実用ドイツ語会話』、訳書にB・タウト『ニッポン』等。1946年没。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (1992/10/5)
- 発売日 : 1992/10/5
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 344ページ
- ISBN-10 : 4061590480
- ISBN-13 : 978-4061590489
- 寸法 : 10.8 x 1.4 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 122,334位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 52位建築家・様式
- - 398位講談社学術文庫
- - 961位アート・建築・デザイン作品集
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年4月30日に日本でレビュー済み
ドイツの世界的な建築家、ブルーノ・タウトによる日本文化論。
同じ講談社学術文庫のニッポンという本は、いわば日本の第一印象といった内容だが、この本では3年の滞在を経ての研究成果がまとめられている。
芸術、神道、絵画、工芸、建築などの章ごとに分かれており、タウトがいかに短い期間の間で、日本文化の特徴を理解してしまったことに、驚かされる。
それでもタウトにとっては、桂離宮の印象がとにかく強烈だったようで、小堀遠州のことを、歴史上まれに見る建築家、芸術家として絶賛している。
当時の日本の建築家の地位が低い状況を批判しているあたりは、いかにも建築家らしい。
同じ講談社学術文庫のニッポンという本は、いわば日本の第一印象といった内容だが、この本では3年の滞在を経ての研究成果がまとめられている。
芸術、神道、絵画、工芸、建築などの章ごとに分かれており、タウトがいかに短い期間の間で、日本文化の特徴を理解してしまったことに、驚かされる。
それでもタウトにとっては、桂離宮の印象がとにかく強烈だったようで、小堀遠州のことを、歴史上まれに見る建築家、芸術家として絶賛している。
当時の日本の建築家の地位が低い状況を批判しているあたりは、いかにも建築家らしい。
2021年5月10日に日本でレビュー済み
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来て観て論じました。黒田清伯爵による序文あり。
各地をまわり、専門家としての感想を記しました。東京を訪れた際には、青山民吉氏宅を訪問しています。巻頭に「模倣によりて美は消失す」とあります。西洋の模倣の風潮に逆らい日本の古来の伝統を再発見し、立ち返ってはどうか、という強い提案でしょう。
よき隣人を得ました。
各地をまわり、専門家としての感想を記しました。東京を訪れた際には、青山民吉氏宅を訪問しています。巻頭に「模倣によりて美は消失す」とあります。西洋の模倣の風潮に逆らい日本の古来の伝統を再発見し、立ち返ってはどうか、という強い提案でしょう。
よき隣人を得ました。