南方熊楠とは一体何者なのか? 世の中には天才と呼ばれる人たちはたくさんいる。歴史的にみればもう覚えられないほど多くの天才たちが世の中にはいるのである。でも、天才と呼ばれるものの中でも、それぞれ得意な分野があったりすることが多い。当たり前と言えば、当たり前なのであるが、でも、その中でも時に壮大な思想を考える天才も現れることがある。西洋と東洋の融合を考えた鈴木大拙やあらゆる世界の哲学・宗教の共通点、本質を解明しようとした井筒俊彦のような全体性や統合を考える天才たちもいた。天才の中に博学なものは多いのであるが、そのような思想を持ち、それに取り組んだ天才は少ない。そして、南方熊楠もまさにそういった天才の一人なのである。彼もまた生物学、民俗学、宗教学などに精通し、世界的な視野、全体的な視野でそれらの謎を解き明かそうとした一人である。
一つの学問に精通するだけでも普通は大変だし、時間がかかる。でも、どう考えても一つの学問だけでは、答えられない問いというものがあり、ほとんどの人たちが抱えている疑問というのは大抵、一つの学問の中でおさまるものではないのである。どこかでその学問の壁を超えたいと感じているのではないだろうか。たしかに、一つの学問、一つの専門分野を極めることによって、より広い世界に出ていくことができるというのは、過去の偉人たちを見ていればわかる。でも、最初から全体を見る、全体を考えるという方法もあるのではないだろうかとも思う。今の世の中はあまりにも分断、分析して考える思考になっており、全体が全然見えていなく、トンチンカンなことばかりが起こっているからだ。合理的に考えた結果、ものすごく不合理なことがたくさん起こっている。でも、ちょっと全体的なことを考えれば、そんな不合理なことが起こることなんて簡単に察しがつくのに、それがわからなくなってしまっているのである。
また、科学技術の発展によって、もう人が理解できない、人の想像超えてしまうような出来事が起こるようになってきてしまっている。わかりやすい例えで言えば、原子力のような力だ。それはもう下手をすれば人類が滅亡してしまうような力を持っている。ただ、合理的に考える、技術を発達させるだけではなく、あらゆることを想定して、それに取り組む必要性があるのだ。それについては日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹氏がその危険性について指摘している。彼も非常に博学で視野の広い学者であった。
簡単に言えば、もう今の時代は人類だとか、地球のこととかを考えずに、何かに取り組むというのがリスクでしかないということである。人間は空気や水がなくては生きては行けないのに、空気や水を汚して、どんどん生きにくい世界を作ってしまっている。考えればそんなことをして誰の得にもならないはずなのに、そういった全体性(関連性)について考えることなく、行ってしまうから、そのような不合理なことが起きてしまうのである。当たり前のことなのに、それにはなかなか気がつかない。でも、そういうことに気がついて、本質の部分からそれを改善できないかと考える天才がたまに現れるのである。
中沢新一氏は今「レンマ学」という新しい学問を立ち上げようとしている。本書の文庫本のあとがきにも記載されているように、その萌芽というのがこの本からは垣間見ることができる。この本の原書版が発行されたのが1992年ということで、すでに30年以上の月日が流れているが、その源流がここにある。そして、中沢氏も、南方熊楠という一人の人物からそれを受け継ぎ発展させてきたのである。この流れが現代でも続いて、さらに発展されていくことを願うとともに、自分自身もその流れに乗って学んでいきたいと思う。何年かかるかわからないが、でも、学ぶことに終わりはないのだから。
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森のバロック (講談社学術文庫) 文庫 – 2006/11/10
中沢 新一
(著)
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生物学・民俗学から神話・宗教学に精通、あらゆる不思議に挑んだ南方熊楠。那智の森の中に、粘菌の生態の奥に、直観された「流れるもの」とは何か。自然や人間精神の研究の末織り上げられた南方マンダラの可能性とは?後継者のいない南方熊楠の思想、「旧石器的」な思考の中に、著者は未来の怪物的な子供を見出す。対称性理論への出発点となった記念碑的著作。
南方熊楠から取り出す 思想の新しい子供
「対称性」理論への出発点
生物学・民俗学から神話・宗教学に精通、あらゆる
不思議に挑んだ南方熊楠。那智の森の中に、粘菌の生態の奥に、直観された「流れるもの」とは何か。自然や人間精神の研究の末織り上げられた南方マンダラの
可能性とは?後継者のいない南方熊楠の思想、「旧石
器的」な思考の中に、著者は未来の怪物的な子供を
見出す。対称性理論への出発点となった記念碑的著作。
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可能性とは?後継者のいない南方熊楠の思想、「旧石
器的」な思考の中に、著者は未来の怪物的な子供を
見出す。対称性理論への出発点となった記念碑的著作。
- 本の長さ424ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2006/11/10
- 寸法10.8 x 1.6 x 14.8 cm
- ISBN-104061597914
- ISBN-13978-4061597914
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2006/11/10)
- 発売日 : 2006/11/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 424ページ
- ISBN-10 : 4061597914
- ISBN-13 : 978-4061597914
- 寸法 : 10.8 x 1.6 x 14.8 cm
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著者について
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1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、多摩美術大学芸術人類学研究所所長。思想家。著書に『チベットのモーツァルト』(サ ントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)、『フィロソフィア・ヤポニカ』(伊藤整文学賞)など多数ある(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『カイエ・ソバージュ』(ISBN-10:4062159104)が刊行された当時に掲載されていたものです)
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2019年6月30日に日本でレビュー済み
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なぜ、「浄のセクソロジー」の章が外されたのかとか、終章をまとめたとか、著者本人が、このことを「了解」したことをどう受け止めるか次第だろう。私なりに調べてみたが、南方熊楠コレクション(1~5)(「
南方マンダラ
」、「
南方民俗学
」、「
浄のセクソロジー
」、「
動と不動のコスモロジー
」、「
森の思想
」)の「
浄のセクソロジー
」に解題にその章が移されていました。講談社と河出書房新社に何らかの軋轢があったのか、両方の出版社に同じ内容を掲載するのを中沢氏が拒んだのかは知らないが、こういうことは出版社が違うと良くあることだ。それとは関係無しに、中沢氏は南方熊楠の思想に相当敬意を払っている様で、今後のライフワークにしていくつもりなのだろうか?「
熊楠の星の時間
」に繋がっているのだろうが、私はまだ読んでない。
中沢新一氏の著書は「 雪片曲線論 」や「 チベットのモーツァルト 」を単行本で読んだ頃からの読者の私にすると、南方熊楠に敬意を払う理由がすぐうかがい知れた。チベット密教のニョンパの行について問題にして、実際に修行に参加した経験が彼にはある(ニューアカのブームの頃、この話題はかなり有名な話でした)。南方熊楠の密教思想、マンダラに関する親近感が沸くのは必然だろう。まあ、毀誉褒貶は多い人ではあるが(オウム信者らが彼の著書を読んでいたこととか)、この人どうも「政治」に巻き込まれやすい天然的な気質があるとしか思えない。
私もカイエ・ソバージュシリーズ(「 人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) 」、「 熊から王へ カイエ・ソバージュ(2) 」、「 愛と経済のロゴス カイエ・ソバージュ(3) 」、「 神の発明 カイエ・ソバージュ(4) 」、「 対称性人類学 カイエ・ソバージュ (5) 」は読んだのだが、ポスト構造主義(デリダ辺りまで)以降の思想の引用は少なく、あとは本人の思索によるものが大きい。この本もその傾向は大きい。ポスト構造主義以降で取り入れたのは、オートポイエーシス位だろうか?私は、現代思想からポスト構造主義辺りの思想には随分薫陶を受けたが、昨今の遺伝学や微生物学の研究の成果はあまりくみ取っていない。南方熊楠のマンダラ、「森の思想」を深めたいなら、微生物学こそ最もホットな話題性を持たせられると思う。微生物同士、ウィルス同士も共存共栄、すごいのはお互いの良いところを取り入れて共生しているという事実の方だ。そういう追及があれば申し分無いが、今の彼にはそういう領野を超えた展開にはコリゴリしている感じだ。
南方熊楠の伝記というのなら、水木しげる「 猫楠 南方熊楠の生涯 」がよく整理されているし、マンガなので読みやすい。この本は南方熊楠の思想を解説するにはあまり良い本とは言えない。けれど、初めて南方熊楠の思想に触れたいなら、一度は手にするといいと思う。
中沢新一氏の著書は「 雪片曲線論 」や「 チベットのモーツァルト 」を単行本で読んだ頃からの読者の私にすると、南方熊楠に敬意を払う理由がすぐうかがい知れた。チベット密教のニョンパの行について問題にして、実際に修行に参加した経験が彼にはある(ニューアカのブームの頃、この話題はかなり有名な話でした)。南方熊楠の密教思想、マンダラに関する親近感が沸くのは必然だろう。まあ、毀誉褒貶は多い人ではあるが(オウム信者らが彼の著書を読んでいたこととか)、この人どうも「政治」に巻き込まれやすい天然的な気質があるとしか思えない。
私もカイエ・ソバージュシリーズ(「 人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) 」、「 熊から王へ カイエ・ソバージュ(2) 」、「 愛と経済のロゴス カイエ・ソバージュ(3) 」、「 神の発明 カイエ・ソバージュ(4) 」、「 対称性人類学 カイエ・ソバージュ (5) 」は読んだのだが、ポスト構造主義(デリダ辺りまで)以降の思想の引用は少なく、あとは本人の思索によるものが大きい。この本もその傾向は大きい。ポスト構造主義以降で取り入れたのは、オートポイエーシス位だろうか?私は、現代思想からポスト構造主義辺りの思想には随分薫陶を受けたが、昨今の遺伝学や微生物学の研究の成果はあまりくみ取っていない。南方熊楠のマンダラ、「森の思想」を深めたいなら、微生物学こそ最もホットな話題性を持たせられると思う。微生物同士、ウィルス同士も共存共栄、すごいのはお互いの良いところを取り入れて共生しているという事実の方だ。そういう追及があれば申し分無いが、今の彼にはそういう領野を超えた展開にはコリゴリしている感じだ。
南方熊楠の伝記というのなら、水木しげる「 猫楠 南方熊楠の生涯 」がよく整理されているし、マンガなので読みやすい。この本は南方熊楠の思想を解説するにはあまり良い本とは言えない。けれど、初めて南方熊楠の思想に触れたいなら、一度は手にするといいと思う。
2021年1月23日に日本でレビュー済み
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装丁のデザイン、色味がたまらなく好きだ。それだけでも、この本は買って10年以上経つが本棚の特等席に居続けている。熊楠の捉えどころのない思考、思想(自分がついていけないだけだが)も、その核心は理解しきれないのだが、しかし、その何か雰囲気ではないが、醸し出す何かには心惹かれる。魅惑的で魅力的だ。それを感じさせてくれるのが、中沢新一の何という端正な文章か。自分は本はそんなに読まないが、リズムなのか、テンポなのか、語句の選択なのか、とにかく難しい聞いたことのない言葉が出てきてさえも、水の流れるように読み進めてしまう。それが全く苦にならない。意味はわからなくてもいいと思えてしまう。気持ち良くなる。だから、まだ意味がわかる楽しみは残っているので、死ぬまで楽しめそうだ。
2023.10.6追記
たぶん4回目の通読。
粘菌の観察を通して得た生命感、そこから熊楠が構想していた生命論が、近代の西欧的生物学(Biology)の最先端から導き出されたオートポイエーシス論と驚くほどの類似性を示している、との記述の部分はなかなかにドラマティックで感動的。生命システムにとって自己と環境との境目はない、内部も外部もない、外界からのインプットに反応しアウトプットする主体(自己)という概念もない。これからの自分の人生観にも影響しそうな強い印象を受けた。オートポイエーシスは近年注目を浴びているようだが、本書の原本が出版されたのが1992年であることを考えると、中沢新一の目の付け所の鋭さを感じる。自分にとっては本書のいちばんの読みどころ。
2023.10.6追記
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粘菌の観察を通して得た生命感、そこから熊楠が構想していた生命論が、近代の西欧的生物学(Biology)の最先端から導き出されたオートポイエーシス論と驚くほどの類似性を示している、との記述の部分はなかなかにドラマティックで感動的。生命システムにとって自己と環境との境目はない、内部も外部もない、外界からのインプットに反応しアウトプットする主体(自己)という概念もない。これからの自分の人生観にも影響しそうな強い印象を受けた。オートポイエーシスは近年注目を浴びているようだが、本書の原本が出版されたのが1992年であることを考えると、中沢新一の目の付け所の鋭さを感じる。自分にとっては本書のいちばんの読みどころ。
2019年10月21日に日本でレビュー済み
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南方熊楠の宇宙樹的思想をこれでもかというほど多角的かつ現代思想をヒントにわかりやすく丁寧に説明、論じた傑作。日本の土地で生命を営む我々であれば必読必須まちがいなし。個人的には最終章の、ドゥルーズの襞の概念と南方マンダラのアナロジカルな敷衍に本書で述べたい本質が表れているとおもう。
2015年1月3日に日本でレビュー済み
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生態学、博物学、民俗学など広範な熊楠の活動を深く掘り下げ、現代ばかりか、未来の指針になるような内容満載で目からウロコでした。
ややヨコモジが多く、読むのに苦労しました。
ややヨコモジが多く、読むのに苦労しました。
2007年1月26日に日本でレビュー済み
名著であることは多くの方が語っておられます。私もかつて単行本で読み、大きな衝撃を受けた一冊です。こんな本は世界中で中沢新一にしか書けないだろうと思う。どのような評価を下す人であれ、そのことは認めるかもしれない。
しかし。中でもとりわけ衝撃の大きかった第七章「浄のセクソロジー」がこの文庫版には含まれていません!他の数章も割愛されています。そのために★4つにしました。
そのため今でも単行本の方を購入する価値が十分にあるのではないかと思います。こちらの方は装丁も非常に美しく、愛蔵できます。
しかし。中でもとりわけ衝撃の大きかった第七章「浄のセクソロジー」がこの文庫版には含まれていません!他の数章も割愛されています。そのために★4つにしました。
そのため今でも単行本の方を購入する価値が十分にあるのではないかと思います。こちらの方は装丁も非常に美しく、愛蔵できます。
2017年5月6日に日本でレビュー済み
文庫版には重要な章である「渚のセクソロジー」がなくなっている。ハードコピーは5点評価。
2015年6月20日に日本でレビュー済み
熊楠が伝えたかったことを、ストレートに表現してあると思う。熊楠独特の物語的話の飛び火仕方に、常人は付いて行かれず(リニアに乗ったかと思うと鈍行列車に飛び込みで乗り換え、みたいな?)、まさにタイムワープ的思考の順路を博物館に展示し直して、分かり易く誰にでも理解できるようにしてくれている、そんな"館長中沢新一"ではないかな。。。
(熊楠コレクションの解題部分を集めたものとは知らず、先にこちらを読破したが)、"予習"できたお陰か、熊楠の実際の文章もスンナリと頭に入ってきて、そこらのエッセイよか何百倍も面白く感じられた!少なくともわたしには。
いちばん感動したのは、日本人は古来"森の宗教"を源としている民族である、ということ。
いろんな意見があるとは思うが、中沢新一氏は、この日本を土台に、いや日本民族を土台にして、宇宙的スペクタルで自由自在にダンスする(私たちを躍らせてしまう⁉︎)、思想界の魔術師かもしれない。
なめらかな流体の文章に身をまかせると気持ち良く(心の感じるままに)、しかしその深淵たる含められている意味を知ろうとすると地球の重力の重さに、あぜんとしてしまうが。
(様々な著作を多種多様に読む中で気づいたら自然と理解していた、ぐらいの方がかえってよくわかるのかもしれない。)
(熊楠コレクションの解題部分を集めたものとは知らず、先にこちらを読破したが)、"予習"できたお陰か、熊楠の実際の文章もスンナリと頭に入ってきて、そこらのエッセイよか何百倍も面白く感じられた!少なくともわたしには。
いちばん感動したのは、日本人は古来"森の宗教"を源としている民族である、ということ。
いろんな意見があるとは思うが、中沢新一氏は、この日本を土台に、いや日本民族を土台にして、宇宙的スペクタルで自由自在にダンスする(私たちを躍らせてしまう⁉︎)、思想界の魔術師かもしれない。
なめらかな流体の文章に身をまかせると気持ち良く(心の感じるままに)、しかしその深淵たる含められている意味を知ろうとすると地球の重力の重さに、あぜんとしてしまうが。
(様々な著作を多種多様に読む中で気づいたら自然と理解していた、ぐらいの方がかえってよくわかるのかもしれない。)