丸山には、フロイトの「無意識」についての考え方を、どのように掘り下げつつ変容して自説に採り入れ生かしていくかが1つの重要課題だったが、それがどう実現されているかを、『言葉・狂気・エロス』の「狂気と創造性」と『ホモ・モルタリス』(1992)の「死のコスモソフィー」に探ってみました。
…人間は言葉をもつ、その言葉からカオス(非意識、意味可能体)が生じる、そのカオスを種の本能図式は生物学的に分節できない、しかし生のエネルギーがカオスを分節(言分けて意味化)しなければ人間は生きていけない。これが<欲動>である、つまり<欲動>とは「言葉が生み出すカオスを言分けて意味化しようと欲するエネルギー」である(本書p151、「ホモ・モルタリス」p143)。
深層意識内の「自己=複数の私」(フロイトでは「人格の欲動的な極」と考えたエス)からは突き上げられ、社会の掟(ノモス=社会制度とその秩序・規範)内にあって社会の掟からは抑圧される「自我」は、物象化によって辛うじてアイディンティティを保っている「他者」である。
欲動の最初の表象=代理である<知覚記号>が抑圧されて始めて「表象の表象(写しの写し)」が次々と連鎖を作り、深層意識を構成する。この深層意識が表層意識系に上ろうとするのを妨げて閉め出すからストレスがおこる。カタルシスは、深層意識に閉じ込められた鬱積した様々な情動(外傷トラウマ体験、いじめた上司への恨みなど)を、赤ちょうちんで上司の悪口を言う・幼児期の原光景を想起する・夢をみる・病気の苦悩や生活の悲惨への不平不満の告白・他者への愛憎の告白・宗教上の罪の告白などの方法によって、意識野の上らせて、抑圧(閉め出し)への反応を除去することである。だから、カタルシス・除反応は、鬱積した情動を解放するかに見えても、実は深層意識における流動的なゲシュタルトを拘束し、表層意識に回帰させ実体視させる<物象化>のプロセスでもある。
丸山が強調するのは、深層意識の最下部まで降りて<生のエネルギー・欲動>とじかに対峙し、欲動を昇華・イメージ化する危険なしかも魅惑的な行動をとること、自ら意味創造や新しい価値基準の設定に立ちあう(親を典型とする「他者」(既成)から意味を教えられ押しつけられたその軛から脱する)ことである。…
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言葉・狂気・エロス 無意識の深みにうごめくもの (講談社学術文庫) 文庫 – 2007/10/11
丸山 圭三郎
(著)
無意識レベルの欲動と意識の存在様式を読む意味を固定させることなく激しく滑り流れる欲動のエネルギー。言葉の活動の場、狂気・エロスの発現の場から人間は何をみにまとうのか。スリリングな哲学の冒険。
- 本の長さ232ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2007/10/11
- ISBN-104061598414
- ISBN-13978-4061598416
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2007/10/11)
- 発売日 : 2007/10/11
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 232ページ
- ISBN-10 : 4061598414
- ISBN-13 : 978-4061598416
- Amazon 売れ筋ランキング: - 872,447位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2013年2月7日に日本でレビュー済み
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2013年7月29日に日本でレビュー済み
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再び手にした、丸山氏のことばの流れに、掴まれ、呑み込まれ、いま・ここに投げ出された。ソシュールとラカンを、世阿弥で結い直し、さらりとセーム豊かさを置く姿に、氏の生の往還運動を感受することができた。
2008年6月8日に日本でレビュー済み
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日本の碩学、丸山圭三郎先生の名作のひとつと言うべき書です。私は大学生の身で、同じく丸山著「ソシュール小事典」及び「ソシュールの思想」にて、ソシュール及び丸山理論に触れ始めたばかりの初心者ですが、この書はそれらの著作を抜きにしても非常にわかりやすいです。途中ハイデッガーやメルロ=ポンティなどの名だたる学者の思想をそらんじる箇所があり、最初はその碩学ぶりに辟易するかもしれませんが、その点に関してはそれを恐れなければ問題なく読み進めることができ、ある程度知識が集まってくれば、なおのこと彼の言わんとしていることが深みを帯びてきます。
この書は一読の価値ある理解できる書です。日本にもこのような大人物がいた、と誇りに思えるのですが、私の知りうる範囲においてはなぜか彼は誤解の的にされがちと聞き及びます。メルロ=ポンティのサルトル批判ではありませんが、それはみな、何かと難しいことを言っているというような先入観から彼の書をきちんと読みこんでいないだけではないでしょうか。「言葉と無意識」とセットで読み、フランスの他の現代思想家の著作(バタイユやフーコーなど)を読んだことのある人からすれば、さまざまな接点が見出せて非常に面白いと思います。
この書は一読の価値ある理解できる書です。日本にもこのような大人物がいた、と誇りに思えるのですが、私の知りうる範囲においてはなぜか彼は誤解の的にされがちと聞き及びます。メルロ=ポンティのサルトル批判ではありませんが、それはみな、何かと難しいことを言っているというような先入観から彼の書をきちんと読みこんでいないだけではないでしょうか。「言葉と無意識」とセットで読み、フランスの他の現代思想家の著作(バタイユやフーコーなど)を読んだことのある人からすれば、さまざまな接点が見出せて非常に面白いと思います。
2017年12月26日に日本でレビュー済み
日本が誇るソシュール研究家による丸山啓三郎の思想書。新書だけに分かりやすくまとめられていて、とても面白い。ソシュールに影響を受けながらも独自に自らの思想を展開していくところに非常に好感がモテる。
2004年7月8日に日本でレビュー済み
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今となってはやや古いが、丸山思想の核心に触れることができる。現実に絡めとられるのではなく、また無意識の世界に潜む欲動のカオスに耽溺するのでもなく、思考の永続的な円環運動の中に真の創造性を見出そうとする丸山の論考は今もって説得力に満ちたものだ。カオスのマグマが時代の転換期に噴出するというのなら、今こそはそのような時代であるはずだ。「言分けられた」秩序は弛緩し、その裂け目から充溢した生の欲望があふれだす。それはエロスそのものなのだ。しかし、このような時代に「純文学」が衰退しているのは皮肉という他ない。
新書だけあって読みやすく、簡潔にうまくまとまっている。
新書だけあって読みやすく、簡潔にうまくまとまっている。
2022年12月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ソシュール研究の第一人者だった方の著書。30年前か。当時としては衝撃的な感じのないようだと思うのだが、時流に合った内容にしているためにどうしても古さというか時代感覚のずれを大きく感じざるを得ない。ちょっと残念。
おそらくソシュールから入ってこれを読まれた方は唸るような今に活きたものを感じられるのだろうけど、門外漢から来た自分は多分この良さがわかっていないのじゃないかと思う。書かれた当時を思い浮かべながら読むとわからんでもないのだけど。
気になったところをピックアップ。
”人種差別、民族差別、性差別にその典型を見る表層文化の〈差別〉とは、ヒトという種の多様な質的差異のダイナミックスが、無根拠な構造的同一性と差異の枠に括られて物化した形態のことである。”
”私たちが消費している物は、必ずしも食品・衣服といった有用品とは限らず、むしろ無形の〈気分〉である場合が少なくない。”
うわ。なんかわかる。買う物は〈気分〉という記号。
ソシュールを知らなくても知的興味で読むことも出来る。自分はソシュール読んでからの方がよかったかなと感じた。シニフィアンとシニフィエの感じをちゃんとわかるにはその方がいいかなと。
おそらくソシュールから入ってこれを読まれた方は唸るような今に活きたものを感じられるのだろうけど、門外漢から来た自分は多分この良さがわかっていないのじゃないかと思う。書かれた当時を思い浮かべながら読むとわからんでもないのだけど。
気になったところをピックアップ。
”人種差別、民族差別、性差別にその典型を見る表層文化の〈差別〉とは、ヒトという種の多様な質的差異のダイナミックスが、無根拠な構造的同一性と差異の枠に括られて物化した形態のことである。”
”私たちが消費している物は、必ずしも食品・衣服といった有用品とは限らず、むしろ無形の〈気分〉である場合が少なくない。”
うわ。なんかわかる。買う物は〈気分〉という記号。
ソシュールを知らなくても知的興味で読むことも出来る。自分はソシュール読んでからの方がよかったかなと感じた。シニフィアンとシニフィエの感じをちゃんとわかるにはその方がいいかなと。
2022年6月15日に日本でレビュー済み
本書は<前-歴史継承からの記号・言語至上主義>からによる特定共時的な文化、
——「ロゴス・イデール的土俵の世界」へのシーニュ指向対象化による
シーニュの二重性・不可分離性<空性 nullitē、vacuitē>の分節化・形相化からの現象——
といった逆ダーウィニズム的ペシミズムやユートピア指向オプティミズム、
<昇華/排除><カタルシス/抑圧>の円環に陥ってしまう体系 systēmeを解説しながら、
無意識下<sous ensemble>での連鎖-鎖論 chaīnonとしての、
記号の連合/連辞関係(メタファー・メトミニー/ディスクール)の仕組みの解体と、
<現前の記号学>「ロゴス・イデール的土俵の世界」の解体をはかっていく。
------------------------------------------------------------------------------------
プロローグ――始原(アルケー)も終極(テロス)もなく
第1章 「イカ天」とペレストロイカ
第2章 文化という記号
第3章 意識と無意識
第4章 深層の言葉と言語芸術
第5章 狂気の言葉
第6章 エロ・グロ・ナンセンス讃
第7章 虚構の美と生活世界
------------------------------------------------------------------------------------
(<身分け構造>)
・浴動 pulsion
・動物にはカオスもエスも自我もないのである。(210)
・本能的構造図式(身分け/両義・共起的)
(感覚・運動のアプリオリに応じて外界から切り取られる環境)
(<言分け構造>)
・欲求 besion/欲望 desir
・「ランガージュ活動における外界の分節が、世界のカテゴリー化に先立つ」
・「世界の出現そのもののことであって、その出現の可能性の条件ではない」(メルロ=ポンティ)
(視点 point de vue)
・「まず在るものは視点だけあって、事物は二次的に創られる」(ソシュール断章)
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(記号学_シーニュ/二重性・不可分離性/<空性 nullite、vacuitē>)
・<前-言分け/ニヒリズム/否定-記号/否-文化>
・メルロ=ポンティ、Rバルト、ヴァレリー、ラカン
・ニーチェ、Gバタイユ、ドストエフスキー的哲学
・<否-記号・言語化<識>/絶対無分節/カオスとしての空>
・東洋哲学的/唯ランガージュ諭/中論/インド大乗仏教/フンボルト
・自分の巣を作る分泌物の中で自分自身溶けていく蜘蛛」(R・バルト)
・カオスのシーニュ化(プラトン的・逆プラトン的)
・ウロボロス的円環(ニヒリズム円環/『論考』的言語制度空間/自己増殖する言語)
・「私たちが死と呼んでいるものは、私たちの死についての意識」(Gバタイユ)
・「コスモスがカオスを生み出した。自我がエスを生み出した。意識が無意識を生み出した」
・「コトバは我々の実存が自然的存在を超過している、その過剰部分である」
『知覚の現象学メルロ=ポンティ』
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(記号学_シーニュ/「ロゴス・イデール的土俵の世界」)
・<否-プラトン的記号・言語・文化/逆転プラトン的哲学/シニシズム的>
・シェイクスピア、ルネサンス的
・語の多義化/言語 langue 連辞的/キャロル的ノンセンス(蝶番が外れたシーニュ/形相)
・言語(/連辞的/パラグラム的・テクスト自己増殖/矛盾秩序化)
・<知・妄分別・言語分節化/文化記号/ノモス的次元 langue/西洋哲学的(唯言論)>
・プラトン的/ロゴス・二元論的/ポール=ロワイヤル文法的
・フロイト/デカルト/サルトル/チョムスキー
・ストア派/ダーウィニズム的・真理真偽命題的/実体論的
・<反-文化記号・ノモス的次元 langue>
・逆転-西洋哲学的/テロル現象学的/反-ダーウィニズム的
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参考図書
『文化のフェティシズム』『生命と過剰』『文化記号学の可能性』
——「ロゴス・イデール的土俵の世界」へのシーニュ指向対象化による
シーニュの二重性・不可分離性<空性 nullitē、vacuitē>の分節化・形相化からの現象——
といった逆ダーウィニズム的ペシミズムやユートピア指向オプティミズム、
<昇華/排除><カタルシス/抑圧>の円環に陥ってしまう体系 systēmeを解説しながら、
無意識下<sous ensemble>での連鎖-鎖論 chaīnonとしての、
記号の連合/連辞関係(メタファー・メトミニー/ディスクール)の仕組みの解体と、
<現前の記号学>「ロゴス・イデール的土俵の世界」の解体をはかっていく。
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プロローグ――始原(アルケー)も終極(テロス)もなく
第1章 「イカ天」とペレストロイカ
第2章 文化という記号
第3章 意識と無意識
第4章 深層の言葉と言語芸術
第5章 狂気の言葉
第6章 エロ・グロ・ナンセンス讃
第7章 虚構の美と生活世界
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(<身分け構造>)
・浴動 pulsion
・動物にはカオスもエスも自我もないのである。(210)
・本能的構造図式(身分け/両義・共起的)
(感覚・運動のアプリオリに応じて外界から切り取られる環境)
(<言分け構造>)
・欲求 besion/欲望 desir
・「ランガージュ活動における外界の分節が、世界のカテゴリー化に先立つ」
・「世界の出現そのもののことであって、その出現の可能性の条件ではない」(メルロ=ポンティ)
(視点 point de vue)
・「まず在るものは視点だけあって、事物は二次的に創られる」(ソシュール断章)
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(記号学_シーニュ/二重性・不可分離性/<空性 nullite、vacuitē>)
・<前-言分け/ニヒリズム/否定-記号/否-文化>
・メルロ=ポンティ、Rバルト、ヴァレリー、ラカン
・ニーチェ、Gバタイユ、ドストエフスキー的哲学
・<否-記号・言語化<識>/絶対無分節/カオスとしての空>
・東洋哲学的/唯ランガージュ諭/中論/インド大乗仏教/フンボルト
・自分の巣を作る分泌物の中で自分自身溶けていく蜘蛛」(R・バルト)
・カオスのシーニュ化(プラトン的・逆プラトン的)
・ウロボロス的円環(ニヒリズム円環/『論考』的言語制度空間/自己増殖する言語)
・「私たちが死と呼んでいるものは、私たちの死についての意識」(Gバタイユ)
・「コスモスがカオスを生み出した。自我がエスを生み出した。意識が無意識を生み出した」
・「コトバは我々の実存が自然的存在を超過している、その過剰部分である」
『知覚の現象学メルロ=ポンティ』
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(記号学_シーニュ/「ロゴス・イデール的土俵の世界」)
・<否-プラトン的記号・言語・文化/逆転プラトン的哲学/シニシズム的>
・シェイクスピア、ルネサンス的
・語の多義化/言語 langue 連辞的/キャロル的ノンセンス(蝶番が外れたシーニュ/形相)
・言語(/連辞的/パラグラム的・テクスト自己増殖/矛盾秩序化)
・<知・妄分別・言語分節化/文化記号/ノモス的次元 langue/西洋哲学的(唯言論)>
・プラトン的/ロゴス・二元論的/ポール=ロワイヤル文法的
・フロイト/デカルト/サルトル/チョムスキー
・ストア派/ダーウィニズム的・真理真偽命題的/実体論的
・<反-文化記号・ノモス的次元 langue>
・逆転-西洋哲学的/テロル現象学的/反-ダーウィニズム的
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参考図書
『文化のフェティシズム』『生命と過剰』『文化記号学の可能性』