戦争小説というと、手に汗握るスリリングなものか、戦争の悲惨を描く重苦しいものを思い浮かべる人が多いだろうが、この短編集に収められた作品に描かれるのはそのどちらでもなく、不思議な感触を持っている。
表題作では最後に敵軍からの砲撃にさらされるところが描かれるが、そのような普通なら緊迫した場面でさえ、作者の語り口はあくまで淡々としたものである。他の作品ではそのような迫力シーンの直接描写を作者はあえて避けているのではないかと思う。
そのような作者のスタイルが最もよく表れているのは、一番長い『脱走兵』で、脱走兵の西田一等兵は、ともかく茫洋としていて何があってものれんに腕押しというか、その場しのぎ的な行動でふらふらと脱走を続ける。登場人物の心理も確かに書かれてはいるのだが、本当に何を考えているのかはよくわからない。即物的な書き方と言っていいのかもしれない。
最後の短い『赤い岩』だけは前半と後半、二人の視点に分けて描かれていて、他の作品とはちょっと違う感じがした。
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鶴 (講談社文芸文庫 はC 1) 文庫 – 1990/7/1
長谷川 四郎
(著)
敗戦直前、旧ソ満国境の平原にとり残された監視哨で望遠鏡を覗く一日本軍監視兵の孤独。突然の銃声と、死。虚空に飛び立つ1羽の鶴の形象の鮮かさ──苛酷な戦場の生と死を静謐な抒情の高みに昇華させ衝撃的感銘を与えた名作「鶴」「張徳義」「脱走兵」「ガラ・ブルセンツォワ」他2篇に「赤い岩」収録の全集版編成。現代戦争文学の古典的名著『鶴』。
- 本の長さ306ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日1990/7/1
- ISBN-10406196089X
- ISBN-13978-4061960893
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (1990/7/1)
- 発売日 : 1990/7/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 306ページ
- ISBN-10 : 406196089X
- ISBN-13 : 978-4061960893
- Amazon 売れ筋ランキング: - 226,728位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2016年10月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
長谷川四郎は函館に生まれ、作家の牧逸馬や洋画家の長谷川潾次郎を兄とする家庭で育ち、ドイツ文学を学び、兵隊としてシベリア抑留を経験した人でした。ソ連政権が奉じる正統マルクス主義と距離をおいていた詩人で劇作家のブレヒトを好み、その作品を翻訳紹介しています。
本書は抑留体験をもとにした代表的な短編集で、1952年8月から1954年6月にかけて『近代文学』『群像』『改造』『新潮』に掲載された7篇をまとめています。これより前に出た短編集『シベリア物語』と同じく、兵隊にとられてシベリア抑留にあう体験から素材をとっているのですが、自伝的要素はまったくありません。解説は中国文学者で評論家の上野昂志。
これらの物語はソ連が極東での戦いに参加するため国境を越える1945年前後に満州国のあった中国の東北部に住んでいた庶民に降りかかる出来事です。国籍・性別・社会的身分はまちまちですが、生活に追われ複雑な思索に慣れず、芸術や哲学への趣味もない人々です。彼、または彼女たちに関わりなく決定された国家の政策や軍の戦略やらが運命として襲いかかり、理不尽にも彼らの生活を翻弄し破壊する。そんな異様に劇的な内容を、皮肉やユーモアさえ感じさせる平静な態度、客観的な語り口で淡々と述べているので、寓話かおとぎ話のようにさえ読めます。作者の経歴を思えば、それは驚くべき事ではないでしょうか。
本書は抑留体験をもとにした代表的な短編集で、1952年8月から1954年6月にかけて『近代文学』『群像』『改造』『新潮』に掲載された7篇をまとめています。これより前に出た短編集『シベリア物語』と同じく、兵隊にとられてシベリア抑留にあう体験から素材をとっているのですが、自伝的要素はまったくありません。解説は中国文学者で評論家の上野昂志。
これらの物語はソ連が極東での戦いに参加するため国境を越える1945年前後に満州国のあった中国の東北部に住んでいた庶民に降りかかる出来事です。国籍・性別・社会的身分はまちまちですが、生活に追われ複雑な思索に慣れず、芸術や哲学への趣味もない人々です。彼、または彼女たちに関わりなく決定された国家の政策や軍の戦略やらが運命として襲いかかり、理不尽にも彼らの生活を翻弄し破壊する。そんな異様に劇的な内容を、皮肉やユーモアさえ感じさせる平静な態度、客観的な語り口で淡々と述べているので、寓話かおとぎ話のようにさえ読めます。作者の経歴を思えば、それは驚くべき事ではないでしょうか。
2005年3月10日に日本でレビュー済み
「ザルスウ・ウザーラ」の名訳に惹かれ、この本を手にした。
長谷川四郎は「戦争がなかったら小説なんてものを書くはめにはならなかっただろう」とどこかで述べていたが、戦争など描くには惜しい叙情性溢れた文章だ。
例えば大鳥がゆっくりとしかし徐々に速度をあげながら羽ばたきゆく様子や、若芽が露の重さに頭をもたげる様子など、植物や動物の名前を特定できるような描きぶり。
観察者、分析者としての能力の高さを感じさせる。
標題の「鶴」は著者の最高傑作との誉れが高いが、私は「張徳義」を推す。
背景は異なるが、主人公の無力と無念はゴーゴリの「外套」に似る。
また人種と職種が異なるだけで、ひとを牛馬並にしか扱えない当時の日本の病理を思う。
長谷川四郎は「戦争がなかったら小説なんてものを書くはめにはならなかっただろう」とどこかで述べていたが、戦争など描くには惜しい叙情性溢れた文章だ。
例えば大鳥がゆっくりとしかし徐々に速度をあげながら羽ばたきゆく様子や、若芽が露の重さに頭をもたげる様子など、植物や動物の名前を特定できるような描きぶり。
観察者、分析者としての能力の高さを感じさせる。
標題の「鶴」は著者の最高傑作との誉れが高いが、私は「張徳義」を推す。
背景は異なるが、主人公の無力と無念はゴーゴリの「外套」に似る。
また人種と職種が異なるだけで、ひとを牛馬並にしか扱えない当時の日本の病理を思う。