こういう小説を「悪達者な小説」というのか。
かなりの辛口だが、こういう評価しかできない小説集。
第一回女流文学賞を受賞した小説として、「こういう女」を紹介
してあるが、その内容は戦前に遭遇した事件(個人的には大きな
出来事だろうが)を、ただその当時の情景や事件を当時の感情を
交えつつ描いているものである。読んで何を感じるかと言えば、
ただ事件のあらましをかしこまって聴かせられたかなという
感想を持つ。「施療室にて」も同じことで、内容は確かにリアル
で辛く、読む方も心を痛める。しかしその後に何が残るのか?
その他の短編もあまり感心できなかった。
「鬼子母神」でもいきなり子どもを養育されることに混乱した
自分を描いており、この小説で何を伝えたいのかが判然としな
かった。
ただ「人の命」は、労災事故を題材に(これも彼女の実体験だろう
)、当時の労働者への心からの共感があり、興味深くかつ著者の優
しい感性を感じることができた。この短編はこの短編集の白眉。
彼女は筆が達者なのだろう。作品を読むのに苦労は入らず、
文章についつい引き込まれる。しかし、読後感は(あまりにも表現
が悪いが)「えぐみの残った筍」を噛んでいる気分。「嘲る」は特
に読後感が悪かった。彼女の経歴から、彼女の作品はほぼ実際の
体験を描いたものと推定できる。戦前戦中の共産党員やシンパに
強制された女性差別=悪名高き「ハウスキーパー制」の犠牲者の
一人とも受け取れる箇所が多々あり、彼女に全ての責任を負わせ
るのは筋違い。
これについては、平林たい子を肯定的に評価する研究者も存在す
る(岡野幸江さんの「平林たい子 -交錯する性・階級・民族-」
がおすすめか?)が、「著者の人生経験」と「著者の作品」は別
物であり、ここでは「小説として」読んだ場合に歴史に耐えうる
小説か否かを考えたい。
いわゆる「プロレタリア文学」という冠を外したときに、果た
してこれらの小説は後世に残るものであるのだろうか? 冠を外
してどう評価されるのか。
多喜二の「蟹工船」や葉山嘉樹の「淫売婦」のような「プロレタ
リア文学」もあるが、多喜二・嘉樹の二人の小説は「小説として
の質」が極めて高い。時代を超えてその描いている事実に衝撃を
受け、重苦しいながらも読後感はしばし感慨にふけることができ
る。その時代に制約された情景を描き出しているが、時代を経て
も古びない味があり、労働者や下層に生きざるを得ない人への透
徹した眼差しがある。
しかしこの平林たい子の一連の小説群はどう評価されるであろう
か。私には「プロレタリア文学まがいの私小説」でしかなく、プロ
レタリア文学としても、私小説としても失敗している、そうとし
か思えなかった。小説としての深みもなく、味わいもなく、ただ
苛烈な現実を突きつけられるだけだった。
私にはあまり向かない作家だった。
ついでに言えば、かなりこの書籍はかなり高価になっていま
す。同じ短編が、「昭和文学全集」・「筑摩現代文学大系」
等に載っていますので、そちらをお勧めします。古本屋のサ
イトででも検索してみて下さい。よく探せばかなり安価で読
めます。
一度は読んで欲しい小説ではあるので、☆を1つだけプラスし
☆は☆☆です。
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こういう女,施療室にて (講談社文芸文庫 ひF 1) 文庫 – 1996/5/1
平林 たい子
(著)
第一回女流文学賞の「こういう女」の他8篇プロレタリア作家としての地歩を固めた初期代表作「施療室にて」、敗戦後再び執筆の自由を得て戦時中の留置所暮らしを書きつづった「こういう女」の他7篇を収録
- 本の長さ309ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日1996/5/1
- ISBN-104061963708
- ISBN-13978-4061963702
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (1996/5/1)
- 発売日 : 1996/5/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 309ページ
- ISBN-10 : 4061963708
- ISBN-13 : 978-4061963702
- Amazon 売れ筋ランキング: - 958,268位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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上位レビュー、対象国: 日本
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2017年1月22日に日本でレビュー済み
この本を含めての平林たい子の短篇を読んでの感想であるが、非常に分りにくい文章を書く人である。比喩が大げさで、しかも如何でも良い部分でも比喩を使うから煩わしくて堪らない。比喩が主体となりかねないから、全体の流れにスムーズさがなくなる。しかもその比喩の殆どが暗くおぞましい。そういう比喩を使いたくなるほど暗かったのも分るが、それにしても…。読者に分り易くとかの発想はこれっぽっちも無い。御自分の頭の良さを見せつけたいのか、小難しい理屈に走るのも嫌味で堪らない。それが読者の反感を買えば何の意味も無い。とにかく不親切だから、事情の分からない読者にとっては読む事に骨が折れ、2回読んで納得とか、ある程度の当時の知識が無いと何が何だかと言う状態に陥るのである。他のプロレタリア文学に於ける女性作家の分り易さ親切さと比べると一目瞭然である。この人が持て囃されるのは納得できないが、毒のあるところが気に入る人もいるということだろう。