さほど遠くない過去に中村真一郎に開眼し、頼山陽とその時代、柿崎破響の生涯、木村蒹葭堂のサロン、死な影の下に、四部作。他に評論、エッセイ、自伝風のもの等々。実に"圧倒的"に面白かった。
そして『雲のゆき来』。中でも「性多病にして寒を憂へ、一歳の中惟だ夏月を以て快と為す。爾も書を読む毎に欣然として忘る」に目が留まった。夏だけ体調がいい。本を読んでいれば体調不良も忘れてしまう。元政上人とは江戸時代の私であった。
四部作は中村真一郎自らを光源氏とする中村源氏だと私は理解しているが、そこに通底するのは亡母桐壷の更衣を思慕する母恋物語である。それは中村真一郎にも元政上人にも楊嬢にもすべて共通する。私も妻から「アンタはマザコン」だとよく言われる。そう言われて腹が立たないどころか満更でもない気がするのが我ながら救いようがないが幼児期からの生育歴からして、仕方がない。
私は知識で小説を読まない。己の心に感動を覚え、読む前よりも心にか、精神にか、もっと大袈裟には魂にか、何か変化が起きたか、何か付け加わったかで判断する。この書をゆっくり味わいながら読んだ3日間私は幸せだった。
その点、司馬遼太郎などはただ只管面白いが読書前・読書後で自分の心に何の変化も生じない。文学と非文学との違いを明確にしている点対照的だ。
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雲のゆき来 (講談社文芸文庫 なJ 2) 文庫 – 2005/3/1
中村 真一郎
(著)
現代文学の可能性を拓く知的で詩的な冒険。十七世紀の詩僧・元政上人の事蹟を訪ねる旅が、混血の国際女優の父親の女性遍歴を追う旅と重なり、幸と不幸の感受の揺れの中から、現実と内面の真実を模索する。
- 本の長さ295ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2005/3/1
- ISBN-104061983997
- ISBN-13978-4061983991
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2005/3/1)
- 発売日 : 2005/3/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 295ページ
- ISBN-10 : 4061983997
- ISBN-13 : 978-4061983991
- Amazon 売れ筋ランキング: - 861,196位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2005年10月22日に日本でレビュー済み
本文250ページのうち,冒頭66ページまでは元政上人を中心にした江戸漢詩人に関する評論のような語り(もっとも,書かれている事柄がすべて事実かどうかまではわからない)。主人公(国際女優楊嬢)はそのあとようやく出現する。
その後,京都で主人公は語り手とともに父の過去の女性たちを順次に訪ねる。ここで明らかになる,主人公の父と彼女たちの関係の5つのパターンは,まるで通常あり得る男女の関係を5つの類型に分離したかのように見え,語り手は主人公を相手にそれを分析する。そして,この分析と冒頭の長い語りのなかの江戸漢詩人に関する叙述が照応している。(一部は,文中で類似が明らかにされている。そのほかについては,自分には対応を読み取れないものもあるがおそらくそうであろう。)
主人公と語り手は京都での短いリアルタイムの時間を進みながら,主人公は自身の過去に深くつながっており,語り手は元政上人の生涯に分析の基準をおいている。
人間関係(男女関係)の分析を論理的に,かつ洋の東西と歴史を問わず縦横に対比させながら,語り手と主人公との国際的な交流の筆をすすめていく「中村真一郎ワールド」はまさに小説の醍醐味。
その後,京都で主人公は語り手とともに父の過去の女性たちを順次に訪ねる。ここで明らかになる,主人公の父と彼女たちの関係の5つのパターンは,まるで通常あり得る男女の関係を5つの類型に分離したかのように見え,語り手は主人公を相手にそれを分析する。そして,この分析と冒頭の長い語りのなかの江戸漢詩人に関する叙述が照応している。(一部は,文中で類似が明らかにされている。そのほかについては,自分には対応を読み取れないものもあるがおそらくそうであろう。)
主人公と語り手は京都での短いリアルタイムの時間を進みながら,主人公は自身の過去に深くつながっており,語り手は元政上人の生涯に分析の基準をおいている。
人間関係(男女関係)の分析を論理的に,かつ洋の東西と歴史を問わず縦横に対比させながら,語り手と主人公との国際的な交流の筆をすすめていく「中村真一郎ワールド」はまさに小説の醍醐味。