鳥、香水、フェリー、薔薇…など、少しずつ、いろいろなものが消失していく島。ものは「消失」し、人々はそれを持っていたら捨てたり燃やしたり川に流したりし、次第に記憶からも消えていく。しかし時々、記憶を持ったままの人たちもいて、その人達は秘密警察に連れ去られてしまう。
小説家である「わたし」の担当であるR氏は記憶保持者。「わたし」と「おじいさん」は、R氏を隠し部屋に匿うことになる。
ものが消失していくことへの不安、暗く長い冬。食料も日用品も不足がちな閉鎖された島。威圧的で恐ろしい秘密警察。全体的に暗いトーンなのだけれど、主人公やおじいさん、R氏とのやり取りは明るく、心がこもっていて、希望が持てた。あまりにも不思議な設定なので「これは誰かの脳内世界なのか」と思っていたけれど、そういうオチではなく、謎は謎のまま結末を迎える。
描写がていねいで、また迫力があった。作中小説の、タイプライターの話もとても意味深だった。
なにかとても象徴的な、不思議な雰囲気をまとった小説だった。
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密やかな結晶 単行本 – 1994/1/1
小川 洋子
(著)
冷たく美しい傑作
芥川賞作家の小川洋子による初めての本格的な書下ろし長篇小説の誕生!有機物であることの人間の哀しみを澄明なまなざしで見つめ、現代の完璧な消滅・気化への希みを、美しく危険なシチュエイションの展開の中で描く注目の傑作長篇!
芥川賞作家の小川洋子による初めての本格的な書下ろし長篇小説の誕生!有機物であることの人間の哀しみを澄明なまなざしで見つめ、現代の完璧な消滅・気化への希みを、美しく危険なシチュエイションの展開の中で描く注目の傑作長篇!
- 本の長さ411ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日1994/1/1
- ISBN-10406205843X
- ISBN-13978-4062058438
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
芥川賞作家である著者の初めての本格的な書下ろし長篇小説。有機物であることの人間の哀しみを澄明なまなざしで見つめ、現代の完璧な消滅・気化への希みを、美しく危険なシチュエイションの展開の中で描く。
著者について
1962年3月30日、岡山市に生まれる。早稲田大学文学部卒。1988年、「海燕新人賞」を受賞。その後、『妊娠カレンダー』(文春文庫)により芥川賞受賞。主要著書に、『完璧な病室』『冷めない紅茶』『余白の愛』(ともに福武文庫)、『シュガータイム』(中央公論社刊)『アンジェリーナ』(角川書店)等がある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (1994/1/1)
- 発売日 : 1994/1/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 411ページ
- ISBN-10 : 406205843X
- ISBN-13 : 978-4062058438
- Amazon 売れ筋ランキング: - 513,914位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 12,022位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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![小川 洋子](https://m.media-amazon.com/images/I/3177noAes2L._SY600_.jpg)
1962(昭和37)年、岡山県生れ。早稲田大学第一文学部卒。
1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。1991(平成3)年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。主な著書に『やさしい訴え』『ホテル・アイリス』『沈黙博物館』『アンネ・フランクの記憶』『薬指の標本』『夜明けの縁をさ迷う人々』『猫を抱いて象と泳ぐ』等。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞を受賞。『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞受賞。翻訳された作品も多く、海外での評価も高い。
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2022年5月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2022年5月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自分なりに考察すると…(幻想的な物語を、考察するのも野暮かもしれないけど、腑に落ちたかったので理論的に考えました)
↓ネタバレしてるので見たくない方飛ばしてください↓
秘密警察側は、本当は消失していないけどそう思わせる電磁波かなにかを放出しているのではないだろうか。そういう電磁波が効かない人間が一部存在するのだろう……消失の行われない人間
連行された人たちは特権階級として扱われているのかもしれない。(母親を迎えにきた車の豪華さ、いぬい先生に約束された環境などから推測)
秘密警察たちが消失の行われない側の人間ということは、主人公に出されたものがおそらく消失したはずのコーヒーらしき描写があるため確実だ。
主人公の記載した個人情報を見て、母親が消失の行われない人間と知ったため、反応を試したのだろう。
また、連行の際に子供や配偶者など家族全員で連れていかれる描写がある(いぬいさんの例から家族の生活も保証されている)のは
主人公の母親がひとりで連行された際、死を選んだため、家族も連れて行くように制度が変わったのではないかと推測する。
物語終盤、激しくなっていく記憶刈りと消失で、人種選別は終わったので、全てを消した(消す暗示)をかけたのだろう。
部屋を出たR氏は春の訪れた世界で、拍手で迎えられているかもしれない。
ひょっとしたら彼の子供はR氏と同じように消失しない側の人間であり、妻は失ってしまったかもしれないが、子供は消失しておらず今後ふたりで生きていけるかもしれない。
「島」は大きな実験施設か、収容所なのか。気象も操作できる(季節の停止、人工地震、人工津波)
それならば、連行された者たちは、特権階級などではなく、単に普通の暮らしに戻るだけだが、島から見れば至れり尽くせりの豊かな暮らしではあるだろう。
R氏はきっと島の外に出て、世界の真実を知っていく。主人公の母は真実を知ったが、外で暮らすのを拒み、家族やこれまで暮らしてきた世界に寄り添うことを選んだ。
電磁波の効かない人間でありながら、効いてしまう主人公たちと居ることを選んだ。
主人公やおじいさんには、そんな選択すらできない。ただ受け入れるだけ。羊。奴隷のように。人種選別される側の存在だから。
あまり考えたくはないが、島は「日本」の比喩なのかもしれない。はたしてすべてを粛々と受け入れていく側の人間でいいのだろうか?
また、自分の考察だと、善と悪が反転してることになる……連行=家族みんなで実験施設から出られる……から、主人公が良かれと思ってR氏を隔離したが、しないほうが奥さん子供と家族揃って幸せな人生を送れたということになる。
選択も消失もできない主人公の、そんな主人公なりに抱いた、切ない願いや想いを感じる。
完全に自分の考察だが↑こういったテーマを感じさせる話を美しく幻想的に書き上げられる能力が、素晴らしすぎます。
↓ネタバレしてるので見たくない方飛ばしてください↓
秘密警察側は、本当は消失していないけどそう思わせる電磁波かなにかを放出しているのではないだろうか。そういう電磁波が効かない人間が一部存在するのだろう……消失の行われない人間
連行された人たちは特権階級として扱われているのかもしれない。(母親を迎えにきた車の豪華さ、いぬい先生に約束された環境などから推測)
秘密警察たちが消失の行われない側の人間ということは、主人公に出されたものがおそらく消失したはずのコーヒーらしき描写があるため確実だ。
主人公の記載した個人情報を見て、母親が消失の行われない人間と知ったため、反応を試したのだろう。
また、連行の際に子供や配偶者など家族全員で連れていかれる描写がある(いぬいさんの例から家族の生活も保証されている)のは
主人公の母親がひとりで連行された際、死を選んだため、家族も連れて行くように制度が変わったのではないかと推測する。
物語終盤、激しくなっていく記憶刈りと消失で、人種選別は終わったので、全てを消した(消す暗示)をかけたのだろう。
部屋を出たR氏は春の訪れた世界で、拍手で迎えられているかもしれない。
ひょっとしたら彼の子供はR氏と同じように消失しない側の人間であり、妻は失ってしまったかもしれないが、子供は消失しておらず今後ふたりで生きていけるかもしれない。
「島」は大きな実験施設か、収容所なのか。気象も操作できる(季節の停止、人工地震、人工津波)
それならば、連行された者たちは、特権階級などではなく、単に普通の暮らしに戻るだけだが、島から見れば至れり尽くせりの豊かな暮らしではあるだろう。
R氏はきっと島の外に出て、世界の真実を知っていく。主人公の母は真実を知ったが、外で暮らすのを拒み、家族やこれまで暮らしてきた世界に寄り添うことを選んだ。
電磁波の効かない人間でありながら、効いてしまう主人公たちと居ることを選んだ。
主人公やおじいさんには、そんな選択すらできない。ただ受け入れるだけ。羊。奴隷のように。人種選別される側の存在だから。
あまり考えたくはないが、島は「日本」の比喩なのかもしれない。はたしてすべてを粛々と受け入れていく側の人間でいいのだろうか?
また、自分の考察だと、善と悪が反転してることになる……連行=家族みんなで実験施設から出られる……から、主人公が良かれと思ってR氏を隔離したが、しないほうが奥さん子供と家族揃って幸せな人生を送れたということになる。
選択も消失もできない主人公の、そんな主人公なりに抱いた、切ない願いや想いを感じる。
完全に自分の考察だが↑こういったテーマを感じさせる話を美しく幻想的に書き上げられる能力が、素晴らしすぎます。
2020年7月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本で1990年代に書かれてから四半世紀を経て登場した小川洋子の「密やかな結晶」の英訳本。
ノーベル文学賞への登竜門という噂のあるマン・ブッカー賞の最終候補に残ったという作品です。
英訳の題名は「The Memory Police」
たしかに、物語は秘密警察が島で人々の記憶の消滅に関わっているのですがあまりにも捻りがない。
「密やかな結晶」の方が、何か深遠な意味が置かれているようで素敵に感じるのですが。。
物語は、空想的な島で社会の集団的認識が概念ごと一つ一つ消滅していき、それに伴い不随している記憶も同時に消滅するということがおきていきます。
登場人物には名前が記されていません。作家である主人公「わたし」と編集者「R氏」と「おじいさん」の三人で物語は回っています。
記憶警察から逃れるための狭い秘密の部屋での出来事が、物語の重要な意味を抱え込んでいるのです。
(これは小川洋子の作家になることになった原点が「アンネの日記」にあるという事と関連しているそうです)
個人的なインスピレーションではありますが、「結晶」というのは大事な記憶が昇華した標本のようなものではないかと考えました。
簡単には消失させたくない、密やかに大事にとり置かれた純粋な結晶という意味です。
この物語の中の概念の消失というのは、いろいろな比喩に置き換えることが可能です。
この物語から読み取るべきアレゴリーは、現代の社会兆候からの視点で考えると、情報操作による歪んだ世界の俯瞰的な眺めではなく、そのもっと先にある概念自体が忘れ去られていく世界の物語かも知れないということ。(恐ろしい未来ですが)
実際的な話に戻すと、人はすでに失ったものには、案外気づいていないのではないかと。
生きている時は人の感情は定まったものではなく、生きていく中で様々に変化したりしていくものですが、その人が閉じてしまうとそれは定まった(確定した)概念として記憶されています。
ただこの物語の島の人々は記憶自体が消されてしまうので、喪失した後の日常を、肯定はしないまでもそのまま受け止めて生活をしています。
ある意味これは非常に恐ろしいことではあります。
昨今のフェイクニュースに始まる個人の価値観のすり替えが、疑似認知への巧みな操作によって容易にすり替えることが可能になりつつある時代に、英語圏の批評家達にはたまらなく魅力的に映ったのではないかと考えました。
カテゴリ化すれば村上春樹の、比喩に中に展開する物語と同じ感触。
読み手の中に物語の膨らみを与えるという手法でも。
その物語の中に読者を引きずり込む文章の力量はさすがです。
ただ、村上春樹の作品と一つ違うところは、あまりにも静かに丁寧に物語が描かれていて、料理の中の香辛料にあたるちょっとした微妙な違和感がないと言う事です。
喉の中を通り過ぎる時のゴツゴツ感というか。
しかし、小川洋子のファンにとっては逆に、そういう部分が大切な魅力となっているのでしょうが。
追加。
主人公の書いていた小説の中で登場する失語症の「わたし」は、物語とパラレルに動いていきますが、その自由を奪われた「わたし」と主人公である消滅していく「わたし」は最後に見事なまでに同質化して物語に深みを与えています。
不思議な余韻が深く持続していく小説。
「博士の愛した数式」と同じ「記憶」に関連しているようですが、こちらの物語の方は普遍的で大きなテーマを示しています。
ノーベル文学賞への登竜門という噂のあるマン・ブッカー賞の最終候補に残ったという作品です。
英訳の題名は「The Memory Police」
たしかに、物語は秘密警察が島で人々の記憶の消滅に関わっているのですがあまりにも捻りがない。
「密やかな結晶」の方が、何か深遠な意味が置かれているようで素敵に感じるのですが。。
物語は、空想的な島で社会の集団的認識が概念ごと一つ一つ消滅していき、それに伴い不随している記憶も同時に消滅するということがおきていきます。
登場人物には名前が記されていません。作家である主人公「わたし」と編集者「R氏」と「おじいさん」の三人で物語は回っています。
記憶警察から逃れるための狭い秘密の部屋での出来事が、物語の重要な意味を抱え込んでいるのです。
(これは小川洋子の作家になることになった原点が「アンネの日記」にあるという事と関連しているそうです)
個人的なインスピレーションではありますが、「結晶」というのは大事な記憶が昇華した標本のようなものではないかと考えました。
簡単には消失させたくない、密やかに大事にとり置かれた純粋な結晶という意味です。
この物語の中の概念の消失というのは、いろいろな比喩に置き換えることが可能です。
この物語から読み取るべきアレゴリーは、現代の社会兆候からの視点で考えると、情報操作による歪んだ世界の俯瞰的な眺めではなく、そのもっと先にある概念自体が忘れ去られていく世界の物語かも知れないということ。(恐ろしい未来ですが)
実際的な話に戻すと、人はすでに失ったものには、案外気づいていないのではないかと。
生きている時は人の感情は定まったものではなく、生きていく中で様々に変化したりしていくものですが、その人が閉じてしまうとそれは定まった(確定した)概念として記憶されています。
ただこの物語の島の人々は記憶自体が消されてしまうので、喪失した後の日常を、肯定はしないまでもそのまま受け止めて生活をしています。
ある意味これは非常に恐ろしいことではあります。
昨今のフェイクニュースに始まる個人の価値観のすり替えが、疑似認知への巧みな操作によって容易にすり替えることが可能になりつつある時代に、英語圏の批評家達にはたまらなく魅力的に映ったのではないかと考えました。
カテゴリ化すれば村上春樹の、比喩に中に展開する物語と同じ感触。
読み手の中に物語の膨らみを与えるという手法でも。
その物語の中に読者を引きずり込む文章の力量はさすがです。
ただ、村上春樹の作品と一つ違うところは、あまりにも静かに丁寧に物語が描かれていて、料理の中の香辛料にあたるちょっとした微妙な違和感がないと言う事です。
喉の中を通り過ぎる時のゴツゴツ感というか。
しかし、小川洋子のファンにとっては逆に、そういう部分が大切な魅力となっているのでしょうが。
追加。
主人公の書いていた小説の中で登場する失語症の「わたし」は、物語とパラレルに動いていきますが、その自由を奪われた「わたし」と主人公である消滅していく「わたし」は最後に見事なまでに同質化して物語に深みを与えています。
不思議な余韻が深く持続していく小説。
「博士の愛した数式」と同じ「記憶」に関連しているようですが、こちらの物語の方は普遍的で大きなテーマを示しています。
2024年1月1日に日本でレビュー済み
私の中ではまさしく小説が消滅しているのかもしれないです。
美しい文章だと思うのですが、無味無臭の鉱物でも噛んでいるような感じで、最後まで憂鬱でした。
おじいさんの存在だけが救いでした。
美しい文章だと思うのですが、無味無臭の鉱物でも噛んでいるような感じで、最後まで憂鬱でした。
おじいさんの存在だけが救いでした。
2020年9月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ある島(恐らく、日本のメタファー)で、秘密警察のために、人々にとって大事で素敵なモノ及びその記憶が次々と消滅してしまう近未来の監視社会の恐怖を透明感溢れる筆致で描いた傑作。一人称のヒロインの職業は作者を反映してか小説家。勿論、ヒロインにとって消滅して困るのは言葉。ヒロインの(連行された)彫刻家の母親を筆頭に、人々の中には記憶を保持する者も居るが、そうした人物は秘密警察の記憶狩りに遭うという設定。
冒頭を読み、直感的に、題名の「密やかな結晶」とはヒロインが書いた本作そのものだと思った。何しろ島には小説以外に新しく結実するものはないのだから。小説家としての矜持という雰囲気も感じた。そして、ヒロインの編集者Rが記憶保持者である事が判明し、ヒロインは秘密裡に自宅をRの隠れ家として提供する。Rは記憶の変遷や余韻を語る。ヒロイン(とR)の世話をする"おじいさん"も記憶の強靭さを語る。ヒロインの作中作のヒロインが声を失うのも意味深。そして、とうとうカレンダーも春も消滅し、島人は雪に閉ざされる。"おじいさん"の誕生日、乏しい食材の中、3人でささやかながらも楽しいパーティを行なっていた(Rは消滅した筈のオルゴールをプレゼントとして用意いていた)時、秘密警察が踏み込んで来て、一変した雰囲気にヒロインが号泣してしまう切なさ。そして、とうとう小説も消滅するが、Rは小説を書き続ける事を薦める。ここは作家としての作者の真剣勝負である。最初は何も書けなかったが、母親の彫刻の中に消滅した筈のモノを発見して隠れ家に消滅した筈のモノが溜まって来た上に、"おじいさん"の死(切な過ぎる)という悲しい出来事のショックが記憶に深く刻まれ、次第に簡単な文章を綴れる様になる。
遂には、左足、右腕と体の一部も消え始め、全身が消滅する事が明らかになる。例え全身が消滅しようとも「物語の記憶は消えない」というメッセージが響くラストである。
冒頭を読み、直感的に、題名の「密やかな結晶」とはヒロインが書いた本作そのものだと思った。何しろ島には小説以外に新しく結実するものはないのだから。小説家としての矜持という雰囲気も感じた。そして、ヒロインの編集者Rが記憶保持者である事が判明し、ヒロインは秘密裡に自宅をRの隠れ家として提供する。Rは記憶の変遷や余韻を語る。ヒロイン(とR)の世話をする"おじいさん"も記憶の強靭さを語る。ヒロインの作中作のヒロインが声を失うのも意味深。そして、とうとうカレンダーも春も消滅し、島人は雪に閉ざされる。"おじいさん"の誕生日、乏しい食材の中、3人でささやかながらも楽しいパーティを行なっていた(Rは消滅した筈のオルゴールをプレゼントとして用意いていた)時、秘密警察が踏み込んで来て、一変した雰囲気にヒロインが号泣してしまう切なさ。そして、とうとう小説も消滅するが、Rは小説を書き続ける事を薦める。ここは作家としての作者の真剣勝負である。最初は何も書けなかったが、母親の彫刻の中に消滅した筈のモノを発見して隠れ家に消滅した筈のモノが溜まって来た上に、"おじいさん"の死(切な過ぎる)という悲しい出来事のショックが記憶に深く刻まれ、次第に簡単な文章を綴れる様になる。
遂には、左足、右腕と体の一部も消え始め、全身が消滅する事が明らかになる。例え全身が消滅しようとも「物語の記憶は消えない」というメッセージが響くラストである。
2021年10月20日に日本でレビュー済み
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日本人作家がブッカー賞候補に…とか、全米図書館賞の対象に…(だったかな)、とかなにかと話題だったので読んでみました。kindleUnlimited対象だし。
秘密警察に、食料が足りない状況…と、日本の戦時中みたいな状況ですが、不思議とどこか遠くの国、ヨーロッパとかの話を聞いているような感覚。
誰が、どのように決めているのかは描かれないけど、日々、住んでいる島で何かが「消滅」していく。
そして、島の人々は、素直に、関連の物を焼却して跡形もなくなるようにする。秘密警察も監視している。人々の記憶からも失われていき、何だったか思い出せなくなる…。
そんななか、記憶が失われない人々がおり、それを匿う人々がおり、秘密警察の強制捜査や連行、検問対象となる。
小説の主人公は、女性の小説家であり、両親はそれぞれ消滅と関わりつつも他界しており、子供の頃から家族ぐるみで親しい「おじいさん」と共に、好意を抱いてる担当編集者R氏を自宅で匿うことに…。
作中の小説の原稿と、物語の終わりは不思議な符丁で同じような流れであり(いや、作者の意図なんだろうけど)、そういう終わり方なんだ~、と。
淡々と事態が進んでいくようにも見えるけれど(人々が唯々諾々と消滅の後始末に荷担したり)、実は秘密警察やいろいろな社会的な装置によって、その事が作りだされていたのかな、とか、この感想を書きながら思ったり。
解説に出てきたが、タイトルへの質問に作者は「誰でも心のなかに密やかな結晶を持っている」と。
ぼんやり生きてると意識することのないそれを、消滅、なくなっていくという危機の前で、より鮮明に意識するのかもしれない。
秘密警察に、食料が足りない状況…と、日本の戦時中みたいな状況ですが、不思議とどこか遠くの国、ヨーロッパとかの話を聞いているような感覚。
誰が、どのように決めているのかは描かれないけど、日々、住んでいる島で何かが「消滅」していく。
そして、島の人々は、素直に、関連の物を焼却して跡形もなくなるようにする。秘密警察も監視している。人々の記憶からも失われていき、何だったか思い出せなくなる…。
そんななか、記憶が失われない人々がおり、それを匿う人々がおり、秘密警察の強制捜査や連行、検問対象となる。
小説の主人公は、女性の小説家であり、両親はそれぞれ消滅と関わりつつも他界しており、子供の頃から家族ぐるみで親しい「おじいさん」と共に、好意を抱いてる担当編集者R氏を自宅で匿うことに…。
作中の小説の原稿と、物語の終わりは不思議な符丁で同じような流れであり(いや、作者の意図なんだろうけど)、そういう終わり方なんだ~、と。
淡々と事態が進んでいくようにも見えるけれど(人々が唯々諾々と消滅の後始末に荷担したり)、実は秘密警察やいろいろな社会的な装置によって、その事が作りだされていたのかな、とか、この感想を書きながら思ったり。
解説に出てきたが、タイトルへの質問に作者は「誰でも心のなかに密やかな結晶を持っている」と。
ぼんやり生きてると意識することのないそれを、消滅、なくなっていくという危機の前で、より鮮明に意識するのかもしれない。