著者はTBSで『岸部のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』など一貫してドラマに取り組んできた看板演出家であった。『私説放送史』と銘打ってあるが、テレビ創世記から放送の現場に身を置いた自らの体験や数多くのインタビュー、そして資料に裏打ちされており、ラジオからはじまる日本の放送史の概観がつかめる良書である。
本書は強大な力を持つに至った地上波テレビの経緯がよく描かれている。特に興味深いのは戦後の電波行政事情で、日本初の民間テレビ局である日本テレビ開局に向けての免許争奪戦は敗戦国日本と戦勝国アメリカとの思惑が剥き出しになっており、権力における放送メディアの位置づけがよくわかる。
また、日本の民放の特殊性は世界でも珍しい新聞主導で行われたことにあり、新聞業界の構図がそのまま放送に持ち込まれたという指摘も興味深い。確かに日本の放送局にはアメリカのように映画、電機メーカー資本など新聞系以外の異業種は参入していない。
「20世紀でもっともおいしかった免許は放送免許だ」ということがしばしば言われるが、本書によれば日本初の民間ラジオ局であるCBC(中部日本放送)は1951年に開局したが、わずか3ヶ月で黒字になったという。
また、同じく1951年に開局したラジオ東京(TBSラジオ)も開局直後にはスポンサーの申込みが殺到し、初年度から株主に年1割配当が可能になった。1953年開局の日本テレビもプロレス中継の爆発的人気もあり、半年後には経常的に黒字を出せるようになっていた。スピードが命とされるIT系メディアにしてもこれほど早く黒字に転化する業種はない。
報道や表現の自由を謳う放送局であるが、TBSの社長であった今道潤三は1976年に会長職を去る時に次のような言葉に残している。
「・・・放送という強い力を文化の方向に向けようとしたがその夢は全く実現せず、理想とちがった道を走ってしまった。もちろん経済的には貢献し得たと思うが、精神文化の面で成功をおさめたといえないことが残念だ」
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
私説放送史 「巨大メディア」の礎を築いた人と熱情 単行本 – 2007/1/19
大山 勝美
(編集)
ラジオ・テレビの放送開始と黎明期の群像!ラジオ実験放送、玉音放送、GHQ管理下での放送、テレビ開局など、自分の体験を盛り込みながら、豊富な資料を駆使して放送初期に生きてきた人たちを描く力作。
- 本の長さ336ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2007/1/19
- ISBN-104062138085
- ISBN-13978-4062138086
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2007/1/19)
- 発売日 : 2007/1/19
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 336ページ
- ISBN-10 : 4062138085
- ISBN-13 : 978-4062138086
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,410,126位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 257位放送マスメディア
- - 123,204位ビジネス・経済 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4つ
5つのうち4つ
1グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。