人は大なり小なり固有のデータベースを自らの頭のなかにつくって生きているものだと思うけれど、
それらの情報の連なりに意外な方向から光をあたえてくれるのが、円堂都司昭『エンタメ小説進化論
“今”が読める作品案内』の大きな効用のひとつだ。
本書は、同時代において書かれたエンタテインメント小説作品に現代社会におけるあれこれとの
地続きの関係を読みとる試みを行った評論集である。
この著作が大胆なのは、編集者がお題を提示していること。組み合わせが論者発ではないところに、
大いに興味をそそられる。
ツイッターや電子書籍を「ガジェット」、AKB48を「アイコン」といった風にカテゴライズし、
おのおのに対し(基本的に)二作品の小説を俎上にあげ(させられて)、相関関係を読み解いていく。
たとえば東京スカイツリーと道尾秀介の小説が結びつけたりしてしまうのだからおもしろい。
別種の着想から生まれたはずの作品に――作り手の意識、無意識は関係なしに――同一の発想の源が
想像できること。ある意味でのアクロバット的な思考の飛躍が本書のスリルの要因となっている。
伊坂幸太郎や舞城王太郎の作品をグーグル的な「情報の把握と整理」の文脈で解体するような
スマートな論調もさることながら、時代を象徴するポップアイコンAKB48とグロテスクな小説の書き手である
飴村行作品を“絆”をキーワードに同列に論じる剛腕がまた愉快。
遠藤利明名義による音楽についての原稿によくあらわれているのだけれど、この人の批評は作り手
(ミュージシャン)の感情だけに寄りかからない。独りよがりの論をぶつのではなく、読み手に
わかりやすく根拠を示し、僕たちの目線に近いところから語ってくれる印象を受ける。
だから、今回のように社会の事象や小説をネタにした一見無理があるような組み合わせの“企画”であっても、
なるほどとうなずけるように出来上がっている。
真摯な論者が創作物に同時代性を浮かび上がらせるさまは刺激的であるし、小説作品への認識に深みが
増すのと同じくらい、自分が生活している社会に一味違った意味を感じることもできる。
世界に対する愛おしさが増すといってもいいかもしれない。
現代のエンタテインメントを楽しむ水先案内役としてだけでなく、情報に囲まれた社会を遊歩するうえでも
有効な視座を与えてくれる好著だ。
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エンタメ小説進化論 “今”が読める作品案内 単行本 – 2013/1/24
円堂 都司昭
(著)
相関する物語(エンタメ)と現実(リアル)社会現象(ムーブメント)×注目作家×人気作=(?)絡めて、論じて、新時代を見据える、ぼくらの最先端エンタメ地図!
2000年代以降にデビューした作家、あるいはブレイクした作品と、社会のムーブメントを絡めて論じることで、今、私たちが必要としているエンターテインメントの核を分析し、私たちが潜在的に抱えている問題、欲しているものに切り込む評論集。
さらに、次なる10年に向けてエンターテインメントの可能性を大胆に予想します。ゼロ年代以降急激に発達を遂げたインターネット、地方都市の均一化が進む一方で注目される地域性の見直しなど、二次元から三次元までの造詣が深い著者ならではの切り口が読みどころです。2011年~2012年のヒット作、注目作を30冊以上網羅したブックガイドとしての側面もあります。
2000年代以降にデビューした作家、あるいはブレイクした作品と、社会のムーブメントを絡めて論じることで、今、私たちが必要としているエンターテインメントの核を分析し、私たちが潜在的に抱えている問題、欲しているものに切り込む評論集。
さらに、次なる10年に向けてエンターテインメントの可能性を大胆に予想します。ゼロ年代以降急激に発達を遂げたインターネット、地方都市の均一化が進む一方で注目される地域性の見直しなど、二次元から三次元までの造詣が深い著者ならではの切り口が読みどころです。2011年~2012年のヒット作、注目作を30冊以上網羅したブックガイドとしての側面もあります。
- 本の長さ242ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2013/1/24
- ISBN-104062181789
- ISBN-13978-4062181785
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商品の説明
著者について
1963年、千葉県生まれ。文芸・音楽評論家として活躍している。1999年に「シングル・ルームとテーマパーク 綾辻行人『館』論」で第6回創元推理評論賞を受賞。2009年に『「謎」の解像度』(光文社)で、日本推理作家協会賞(評論その他の部門)と、本格ミステリ大賞(評論・研究部門)を受賞。著書に、『YMOコンプレックス』(平凡社)、『ゼロ年代の論点 ウェブ・郊外・カルチャー』(ソフトバンク新書)、共著に『ニアミステリのすすめ』(原書房)、『バンド臨終図鑑』(河出書房新社)などがある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2013/1/24)
- 発売日 : 2013/1/24
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 242ページ
- ISBN-10 : 4062181789
- ISBN-13 : 978-4062181785
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,619,711位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 195,795位ノンフィクション (本)
- - 394,261位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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千葉県生まれ浦安市在住。文芸・音楽評論家。
1999年、「シングル・ルームとテーマパーク 綾辻行人『館』論』で創元推理評論賞受賞。
2009年、『「謎」の解像度 ウェブ時代の本格ミステリ』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞。
ミステリーなどの小説、ロックやJポップなどの音楽のほか、ディズニー、批評まで広い分野を論ずる。
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