免疫学は、癌治療への寄与などを含めて、今後、脳科学、遺伝子科学とともに最先端の科学として著しい進展が期待できる分野だ。そういう意味でも、今後どのようなことが解明されていくか目が離せないし、さらに現時点でわかっている免疫学の基本的な内容を理解しておくことも重要だ。
本書は、そういう目的の書籍としては、ふさわしい内容だと思う。
1) 免疫のメカニズム
白血球(リンパ球)のひとつであるマクロファージは、病原体に出会うと、その病原体をバラバラにして(実際には、アポトーシスという細胞の自殺機能を起こさせる)その破片を、同じく白血球の一種で、骨髄で生まれ、胸腺で選別されてつくられるT(Thymus(胸腺)の頭文字)細胞のひとつであるヘルパーT細胞のもとへ運ぶ。ヘルパーT細胞は、マクロファージにくっついているMHC分子の裂け目から顔を出している異物の断片により、病原体の種類を判別する。(免疫反応が個人によって異なるのは、このMHC分子が遺伝子によってつくられるため。)ヘルパーT細胞は、同じく白血球の一種で、骨髄で作られるB(Bone marrow(骨髄)の頭文字)細胞やもうひとつのT細胞であるキラーT細胞に、サイトカイン(ホルモン)という情報伝達分子やMHC分子を用いて指示を与える。その指示に従い、B細胞は病原体に向かって抗体を放出する。(B細胞が最初につくる抗体はIgMと呼ばれるが、二度目につくる抗体はIgGと呼ばれ、さらに攻撃力が強い。)また、キラーT細胞は、ウィルスにとりつかれた細胞を殺す(実際には、Fasと呼ばれる細胞上のスイッチを用いて、自殺させる。)。(免疫システムは、多様な病原体に対応するため、遺伝子の部品を組み合わせることにより、膨大な種類のヘルパーT細胞(抗体)を用意している。)
ワクチンとは、上記のメカニズムを利用し、病原体(抗原)の一部や毒性を弱めたり殺したりしたものを意図的に体内に送り込み、その病原体に対処できるB細胞やT細胞を事前につくらせておくもの。
また、DNAワクチンでは、病原体の遺伝子を大腸菌のDNAに組み込んで体内に注入する。病原体のDNAは細胞の核の中へ移動するので、細胞はそのDNAを解読し、病原体の一部であるタンパク質を複製させる。
2) 免疫メカニズムの弊害
そもそも免疫とは体外から侵入した病原体から体を守るためのものだが、場合によっては、以下のような意図しない害を与えることがある。
a) 花粉症
花粉が侵入した場合には、IgEと呼ばれる抗体を出動させる。肥満細胞とよばれる細胞は、このIgEをつかむと離さない受容体を持っており、花粉とIgEがドッキングすると、その刺激が肥満細胞に伝わり、肥満細胞から膨大な数の刺激粒が放出される。
b) アトピー、ぜんそく
上記の花粉症のメカニズムに加えて、好酸球という白血球の一種が加担し、刺激物質を皮膚や気管支で放出する。
c) 結核
結核菌の感染により、免疫が発熱を起こし、殺されたマクロファージから出るたんばく質分解酵素やヘルパーT細胞が放出した情報伝達分子によって、肉芽種の中心部が腐り始め、肺の組織に空洞を作る。
d) 肝炎
ウィルスを退治するため、ウィルス感染した細胞を丸ごと殺す。
e) 移植臓器への攻撃
f) リウマチ
TNF(腫瘍壊死因子)と呼ばれるサイトカインが、免疫細胞の表面にあるTNF受容体と結びつき、抗体の生産を促すIL6を作れという指示を免疫細胞に出す。IL6は、炎症を起こし、最後には関節を破壊する。
3) 免疫メカニズムが機能しない場合
a) がん
細胞に異常が生じ、際限なく増殖を重ねるようになっても、MHC分子がなくなっているため、免疫が機能しない。
白血病は、白血球ががん化して、異常に増殖する難病。骨髄腫細胞は、B細胞ががん化して、特定の抗体を作り出すようになったもの。
b) エイズ
エイズウィルス(HIV)が、免疫システムを次第に破壊する。
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現代免疫物語―花粉症や移植が教える生命の不思議 (ブルーバックス) 新書 – 2007/4/20
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一度かかった病気には二度とはかからない。私たちの体には驚くべき力が備わっている。しかしそれは時にアレルギーや拒絶反応という形で私たちに牙をむく。不思議な二面性を併せ持つ免疫という仕組みを工夫を凝らした「物語」仕立てでやさしく語る。岸本忠三(大阪大学教授)と中嶋彰(科学ジャーナリスト)がタッグを組んで著した稀代の名著。
敵を攻撃する容赦ない猛々しさと意外な脆弱さを併せ持つ免疫というシステム
免疫という驚異の仕組み
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インターロイキン6の発見というノーベル賞級の仕事を成し遂げた、岸本忠三(大阪大学教授)
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- ISBN-104062575515
- ISBN-13978-4062575515
- 出版社講談社
- 発売日2007/4/20
- 言語日本語
- 寸法11.4 x 1.3 x 17.4 cm
- 本の長さ268ページ
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登録情報
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- ISBN-10 : 4062575515
- ISBN-13 : 978-4062575515
- 寸法 : 11.4 x 1.3 x 17.4 cm
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上位レビュー、対象国: 日本
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2014年8月1日に日本でレビュー済み
二人の著者は元・阪大学長とサイエンス・ライターなのだが、比喩説明が豊富で、分子生物学系の本としては非常に読みやすい。2007年の本。
曰く・・・
杉花粉が体に入ると、免疫は抗体IgEを出動させる。鼻の穴の粘膜には肥満細胞が並んでいる。肥満細胞には抗体を掴んで離さない受容体があり、IgEを捕まえる。つまり、肥満細胞はその表面にIgEを抱え込む。ここで花粉がやってくるとIgEと花粉が結合し、その刺激で肥満細胞の内部に詰まっている刺激粒(ヒスタミン分子)が大放出。ヒスタミンは血管を拡張させ、ふくれた血管から体液が鼻の粘膜ににじみ出る。
病原菌やウィルスなどの抗原が侵入すると免疫細胞はこれらの抗原と戦うための抗体をつくり、IgGやIgMなどの抗体で迎え撃つ。抗体は迎撃ミサイルみたいなもの。抗体を作って撃つのがB細胞(ミサイル発射装置)。白血球の一員がリンパ球で、リンパ球にはBリンパ球(B細胞:ミサイル発射装置)とTリンパ球(T細胞)の2種類がある。T細胞は更にヘルパーT細胞とキラーT細胞に分かれる。ヘルパーT細胞は迎撃司令官で、B細胞に指示して抗体を作らせる。キラーT細胞は殺戮細胞であり、ウィルスにとりつかれた細胞を情け容赦無く殺す。ヘルパーT細胞はキラーT細胞にも指示を出す。
偵察の役割を果たすのがマクロファージ(大食細胞)で、マクロファージは前線で病原体に襲いかかってこれをバラバラにし、その破片をヘルパーT細胞に提示し、これによりヘルパーT細胞は迎撃作戦を練る。
IgEと肥満細胞の悪役ペアに好酸球という白血球の一種が加担すると刺激物質が放出され、皮膚組織や気管支がダメージを受ける。これが気管支喘息やアトピー性皮膚炎の原因。好酸球は肥満細胞が放出する刺激因子によって集められ、しかも、この刺激因子が好酸球を増やし、長生きさえさせる。好酸球はステロイドに非常に弱い。ステロイドは好酸球に自殺(アポトーシス)を促す。免疫系ほとんどすべての細胞の働きを抑制するため力強さと粗暴さが同居する薬剤といわれる。
社会が清潔になり、感染症が減少するのと反比例するようにアレルギーが増える。環境がきれいになると免疫は病原体と戦う機会が少なくなり、昔はIgGなどの抗体を作り出していたのだが、その代わりに鬼っ子抗体のIgEが働きはじめた、のではないか。
キラーT細胞は結核菌を飲み込んだマクロファージをまるごと攻撃するが、結核菌はマクロファージこそ寄生場所として狙っている。こうしてマクロファージ内の戦いになるのだが、それゆえに抗体の出番がない。結核菌は病原体であるにもかかわらず抗体が関わってこない。マクロファージに結核菌が勝つと、勝利によって増殖した結核菌は次のマクロファージに襲いかかる。こうなるとまたマクロファージの大軍が呼び寄せられ、マクロファージが融合し肉芽種になる。殺されたマクロファージから放出される物質により肉芽種は中心部が腐り始め、このとばっちりで胚細胞が破壊される。ただし、結核のメカニズムはまだきちんと解明されていない。
抗体は細菌攻撃には有効だし、血液中ならウィルスも攻撃できる。しかし、ウィルスが細胞内に侵入してしまうともう手を出せない。このときには、ウィルスに感染した細胞を殺してしまう。この役割を担うのがキラーT細胞。
ヘルパーT細胞がB細胞に放出する情報伝達分子は多種類あるがこれをまとめてサイトカインと呼んでいる。サイトカインの中で最大勢力はインターロイキン。
サイトカインは脳神経系など身体のさまざまな場所でも発見されるようになったので、体内の細胞が出す情報伝達分子の総称となっている。ホルモンも情報伝達分子の一種であるが、違いはホルモンが内分泌系と密接に結びついていること。サイトカインは極小領域にしかないがホルモンは血液にのって全身に運ばれる。ホルモンはサイトカインよりもはるかに量が多い。とはいえ、ホルモンとサイトカイン(ホルモンの発見から20年後に発見された)の境界はあいまいになりつつある。
血液細胞は、赤血球と白血球に大別できる。
白血球は、マクロファージとリンパ球、顆粒球に大別できる。
リンパ球はB細胞とT細胞に分類できる。
顆粒球は好中球、好酸球、好塩基球に分類できる。
骨の内部には骨髄があり、ここでリンパ球(B細胞とT細胞)が時々刻々と作られる。心臓の上には胸腺という臓器があり、T細胞は胸腺に移動し、ここでヘルパーT細胞やキラーT細胞になるための訓練・選別を受ける。生き残るのはわずか2~3%のエリート。
免疫は放射線に極端に弱い。免疫細胞のリンパ球は常に消滅と生成を繰り返しているが、細胞分裂のとき、遺伝子が露出して無防備になってしまう。ここで放射線にあたると遺伝子が傷ついて断片になってしまう。
人間のB細胞が作り出す抗体はIgG,IgM,IgA,IgD,IgEの5種類だが、各抗体は同種であっても少しずつ違っているため非常に多様。IgGはY字型の立体構造をしたタンパク質でV字部分が外敵を発見・捕獲し、I字部分に処理が委ねられる。V字はどんな外敵にも対応できるように少しずつ姿が違うものが用意されている。抗体の種類は1億とも10億ともいわれる。できるだけ多くの抗体をあらかじめ用意(アーカイブ)しておき、病原体が侵入してきたらもっとも効果的な抗体を選び出し、大量複製して迎撃するシステム。
Fasは細胞の自殺スイッチで、Fasリガンドという分子が結合すると細胞は自殺する。キラーT細胞は殺戮対象の細胞にFasリガンド分子を放出することで細胞に自殺を促す。
アレルギーの原因はB細胞が生成するIgEで、IgEはヘルパーT細胞がB細胞にIL4(インターロイキン4)を放出することで誕生する。IL4が運んできた情報を細胞に伝える分子がSTAT6。STAT6を消せばアレルギーは出なくなることがわかっている。STAT6はどうもIL4だけに関わっているためSTAT6封じには副作用もなさそう。アレルギーは克服できるかもしれない。
などなど。
曰く・・・
杉花粉が体に入ると、免疫は抗体IgEを出動させる。鼻の穴の粘膜には肥満細胞が並んでいる。肥満細胞には抗体を掴んで離さない受容体があり、IgEを捕まえる。つまり、肥満細胞はその表面にIgEを抱え込む。ここで花粉がやってくるとIgEと花粉が結合し、その刺激で肥満細胞の内部に詰まっている刺激粒(ヒスタミン分子)が大放出。ヒスタミンは血管を拡張させ、ふくれた血管から体液が鼻の粘膜ににじみ出る。
病原菌やウィルスなどの抗原が侵入すると免疫細胞はこれらの抗原と戦うための抗体をつくり、IgGやIgMなどの抗体で迎え撃つ。抗体は迎撃ミサイルみたいなもの。抗体を作って撃つのがB細胞(ミサイル発射装置)。白血球の一員がリンパ球で、リンパ球にはBリンパ球(B細胞:ミサイル発射装置)とTリンパ球(T細胞)の2種類がある。T細胞は更にヘルパーT細胞とキラーT細胞に分かれる。ヘルパーT細胞は迎撃司令官で、B細胞に指示して抗体を作らせる。キラーT細胞は殺戮細胞であり、ウィルスにとりつかれた細胞を情け容赦無く殺す。ヘルパーT細胞はキラーT細胞にも指示を出す。
偵察の役割を果たすのがマクロファージ(大食細胞)で、マクロファージは前線で病原体に襲いかかってこれをバラバラにし、その破片をヘルパーT細胞に提示し、これによりヘルパーT細胞は迎撃作戦を練る。
IgEと肥満細胞の悪役ペアに好酸球という白血球の一種が加担すると刺激物質が放出され、皮膚組織や気管支がダメージを受ける。これが気管支喘息やアトピー性皮膚炎の原因。好酸球は肥満細胞が放出する刺激因子によって集められ、しかも、この刺激因子が好酸球を増やし、長生きさえさせる。好酸球はステロイドに非常に弱い。ステロイドは好酸球に自殺(アポトーシス)を促す。免疫系ほとんどすべての細胞の働きを抑制するため力強さと粗暴さが同居する薬剤といわれる。
社会が清潔になり、感染症が減少するのと反比例するようにアレルギーが増える。環境がきれいになると免疫は病原体と戦う機会が少なくなり、昔はIgGなどの抗体を作り出していたのだが、その代わりに鬼っ子抗体のIgEが働きはじめた、のではないか。
キラーT細胞は結核菌を飲み込んだマクロファージをまるごと攻撃するが、結核菌はマクロファージこそ寄生場所として狙っている。こうしてマクロファージ内の戦いになるのだが、それゆえに抗体の出番がない。結核菌は病原体であるにもかかわらず抗体が関わってこない。マクロファージに結核菌が勝つと、勝利によって増殖した結核菌は次のマクロファージに襲いかかる。こうなるとまたマクロファージの大軍が呼び寄せられ、マクロファージが融合し肉芽種になる。殺されたマクロファージから放出される物質により肉芽種は中心部が腐り始め、このとばっちりで胚細胞が破壊される。ただし、結核のメカニズムはまだきちんと解明されていない。
抗体は細菌攻撃には有効だし、血液中ならウィルスも攻撃できる。しかし、ウィルスが細胞内に侵入してしまうともう手を出せない。このときには、ウィルスに感染した細胞を殺してしまう。この役割を担うのがキラーT細胞。
ヘルパーT細胞がB細胞に放出する情報伝達分子は多種類あるがこれをまとめてサイトカインと呼んでいる。サイトカインの中で最大勢力はインターロイキン。
サイトカインは脳神経系など身体のさまざまな場所でも発見されるようになったので、体内の細胞が出す情報伝達分子の総称となっている。ホルモンも情報伝達分子の一種であるが、違いはホルモンが内分泌系と密接に結びついていること。サイトカインは極小領域にしかないがホルモンは血液にのって全身に運ばれる。ホルモンはサイトカインよりもはるかに量が多い。とはいえ、ホルモンとサイトカイン(ホルモンの発見から20年後に発見された)の境界はあいまいになりつつある。
血液細胞は、赤血球と白血球に大別できる。
白血球は、マクロファージとリンパ球、顆粒球に大別できる。
リンパ球はB細胞とT細胞に分類できる。
顆粒球は好中球、好酸球、好塩基球に分類できる。
骨の内部には骨髄があり、ここでリンパ球(B細胞とT細胞)が時々刻々と作られる。心臓の上には胸腺という臓器があり、T細胞は胸腺に移動し、ここでヘルパーT細胞やキラーT細胞になるための訓練・選別を受ける。生き残るのはわずか2~3%のエリート。
免疫は放射線に極端に弱い。免疫細胞のリンパ球は常に消滅と生成を繰り返しているが、細胞分裂のとき、遺伝子が露出して無防備になってしまう。ここで放射線にあたると遺伝子が傷ついて断片になってしまう。
人間のB細胞が作り出す抗体はIgG,IgM,IgA,IgD,IgEの5種類だが、各抗体は同種であっても少しずつ違っているため非常に多様。IgGはY字型の立体構造をしたタンパク質でV字部分が外敵を発見・捕獲し、I字部分に処理が委ねられる。V字はどんな外敵にも対応できるように少しずつ姿が違うものが用意されている。抗体の種類は1億とも10億ともいわれる。できるだけ多くの抗体をあらかじめ用意(アーカイブ)しておき、病原体が侵入してきたらもっとも効果的な抗体を選び出し、大量複製して迎撃するシステム。
Fasは細胞の自殺スイッチで、Fasリガンドという分子が結合すると細胞は自殺する。キラーT細胞は殺戮対象の細胞にFasリガンド分子を放出することで細胞に自殺を促す。
アレルギーの原因はB細胞が生成するIgEで、IgEはヘルパーT細胞がB細胞にIL4(インターロイキン4)を放出することで誕生する。IL4が運んできた情報を細胞に伝える分子がSTAT6。STAT6を消せばアレルギーは出なくなることがわかっている。STAT6はどうもIL4だけに関わっているためSTAT6封じには副作用もなさそう。アレルギーは克服できるかもしれない。
などなど。
2011年10月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
『
新・現代免疫物語 「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異
』の面白さに感動して本書も読んでみた。取り扱う免疫学の内容としてはこの二作品の間に大いに重複するものがあるが、それでも面白く読めた。それは本シリーズの面白さが免疫学を学ぶことのみならず、それを彩る様々な物語にあるからだろう。
ちなみにこの二作品を比較してみると、『新現代免疫物語』の方が二冊目だからだろうか、文章もこなれて物語もより面白く感じた。免疫システムが引き起こす負の側面に関しては、本書では花粉症や移植拒絶の問題が中心であるのに対して、『新現代免疫物語』の方は関節リウマチを中心とする自己免疫疾患が中心となっている。また本書ではB細胞やT細胞の作られ方や役割等の基礎に多くの頁が割かれているのに対して、『新現代免疫物語』ではそれらについては簡潔にまとめられており(それでも十分解り易いから素晴らしい)、むしろ抗体の構造やTNF・IL6といったサイトカインに重心が移り、また自然免疫に多くの頁が割かれている。
エピローグで触れられていたのは、免疫システムがはりめぐらせる多様性という防御壁について。最後の最後で軽くコメントされているだけなのに、生命の深遠なるものを感じさせるメッセージであった。
蛇足だが、これら2冊をもってしても補体といった重要な項目について触れられていなかったりするので、『 休み時間の免疫学(休み時間シリーズ) 』等の他入門書も併せ読むと良いかもしれない。
ちなみにこの二作品を比較してみると、『新現代免疫物語』の方が二冊目だからだろうか、文章もこなれて物語もより面白く感じた。免疫システムが引き起こす負の側面に関しては、本書では花粉症や移植拒絶の問題が中心であるのに対して、『新現代免疫物語』の方は関節リウマチを中心とする自己免疫疾患が中心となっている。また本書ではB細胞やT細胞の作られ方や役割等の基礎に多くの頁が割かれているのに対して、『新現代免疫物語』ではそれらについては簡潔にまとめられており(それでも十分解り易いから素晴らしい)、むしろ抗体の構造やTNF・IL6といったサイトカインに重心が移り、また自然免疫に多くの頁が割かれている。
エピローグで触れられていたのは、免疫システムがはりめぐらせる多様性という防御壁について。最後の最後で軽くコメントされているだけなのに、生命の深遠なるものを感じさせるメッセージであった。
蛇足だが、これら2冊をもってしても補体といった重要な項目について触れられていなかったりするので、『 休み時間の免疫学(休み時間シリーズ) 』等の他入門書も併せ読むと良いかもしれない。
2011年7月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
免疫学についてのエポックメイキングな出来事を、歴史を紐解きながら解説しつつ、一通りの基礎的な知識を提供してくれる入門書である。
文章についての感じ方には個人差があるので、一般性には乏しいが、私には「文体がイマイチ」であった。
何というか「通販の安い健康器具」を紹介するような文章なのだ。
とにかく鬱陶しいのが、作為的な体言止めの反復である。
著者としては、分子生物学領域の疾走感を表現しようと思ったのかもしれない。だが私には、読後に何とも言えない「安っぽさ」がうっすらと残った。内容が悪くないだけに、惜しい。
文章についての感じ方には個人差があるので、一般性には乏しいが、私には「文体がイマイチ」であった。
何というか「通販の安い健康器具」を紹介するような文章なのだ。
とにかく鬱陶しいのが、作為的な体言止めの反復である。
著者としては、分子生物学領域の疾走感を表現しようと思ったのかもしれない。だが私には、読後に何とも言えない「安っぽさ」がうっすらと残った。内容が悪くないだけに、惜しい。