“傑作”と称する50題の他に最後に“番外 究極の選択”という1題が付加えられている。(p.208)
次頁の“答え”を先に見たら、“この問題については、未だに明確な答が得られていません”というタイトルがついている。本文の最後にも、“数学者や論理学者の間で議論されているものの、未だに意見が分かれ、解決していないようです”とある。
ほう、と、“番外”なる問題を読んでみたら、これが実にくだらない。
二者択一のどちらが“得策”か、を問う問題である。
一方の選択肢はゲーム参加者に確実な報酬をもたらす。他方の選択肢は、その報酬を賭け金にして賞金額の“期待値”が5倍余の「賭け」(むろん通常そんな賭けはない)に乗る、というものである。(著者は「賭け」とか「ギャンブル」とかいう言葉を使っていない。)
“得”とか“得策”とかいう言葉の厳密な定義は与えられていないので、“数学者や論理学者”が“議論”できるわけがない。まあ常識的に解釈するとして、確実な報酬を受取ることと「賭け」に乗ることとを比較してどちらが“得”かを問うことはまったく無意味である。これは「賭け」の賞金期待値がどんなに大きくても同じこと。また“得”を「有利」ということばに置換えても同じである。より抽象的に言うなら、「確実性」と「蓋然性」を客観的に比較することは不可能なのである。
「賭け」と「期待値」の関係がよく誤解されることは事実である。
この誤解を突いたのが有名な「セイント・ピータースバーグのパラドックス」と呼ばれる問題だが、これは既に解決されている。要は、「賭け」に乗るかどうかを決定するのは属人的函数である「期待効用(expected utility)」というもの(ゲーム理論の概念)であって、「期待値」は直接には関与しない、ということ。(ただし、「期待効用」の値を決める変数の一つとして「期待値」が間接的に関与することはあり得る。)
この“番外”の問題に即して言えば、どちらの選択肢を選ぶのが“得策”かは、ゲーム参加者個人の「期待効用」次第、ということに過ぎない。
この本の著者は「期待効用」という概念をまったく知らないらしい。(巻末の“参考図書”には上記のパラドックスの解説が載った本(例えば「パラドックス」林晋編、日本評論社)が挙げられている。)
知らないのは仕方がない。誰だって万能じゃない。
しかし常識というものがある。状況証拠というものがある。
この ”番外”の問題自身は誰でも(常識的には)意味が理解できる易しいものである。もしこの問題が “数学者や論理学者”が“議論”して“解決していない” としたら世界中のパズルマニア、数学マニア、専門家(数学者、論理学者)が一斉に議論を始め、大混乱が起きるだろう。有名な "Monty Hall problem" がそうだった。むろんこの ”番外” 問題が騒ぎになったことは一度もない。
「常識」で「状況」を見渡せば、”解決していない”などとどうして言えるのか。
悪態をつくようだが、「パズル好きの技術者というのは所詮この程度のものか」とすら言いたくなる。
「一斑(いっぱん)を見て全豹(ぜんびょう)を卜(ぼく)す」ということばがある。一部分から全体を推知する、という意味で、一般には危険な行為である。
このレヴューはそれに当たるのだが、この論外なる“番外”問題と“答え”から、星1つの評価をつけるのは正当なことであろうと信じざるをえない。
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傑作!数学パズル50―名問・良問の宝庫へようこそ (ブルーバックス) 新書 – 2010/8/1
小泓 正直
(著)
85%の確率で勝って帰れるカジノ必勝法があるらしい。もちろん不正はナシ。いったいどんな方法?
数学思考のセンスが養われる
一見難しそうな問題が思いもよらないシンプルな手法で一瞬のうちに解けてしまう――古今東西のパズルファンをうならせてきた愉快で奥深い数学の世界を楽しみながら、思考力に磨きをかけよう。
メビウスの輪をこうやって切ったら何ができる?
1.輪が3つできる
2.途中で切れて輪にならない
それとも……?
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メビウスの輪をこうやって切ったら何ができる?
1.輪が3つできる
2.途中で切れて輪にならない
それとも……?
- 本の長さ221ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2010/8/1
- ISBN-104062576945
- ISBN-13978-4062576949
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2010/8/1)
- 発売日 : 2010/8/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 221ページ
- ISBN-10 : 4062576945
- ISBN-13 : 978-4062576949
- Amazon 売れ筋ランキング: - 702,440位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2012年8月17日に日本でレビュー済み
問題が一見軽そうで出来そうだと思ったら大間違いだった!
数学が苦手な人には理解不能な内容。
実際、数学オンチなどお呼びでない本なのです。
呼ばれてもいないのに呼んだ私がバカでした。
でも、チョコ割りやらウイルス感染の問題なんかは興味深くおもしろい!
問題の数学的な意味はさておき、取っ付きやすいテーマ選びや読みやすい文章もこの本の魅力だと思います。
数学が苦手な人には理解不能な内容。
実際、数学オンチなどお呼びでない本なのです。
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問題の数学的な意味はさておき、取っ付きやすいテーマ選びや読みやすい文章もこの本の魅力だと思います。
2011年1月4日に日本でレビュー済み
問題のジャンルとしては整数・確率・幾何・代数・論理etcがあり、それぞれユニークでタイプの異なったものであるため飽きることなく最後まで進んでいくことができます。
使われている数学はおおよそ高校レベルのものであり、問題によってはそれに習熟していないとなかなか難しいでしょう(高校数学を知らなくても解ける問題もあります)。
解説が懇切丁寧であり、その問題を解くのに用いた数学の簡単な説明や、それに関わる小話・豆知識なども書かれていたりするので読んでいてためになりますし面白いです。
お勧めの一冊です。
使われている数学はおおよそ高校レベルのものであり、問題によってはそれに習熟していないとなかなか難しいでしょう(高校数学を知らなくても解ける問題もあります)。
解説が懇切丁寧であり、その問題を解くのに用いた数学の簡単な説明や、それに関わる小話・豆知識なども書かれていたりするので読んでいてためになりますし面白いです。
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