学校では「拝火教」「善悪二元論」しか習った覚えがないゾロアスター教。
どのように広まり、そしてなぜ、イスラムの前にいとも簡単に崩れ落ちたのか。
これが知りたくて本書を購読することとした。
ザラスシュトラ・スピターマ(=ゾロアスター)の出現は思いのほか古く、紀元前12~9世紀ごろと言われている。
古代アーリア人多神教の神官階級の生まれであった彼は、新しい「アフラ・マズダー」という神を崇める教団(一神教?)を作り、
放浪の旅に出た。
アフラ・マズダ-の下には、この世に善を広めるために、6つの「不死の精霊」を置いた。
それに対応する大悪魔や6大悪魔についても述べた。これらは、古代アーリア人が自然現象を神格化した神々を悪魔の地位に叩き落したものだった。
このように善神と悪魔たちを設定した時点で、ザラスシュトラの思想ー善悪二元論ーの大枠は固まった。
彼の二分法を用いれば、世界はことごとく「光と闇」「生と死」「芳香と悪臭」「犬と爬虫類」などのように一対の概念として把握され、それらの背後には不可知の「善神と悪魔」が存在して天上界で覇を争っているとされる。
ゾロアスター教の儀礼は、善悪二元論をベースにしたものが多い。その中でも、善の力を用いて積極的に悪を攻撃するタイプはほとんどなく、たいていの場合、身辺に付着した悪の汚れー例えば、切った後の爪、刈った後の頭髪、生理中の女性、犬の死体などーを、善の力によって浄化するという防御的な呪術の範囲にとどまる。どんなにランクの高いゾロアスター教聖火といえども、悪の攻撃から周辺を防御する結界を張る能力があるだけで、決して悪を撃滅する効用を期待されている訳ではない。
ザラスシュトラは、死後の審判は二つに分かれて発生すると考えた。
個人の死と世界の終末である。
世界の終末後、善の最終的な勝利と悪の無力化が達成され、世界は完全な善に包まれて、至福の時を迎えるとされる。
もっとも、ザラスシュトラ本人の意識の中では、世界の終末も直近の出来事と想定されていたので、個人の死と世界の終末の間にはそれほど時間的な隔たりはないはずであった。
そのうちにザラスシュトラは物故し、直弟子世代も死去すると、はたしていつまで待てば世界の終末が訪れるのか、その時に信者たちを指導してくれるのは誰なのか、深刻な問題として浮上してきた。
そこで、後代の神官たちが智慧を絞った結果、将来、保存されているザラスシュトラの精子によって妊娠した処女から生まれたサオシュヤントが、世の終わりに救世主として出現し、悪を滅して至福をもたらすとの神学が生み出された。
これは、東方では、大乗仏教の未来仏信仰に影響したとされ、西方では、ユダヤ教、キリスト教のメシア思想の成立を促したと言われている。
・・・このような教義と呪術形式とを併せ持った宗教が紀元前10世紀前後に存在したとは、驚異的である。当時としては、最先端の科学であり、哲学であったであろうことは想像できる。
ハカーマニシュ(アケメネス)王朝ペルシャ(紀元前550~紀元前330年)では、ザラスシュトラの教えをダイレクトに導入したと考える学説から、直接的な影響はなかったとする学説まで幅が広い。
セレウコス王朝シリア(紀元前312~紀元前63年)はアレクサンダー大王の東征にともなってやってきた外来のギリシャ人だったこともあり、いかなる意味においてもゾロアスター教徒ではなかったと考えられている。
アルシャク王朝パルティア(紀元前247~紀元後224年)の大王たちは、ミスラ崇拝が優勢で、必ずしもゾロアスター教とは言えない異質の宗教思想を報じていた。そして、このころに、ペルシャ州で、ザラスシュトラの原始教団の宗教思想と、イラン高原北西部のマゴス神官団の宗教思想が融合して、後の「ペルシャ的ゾロアスター教」の成立が準備されていた。
これに対して、サーサーン王朝ペルシャ(224~651)の皇帝は、ペルシャ州の神官出身で、彼らとゾロアスター教の関係は非常に密接であった。
しかし、サーサーン王朝が紀元後3世紀にペルシャ帝国を作った時には、
聖典と明確な教義を備えた宗教として、シリア方面からはキリスト教が、ペルシャ帝国の政治的中枢であるメソポタミア平原にはマーニー教が、イラン高原東部には仏教が進出してきていた。
これらへの対抗上、国家宗教ゾロアスター教は、早期に聖典を定める必要に迫られていた。(宗教史上注意すべきは、キリスト教、マーニー教、仏教に比べて、ゾロアスター教の方が成立年代ははるかに古いものの、聖典を確立して明確な教義を整備する点では、むしろ数世紀の遅れをとっている点である。)
この時代にゾロアスター教教団は欽定アベスターグ(アヴェスター)を成立させ、キリスト教への反駁も行っている(善悪一元論と三位一体説について)。
ペルシャ帝国とビザンチン帝国が弱体化した際に、アラブ部族の側でもムハンマドが出現してイスラームの教えによってアラブ部族の統一を果たしていた。
7世紀前半にアラビア砂漠の中から現れたイスラームと、それを信棒するアラブ人の軍事的攻勢の前に、サーサーン王朝ペルシャ帝国は崩壊した。
ここで、著者は、アーリア人ゾロアスター教徒のイスラーム改宗の諸パターンとして、
自発的改宗① 経済的利益
自発的改宗② 婚姻
強制的改宗~布教活動
を挙げ、イラン高原のイスラーム化が7~10世紀を境に劇的に進んだと述べるが、
結局は、その時点で、
ゾロアスター教はすでに古いものになっており、魅力的でなかった、
もしくは、元々、ゾロアスター教は、神官たちだけのものであり、個人にまで行き渡っていなかった
ということであろうと思う。
周りを大国に囲まれても、ユダヤ民族であることをやめなかったユダヤ人たちのことを考えれば、
本当にゾロアスター教を護りたかったのであれば、それは出来たであろう、と思えるのである。
ゾロアスター教にしても、
最後の審判や救世主論など、非常に興味深い教義を生み出しており、
数百年を持ちこたえたのであるから、それは時代の最先端を行っていた教義だったのであろうが、
発生当時は最先端であった呪術(白魔術)などがもう支持を得られなくなってきてしまい、
ついに、「時間の裁判」に掛けられて、ふるい落とされる時が来てしまった。
そのようにして廃れていったのであろう、としか思えない、
というのが読後感である。
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ゾロアスター教 (講談社選書メチエ) 単行本(ソフトカバー) – 2008/3/11
青木 健
(著)
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世界は光と闇の永遠の闘争の舞台である。すべてがわかる! 光と闇の闘争、天国と地獄、最後の審判、メシア思想――「宗教」の源流は古代ペルシアにある。「アーリア性」をキーワードに、現地調査と最新の知見をもとに描くゾロアスター教の全貌。(講談社選書メチエ)
世界最古の啓示宗教のすべてがわかる決定版!
【目次】
第1章 古代アーリア民族と彼らの宗教
第2章 原始ゾロアスター教教団の成立――二元論と白魔術の世界観
第3章 ゾロアスター教以外の古代アーリア人の諸宗教
第4章 ゾロアスター教の完成――サーサーン王朝ペルシア帝国の国教として
第5章 ペルシア帝国の滅亡とアーリア人の宗教叛乱、そしてイスラーム改宗
第6章 ゾロアスター教からイラン・イスラーム文化/パールスィーへ
終章 ヨーロッパにおけるゾロアスター幻想
世界最古の啓示宗教のすべてがわかる決定版!
【目次】
第1章 古代アーリア民族と彼らの宗教
第2章 原始ゾロアスター教教団の成立――二元論と白魔術の世界観
第3章 ゾロアスター教以外の古代アーリア人の諸宗教
第4章 ゾロアスター教の完成――サーサーン王朝ペルシア帝国の国教として
第5章 ペルシア帝国の滅亡とアーリア人の宗教叛乱、そしてイスラーム改宗
第6章 ゾロアスター教からイラン・イスラーム文化/パールスィーへ
終章 ヨーロッパにおけるゾロアスター幻想
- 本の長さ228ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2008/3/11
- 寸法13.2 x 1.3 x 19 cm
- ISBN-104062584085
- ISBN-13978-4062584081
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2008/3/11)
- 発売日 : 2008/3/11
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 228ページ
- ISBN-10 : 4062584085
- ISBN-13 : 978-4062584081
- 寸法 : 13.2 x 1.3 x 19 cm
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2023年12月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
なぜ日本の自動車会社マツダが英語表記になると、matsuda ではなくてmazda なのか、答えの一部は本書に書かれています。あと、ナチスとゾロアスター教の関係はそこだけ深掘りして頂きたいくらい面白い。
2014年9月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
タイトルから、ゾロアスター教の入門書と思ってしまったのがいけなかった。高校世界史程度の知識しかない当方にとって、アーリア人の民族移動やそのほかの民族との関係、後のイスラム教徒との関係までは、思いもよらぬ収穫であったけれども、難しすぎました。ゾロアスター教の発祥や教義などの内容を期待していたので、このような内容であれば、「アーリア人とゾロアスター教」などというもっとわかりやすい書名のほうがいいのではないかと思いました。
2017年9月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
難解な事柄を、極めて平易に明確にまとめ上げてあり、
難解なゾロアスターを理解するうえで非常に役に立ちました。
キリスト教を理解する非常な助けになりました。
ありがとうございます。
難解なゾロアスターを理解するうえで非常に役に立ちました。
キリスト教を理解する非常な助けになりました。
ありがとうございます。
2011年7月9日に日本でレビュー済み
本書は、率直に言って読み物として面白い。
ゾロアスター教というのは、日本人にとっては井上靖の「敦煌」のような
西域趣味に彩られて理解されがちであり、西欧でもまた独特の神秘性を帯びた
存在として理解されてきたところがあった。
ところが、著者がまとめるところの現代のゾロアスター研究は、そういった
理解を根本から覆すものとなっている。
本書から推測する限り、どうやらこういったことになった原因のひとつは、
現存する少数のゾロアスター教徒(そう、現存するのだ)ですら、聖典の
意味がわからなくなってしまい、一種の呪術宗教化した事によるらしい。
なにせ聖典の内容と儀礼上の所作とがまったく不一致だったりするのだ。
また、元々のゾロアスター教は、土俗的な宗教の要素をかなり受け継いで
おり、蛙や蛇を悪の生き物として、それらを駆除する日を定めていたり
したのだが、今となっては既に忘れ去られていた。
こんな調子で話が進むので、非常に面白いのである。
ただ、著者は本来パールシー教徒(インドのゾロアスター教徒)の専門家
であり、本来古代アーリア人宗教の専門家ではないようで、細かいところの
記述内容には隙もあるようだ。
その辺は割り引いて評価しなくてはならないだろう。
ゾロアスター教というのは、日本人にとっては井上靖の「敦煌」のような
西域趣味に彩られて理解されがちであり、西欧でもまた独特の神秘性を帯びた
存在として理解されてきたところがあった。
ところが、著者がまとめるところの現代のゾロアスター研究は、そういった
理解を根本から覆すものとなっている。
本書から推測する限り、どうやらこういったことになった原因のひとつは、
現存する少数のゾロアスター教徒(そう、現存するのだ)ですら、聖典の
意味がわからなくなってしまい、一種の呪術宗教化した事によるらしい。
なにせ聖典の内容と儀礼上の所作とがまったく不一致だったりするのだ。
また、元々のゾロアスター教は、土俗的な宗教の要素をかなり受け継いで
おり、蛙や蛇を悪の生き物として、それらを駆除する日を定めていたり
したのだが、今となっては既に忘れ去られていた。
こんな調子で話が進むので、非常に面白いのである。
ただ、著者は本来パールシー教徒(インドのゾロアスター教徒)の専門家
であり、本来古代アーリア人宗教の専門家ではないようで、細かいところの
記述内容には隙もあるようだ。
その辺は割り引いて評価しなくてはならないだろう。
2021年7月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ゾロアスター教についての概説を書いた本。
・・・なんだけど、随分ゾロアスター教のことを矮小化して書いているような気がする。
最近の研究ではそうなっているのかもしれないけど、昔からの本を読んだ上だと、「本当か?」と思うことも多い。
果たしてどっちが本当なのか・・・。
別にゾロアスター教を支持するわけではないけど、ゾロアスター教っていうのは、もっと深遠なものだと思うんだけど・・・。
・・・なんだけど、随分ゾロアスター教のことを矮小化して書いているような気がする。
最近の研究ではそうなっているのかもしれないけど、昔からの本を読んだ上だと、「本当か?」と思うことも多い。
果たしてどっちが本当なのか・・・。
別にゾロアスター教を支持するわけではないけど、ゾロアスター教っていうのは、もっと深遠なものだと思うんだけど・・・。
2011年6月15日に日本でレビュー済み
<本書で得ることのできる知識はざっと以下の通り>
・古代アーリア人(イラン・北インド人のルーツ)の信仰した神々
・ザラスシュトラ(ゾロアスター)による二元論的な新宗教創始の経緯 BC12〜BC9世紀
・ゾロアスター教のイラン圏への普及と変容(One of them だったメディア、アケメネス朝、パルティア時代)
・完成期ゾロアスター教の概要(サーサーン朝による国教化と聖典成立期)
・サーサーン朝における生活文化(音楽・絵画・料理・ファッション・娯楽)
・ムスリムによるイラン世界征服と改宗プロセス AD7C〜AD12C
・現代に残る残滓(インド亡命のパールスィー、ゾロアスター期アルメニアの資料、クルドのヤズィート教)
・西欧のゾロアスター幻想の系譜(プラトンの先駆者?、シュタイナーの人智学、ニーチェの超人思想、ナチス)
<本書で知ったトリビア>
・ぶどうの語源は、中世ペルシア語の「ブーダグ(葡萄酒)」
・チェスの「チェックメイト」の語源は、中世ペルシア語の「シャー・マルト(王は死んだ)」
・ピラフの語源は、中世ペルシア語の「ピラーヴ」(トルコのピラウが有名だが、それに先行するもの)
<ザラスシュトラ(ゾロアスター)の教義について>
二元論的世界観で有名であるが、のちの中国の陰陽思想などとは異なり倫理的な選択を迫る教えである。
光/闇、生/死、芳香/悪臭、犬・ビーバー/蛙・サソリ、のような対概念の背後では善神と悪魔が闘争しており、
人間はそのどちらかについて闘争に参加する義務がある。(悪を希望する人間は稀なので当然善神に与する。)
死んだ後、生前の善悪が量られる橋に赴き、天界に達するか地獄に落ちるかが決まる。
特筆すべきは、善神と悪魔が最終闘争をする「世界の終末」概念が史上初めて用いられたこと。(当然、善神勝利。)
まだギリシア神話的多神教が世界を覆っていたことを思えば、ザラスシュトラの独創性が推し量れることだろう。
・古代アーリア人(イラン・北インド人のルーツ)の信仰した神々
・ザラスシュトラ(ゾロアスター)による二元論的な新宗教創始の経緯 BC12〜BC9世紀
・ゾロアスター教のイラン圏への普及と変容(One of them だったメディア、アケメネス朝、パルティア時代)
・完成期ゾロアスター教の概要(サーサーン朝による国教化と聖典成立期)
・サーサーン朝における生活文化(音楽・絵画・料理・ファッション・娯楽)
・ムスリムによるイラン世界征服と改宗プロセス AD7C〜AD12C
・現代に残る残滓(インド亡命のパールスィー、ゾロアスター期アルメニアの資料、クルドのヤズィート教)
・西欧のゾロアスター幻想の系譜(プラトンの先駆者?、シュタイナーの人智学、ニーチェの超人思想、ナチス)
<本書で知ったトリビア>
・ぶどうの語源は、中世ペルシア語の「ブーダグ(葡萄酒)」
・チェスの「チェックメイト」の語源は、中世ペルシア語の「シャー・マルト(王は死んだ)」
・ピラフの語源は、中世ペルシア語の「ピラーヴ」(トルコのピラウが有名だが、それに先行するもの)
<ザラスシュトラ(ゾロアスター)の教義について>
二元論的世界観で有名であるが、のちの中国の陰陽思想などとは異なり倫理的な選択を迫る教えである。
光/闇、生/死、芳香/悪臭、犬・ビーバー/蛙・サソリ、のような対概念の背後では善神と悪魔が闘争しており、
人間はそのどちらかについて闘争に参加する義務がある。(悪を希望する人間は稀なので当然善神に与する。)
死んだ後、生前の善悪が量られる橋に赴き、天界に達するか地獄に落ちるかが決まる。
特筆すべきは、善神と悪魔が最終闘争をする「世界の終末」概念が史上初めて用いられたこと。(当然、善神勝利。)
まだギリシア神話的多神教が世界を覆っていたことを思えば、ザラスシュトラの独創性が推し量れることだろう。
2010年1月5日に日本でレビュー済み
イラン系越境英語作家ナヒッドゥ・ラチュリンの小説を読んでいたら(『炎を超えて』Jumping over Fire、City Light Books 2005)、ゾロアスター教に起源を持つ火の上を飛び越える新年の遊びに主人公が興じる場面があって、現代のイランにもゾロアスター教がまた生き残っているのかと知ってちょっと驚いた。イスラム神権政治の行き過ぎに対する抵抗として敢えてゾロアスター教の遺物を持ち出してきたのかとも思ったが、古典の『ハーフィズ詩集』(東洋文庫)を読んだ時も、ゾロアスター教徒の営む酒場が出てきたり、イランにおけるイスラム社会とは伝統的に決して一枚岩ではないのだと認識を新たにするとともに、そもそもゾロアスター教がいかなるものか気になりだした。
今度、ゾロアスター教関連の本を数冊読んでみたが、青木健『ゾロアスター教』が入門書としても、また、知的な読み物としてもいいと思った。上記の新年の祭り(ノウ・ルーズ)についても、また『ハーフィズ詩集』についても(ゾロアスター教は、イラン・スーフィズムとして生きながらえる)分かりやすく教えてくれている。さらに知的なスリルを味わえたのは、まだらに見え隠れするゾロアスター教における近親婚の伝統だ。著者は、この本のなかでアルメニア的ゾロアスター教などの例で近親婚の伝統について数回言及している。それは、僕にとって大きな発見だった。というのも上記の『炎を超えて』は、実は、主人公の妹と異母兄弟の兄が近親的な愛を燃え上がらせる小説なのだが、ラチュリンがそういうあまりに重い題材を選択するのは大胆過ぎるように思えて仕方がなかったからだ。この『ゾロアスター教』を読んで、近親姦を直接的に仄めかす題材をとりあげる背景、伝統がよく理解できた。
最後に忘れてならないのは、著者青木健氏の型にはまらないユーモラスな文書の味わいだ。イラン・インドその他の地域を自分の足で歩きながら古代アーリア民族の宗教についてユーモラスに語る青木氏は、ゾロアスター教の享楽肯定、形式的儀礼を排した自由を彷彿させる。今日におけるゾロアスター教の古代宗教としての魅力と、青木氏の飄々としたスタイルは、何か切り離しがたいもののように思える。
今度、ゾロアスター教関連の本を数冊読んでみたが、青木健『ゾロアスター教』が入門書としても、また、知的な読み物としてもいいと思った。上記の新年の祭り(ノウ・ルーズ)についても、また『ハーフィズ詩集』についても(ゾロアスター教は、イラン・スーフィズムとして生きながらえる)分かりやすく教えてくれている。さらに知的なスリルを味わえたのは、まだらに見え隠れするゾロアスター教における近親婚の伝統だ。著者は、この本のなかでアルメニア的ゾロアスター教などの例で近親婚の伝統について数回言及している。それは、僕にとって大きな発見だった。というのも上記の『炎を超えて』は、実は、主人公の妹と異母兄弟の兄が近親的な愛を燃え上がらせる小説なのだが、ラチュリンがそういうあまりに重い題材を選択するのは大胆過ぎるように思えて仕方がなかったからだ。この『ゾロアスター教』を読んで、近親姦を直接的に仄めかす題材をとりあげる背景、伝統がよく理解できた。
最後に忘れてならないのは、著者青木健氏の型にはまらないユーモラスな文書の味わいだ。イラン・インドその他の地域を自分の足で歩きながら古代アーリア民族の宗教についてユーモラスに語る青木氏は、ゾロアスター教の享楽肯定、形式的儀礼を排した自由を彷彿させる。今日におけるゾロアスター教の古代宗教としての魅力と、青木氏の飄々としたスタイルは、何か切り離しがたいもののように思える。