表題作の後日談二篇を読みたくて購入しました。表題作は学生のころ読んで、藤野千夜という作家を知るきっかけになりました。
本篇では高校生だった登場人物たちが、後日談では会社員になったり、より女性らしくなったり、美容院に行けなくなったりしています。二篇ともゲイであるトシヒコの視点で、ヤマダ(高校の同級生)とミカコ(幼なじみ)との再会の様子が描かれます。
後日談のなかで、会話がかみ合っていないと感じる箇所が1つあります。トシヒコが「言えないことばっかりだったな」(p.143)と話す箇所です。直前の会話のやりとりから自然にはつながらないので、「言えないこと」とはなにか考えました。
本篇の高校時代では、トシヒコはゲイ(本文中の表現では「ホモ」)であることを悩んでいないととらえている一方、カムアウトすることなく、同性の同級生への好意を胸に秘めています。女性になりたいヤマダが、自分らしく生きようと身体や服装を変えようすることに、「波風を立てる意味がまったく理解できなかった」(p.57)と冷ややかな態度をとります。
それに対して、後日談では大きな変化がみられます。「言えないこと」は当時の自分を振り返ってつぶやかれた言葉なのかなと思いました。LGBTを取り巻く状況の変化も背景にあり、自己肯定感の高まりも手伝って、感慨深げに発した言葉。現時点の日本で、家族にパートナーを紹介できているゲイって少数派です。トシヒコの成長がみられて本当にうれしい。
トシヒコのほか、ヤマダとミカコの成長した姿も必見です。ヤマダは高校時代から一貫している。一貫しつづけるのは本当にたいへんなことだと思う。ミカコのいだく生きづらさは消えないまでも、時間の経過とともその生きづらさを多少飼いならすことができているようにみえる。
すべて理想的に事が進んでいるわけではなく、トシヒコの家族は彼のパートナーを大歓迎したわけではないし、会社の同僚から(女性と)結婚しないのかと聞かれたりもする。それでも、折り合いをつけながら、腐らずに日々を過ごしているだろうということが伝わってくる。
トシヒコ、ヤマダ、ミカコにまた会えてうれしいです。しかもみんなそこそこ元気で、それなりに幸せそうで。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
少年と少女のポルカ (講談社文庫 ふ 52-1) 文庫 – 2000/2/1
藤野 千夜
(著)
恋するオトコと悩めるオトメ
男が好きなトシヒコ、女になりたいヤマダ、電車に乗れないミカコ。心と身体の違和感にふるえる3人の高校生を鮮烈に描く、新感覚の青春小説。
男子校へ通うトシヒコは陸上部のリョウに恋してる。同級生のヤマダは「間違った身体に生まれたから」と女性ホルモンを注射する。幼なじみのミカコは突然、怖くて電車に乗れなくなった。心と身体の「違和感」にふるえる3人の青春を軽妙に描く表題作に、「午後の時間割」(海燕新人賞)を併録した芥川賞作家の作品集。
男が好きなトシヒコ、女になりたいヤマダ、電車に乗れないミカコ。心と身体の違和感にふるえる3人の高校生を鮮烈に描く、新感覚の青春小説。
男子校へ通うトシヒコは陸上部のリョウに恋してる。同級生のヤマダは「間違った身体に生まれたから」と女性ホルモンを注射する。幼なじみのミカコは突然、怖くて電車に乗れなくなった。心と身体の「違和感」にふるえる3人の青春を軽妙に描く表題作に、「午後の時間割」(海燕新人賞)を併録した芥川賞作家の作品集。
- 本の長さ215ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2000/2/1
- ISBN-104062648512
- ISBN-13978-4062648516
この商品を見た後にお客様が購入した商品
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
商品の説明
著者について
1962年福岡県生まれ。千葉大学教育学部卒業。1995年「午後の時間割」で第14回海燕新人文学賞受賞。1998年『おしゃべり怪談』で第20回野間文芸新人賞受賞。2000年1月『夏の約束』で第122回芥川賞受賞。他の作品に『恋の休日』がある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2000/2/1)
- 発売日 : 2000/2/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 215ページ
- ISBN-10 : 4062648512
- ISBN-13 : 978-4062648516
- Amazon 売れ筋ランキング: - 803,177位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
1962年福岡県生まれ。千葉大学教育学部卒。95年『午後の時間割』で第14回海燕新人文学賞、98年『おしゃべり怪談』で第20回野間文芸新人賞、99年『夏の約束』で第122回芥川賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 中等部超能力戦争 (ISBN-13: 978-4575513608 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2014年8月28日に日本でレビュー済み
男子校に通うトシヒコの同級生リョウに寄せる思い、女装するヤマダがトシヒコに寄せる思いが奇妙に交錯する。
そして、何かに怯えて電車に乗れなくなった幼なじみのミカコ。ゲイであることに対してドライになったトシヒコと
ナチュラルさに欠けるオカマのようなヤマダはいわば好対照をなすのだが、そこにミカコのか細い存在感が少女という
ラインを画している。81ページあたりの描写は作者独特のもので、校内選挙を前に候補者に投げつけるタマゴを買うように
頼まれた際にリョウが「開闢以来の伝統だ」と耳元で囁くシーンなどは、一転ウェットなスリルを仄見せている。
かつての恋愛小説(ロマン)がふつうの男女関係を情熱的に描いたのと対照的に、
この小説はままならぬ少年と少女の世界をまなざしの交錯の中でドライかつクールに描きつつ、
現代の若者の越境してやまない性感覚を軽妙なテンポの中に浮かび上がらせている。
失恋から人との距離をとろうとする予備校生を描いた『午後の時間割』も併録。
作者は2000年に『夏の約束』で芥川賞を受賞している。
そして、何かに怯えて電車に乗れなくなった幼なじみのミカコ。ゲイであることに対してドライになったトシヒコと
ナチュラルさに欠けるオカマのようなヤマダはいわば好対照をなすのだが、そこにミカコのか細い存在感が少女という
ラインを画している。81ページあたりの描写は作者独特のもので、校内選挙を前に候補者に投げつけるタマゴを買うように
頼まれた際にリョウが「開闢以来の伝統だ」と耳元で囁くシーンなどは、一転ウェットなスリルを仄見せている。
かつての恋愛小説(ロマン)がふつうの男女関係を情熱的に描いたのと対照的に、
この小説はままならぬ少年と少女の世界をまなざしの交錯の中でドライかつクールに描きつつ、
現代の若者の越境してやまない性感覚を軽妙なテンポの中に浮かび上がらせている。
失恋から人との距離をとろうとする予備校生を描いた『午後の時間割』も併録。
作者は2000年に『夏の約束』で芥川賞を受賞している。
2002年12月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本ついさっき読み終えたんですけど、期待通りのつまらなさでしたね。安易な言葉選びやストーリー運びで、中身のないどうでもいいことを書き連ねているさまは、まるで素人が趣味で書いてるみたい。さらに解説もレベルが低い。
2004年6月25日に日本でレビュー済み
どこか毒があって、くだらない描写が光る藤野千夜。
この人の作品を読んで、いちばんおもしろいと感じられるのは中高生
だと思う。深刻になりそうなテーマも藤野にかかれば軽い。この作品
の登場人物たちは高校生だけど、この年代に藤野の文体ってしっくり
くるんだよね。
一般的にいっちゃえば「特殊」な思考を持つ高校生が、それに悩むこ
となく素直に受け入れているのが、言葉が変かもしれないけどすがす
がしい。表題作の「少年と少女のポルカ」は楽しめる。しかし、併録
の「午後の時間割」は少々理解不能(汗)
この人の作品を読んで、いちばんおもしろいと感じられるのは中高生
だと思う。深刻になりそうなテーマも藤野にかかれば軽い。この作品
の登場人物たちは高校生だけど、この年代に藤野の文体ってしっくり
くるんだよね。
一般的にいっちゃえば「特殊」な思考を持つ高校生が、それに悩むこ
となく素直に受け入れているのが、言葉が変かもしれないけどすがす
がしい。表題作の「少年と少女のポルカ」は楽しめる。しかし、併録
の「午後の時間割」は少々理解不能(汗)
2005年9月30日に日本でレビュー済み
僕らが普段触れ合うことの少ない世界を非常に上手く書いている。
主人公はずっと違和感を抱いているが、それがこっちまで伝染してくるような上手さなんです。
主人公はずっと違和感を抱いているが、それがこっちまで伝染してくるような上手さなんです。
2005年3月5日に日本でレビュー済み
つまらないけど、最後まで読めるのには魅力があるんです。
その魅力の一つは登場人物の台詞にあるのではないでしょうか?
それに、ユル~い雰囲気に乗せられて思わずページを開いてしまうのも悪くないんです。
明日になれば忘れてしまいそうな短絡的なストーリーですが読んで後悔する程でもありません。
むしろドラマ化されると面白いかも…と思うのは私だけでしょうか?
その魅力の一つは登場人物の台詞にあるのではないでしょうか?
それに、ユル~い雰囲気に乗せられて思わずページを開いてしまうのも悪くないんです。
明日になれば忘れてしまいそうな短絡的なストーリーですが読んで後悔する程でもありません。
むしろドラマ化されると面白いかも…と思うのは私だけでしょうか?
2005年6月5日に日本でレビュー済み
なんとなく海燕出身ぽい雰囲気がそこはかとなく漂っていると思ったら、ビンゴ。解説で斎藤美奈子が言うように、若い時に出会うべき本だと思った。
男子を描いても女子を描いても、どちらでもない人を描いても、作者のスタンスはほとんど同質なんだろう。乾いていてどうでもいいような筆致。ちょっと突き放した感じや、登場人物の会話のテンポや、ちらっと見せる音楽や映画などの〈サブカル教養〉の趣味は私にはしっくりきた。また「午後の時間割」の委員長の本の読み方(助詞の「と」がつく本を読む・題名のしりとり)には笑った。
著者には、ゲイが出てくる作品が多いらしいが、いつもその世界だとどうなんだろう。とはいえ、この2編は○。
男子を描いても女子を描いても、どちらでもない人を描いても、作者のスタンスはほとんど同質なんだろう。乾いていてどうでもいいような筆致。ちょっと突き放した感じや、登場人物の会話のテンポや、ちらっと見せる音楽や映画などの〈サブカル教養〉の趣味は私にはしっくりきた。また「午後の時間割」の委員長の本の読み方(助詞の「と」がつく本を読む・題名のしりとり)には笑った。
著者には、ゲイが出てくる作品が多いらしいが、いつもその世界だとどうなんだろう。とはいえ、この2編は○。