著者の問題意識が「はじめに」に示されている。「信長は、天下統一の政権構想のなかにまず流通・都市の掌握をおいたというのが、私の新しく主張したい点である」
従来なぜそうでなかったか。それは
「この時代を近世の中央集権制（幕藩制）社会が形成された時代と位置づける見方が影響している」
具体的には土地支配制度の後進性をまず指摘してーー
７０頁：「（北条氏や今川氏が）貫高制や統一的な知行制を行なったに対して、信長は天正五年（１５７７）まで検地を行なっていない。ーーー安堵でも欠所でも旧来の百姓・土地支配方式がそのまま継続されている。信長には政権末期に至るまでは検地を行なって新しい土地支配制度をつくり出そうとか、それをもとに新しい知行制をつくろうとかいう志向がなかった。北条氏が永正三年（１５０６）に検地をはじめるのに対し，七十年の遅れがある」と朝倉氏滅亡後一揆持ちの国となった越前の再征服（天正三年、１５７３）を経てようやく直接統治に向かうとする。
一方で信長の財力に注目し、天下布武が「はじめ都市と流通の支配を中心に構想されていたのではないか」と信長の重商主義志向を指摘する。
豊臣秀吉も基本的に信長の路線を踏襲し、家康は「秀吉がつくりあげた支配制度を基本的なところではほぼ全面的に継承し」たとする。
一般向けの叢書でありながら野心的な構想の本である。面白いのは信長論なので信長に絞った叙述が期待出来る。
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