恩田陸の麦の海に沈む果実が大好きなんですが、続編であるこの話を学生の頃読む気にならなかったのは憂理がさして好きな登場人物ではなかったからだと思います。
あらすじを読んでも当時は全く面白そうだと思いませんでした。
ふと、理瀬シリーズの続編でてるのかな?と思って検索してみると、この作品で憂理のその後がわかる、そして憂理が好きな人はショックを受けるので読まないほうが良いというコメントがあって逆に読んでみようという気になりました。
読むと確かにショックは受けるのですが、意外ではありません。むしろ麦の〜を読んでいる人には納得のいくその後ではないでしょうか。
麦の〜の登場人物は全員その後幸せになれないだろうな、という感じがしていましたが、あの学園を出た後に理瀬のように「特殊」ではなかった生徒がどれだけ世の中で苦しんだのかと思うと胸に詰まるものがあります。
この作品の語り部である4人は全員あの学園とは全く無関係な人々ですが、私はこの作品はやはりあの学園がある世界だと思いました。
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黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫) 文庫 – 2006/4/14
恩田 陸
(著)
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- 本の長さ384ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2006/4/14
- 寸法10.8 x 1.4 x 14.8 cm
- ISBN-104062753618
- ISBN-13978-4062753616
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商品の説明
出版社からのコメント
記憶から消せない過去を誰もが持っている!同級生の男女四人による神聖な島への旅。思いは現在から離れ、過去の不思議な事件へと引き戻されていく。それぞれの回想は想像もつかない真相へと迫っていった!
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2006/4/14)
- 発売日 : 2006/4/14
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 384ページ
- ISBN-10 : 4062753618
- ISBN-13 : 978-4062753616
- 寸法 : 10.8 x 1.4 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 47,732位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1964(昭和39)年、宮城県生れ。早稲田大学卒。
1992(平成4)年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を、2006年『ユージニア』で日本推理作家協会賞を、2007年『中庭の出来事』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞した。
ホラー、SF、ミステリーなど、さまざまなタイプの小説で才能を発揮している。著書に、『三月は深き紅の淵を』『光の帝国 常野物語』『ネバーランド』『木曜組曲』『チョコレートコスモス』『きのうの世界』などがある。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2006年10月3日に日本でレビュー済み
あの大学生は何だったのだろう?妙に気になるけれども、謎めいたままだ。額に汗した者だけが得られる高揚感が広がる文章は、一人一人の感情を収斂させていく。何かを得て島を後にしたとき、生きる希望がわいてきたのだと思う。
2006年6月18日に日本でレビュー済み
学生時代の友人である男女4人が,仕事や家庭を抱える歳になった今,
大自然に囲まれる島への旅に出て,想い,語ります.
そんな中,トラウマや相手への感情があらわになる様子は,
人間くささを感じ,生々しくて読み応えがあります.
また,物語の鍵となるある人物について語られるところも,
記憶の曖昧さや意図的な情報操作でぼやけた印象なのですが,
却ってそれがリアルに感じられてよかったと想います.
ただ,その曖昧さがそのまま最後まで続いてしまって,
その鍵となる人物のことははっきりとしないままです.
やんわりとぼかす『大人の対応』と読み取りましたが,
かなり重要な人物のはずなのでどうも物足りませんでした.
あとは,舞台となる地名や名所がイニシャルなのですが,
これに出くわすたびに現実に戻されたような違和感でした.
それならまったく架空の地名にすればよかったのでは….
余談ですが,旅のお題で『美しい謎』を持参して語り合うのですが,
イメージとしてはちょっと知的な居酒屋トークといった具合.
ただ,登場人物それぞれがなかなか頭の切れる人たちばかりで,
そのアプローチは本題とは直接関係ないのですがおもしろかったです.
大自然に囲まれる島への旅に出て,想い,語ります.
そんな中,トラウマや相手への感情があらわになる様子は,
人間くささを感じ,生々しくて読み応えがあります.
また,物語の鍵となるある人物について語られるところも,
記憶の曖昧さや意図的な情報操作でぼやけた印象なのですが,
却ってそれがリアルに感じられてよかったと想います.
ただ,その曖昧さがそのまま最後まで続いてしまって,
その鍵となる人物のことははっきりとしないままです.
やんわりとぼかす『大人の対応』と読み取りましたが,
かなり重要な人物のはずなのでどうも物足りませんでした.
あとは,舞台となる地名や名所がイニシャルなのですが,
これに出くわすたびに現実に戻されたような違和感でした.
それならまったく架空の地名にすればよかったのでは….
余談ですが,旅のお題で『美しい謎』を持参して語り合うのですが,
イメージとしてはちょっと知的な居酒屋トークといった具合.
ただ,登場人物それぞれがなかなか頭の切れる人たちばかりで,
そのアプローチは本題とは直接関係ないのですがおもしろかったです.
2008年4月26日に日本でレビュー済み
こちらは、蒔生と節子の視点で語られる物語です。
蒔生のお当番で、物語全体を貫いていた梶原憂理の謎が解けます。
ただ、かなり最初のほうで、事情はだいたい察せられるかなあ、という気もしました。
ありきたりではあるのですが、ひとまず彼の話で物語全体の山場が終わるかな、という感じでした。
ラストは節子。
彼女の視点で、旅の一行はJ杉までたどり着き、終わりを迎えます。
彼女なりの語り口であらわされる自然の大きさと、蒔生を中心としたどろどろとした人間関係の中、唯一外側にいたかのように見えた彼女の事情とが、よくマッチしていました。
これまでの3章でそれほど内面があらわされていなかった分、節子のお当番はおもしろかったです。
旅が終わる切なさもよく出ていたし、いいお話だと思いました。
恩田陸さん、下手なミステリー書くより、こういうお話のほうが向いている気がします。
蒔生のお当番で、物語全体を貫いていた梶原憂理の謎が解けます。
ただ、かなり最初のほうで、事情はだいたい察せられるかなあ、という気もしました。
ありきたりではあるのですが、ひとまず彼の話で物語全体の山場が終わるかな、という感じでした。
ラストは節子。
彼女の視点で、旅の一行はJ杉までたどり着き、終わりを迎えます。
彼女なりの語り口であらわされる自然の大きさと、蒔生を中心としたどろどろとした人間関係の中、唯一外側にいたかのように見えた彼女の事情とが、よくマッチしていました。
これまでの3章でそれほど内面があらわされていなかった分、節子のお当番はおもしろかったです。
旅が終わる切なさもよく出ていたし、いいお話だと思いました。
恩田陸さん、下手なミステリー書くより、こういうお話のほうが向いている気がします。
2007年6月17日に日本でレビュー済み
エンターテイメントでありながらも、人物描写が素晴らしい。
「自己」というものが、いかに多面的で不確かであるかについて描きつつ、
なぜ人が互いに惹かれ合い、嫌悪し合うのかといった関係性の妙、
人生の綾についても、男女4人の語りを通して鮮やかに浮かび上がらせる。
むろん、人生の実像は期待はずれや失望、いたずらの連続である。
それこそ、「小説」のように甘美なものではない。
しかし、この4人のひとたちの、なんと愛おしいことか。
太古の森の彩りに負けず劣らず、人間の泥臭さといったもののがいかに
慈しくひかりに満ちているか、この小説は教えてくれる。
「自己」というものが、いかに多面的で不確かであるかについて描きつつ、
なぜ人が互いに惹かれ合い、嫌悪し合うのかといった関係性の妙、
人生の綾についても、男女4人の語りを通して鮮やかに浮かび上がらせる。
むろん、人生の実像は期待はずれや失望、いたずらの連続である。
それこそ、「小説」のように甘美なものではない。
しかし、この4人のひとたちの、なんと愛おしいことか。
太古の森の彩りに負けず劣らず、人間の泥臭さといったもののがいかに
慈しくひかりに満ちているか、この小説は教えてくれる。
2007年5月21日に日本でレビュー済み
恩田陸という人の作品は、なんとジャンル分けしづらいことか。ミステリもあればファンタジーもあり、オカルトっぽいものもある。では、この作品はどのジャンルに属するか、と考えると、どのジャンルもふさわしくない気がする。食事をしながら、森を歩きながら、交わす会話。時折、過去を思い出す。ふとわいた疑問を口にして、他のメンバーがそれに応える。そんな調子で時が過ぎていく物語。
上下を通して読み終わって、まず思ったことは、これをもっと若い時に読んでいたら、全く違った感想を持っただろうなあということ。30代になってそれなりに社会での経験も積んで、結婚もして子どももいて、という状況だからこそ、この4人の境遇に自分を重ね合わせてみたりすることもできるのかもしれない。どんな人でも、その人を一言で表すことはできない。この4人もそうだが、人から見た自分と、うちからみた自分は違うし、周りがわかっている自分を必ずしも自分自身がわかっているとは限らない。
「利枝子」「彰彦」「蒔生」「節子」の4部からなるこの小説は、4人がY島で過ごした数日間の物語だが、こんなふうに、普段は考える必要のないことでも、ある時期には正面からぶつかっていかないといけないこともあるのかもしれない。この4人にとっては、それがたまたまY島への旅行という形でやってきた、ということ。そしてそれをくぐり抜けた時、それぞれが手にするのはなんなのか。
読み終わった時に、読んだ人の分だけ感想があるでしょう。ただ、おもしろいとか内容に関する感想だけじゃなくて、自分自身のこともふりかえったり、これからのことを考えてしまうかもしれません。
上下を通して読み終わって、まず思ったことは、これをもっと若い時に読んでいたら、全く違った感想を持っただろうなあということ。30代になってそれなりに社会での経験も積んで、結婚もして子どももいて、という状況だからこそ、この4人の境遇に自分を重ね合わせてみたりすることもできるのかもしれない。どんな人でも、その人を一言で表すことはできない。この4人もそうだが、人から見た自分と、うちからみた自分は違うし、周りがわかっている自分を必ずしも自分自身がわかっているとは限らない。
「利枝子」「彰彦」「蒔生」「節子」の4部からなるこの小説は、4人がY島で過ごした数日間の物語だが、こんなふうに、普段は考える必要のないことでも、ある時期には正面からぶつかっていかないといけないこともあるのかもしれない。この4人にとっては、それがたまたまY島への旅行という形でやってきた、ということ。そしてそれをくぐり抜けた時、それぞれが手にするのはなんなのか。
読み終わった時に、読んだ人の分だけ感想があるでしょう。ただ、おもしろいとか内容に関する感想だけじゃなくて、自分自身のこともふりかえったり、これからのことを考えてしまうかもしれません。
2006年10月5日に日本でレビュー済み
恩田陸作品、夜のピクニックを読んで以来、このサイトで評価の高いものを片っ端から読んでます。これはぶ厚いけれど恩田作品の中では読みやすい部類だと思います(夜ピクなみに)。屋久島の湿度ベタベタな深い深い森を自分も一緒にさまよう気分になるのはいつもの恩田節ですが、「蛇行する川のほとり」や「麦の海に沈む果実」や「月の裏側」「ユージニア」のような作品に比べるとライトなんです。登場人物4人の会話が多用されてるので他作品のような重苦しさ(そこが良さでもあります)が薄まってるんです。恩田陸は夜ピクかこの作品から入るのがよろしいかと私は思います。映画にならないかな。利枝子は木村多江さん、彰彦は加藤雅也、蒔生は堺雅人…なんて想像しながら読んでました。
2006年4月29日に日本でレビュー済み
4人の男女が旅に出て過去という名の謎に向き合う。恩田作品においては処女性の代名詞のような少女・憂理が物語のカギを握り、また、トラウマめいた謎が後をたたないが、これはおとなの物語だ。「おとなではなかった頃」に戻りたくても戻れないことを知っているおとなたちの物語である。4人はそろって怜悧な頭脳の持ち主だ。観察眼、判断力、想像力に優れ、なのに自分のこととなると途端に蒙昧になる。大切な人間が立ちはだかり、盲点を作っているからだろう。利枝子にとっての蒔生、彰彦にとっての姉・紫織、そして蒔生にとっての憂理だ。自分自身のなかに死角をもった彼らは、危うい。最も現実的な節子でさえ幼いころの危うさを内包している。解けない謎はなかった。謎を謎のままにしておけない4人の潔癖さが辛い印象を残す。一方、彼らが歩く森は、人間が足を踏み入れることのできない暗やみに膨大な謎を隠し、けれど圧倒的に安定している。自然との対比が鮮やか。