いかにも恩田さんらしい不思議な物語でした。恩田さん作品は読んでいるとその世界に入り込んでしまい、もうどこにも行きたくなくなってしまいます。
ある地方都市にふらっとひとりの男がやってきて住みつきます。人当たりがよくいかにも善人だけど、印象が薄く記憶に残らない顔。そんな男が意外にも殺人事件の被害者になり、しかも犯人はいつまでたってもみつからないまま。しかも彼は東京で失踪していた人物だということがわかってきます。会社の上司の送別会に普通に出席し、翌日無断欠勤してそのまま消息を絶ってしまった、そして家族が誰もいないという人物。
”あなた”とここでは二人称で書かれる人間が、この町に事件の真相を調べにやってきます。この人物が出会う様々な町の人々。彼らはみんな何かを隠しているように思える。物語は時に過去にさかのぼり、男が生きていた頃に戻って昔のエピソードが展開します。
何のためにあるのかわからない不思議な3つの塔。男が亡くなっていたのは係争地になったこともある隣の市の飛び地の丘。その丘を監視していたらしい元学校教師の老人。大昔から土地の水路を管理してきた職能集団の一族・・などなど謎めいた要素がいっぱいです。いつもの不穏で不可思議な雰囲気がどんどん増していくのがとてもいいです。
ただ、残念なことに、ラストが納得がいきませんでした(今回はしっかりオチがありますが)。恩田さん作品では人は死にますが、本当に悪どい人間はあまり出てきません。たとえば「訪問者」でもそうでしたが、振り返ってみれば結局みんな善人だった?ということが多く、恐ろしげな雰囲気の盛り上がりが半端ではないため、そこがなんだか肩透かしになってしまうことがよくあります。この作品もそうでした。最後までものすごく惹きつけられたのに、真相がわかるいちばん最後の1章「水無月橋の殺人事件」だけが納得いきませんでした。
町の秘密も恐ろしいものではなく、”あなた”と称された主人公とも言える人物も、陰謀が裏にあったかのようにハラハラさせておきながら、あんなにあっさり消えてしまうなんて。殺された男の弟さんはどうなったのか?このあたりも中途半端でちょっと残念でした。最後の章に至るまでは文句なしに星5つなんですが。なので上巻が星5つ、下巻は星4つにしました。
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きのうの世界(上) (講談社文庫) 文庫 – 2011/8/12
恩田 陸
(著)
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- 本の長さ320ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2011/8/12
- 寸法10.8 x 1.2 x 14.8 cm
- ISBN-104062770377
- ISBN-13978-4062770378
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2011/8/12)
- 発売日 : 2011/8/12
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 320ページ
- ISBN-10 : 4062770377
- ISBN-13 : 978-4062770378
- 寸法 : 10.8 x 1.2 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 102,090位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1964(昭和39)年、宮城県生れ。早稲田大学卒。
1992(平成4)年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を、2006年『ユージニア』で日本推理作家協会賞を、2007年『中庭の出来事』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞した。
ホラー、SF、ミステリーなど、さまざまなタイプの小説で才能を発揮している。著書に、『三月は深き紅の淵を』『光の帝国 常野物語』『ネバーランド』『木曜組曲』『チョコレートコスモス』『きのうの世界』などがある。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年11月19日に日本でレビュー済み
恩田氏独特のクロスオーバー的作品だった気がします。
殺人事件、地方史伝奇風味添え、そして最終的に死者のエンディングスピーチ。みたいな。
・・・
前半部分はやや入り込めなかったです。
まるで催眠術師に語られるかの如く「あなたはふとそこで気づきます。何かがおかしいと」、という感じの自分の行為を第三者に説明してもらうかのような描写はすこし取っつきづらかった。
また視点が頻繁に切り替わるのは、思考の一貫性をやや妨げるきらいはありました。ただしあとがきで本作が新聞連載であることを知り合点がいきました。
・・・
謎の殺人事件も、とにかく前半はモヤモヤしますが、何とか頑張って頂きたく。後半はもう少し視界が晴れてきます。なかなか面白くなりますよ。
ただ言ってしまうと、やはり恩田ファン向けの作品かなあと思います。
殺人事件、地方史伝奇風味添え、そして最終的に死者のエンディングスピーチ。みたいな。
・・・
前半部分はやや入り込めなかったです。
まるで催眠術師に語られるかの如く「あなたはふとそこで気づきます。何かがおかしいと」、という感じの自分の行為を第三者に説明してもらうかのような描写はすこし取っつきづらかった。
また視点が頻繁に切り替わるのは、思考の一貫性をやや妨げるきらいはありました。ただしあとがきで本作が新聞連載であることを知り合点がいきました。
・・・
謎の殺人事件も、とにかく前半はモヤモヤしますが、何とか頑張って頂きたく。後半はもう少し視界が晴れてきます。なかなか面白くなりますよ。
ただ言ってしまうと、やはり恩田ファン向けの作品かなあと思います。
2023年2月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この作品はのどかで小さな街の秘密が語られるが、物語に厚みがあって面白い。
下巻中盤の焚き火のシーンは下手なホラーより怖く、こんなのも書けるのだと感心もする。
その場面も後から見るとモヤモヤ感が残るのは否めないが、謎解きも見事で、のどかで小さな街を突然スケールの大きいパニックの舞台に変えてしまうのは作者の真骨頂だ。
ただ、他の方も言う通り伏線の回収が不十分で、本来の主人公かと思われた「あなた」がどこかへ消失してしまったり、謎解きに名乗りを上げる他の登場人物達も中途半端で不可解な気はした。
元が連載小説らしいので原稿の都合でこうなってしまったのか?
そういうことに目をつぶれれば(そういう大らかさを持って読めれば)、物語としてはちゃんと終わってるので、安心して最後まで読んほしい。
なお、表に出ないエピソードだが、特殊能力者の苦悩というのはどこまで本当かは分からないが、凡人の私には興味深い内容だった。
下巻中盤の焚き火のシーンは下手なホラーより怖く、こんなのも書けるのだと感心もする。
その場面も後から見るとモヤモヤ感が残るのは否めないが、謎解きも見事で、のどかで小さな街を突然スケールの大きいパニックの舞台に変えてしまうのは作者の真骨頂だ。
ただ、他の方も言う通り伏線の回収が不十分で、本来の主人公かと思われた「あなた」がどこかへ消失してしまったり、謎解きに名乗りを上げる他の登場人物達も中途半端で不可解な気はした。
元が連載小説らしいので原稿の都合でこうなってしまったのか?
そういうことに目をつぶれれば(そういう大らかさを持って読めれば)、物語としてはちゃんと終わってるので、安心して最後まで読んほしい。
なお、表に出ないエピソードだが、特殊能力者の苦悩というのはどこまで本当かは分からないが、凡人の私には興味深い内容だった。
2011年9月20日に日本でレビュー済み
他の方も書いていますが伏線が回収しきれていないってのはちょっとねぇ…
恩田さんの作品を読むのは実に6〜7年ぶりで、
「不調か?」と思ってしばらく遠ざかっていたのですが、
書店でしばらくぶりにみかけ、「復調か?」と思い読んでみました。
上巻で「復調だ〜^^」と思っていたのですが、
下巻からの急展開な失速ぶり()に「えーん;;」となって終わりました。
最近読んでないのでわからないんですが、いつもこんな調子なんだろうか?
こんなに魅力的な文章が書けるのに、勿体無くて男泣きしたくなる。
世界観はすっごい好きなんですけどねぇ。
せめて球形の季節みたいなのでいいからちゃんと終わってほしかった。
恩田さんの作品を読むのは実に6〜7年ぶりで、
「不調か?」と思ってしばらく遠ざかっていたのですが、
書店でしばらくぶりにみかけ、「復調か?」と思い読んでみました。
上巻で「復調だ〜^^」と思っていたのですが、
下巻からの急展開な失速ぶり()に「えーん;;」となって終わりました。
最近読んでないのでわからないんですが、いつもこんな調子なんだろうか?
こんなに魅力的な文章が書けるのに、勿体無くて男泣きしたくなる。
世界観はすっごい好きなんですけどねぇ。
せめて球形の季節みたいなのでいいからちゃんと終わってほしかった。
2011年10月7日に日本でレビュー済み
書き出しの不思議な文体が新鮮で、初めて恩田作品を手に取りました。
文体に慣れるまでは読みづらいですが、徐々に慣れてきて面白くなってきます。
どんな謎が待っているのかとワクワクしながら読み進めましたが…。
中盤以降の展開がゆっくりというか、同じような内容が繰り返されてばかりで、ちょっと退屈。
きっと後半に面白い謎解きが待っていると信じて下巻を読みました。
結果は…下巻の方がしんどかったです。
あとがきによると、連載していたものだということなので、
その都度説明っぽい事が必要なのかもしれませんが、上巻に輪を掛けた展開の遅さ!!
さらに頑張って読んだのにこの結末かっ、と言いたくなる終わり方でした。
伏線はほったらかし、意外性のあるどんでんがえしもなし。
書き出しの文体もだんだん無視されて、誰にも感情移入できずに終わり。
独特の世界観なのでしょうが、私は次回作を読もうとは思えませんでしたね。
辛口で失礼しました。
文体に慣れるまでは読みづらいですが、徐々に慣れてきて面白くなってきます。
どんな謎が待っているのかとワクワクしながら読み進めましたが…。
中盤以降の展開がゆっくりというか、同じような内容が繰り返されてばかりで、ちょっと退屈。
きっと後半に面白い謎解きが待っていると信じて下巻を読みました。
結果は…下巻の方がしんどかったです。
あとがきによると、連載していたものだということなので、
その都度説明っぽい事が必要なのかもしれませんが、上巻に輪を掛けた展開の遅さ!!
さらに頑張って読んだのにこの結末かっ、と言いたくなる終わり方でした。
伏線はほったらかし、意外性のあるどんでんがえしもなし。
書き出しの文体もだんだん無視されて、誰にも感情移入できずに終わり。
独特の世界観なのでしょうが、私は次回作を読もうとは思えませんでしたね。
辛口で失礼しました。
2011年8月23日に日本でレビュー済み
不思議な二つの塔と(こわれたもう一つの塔と)水路に囲まれた小さな町。そこの水無橋の上で一人の男が殺されていた。その男は一年前に不意に失踪した男だった。わずか十数分の間に誰がその男を殺したのか。そして近くのバス停に落ちていた犯行現場を示すメモは?
ということで、ひさびさの恩田陸は殺人ミステリです。
しかし、さすがに恩田陸。一筋縄ではいきません。普通の小説なら、少しずつ少しずつ小出しに出されていく情報と状況描写で、本来ならどんどん物語の輪郭が絞り込まれていくはずなんですが、この小説では情報はひたすら物語の輪郭を大きく曖昧にしていきます。端正な文章を読んでいるうちに、物語は深い霧の中に広がっていきます。下巻でどんどん物語は収束していくとは思いますが、非常にミステリアスな、恩田陸らしい小説です。
ネタバレにならないように、上巻の紹介としてはこのあたりで。
ということで、ひさびさの恩田陸は殺人ミステリです。
しかし、さすがに恩田陸。一筋縄ではいきません。普通の小説なら、少しずつ少しずつ小出しに出されていく情報と状況描写で、本来ならどんどん物語の輪郭が絞り込まれていくはずなんですが、この小説では情報はひたすら物語の輪郭を大きく曖昧にしていきます。端正な文章を読んでいるうちに、物語は深い霧の中に広がっていきます。下巻でどんどん物語は収束していくとは思いますが、非常にミステリアスな、恩田陸らしい小説です。
ネタバレにならないように、上巻の紹介としてはこのあたりで。
2011年8月26日に日本でレビュー済み
取り敢えず、読み終わるにあたって頭の中に浮かんだのは「良くも悪くも「恩田さんらしい」作品だなぁ」ということでした。
私見ですが、恩田作品の多くは、途中まで「作品に惹き込まれてしまってページをめくる手が止められない」という状態が物語終盤まで続くのですが、肝心のラストになると「こういう終わり方は有りなのか?」と感じてしまう事が多いように思います。
しかし、恩田さん好きな私にしてみたら、この作品は「どちらかといえば「有り」だな」と思えるような終わり方になっていると思います。もっと言えば、終わり方が個人的に「綺麗だなぁ」と思えるような出来になっていると思います。
とはいえ、核心部分の謎については「ふぁんたじー」に頼ったようなものであったことに加え、結局「主人公格の女性の死の真実」「被害者の弟」「駅のステンドグラスの鋏と雲の謎」といった伏線を回収できていないようにも思えたので、評価は☆3つですね。
…でもまぁ、この「伏線を張り巡らせ過ぎて回収しきれなくなる」といった辺りに一番「恩田さんらしさ」が出ているかなぁ、と思えなくもないのが恩田クオリティーですね(苦笑)
私見ですが、恩田作品の多くは、途中まで「作品に惹き込まれてしまってページをめくる手が止められない」という状態が物語終盤まで続くのですが、肝心のラストになると「こういう終わり方は有りなのか?」と感じてしまう事が多いように思います。
しかし、恩田さん好きな私にしてみたら、この作品は「どちらかといえば「有り」だな」と思えるような終わり方になっていると思います。もっと言えば、終わり方が個人的に「綺麗だなぁ」と思えるような出来になっていると思います。
とはいえ、核心部分の謎については「ふぁんたじー」に頼ったようなものであったことに加え、結局「主人公格の女性の死の真実」「被害者の弟」「駅のステンドグラスの鋏と雲の謎」といった伏線を回収できていないようにも思えたので、評価は☆3つですね。
…でもまぁ、この「伏線を張り巡らせ過ぎて回収しきれなくなる」といった辺りに一番「恩田さんらしさ」が出ているかなぁ、と思えなくもないのが恩田クオリティーですね(苦笑)
2011年12月20日に日本でレビュー済み
他のレビューにもありましたが、
最初の行がわかりづらく、長く、誰のことを指しているのか
さっぱりわからず。
同じオトコを、同じ表現で、何度も繰りかえしているので
なんだか聞きあきた感じにも。
結局、主人公は誰?で終わってしまいました。
最初の行がわかりづらく、長く、誰のことを指しているのか
さっぱりわからず。
同じオトコを、同じ表現で、何度も繰りかえしているので
なんだか聞きあきた感じにも。
結局、主人公は誰?で終わってしまいました。