大英帝国がいかに成立したか?
なんていうと堅苦しい歴史書と考えてしまうが、本書は読み出したらやめられないほど面白い。
私が小学校の頃は「日の没することのない大英帝国」と教わった。地球上のあらゆるところに植民地をもつ大英帝国のことを表したものである。
でも、それは、いかにして成り立ったか。
本書によれば英国の植民地だったアメリカが独立したが契機だという。それに代わるものとして、インド、オーストラリア、西インド諸島、アフリカなどあらゆるところに植民地を求めて英国は進出した。
また、英国の経済発展の大きな支えに奴隷貿易がある。黒人奴隷と言うと、どうしてもアメリカを思い出してしまうが、アメリカは奴隷を使う場所、英国はその黒人奴隷の供給国として大きな役割を果たした。
本書には奴隷貿易の過酷な実態、例えば黒人奴隷は奴隷船にとっては積み荷にすぎず、荒天の中の航海では一度に100人以上の奴隷を海に投げ込んだりした。そのような個々の事実に基づく説明は読者を飽きさせない。
いかにして紅茶やコーヒーを飲むことが英国の習慣となったか。
大英博物館の成立の歴史。
ボーイスカウトの成立理由・・・・・
色々な知識が事実に基づいて具体的に説明され、著者の該博な知識に驚かされる。
他にも、アフリカの黒人教育に身をささげた女性など、まさに本書は知識の宝庫である。
読んで良かった、これが読後の感想である。
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大英帝国という経験 (興亡の世界史) 単行本 – 2007/4/18
井野瀬 久美惠
(著)
解体と再編の歴史から、現代を読み解く
未曾有の世界帝国は、「アメリカ喪失」から始まった
連合王国にとって、アメリカを失うという経験こそが、19世紀、ヴィクトリア朝の帝国ネットワークを築く画期となった。奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へ、保護貿易から自由貿易へ。植民地喪失と帝国再編に揺れ続けた国民のアイデンティティ。帝国となった島国の経験とは、どのようなものだったのか。
■イラク、アフガニスタン、アイルランド…現在の世界が抱える問題の根幹に触れる
アイルランド、インド、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、中東、香港……世界中いたる所にその足跡を残した大英帝国。この拡大は、紅茶や石鹼などの生活革命を世界的に広める一方で、時には深刻な問題の種を植民地に蒔く結果ともなり、その影響は現代にまで及んでいます。大英帝国を知ること、それは「今を知る」ことに他なりません。
■大陸の片隅にある島国の「帝国への伸張」は、「アメリカ独立」から始まった!
これまでイギリス史のうえで「例外的なエピソード」として捉えられてきた「アメリカの独立」。井野瀬氏はこの出来事以前と以後のイギリスという帝国の性格の違いに着目し、むしろこの喪失の「経験」こそが、のちに未曾有の発展を遂げる大英帝国の基礎になった、と述べています。保護貿易から自由貿易へ、奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へと変容を遂げた帝国の内実が、手に取るように理解できます。
■今なおイギリスを揺さぶる「奴隷貿易」の過去
昨今、わが国では従軍慰安婦問題が取り沙汰されていますが、奴隷貿易廃止法制定200周年にあたる2007年、英国では「奴隷貿易の支配者」であった過去を踏まえ、「謝罪」のあり方について、国民の間で議論が沸騰しています。イギリスでは欧米諸国に先んじて奴隷制度が廃止されましたが、本書には、どのような人びとが尽力し、どのような経緯を経て、またどのような事情から廃止に至ったのかが、生き生きと描かれています。
未曾有の世界帝国は、「アメリカ喪失」から始まった
連合王国にとって、アメリカを失うという経験こそが、19世紀、ヴィクトリア朝の帝国ネットワークを築く画期となった。奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へ、保護貿易から自由貿易へ。植民地喪失と帝国再編に揺れ続けた国民のアイデンティティ。帝国となった島国の経験とは、どのようなものだったのか。
■イラク、アフガニスタン、アイルランド…現在の世界が抱える問題の根幹に触れる
アイルランド、インド、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、中東、香港……世界中いたる所にその足跡を残した大英帝国。この拡大は、紅茶や石鹼などの生活革命を世界的に広める一方で、時には深刻な問題の種を植民地に蒔く結果ともなり、その影響は現代にまで及んでいます。大英帝国を知ること、それは「今を知る」ことに他なりません。
■大陸の片隅にある島国の「帝国への伸張」は、「アメリカ独立」から始まった!
これまでイギリス史のうえで「例外的なエピソード」として捉えられてきた「アメリカの独立」。井野瀬氏はこの出来事以前と以後のイギリスという帝国の性格の違いに着目し、むしろこの喪失の「経験」こそが、のちに未曾有の発展を遂げる大英帝国の基礎になった、と述べています。保護貿易から自由貿易へ、奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へと変容を遂げた帝国の内実が、手に取るように理解できます。
■今なおイギリスを揺さぶる「奴隷貿易」の過去
昨今、わが国では従軍慰安婦問題が取り沙汰されていますが、奴隷貿易廃止法制定200周年にあたる2007年、英国では「奴隷貿易の支配者」であった過去を踏まえ、「謝罪」のあり方について、国民の間で議論が沸騰しています。イギリスでは欧米諸国に先んじて奴隷制度が廃止されましたが、本書には、どのような人びとが尽力し、どのような経緯を経て、またどのような事情から廃止に至ったのかが、生き生きと描かれています。
- ISBN-104062807165
- ISBN-13978-4062807166
- 出版社講談社
- 発売日2007/4/18
- 言語日本語
- 本の長さ398ページ
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2007/4/18)
- 発売日 : 2007/4/18
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 398ページ
- ISBN-10 : 4062807165
- ISBN-13 : 978-4062807166
- Amazon 売れ筋ランキング: - 326,967位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 81位イギリス・アイルランド史
- カスタマーレビュー:
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2023年4月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2018年1月4日に日本でレビュー済み
奴隷制度が必要になればそれを推進し、いらなくなれば奴隷解放の旗手となる(ただし、奴隷的労働は残る)
国境を越えた地球規模の資本主義(徒、それを支える物流、通信システムの構築)
需要があっての供給ではなく、需要を作り出す資本主義の手法
帝国を手段とした知の世界化、そうして集めた知の娯楽化
ツーリズム。それも、旅行の大衆化と、その先の旅行の差別化
etc.etc.
世界のフォーマットを作り出した大英帝国という「経験」これは、ただ英国民の経験のみならず、人類の経験ともいうべきだろう。
ただし、「経験」とは振り返るものではなく、次に活かせて初めて「経験」たり得るとも。
なお、文庫版あとがきがあまりにもイデオロギーくさいので☆一つ減とする。
そもそも、WW2において英国がその科学技術を総動員したのは、大前提というか常識であって、それを「隠されていた物が明らかになった」とか何を言いたいのかわからない。フェイクニュース的な物である。そこから派生した「どこかの国」へのコメントも、もう特定のイデオロギー、政治姿勢を事実から優先している物で、とても受け入れられない。
もしも、この文庫版あとがきを先に読んでいたら、決して購入も本文を読むこともなかったであろう。
国境を越えた地球規模の資本主義(徒、それを支える物流、通信システムの構築)
需要があっての供給ではなく、需要を作り出す資本主義の手法
帝国を手段とした知の世界化、そうして集めた知の娯楽化
ツーリズム。それも、旅行の大衆化と、その先の旅行の差別化
etc.etc.
世界のフォーマットを作り出した大英帝国という「経験」これは、ただ英国民の経験のみならず、人類の経験ともいうべきだろう。
ただし、「経験」とは振り返るものではなく、次に活かせて初めて「経験」たり得るとも。
なお、文庫版あとがきがあまりにもイデオロギーくさいので☆一つ減とする。
そもそも、WW2において英国がその科学技術を総動員したのは、大前提というか常識であって、それを「隠されていた物が明らかになった」とか何を言いたいのかわからない。フェイクニュース的な物である。そこから派生した「どこかの国」へのコメントも、もう特定のイデオロギー、政治姿勢を事実から優先している物で、とても受け入れられない。
もしも、この文庫版あとがきを先に読んでいたら、決して購入も本文を読むこともなかったであろう。
2017年12月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
基本的には優れた著作だと思われる。気になったのは一点だけ。第一次j大英帝国が、ヨーロッパ・アフリカ・南北アメリカの「三大陸」を結ぶ大西洋帝国だったという記述だが、南北アメリカは別の大陸である。それともヨーロッパを大陸に数えていないのだろうか(確かにユーラシア大陸の一部ではあってもヨーロッパだけでは大陸とはいえないということか)。
2021年8月11日に日本でレビュー済み
「既に大英帝国には数えきれない研究業績」あるということで著者の視点で書かれています
全体の流れの中で大英帝国の動きを記載するのも勿論ありでしょうし、そのほうが正統的ではあるでしょう
著者はそのようなアプローチを取っていません
本シリーズの編纂方針は記載されていないので、編者がどのような視点を採用したかは不明ですが、単なる通史のではなく興亡の世界史としたのは一般的な通史を読んだ方あるいは通史でないアプローチに関心を持った方を対象とするなら、本巻のようなアプローチもあり得るのではないでしょうか
何に重点を置くかで本巻の評価が変わルのではないでしょうか
レビューアにより評価の差もそこから出てきているように思われます
読むかどうかは目次の章立てを見て関心を持てるか判断して購入されるのが良いと思います
私はこのようなシリーズものは巻によりばらつきがあっても、読むようにしています
何か新しい発見を期待するからです
全体の流れの中で大英帝国の動きを記載するのも勿論ありでしょうし、そのほうが正統的ではあるでしょう
著者はそのようなアプローチを取っていません
本シリーズの編纂方針は記載されていないので、編者がどのような視点を採用したかは不明ですが、単なる通史のではなく興亡の世界史としたのは一般的な通史を読んだ方あるいは通史でないアプローチに関心を持った方を対象とするなら、本巻のようなアプローチもあり得るのではないでしょうか
何に重点を置くかで本巻の評価が変わルのではないでしょうか
レビューアにより評価の差もそこから出てきているように思われます
読むかどうかは目次の章立てを見て関心を持てるか判断して購入されるのが良いと思います
私はこのようなシリーズものは巻によりばらつきがあっても、読むようにしています
何か新しい発見を期待するからです
2018年7月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
いろいろな先見論文がありそうなところなのに、内容が平凡。奴隷制については詳しいが、全く新しくない。学校の優等生の書いたつまらない卒論みたい。
2018年4月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
書かれている内容自体は、なかなか興味深くおもしろかったです。勉強になりました。読んで良かったと思います。
しかし一方で、「興亡の世界史」と銘打ったこのシリーズで、大英帝国を論述するのに、こうした手法で良いのか疑問です。当著作はあくまで市民目線、現場視点からの物語となっています。いろいろな事象を丁寧に拾って、さながら現場報告的に記述されていることは、それはそれで大事な視点であるとは思いますが、しかしそうしたエピソードというか、こぼれ話的な内容にあまりに重心が行ってしまうと、大きな流れ、主幹が見えなくなってしまいます。大英帝国の光景、風景、雰囲気の記述になってしまっています。
読者は(少なくとも私は)、このシリーズにそうした内容は期待していないと思うのです。大英帝国とは何であったのか、なぜ、どの様に成長して変質していったのか(崩壊か?)、等の論述を期待していたのですが、そうした点はあまり述べられていません。そもそも、政治、軍事、経済、王権、思想、等がほとんど出てきません。産業革命もありません。これで大英帝国の歴史を叙述できるでしょうか。著者はあとがきでこう述べています。「、、、、すでに大英帝国には数えきれない研究蓄積があり、今なお新しい成果が重ねられている。、、、、、そのすべてを400頁ほどの本にまとめることなどできるはずもない。では私は何を書くべきか、、、、」と。その結果がこの一風変わったユニークな著作ということになるのでしょうが、読者としては「!?」という感じです。オーソドックスな論述を(著者に言わせれば「古臭い」?)期待した私には、肩すかしの本でした。
しかし一方で、「興亡の世界史」と銘打ったこのシリーズで、大英帝国を論述するのに、こうした手法で良いのか疑問です。当著作はあくまで市民目線、現場視点からの物語となっています。いろいろな事象を丁寧に拾って、さながら現場報告的に記述されていることは、それはそれで大事な視点であるとは思いますが、しかしそうしたエピソードというか、こぼれ話的な内容にあまりに重心が行ってしまうと、大きな流れ、主幹が見えなくなってしまいます。大英帝国の光景、風景、雰囲気の記述になってしまっています。
読者は(少なくとも私は)、このシリーズにそうした内容は期待していないと思うのです。大英帝国とは何であったのか、なぜ、どの様に成長して変質していったのか(崩壊か?)、等の論述を期待していたのですが、そうした点はあまり述べられていません。そもそも、政治、軍事、経済、王権、思想、等がほとんど出てきません。産業革命もありません。これで大英帝国の歴史を叙述できるでしょうか。著者はあとがきでこう述べています。「、、、、すでに大英帝国には数えきれない研究蓄積があり、今なお新しい成果が重ねられている。、、、、、そのすべてを400頁ほどの本にまとめることなどできるはずもない。では私は何を書くべきか、、、、」と。その結果がこの一風変わったユニークな著作ということになるのでしょうが、読者としては「!?」という感じです。オーソドックスな論述を(著者に言わせれば「古臭い」?)期待した私には、肩すかしの本でした。
2018年1月3日に日本でレビュー済み
16世紀末に始まったアメリカ大陸への植民から、21世紀初頭のパキスタン系移民によるテロ事件までの400年以上の歴史を扱う。その長い歴史の画期は、一応アメリカ独立に置かれる。帝国の性格は、それ以前の奴隷貿易を含む大西洋の3角貿易からインドを完全に植民地化するプロセスに変化したからだ。さらに、自由貿易によって発展する帝国と言う自己認識も発展する。その奴隷貿易と西インド諸島の砂糖プランテーションも砂糖市況の悪化で経済的に不利になり、加えて啓蒙思想と人権思想の面から廃止運動が起きていく。このあたりが前半で、その後は題名にあるように文化史・社会史的側面の叙述を個人史を交えながら語っていく。著者が女性であることから、多くの女性が取り上げられている。ボーア戦争で従軍看護婦として働き命を落とした人、その人の事跡を確かめるために戦地の捕虜収容所に赴き、捕虜の待遇改善を帝国の戦後統治の観点から改革しようとした人、考古学的興味から中東にのめり込み、悪名たかい帝国のイラク建国に関わった人などだ。幕末日本を訪れたイザベラ・バードのようなレディ・トラベラーも輩出した。男性では観光のための団体旅行を発明したトーマス・クックや万博のクリスタルパレスの設計者も登場する。なぜイングランドではコーヒーでなく紅茶が好まれたのか、フーリガンの起原、いわゆるヴィクトリア朝において権力的な王ではなくミドルクラスの理想的な家庭生活を象徴する王権が確立したことなども説明されており、ページ数に比して浩瀚な内容を扱っている。大英帝国とは日英同盟を結んでいた事もあるし、その帝国が過去の奴隷貿易と現在どう取組んでいるか(なかなか困難なプロセスであるようだが)など旧大日本帝国を短い間ながら経営した日本人にとっても大いに参考になる書物である。ただ、400年に渡る歴史であるから、十分展開できていない部分も当然あるわけで、評者にはその部分はインド史であると感じられた。しかし充実した内容であり読んでためになる本だ。
2009年12月14日に日本でレビュー済み
近年方法論的に多様化の一途をたどるイギリス帝国史研究の現状を紹介してくれる一冊。北米13植民地を主軸としたイギリス第一次帝国から、アメリカ独立に伴い東方に軸足を移して19世紀初頭に整う第二次帝国への変容の過程を、アイデンティティや人々の「帝国経験」を切り口に論じていく。
帝国の建設に参画した一般の民衆の論理や、帝国建設のパートナーとなっていくスコットランド人たちの歴史経験。自立志向の植民地を家庭を通じて帝国に繋ぎ止める役割を担った移民女性たち。大衆社会の成立に合わせるかのように民衆に寄り添う「帝国の母」としてのイメージを確立し、現代的イギリス君主制の礎を築くヴィクトリア女王。労働時間短縮に伴って高まる大衆のレジャーへの関心と、帝国と手に手を取り合って進む観光開発。そして、紅茶が国民的飲み物の地位を獲得して行く影で進行したインドやスリランカのモノカルチャー経済化とそれによって引き起こされた飢餓や現代にまで連なる民族問題などなど・・・。「はじめに」で展開されている問題意識からぶれている所もなきにしもあらずだが、様々な地域や人々の織り成す歴史経験を、文化史、移民史、社会史、女性史や、表象論、文学作品など多様な切り口とエピソードを導入しつつ、大英帝国の再編という大きな物語として総合する手腕はやはり見事という他にない。イギリス帝国の政治外交史的側面に関心のある人にはおそらくあまり好まれないだろうが、帝国は必ずしも政治家や外交官、将軍たちによってのみ築かれたわけではないということを本書は再確認させてくれる。面白かった。
帝国の建設に参画した一般の民衆の論理や、帝国建設のパートナーとなっていくスコットランド人たちの歴史経験。自立志向の植民地を家庭を通じて帝国に繋ぎ止める役割を担った移民女性たち。大衆社会の成立に合わせるかのように民衆に寄り添う「帝国の母」としてのイメージを確立し、現代的イギリス君主制の礎を築くヴィクトリア女王。労働時間短縮に伴って高まる大衆のレジャーへの関心と、帝国と手に手を取り合って進む観光開発。そして、紅茶が国民的飲み物の地位を獲得して行く影で進行したインドやスリランカのモノカルチャー経済化とそれによって引き起こされた飢餓や現代にまで連なる民族問題などなど・・・。「はじめに」で展開されている問題意識からぶれている所もなきにしもあらずだが、様々な地域や人々の織り成す歴史経験を、文化史、移民史、社会史、女性史や、表象論、文学作品など多様な切り口とエピソードを導入しつつ、大英帝国の再編という大きな物語として総合する手腕はやはり見事という他にない。イギリス帝国の政治外交史的側面に関心のある人にはおそらくあまり好まれないだろうが、帝国は必ずしも政治家や外交官、将軍たちによってのみ築かれたわけではないということを本書は再確認させてくれる。面白かった。