本書は、講談社の現代ビジネスに連載されていた「シリコンバレー・イノベーション」を加筆修正したものである。「はじめに」にあるように、「クラウドを説明するのではなく、クラウドで変わるだろう日常の仕事や生活を解説」するものであり、内容は技術一辺倒というわけではない。後半では、著作権法や日米のクラウド（放送政策）などの比較を行っている。現在のDisneyなどの著作権保持企業の動向（たとえば、Disney+は、典型的な著作権保持者が提供する単体アプリケーションとして見ることができる）が、2012年当時の延長線上にあることを確認できる。
ホワイトスペースの割当が政府・行政の権益縮小に繋がっているという話は興味深かった。電波行政は市場競争が働かない日本の護送船団方式のロジックを引き継いでおり、競争力の低い地方局などの保護を行う一方、需要が一層高まるブロードキャストの周波数帯域の増幅を行わず、エンドユーザとなる国民の便益を損ねる情況を作り出したのだ (p. 122) 。この点において、地方放送を肯定的に捉えている西垣通の『マルチメディア』（岩波新書）とは対比的である。
優良企業であるクアルコムも、「フローＴＶ」というテレビ付きフィーチャーフォンの開発で失敗を経験した (p. 180) 。優良なコンテンツを揃えてはいたが、ケーブルテレビなどとの競合により市場に適合しなかったのだ。はたして日本も前車の覆轍を踏むことになったのだろうか。
また、インターネット時代に即していないまねきＴＶの最高裁の判決については、その責任の所在が「視聴者にイノベーションの恩恵を与えず、時代遅れになった著作権法を改正しない政府や国会」(p. 198) にあると指摘している。著作権法はロビー活動に左右されやすいのであり、一般的に著作権保持巨大企業が有利になりやすい。
第５世代通信が開始された現在、電話回線や放送回線などはブロードキャストに回収されかかっているが、いまだ共存している。政府は旧態依然とした護送船団方式ではなく、通信業・放送業界を市場で競争させるようにしなければならないだろう。
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