講談社があちこちのラノベレーベルから作家を集めて新レーベルを創刊するという話はだいぶ前から聞いていたけど
まさかその創刊第一弾ラインナップにこの作家が来るとは予想外!奇才・野崎まどの新作と聞いてゾクゾクしながら拝読
物語は主人公・東京地検特捜部の検事・正崎善が御茶ノ水にある製薬企業・日本スピリの東京営業所の強制捜査に
踏み込んだ場面から始まる。糖尿病治療薬「アグラス」の治療効果を巡る高恩医科大の論文に同社の社員が関わっていた事実から
不正が発覚した事で始まった強制捜査の末、正崎は膨大な押収資料を霞ヶ関の東京地検本部へと持ち帰る
立会事務官の文緒厚彦が「物読み」=証拠資料の読み込み作業、の地味さに嘆きながら一枚の奇妙なメモを見つけた事で事件は幕を開ける
事件に直接関係の無い聖ラファエラ医科大の名が記されたその資料には隅に「F」とだけ記されていたが、
その一見真っ黒に塗り潰されている様な裏面が全て何万字もの「F」という字である事に正崎は気付く
更に爪と髪、そして微量の血液が貼り付いていた事から検事の勘がささやいた正崎は直接日本スピリの不正に関わっていない
聖ラファエラ医科大の捜査に向かう。資料の表側にあった睡眠薬「セイレン」の市販後臨床試験に携わった医師・因幡信を尋ねた正崎だったが
因幡は不在、学生たちは因幡がひどく忙しそうな上、頻繁に老人と女性の二人連れの訪問を受けた事を打ち明ける
登戸にある因幡のマンションに向かった正崎と文緒は同じフロアの住人から因幡の部屋で前日から音楽が鳴り響いていると告げられ
返事が無い部屋に踏み込むが、二人が目にしたのは「カルミナ・ブラーナ」が鳴り響く中、麻酔装置のマスクのみを装着した一糸まとわぬ姿で
恍惚の表情を浮かべながらリクライニングの椅子に横たわる因幡信の死体であった…
ぶったまげた。野崎まどが普通の作家じゃない事は重々承知していたつもりだったけど、予想の遥かに上を行かれた
「アムリタ」から「2」に至るシリーズも「Know」も読んできたけど、更に野崎まどは進化していた
これまで作者が描いて来たのは私人間の極めて狭い人間関係の中で進行する物語がほとんどだったと思うのだけど
今回作者が描いたのは社会そのものである。人間が組織を構築し、組織と組織が膨大な利害関係・権力関係の中で
鎬を削り合う、そんなリアルな社会を描く小説を野崎まどが書くとは…いったい、どれだけ芸の幅が広いのだろう?
物語は検事・正崎善が製薬会社から押収した資料の中から偶然見つかった異様なメモの正体を探ろうとした事から
与党の大物政治家の私設秘書の動きに気付き、その動きを追う中で八王子市・相模原市・多摩市・町田市に跨る巨大な都市開発計画
兼新型自治体「新域」の初代域長選挙に絡む与野党、各業界団体、労組、医学界、様々な勢力の奇妙な結び付き、
利害が相反する各候補勢力が手を取り合い、巨悪を暴く筈の検察庁すらもが巻き込まれた巨大なプロジェクトの実体へと辿り付き、
その中で当初は政治上の貢物と思い込んでいた女性が状況を動かすキーとなっているに事実を突き付けられ、
大切な物を失いながらもその尻尾を掴む所にまで手を伸ばすが…という社会派ミステリ的な色彩を帯びながら進行する
東京西部に全く新しい自治体というよりも一つの新しい「国」をを建設する、という構想からしてリアルな政治劇としての面を持つ本作だけども、
主人公の所属する検察庁や東京地検特捜部といった現実に存在する組織を「物読み」作業といった通常の小説では中々描かれない部分にまで
綿密に描き込み、大手新聞社の記者や所轄の刑事を絡め、医学面においては不正も交えた臨床試験の実体やドラッグラグの問題の様な有名な部分から
御茶ノ水周辺に製薬関連の企業が多いという一般人にはあまり知られて無い(逆に言うと業界関係者なら知っている)情報を盛り込んだり
はたまた川崎にある「聖」が付く私立医科大を登場させたりと徹底してリアリズム重視で描こうとしているのである
ここまで緻密なリアリズムを膨大に積み重ねているからこそ物語の中盤以降、野崎まどが「アムリタ」から「2」に至るまでのシリーズで
描いて来た「女」の得体の知れなさや一巻終盤で遂に顔を見せ始める「死の超越」という目的を掲げた組織の登場といった「Know」にも通じる
巨大なテーマが作中で浮く事も無く、地に足の着いた確かな質感と共に語られるという類稀な読後感を産み出しているのである
緻密な社会を丸ごと描く、という意味ではある種、日本SF界の重鎮・小松左京氏に近い物を感じた。「日本沈没」や「首都消失」の様な
政治すらも呑み込んだ様な巨大な社会の動く様を正面から描き切った作品に至れるかは正直、まだ分からないが、少なくともこの一巻を読んだだけでも
「これは並大抵のスケールの話では無い」と読者に確信させてしまうだけの「厚み」は充分に見て取れ、久しぶりにポリティカルフィクション的な
要素を含んだSFが読めるとオールドSFファンが心躍らせそうな期待を抱かせるだけのボリューム感を感じさせてくれるのである
常に読者の二手先、三手先を行く作家としての凄みを改めて印象付けられた野崎まどの新作、二巻が早くも待ち遠しい
圧倒的な「凄み」を感じた一冊だった
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バビロン 1 ―女― (講談社タイガ) 文庫 – 2015/10/20
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<2019年10月、絶望のアニメ化決定!!>
「鬼か、悪魔か、野崎まど、か。世界はまどに惑わされる」
――アニメプロデューサー
東京地検特捜部検事・正崎善は、製薬会社と大学が関与した臨床研究不正事件を追っていた。その捜査の中で正崎は、麻酔科医・因幡信が記した一枚の書面を発見する。そこに残されていたのは、毛や皮膚混じりの異様な血痕と、紙を埋め尽くした無数の文字、アルファベットの「F」だった。正崎は事件の謎を追ううちに、大型選挙の裏に潜む陰謀と、それを操る人物の存在に気がつき!?
【放送情報】
TOKYO MX 2019年10月7日(月)より 毎週月曜22:00~
BS11 2019年10月7日(月)より 毎週月曜24:00~
(放送日時が変更になる場合があります。ご了承ください。)
Amazon Prime Video にて 日本・海外独占配信
第1章「一滴の毒」(第1話~第3話)日本では10月6日(日) 24:00頃より一挙先行配信
【CAST】
正崎 善 : 中村悠一/九字院 偲 : 櫻井孝宏/文緒厚彦 : 小野賢章
瀬黒陽麻 : M・A・O /守永泰孝 : 堀内賢雄/半田有吉 : 興津和幸
野丸龍一郎 : 宝亀克寿/齋 開化 : 置鮎龍太郎
【STAFF】
原作:野﨑まど「バビロン」シリーズ(講談社タイガ刊)
監督:鈴木清崇
キャラクター原案:ざいん /キャラクターデザイン:後藤圭佑 /音楽:やまだ 豊
アニメーション制作:REVOROOT 製作:ツインエンジン
「鬼か、悪魔か、野崎まど、か。世界はまどに惑わされる」
――アニメプロデューサー
東京地検特捜部検事・正崎善は、製薬会社と大学が関与した臨床研究不正事件を追っていた。その捜査の中で正崎は、麻酔科医・因幡信が記した一枚の書面を発見する。そこに残されていたのは、毛や皮膚混じりの異様な血痕と、紙を埋め尽くした無数の文字、アルファベットの「F」だった。正崎は事件の謎を追ううちに、大型選挙の裏に潜む陰謀と、それを操る人物の存在に気がつき!?
【放送情報】
TOKYO MX 2019年10月7日(月)より 毎週月曜22:00~
BS11 2019年10月7日(月)より 毎週月曜24:00~
(放送日時が変更になる場合があります。ご了承ください。)
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第1章「一滴の毒」(第1話~第3話)日本では10月6日(日) 24:00頃より一挙先行配信
【CAST】
正崎 善 : 中村悠一/九字院 偲 : 櫻井孝宏/文緒厚彦 : 小野賢章
瀬黒陽麻 : M・A・O /守永泰孝 : 堀内賢雄/半田有吉 : 興津和幸
野丸龍一郎 : 宝亀克寿/齋 開化 : 置鮎龍太郎
【STAFF】
原作:野﨑まど「バビロン」シリーズ(講談社タイガ刊)
監督:鈴木清崇
キャラクター原案:ざいん /キャラクターデザイン:後藤圭佑 /音楽:やまだ 豊
アニメーション制作:REVOROOT 製作:ツインエンジン
- 本の長さ320ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2015/10/20
- 寸法10.8 x 1.1 x 14.8 cm
- ISBN-104062940027
- ISBN-13978-4062940023
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商品の説明
内容説明
『バビロン 1 ―女― 』をためし読み
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著者について
野崎 まど
【野崎まど(のざき・まど)】
2009年『[映] アムリタ』で、第一回「メディアワークス文庫賞」の最初の受賞者となりデビュー。 2013年に刊行された『know』(早川書房)は第34回日本SF大賞や、大学読書人大賞にノミネートされた。2017年テレビアニメーション『正解するカド』でシリーズ構成と脚本を、また2019年9月公開の劇場アニメーション『HELLO WORLD』でも脚本を務める。「バビロン」シリーズ(2019年現在、シリーズ三巻まで刊行中)は、2019年10月よりアニメ放送がスタートする。文芸界要注目の危険な作家。
【野崎まど(のざき・まど)】
2009年『[映] アムリタ』で、第一回「メディアワークス文庫賞」の最初の受賞者となりデビュー。 2013年に刊行された『know』(早川書房)は第34回日本SF大賞や、大学読書人大賞にノミネートされた。2017年テレビアニメーション『正解するカド』でシリーズ構成と脚本を、また2019年9月公開の劇場アニメーション『HELLO WORLD』でも脚本を務める。「バビロン」シリーズ(2019年現在、シリーズ三巻まで刊行中)は、2019年10月よりアニメ放送がスタートする。文芸界要注目の危険な作家。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2015/10/20)
- 発売日 : 2015/10/20
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 320ページ
- ISBN-10 : 4062940027
- ISBN-13 : 978-4062940023
- 寸法 : 10.8 x 1.1 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 339,867位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,155位ミステリー・サスペンス・ハードボイルド (本)
- - 30,922位文芸作品
- - 81,277位文庫
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年10月24日に日本でレビュー済み
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2015年11月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
以下、ネタバレを含むかもしれない↓
野崎まど、その存在だけは知っていた。
何となくネーミングセンスとかに西尾維新の影響を受けている……みたいな話だけ知っていて、割と熱心な西尾維新のフォロワーである俺は、ちょっとスルー気味にしていた対象だった。
タイトル『死なない生徒殺人事件』には、戯言シリーズのヒトクイマジカル、木賀峰約の『死なない研究』を連想してしまったし、『2』の『究極の作品の話』という帯の煽りには興味を持ちつつも、「なんて中二病なんだ……」と思ってもいた。
初めてメディアワークス文庫の小説賞を取ったということで、話題性は十分だったものの、手を出さなかった理由は「なんとなく」だった。
そして、俺自身、あまり小説を読まないような生活が続き、最近になってようやく読書習慣が戻ってきたので、何の気なしにこの新作を手に取った。
これが野崎まど、初体験ということになる。
正崎善(せいざき・ぜん)、曲世愛(まがせ・あい)といったメインキャラクターのネーミングセンスにはどことなく西尾っぽさというか、若干の影響を感じるものの、ストーリー展開の方向性については、大きく異なる、と感じた。
創作を通じて『ある究極』みたいなものを追求しているのを感じる。
女、というサブタイトルや暗号等で、幾度も伏線は張り巡らされていたものの、実際、最後のオチには目を見張るものがあった。
本作は社会派ミステリというか、俺があまり普段読まないジャンルで、若干取っつきにくい感じはあった。
また、キャラクターのやり取りは軽快であるものの、主人公と助手のやり取りにようやく馴染みが出てきたと思ったら、思わぬ関係解消とかもあるので、キャラクターのやり取りにおいては、そこまで濃くはない。
モノローグとセリフの応酬によって、キャラクターを立てていくのが西尾維新の手法だとすれば、野崎まどは大規模な事件によって、キャラクターの黒幕的存在感を一気にフラッシュするのがその手法だと言える。
大規模な汚職というか、法を侵してはいるが、しかし、その集団なりの正義を体現するための政治事件、という『男』の悪――
そこから、事件はその集団を実はコントロールしていた、『女』の悪へと反転する。
今の法律を覆し、新天地を創造する、という男の世界観から、今ある死生観そのものを覆すという女の世界観に、事件はその色を変える。
政治的主張が、宗教的主張に塗り替えられる。
悪は、政治犯罪から、より原理的なものにシフトする。
最終的に事件は一人の黒幕に集約されることになるが、やはり、第一巻ではこの人物に対する掘り下げが足りない気がする。
事件展開のえげつなさから、確かにこの人物が、言い表せない悪であることはわかった。
しかし、その悪のカリスマの実態というか、手段・手法が明かされないのはちょっとズルい。
例えば、不可能犯罪を描いたミステリーの解決編が、あまりにも荒唐無稽なために矮小化されることもあるだろう。
だが、犯人に迫るパートはどうしても必要になる。
そのように、この黒幕の内実にちゃんと迫ってほしい。
黒幕はどのような手段を用いて、犠牲者達を魅了したのか? たとえ、そこに矮小化が起ころうとも、事件の大きさだけで誤魔化さないで、その人物のドロドロとした内面をちゃんと抉ってほしいという気がした。
今の段階では、『かなり頭がおかしい』くらいのことがわかるやり取りしかないと俺は思う。
理屈で説明しなくてもいいから、その悪のカリスマの、カリスマたる所以や実態を、これから見せていって欲しいと思った。
掘り下げを行っていって欲しいと感じた。
読後感はかなりカタルシスに満ちたものだったが、その面において、次巻以降、内容の『深化』を期待する。
野崎まど、その存在だけは知っていた。
何となくネーミングセンスとかに西尾維新の影響を受けている……みたいな話だけ知っていて、割と熱心な西尾維新のフォロワーである俺は、ちょっとスルー気味にしていた対象だった。
タイトル『死なない生徒殺人事件』には、戯言シリーズのヒトクイマジカル、木賀峰約の『死なない研究』を連想してしまったし、『2』の『究極の作品の話』という帯の煽りには興味を持ちつつも、「なんて中二病なんだ……」と思ってもいた。
初めてメディアワークス文庫の小説賞を取ったということで、話題性は十分だったものの、手を出さなかった理由は「なんとなく」だった。
そして、俺自身、あまり小説を読まないような生活が続き、最近になってようやく読書習慣が戻ってきたので、何の気なしにこの新作を手に取った。
これが野崎まど、初体験ということになる。
正崎善(せいざき・ぜん)、曲世愛(まがせ・あい)といったメインキャラクターのネーミングセンスにはどことなく西尾っぽさというか、若干の影響を感じるものの、ストーリー展開の方向性については、大きく異なる、と感じた。
創作を通じて『ある究極』みたいなものを追求しているのを感じる。
女、というサブタイトルや暗号等で、幾度も伏線は張り巡らされていたものの、実際、最後のオチには目を見張るものがあった。
本作は社会派ミステリというか、俺があまり普段読まないジャンルで、若干取っつきにくい感じはあった。
また、キャラクターのやり取りは軽快であるものの、主人公と助手のやり取りにようやく馴染みが出てきたと思ったら、思わぬ関係解消とかもあるので、キャラクターのやり取りにおいては、そこまで濃くはない。
モノローグとセリフの応酬によって、キャラクターを立てていくのが西尾維新の手法だとすれば、野崎まどは大規模な事件によって、キャラクターの黒幕的存在感を一気にフラッシュするのがその手法だと言える。
大規模な汚職というか、法を侵してはいるが、しかし、その集団なりの正義を体現するための政治事件、という『男』の悪――
そこから、事件はその集団を実はコントロールしていた、『女』の悪へと反転する。
今の法律を覆し、新天地を創造する、という男の世界観から、今ある死生観そのものを覆すという女の世界観に、事件はその色を変える。
政治的主張が、宗教的主張に塗り替えられる。
悪は、政治犯罪から、より原理的なものにシフトする。
最終的に事件は一人の黒幕に集約されることになるが、やはり、第一巻ではこの人物に対する掘り下げが足りない気がする。
事件展開のえげつなさから、確かにこの人物が、言い表せない悪であることはわかった。
しかし、その悪のカリスマの実態というか、手段・手法が明かされないのはちょっとズルい。
例えば、不可能犯罪を描いたミステリーの解決編が、あまりにも荒唐無稽なために矮小化されることもあるだろう。
だが、犯人に迫るパートはどうしても必要になる。
そのように、この黒幕の内実にちゃんと迫ってほしい。
黒幕はどのような手段を用いて、犠牲者達を魅了したのか? たとえ、そこに矮小化が起ころうとも、事件の大きさだけで誤魔化さないで、その人物のドロドロとした内面をちゃんと抉ってほしいという気がした。
今の段階では、『かなり頭がおかしい』くらいのことがわかるやり取りしかないと俺は思う。
理屈で説明しなくてもいいから、その悪のカリスマの、カリスマたる所以や実態を、これから見せていって欲しいと思った。
掘り下げを行っていって欲しいと感じた。
読後感はかなりカタルシスに満ちたものだったが、その面において、次巻以降、内容の『深化』を期待する。
2015年10月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
たった今読み終えたばかりです。
時間を忘れて一気読みでした。
これまで野崎まどの著作は全て読んでいるのですが、ある意味で1番驚かされた作品です。
これまで全部読んでいるからこその驚き。
アムリタ、2、野崎まど劇場、そしてknow。
作風の幅広さ、スケールの大きさ、構成力、各巻の完成度。上手い作者だな、という印象はこれまでの著作を読まれた人なら概ね抱くと思うのですが、その程度の印象で収まるレベルの作者では無いと思います。
今作の主人公は東京地検特捜部検事。
いわゆる一般文芸のミステリー小説で見かける設定で物語は始まります。中盤あたりまではよくある警察ものという枠組みでストーリーは進むのですが、特に野崎まどである必要は無いなと感じる程普通のミステリーっぽいです。一般文芸志向の普通の作者になってしまったのかなと寂しさを覚えました。
ただ、さほど面白くもない題材でグイグイ引き込ませる作者の文章力の高さは健在だな、くらいの感想でした。
しかし、中盤以降、ラストにかけて物語の様相はガラッと変わります。このドライブ感は実際読んでもらったほうが良いので触れませんが、knowで体感した途中で読むのを止めることが出来ないスケールの広がりは、やはり野崎まどでした。ある意味、文体で読者をミスリードしてます。
一般文芸の硬質な検察ものの文脈から、電撃メディアワークスで見せたライトSF的なストーリーへの転換。そこに生まれるグルーブ感。
こういったことを破綻無く計算して組み立てられるのはただただ、すごい。
こういう物も書けるんだと、作者の力量に驚かされました。
5年後、この作者はどんな物語を創っているのだろうか想像がつかない。すごいことになっていることは間違いないと思うのですが。
幸せなことに、シリーズものということで、この物語がどんな着地をするのか楽しみでしかたないです。
この作品だけで無く、作者自体をお薦めします。
時間を忘れて一気読みでした。
これまで野崎まどの著作は全て読んでいるのですが、ある意味で1番驚かされた作品です。
これまで全部読んでいるからこその驚き。
アムリタ、2、野崎まど劇場、そしてknow。
作風の幅広さ、スケールの大きさ、構成力、各巻の完成度。上手い作者だな、という印象はこれまでの著作を読まれた人なら概ね抱くと思うのですが、その程度の印象で収まるレベルの作者では無いと思います。
今作の主人公は東京地検特捜部検事。
いわゆる一般文芸のミステリー小説で見かける設定で物語は始まります。中盤あたりまではよくある警察ものという枠組みでストーリーは進むのですが、特に野崎まどである必要は無いなと感じる程普通のミステリーっぽいです。一般文芸志向の普通の作者になってしまったのかなと寂しさを覚えました。
ただ、さほど面白くもない題材でグイグイ引き込ませる作者の文章力の高さは健在だな、くらいの感想でした。
しかし、中盤以降、ラストにかけて物語の様相はガラッと変わります。このドライブ感は実際読んでもらったほうが良いので触れませんが、knowで体感した途中で読むのを止めることが出来ないスケールの広がりは、やはり野崎まどでした。ある意味、文体で読者をミスリードしてます。
一般文芸の硬質な検察ものの文脈から、電撃メディアワークスで見せたライトSF的なストーリーへの転換。そこに生まれるグルーブ感。
こういったことを破綻無く計算して組み立てられるのはただただ、すごい。
こういう物も書けるんだと、作者の力量に驚かされました。
5年後、この作者はどんな物語を創っているのだろうか想像がつかない。すごいことになっていることは間違いないと思うのですが。
幸せなことに、シリーズものということで、この物語がどんな着地をするのか楽しみでしかたないです。
この作品だけで無く、作者自体をお薦めします。
2015年10月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
これまでアムリタやknowなどの代表作を好ペースで執筆してきた野崎まど氏が、今度は新鋭とベテラン作家の集合でできた新レーベル「講談社タイガ」で手がけたのが今作「バビロン-女」になります
私はこれまでに野崎氏の作品を全て読んでおり、その都度大変楽しませてもらいました
場面切り替えのテンポの良さ、キャラクター、ラストへの先導力が氏の作品の売りだと思います。そして、今作にもそれらしさがふんだんに表されているというように感じました
しかし、なんと言えばいいのか迷うところもありますが、はっきり言うとあまり良くありませんでした、というのが総合の評価になります(あくまで私的観点です)
まず、東京地検特捜部の検事が謎を追うという展開は珍しくて良いところだと思うのですが、全体的にさっぱりし過ぎていると思いました。その分矛盾もありませんが、いかんせんストーリー展開が普通と呼べるものでした
デビュー作のアムリタも展開でいうと実はさっぱりした作品なのですが、ラストからのどんでん返しとの対比があるので一層面白さを増しているのですが、今作は序盤、あるいは中盤くらいから物語の行き着く先の狂気性が読み手に伝わってくるので、ある程度展開が読めてしまい、また本当にその通りなので悪い意味でさっぱりしていると思ったのです
シリーズ物という事ですから、進め方や速度、そして刊行ペースを汲んだ上であえてこういう構成にしているのかもしれませんが、(完全な憶測です)いままでの底抜けの物語を期待していたファンにとっては、あまり満足がいきませんでした
しかし次巻に期待せざるを得ないというのは本音です
バビロン2、ぜひ巻き返してください!
私はこれまでに野崎氏の作品を全て読んでおり、その都度大変楽しませてもらいました
場面切り替えのテンポの良さ、キャラクター、ラストへの先導力が氏の作品の売りだと思います。そして、今作にもそれらしさがふんだんに表されているというように感じました
しかし、なんと言えばいいのか迷うところもありますが、はっきり言うとあまり良くありませんでした、というのが総合の評価になります(あくまで私的観点です)
まず、東京地検特捜部の検事が謎を追うという展開は珍しくて良いところだと思うのですが、全体的にさっぱりし過ぎていると思いました。その分矛盾もありませんが、いかんせんストーリー展開が普通と呼べるものでした
デビュー作のアムリタも展開でいうと実はさっぱりした作品なのですが、ラストからのどんでん返しとの対比があるので一層面白さを増しているのですが、今作は序盤、あるいは中盤くらいから物語の行き着く先の狂気性が読み手に伝わってくるので、ある程度展開が読めてしまい、また本当にその通りなので悪い意味でさっぱりしていると思ったのです
シリーズ物という事ですから、進め方や速度、そして刊行ペースを汲んだ上であえてこういう構成にしているのかもしれませんが、(完全な憶測です)いままでの底抜けの物語を期待していたファンにとっては、あまり満足がいきませんでした
しかし次巻に期待せざるを得ないというのは本音です
バビロン2、ぜひ巻き返してください!