アイザックソンのジョブズ自伝は文字で、コミック版は画でジョブズ・ワールドを味わえます。
本書ジョブズ４は、AppleIIの大ヒットによって大きくなった会社を経営してくれる専門家（スカリー）のスカウト、次世代PC（Macintosh）の開発、Macの欠点、売れ行き不振、社内の確執、ジョブズ追放、NeXT創業(1985)に、ジョブズとゲイツを絡めて良く描かれている。
ただし、次の点には注意が必要だろう。
1） 保守的で常識人のスカリーを、悪人とは言えない。ジョブズの奇妙なこだわりのせいで、Macの価値が過小評価された市場に、常識的な改良Macを投入し、そこそこ売れるようにした。結局、よれよれになりながら、ジョブズが復帰(1997)するまでアップルは持ちこたえた。
2） NEXT マシンの価値は、ジョブズが拘った美しい筐体ではなく、アビー・テバニアンが開発した先進的な基本ソフト(OS＋開発環境)NEXT STEPにあった。NEXT STEPとアビー・テバニアンがジョブズと共にアップルへ移り、NEXT STEP をベースとして、次世代MacOSであるMac OS X、iPhone用のiOS、iPad用OSが開発された。アイザックソンは見落としているが、後期アップルの快進撃を支える不可欠なエンジンになった。
3） アップルを再建しようとしたCEOギル・アメリオは、旧世代のMacOSでは、WINDOWS NT搭載機やUNIXマシンに勝ち目はないと悟り、NEXT STEP欲しさに、NeXT社を4億ドルで買収した。
なので、後続刊では、アビー・テバニアンを登場させ活躍させると、非常に興味深く、原作以上の面白さをもつコミック版になると思う。そのためには、豊富な情報収集が必要。講談社の手厚いバックアップが望まれます。
ヤマザキマリ氏に是非とも丁寧に描いて欲しい情景は、養母クララが亡くなり、義父に背中を押されて、実母ジョアン・シンプソンと再会(1986)、この時に実妹・モナ・シンプソンの存在を知り初対面を果たす場面。
実母は、泣きながら何度も何度も謝る。ジョブズはそのたびに許す。「大丈夫だよ。全ていい形になったのだから」「23歳で、いろいろ大変な思いをして僕を産んでくれてありがとう」。
実妹とは会った瞬間から意気投合。「あれ以上の妹は、想像もできない」。ジョブズの愛は、リアリティを欠いたゼロ・グラビティ空間を彷徨ってきたが、ここで、生まれて初めて地に足をつけたリアルな家族愛を得た。妹にイッセイ・ミヤケのパンツ・スーツを３着送ったとき、ジョブズは無償の愛を表現することの喜びに満たされたことだろう。これ以後、ジョブズの凍結していた魂は愛によって融けた。そして、ジョブズに暖かい家庭を作ってくれることになる女性ローリン・パウエルに出会い(1989)、素直な気持ちで恋し、結婚(1991)することにつながっていく。筆者は、ジョブズは以前のジョブズとは別人になったと思っています。
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