欧州史のわけが、わからなかった。
王様がいるのに、なんたら伯やらなんたら公やらが時に王様と同等、あるいはそれ以上の勢力となるという事実。
その大勢力が敵国と結び、王と戦い、あるいは王と和睦する。
じゃあ王様ってなんなんだ????
その疑問が解けた。
この本を読んでいくばくかの答えが見えてきた。
つまり、中世においては国家という枠組みそのものが希薄だったという事。
いや知識としてはそれは知っていた。だがまるで理解できていなかった。
それが本書においては各貴族各王が現実にどう向き合いどういう動きをしていたかという事績が実に生き生きと描きだされており、それによって彼らの関係性への理解が進んだのだ。
すると次の疑問は、なぜ知識として知っていたのに今までそのことが理解とまではならなかったのか。この本でなぜその理解が進んだのかである。
これは、単純に作者佐藤氏の力量に依る所が大きい。まず読みやすい。この手の本としては異様なまでに読みやすい。単純に文章が面白いのは言うまでもなく作者自身が作家としての側面も持っているからだが、百年戦争を語るのに前史と後史もふまえて英仏それぞれの事情をこのわずか200頁足らずの中に過不足なく書き収めている力量は圧巻の一言だ。
そしてまた図の挿入タイミングが抜群に良いのである。お?そろそろ地勢的な構図がわからなくなってきたぞ?という所で挿入される概略図の適切さは芸術的ですらあり、ある種の快楽さえ伴う。
つまり、本書は圧倒的に「読者のことを考えている」のである。だから素晴らしく頭に入ってくる。
歴史関連の書籍をいくらか読んできたが、取り扱う情報そのものの価値はともかく、読者の事を考えていると言える書籍は実に稀であった。学者先生の書く本といえば、淡々とした事実の羅列に終始し、読者の理解をほっぽって情報をテレテレと垂れ流すものばかりだ。欲しい所で欲しい図がなく、どうでもいいところで思い出したように現地の風景写真などが貼られる。地形や村々の位置関係なんか当然頭に入ってるだろ?あ?知らないの?ふーんそう。
この本は違う。実に丁寧に、実に面白く、読者に伝えたい事を伝えようとしている。読者が知りたい事を知らせようとしてくれている。それでいてテーマも情報の質も非常に洗練されている。
一点難があるとすれば、それは本書が読み物として面白すぎる事であろう。
事実が「こう」であったとこの一冊だけをもって断ずるのは言うまでもなく危険である。
少ない紙幅に収めるために切り捨てた情報はもちろん多かろう。わかりやすさのために事物をやや小説的に断じすぎている面もある。
そしてその面白さわかりやすさの故に、書いてある内容をそのまま受け取りすぎてしまう危険がある。
これはあくまで導入書として捉えるのがいいだろう。
だが導入書としては、抜群の一冊だ。
このレビューを読むあなたは、百年戦争に、中世欧州に、欧州史に興味があって、買うかどうか悩んでいるのだろう。
ならば買いなさい。読みなさい。導入としてはこの上ない一冊である。
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英仏百年戦争 (集英社新書) 新書 – 2003/11/14
佐藤 賢一
(著)
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なぜ、この戦争が、至上最大級の事件なのか直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者による、本邦初の本格的入門書
それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス人」だった。また、この時期の戦争は、むしろそれ以前の抗争の延長線上に位置づけられる。それがなぜ、後世「英仏百年戦争」と命名され、黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった国民的英雄が創出されるにいたったのか。直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者の筆は、一三三七年から一四五三年にかけての錯綜する出来事をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと読者をいざなってくれる。
[著者情報]
佐藤 賢一(さとう けんいち)
一九六八年山形県鶴岡市生まれ。九三年『ジャガーになった男』で第六回小説すばる新人賞を受賞。以後、西洋史に材をとった小説を次々に発表。九八年東北大学大学院文学研究科(西洋史)を満期単位取得し、作家活動に専念。九九年『王妃の離婚』で第一二一回直木賞を受賞。英仏百年戦争期を舞台にした作品に『傭兵ピエール』、『赤目のジャック』、『双頭の鷲』などがある。
それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス人」だった。また、この時期の戦争は、むしろそれ以前の抗争の延長線上に位置づけられる。それがなぜ、後世「英仏百年戦争」と命名され、黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった国民的英雄が創出されるにいたったのか。直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者の筆は、一三三七年から一四五三年にかけての錯綜する出来事をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと読者をいざなってくれる。
[著者情報]
佐藤 賢一(さとう けんいち)
一九六八年山形県鶴岡市生まれ。九三年『ジャガーになった男』で第六回小説すばる新人賞を受賞。以後、西洋史に材をとった小説を次々に発表。九八年東北大学大学院文学研究科(西洋史)を満期単位取得し、作家活動に専念。九九年『王妃の離婚』で第一二一回直木賞を受賞。英仏百年戦争期を舞台にした作品に『傭兵ピエール』、『赤目のジャック』、『双頭の鷲』などがある。
- 本の長さ240ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2003/11/14
- ISBN-10408720216X
- ISBN-13978-4087202168
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (2003/11/14)
- 発売日 : 2003/11/14
- 言語 : 日本語
- 新書 : 240ページ
- ISBN-10 : 408720216X
- ISBN-13 : 978-4087202168
- Amazon 売れ筋ランキング: - 52,577位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 92位集英社新書
- - 98位ヨーロッパ史一般の本
- カスタマーレビュー:
著者について
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1968年、山形県鶴岡市生まれ。東北大学大学院文学研究科で西洋史学を専攻。93年、『ジャガーになった男』で第六回小説すばる新人賞を受賞。99年、『王妃の離婚』で第一二一回直木賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 フランス革命の肖像 (ISBN-13:978-4087205411)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年2月28日に日本でレビュー済み
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2022年11月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ノルマンコンクエストのことは知っていた。その後しばらくは今でいうところの「フランス人」の王朝が続き公用語がフランス語だったことも知っていたが、どこかの時点で彼らの子孫はイングランド人になったはずだ。それがどの時期でどういういきさつかがよく分からないでいた。この本を読んでそれが解決した。作者曰く「イングランドとフランスが百年戦争をしたのではなく、百年戦争がイングランドやフランスと言う国を作った」と言うことだ。目からうろこだった。
文章は読みやすく一気に読めるが、面白くて次々ページをめくれるがために以前の状態がどうだったのか読み返さないと展開についていけない。これは作者がどうのと言うよりこの戦争がそういう展開だったから仕方ないのかもしれない。星ひとつ減らした理由は特に初期において「フランス語を話す人たちだった」と言う理由からか人物名が「アンリ」「ルシャール」「ジョフロア」などフランス語名になっている。理屈は分かるが慣れ親しんだ「ヘンリー」「リチャード」「ジョフリー」にしてほしかった。イギリス贔屓の私としてはこれに続く薔薇戦争まで含めてイギリス史の一部として考えたいからだ。
文章は読みやすく一気に読めるが、面白くて次々ページをめくれるがために以前の状態がどうだったのか読み返さないと展開についていけない。これは作者がどうのと言うよりこの戦争がそういう展開だったから仕方ないのかもしれない。星ひとつ減らした理由は特に初期において「フランス語を話す人たちだった」と言う理由からか人物名が「アンリ」「ルシャール」「ジョフロア」などフランス語名になっている。理屈は分かるが慣れ親しんだ「ヘンリー」「リチャード」「ジョフリー」にしてほしかった。イギリス贔屓の私としてはこれに続く薔薇戦争まで含めてイギリス史の一部として考えたいからだ。
2018年12月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
佐藤賢一は、日本史における司馬遼太郎と極めて似ているといつも思っている。佐藤のお得意の中世西洋史において、時代や人をその独特の視点から
まさに語り部としての口調で読者を惹きつける。本書では、「英仏百年戦争」を取り上げる。といっても、佐藤はこの戦争の名前を「英仏」だとか
「百年戦争」だとかいうのは後世の人間が勝手にいっているだけで、要はイングランド王となったフランス人たちと、フランス王との戦いであり、フランス人
どうしの戦争であること、当時は領や家の観念が強くて、フランスといってもブルターニュやフランドル等の地方は堂々と仏王と反目しており、国という観点など
全くなかったというのだ。だが、この戦争(敢えて百年戦争というくくりでまとめると)の意義付けとして、この後明白にフランスでもイングランドでも国民国家の
観念が確立し、その後皆自分の「国」という概念の中で物事を考えるようになると指摘していることは極めて興趣を惹く。多分史実だけを追えば、私たち
日本人にとってそう興味が湧く時代では無かろうが、佐藤の語り口と大胆な分析により極めて面白い書物になっている。
まさに語り部としての口調で読者を惹きつける。本書では、「英仏百年戦争」を取り上げる。といっても、佐藤はこの戦争の名前を「英仏」だとか
「百年戦争」だとかいうのは後世の人間が勝手にいっているだけで、要はイングランド王となったフランス人たちと、フランス王との戦いであり、フランス人
どうしの戦争であること、当時は領や家の観念が強くて、フランスといってもブルターニュやフランドル等の地方は堂々と仏王と反目しており、国という観点など
全くなかったというのだ。だが、この戦争(敢えて百年戦争というくくりでまとめると)の意義付けとして、この後明白にフランスでもイングランドでも国民国家の
観念が確立し、その後皆自分の「国」という概念の中で物事を考えるようになると指摘していることは極めて興趣を惹く。多分史実だけを追えば、私たち
日本人にとってそう興味が湧く時代では無かろうが、佐藤の語り口と大胆な分析により極めて面白い書物になっている。
2018年2月12日に日本でレビュー済み
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「英仏仲悪かったんだね。。。大陸まで討って出るイギリスは強欲なこと。。」と言うのが、私の高校時代から進歩のない百年戦争観。なんと浅はかだったことか。
ノルマン人なるフランス人がイングランドに侵攻し、王として統治していた歴史に遡れば、イングランド国王が大陸で領地求めて戦うのは大陸にある母屋を守る至極全うな家業。
著者曰く、‘’イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力はともに「フランス人」だったからである。というより、領地の感覚が優先し、国の感覚そのものが希薄だった時代に、イギリスという国とフランスという国の戦争など、はじめから設定できないのである‘’。なあーるほど。国という単位を当たり前のものとして、それを前提に物事をみてしまうのは誤解のもと。
再び著者曰く、‘’国民国家という大前提は、フィクションを創るための約束事なのだといえる”
既にシェークスピアは国民国家に目覚めた観客を相手にしていたため、百年戦争についても国民国家を前提とした見方になっているのだとか。これをシェークスピアシンドロームと称するそうです。
私自身、シンドロームにかかってたと認めざるを得ません。フランス側からみると全然違うのは想像がつくとして、国民国家が成立していなかった時代のことを、国民国家のスクリーンにかけて見ると間違った絵を見ることになってしまいます。
「歴史はフィクションだ」。そうした言葉に地肉を与えてくれる、面白くも得難い一冊です。
ノルマン人なるフランス人がイングランドに侵攻し、王として統治していた歴史に遡れば、イングランド国王が大陸で領地求めて戦うのは大陸にある母屋を守る至極全うな家業。
著者曰く、‘’イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力はともに「フランス人」だったからである。というより、領地の感覚が優先し、国の感覚そのものが希薄だった時代に、イギリスという国とフランスという国の戦争など、はじめから設定できないのである‘’。なあーるほど。国という単位を当たり前のものとして、それを前提に物事をみてしまうのは誤解のもと。
再び著者曰く、‘’国民国家という大前提は、フィクションを創るための約束事なのだといえる”
既にシェークスピアは国民国家に目覚めた観客を相手にしていたため、百年戦争についても国民国家を前提とした見方になっているのだとか。これをシェークスピアシンドロームと称するそうです。
私自身、シンドロームにかかってたと認めざるを得ません。フランス側からみると全然違うのは想像がつくとして、国民国家が成立していなかった時代のことを、国民国家のスクリーンにかけて見ると間違った絵を見ることになってしまいます。
「歴史はフィクションだ」。そうした言葉に地肉を与えてくれる、面白くも得難い一冊です。
2020年8月9日に日本でレビュー済み
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流石に作家だけあって、独特の読みやすい文体。歴史の流れを追っているのだが、最後まで飽きさせない。
結びの部分が、作者が最も言いたい事になっている。そこまで読むとタイトルが敢えて「英仏百年戦争」としたことが納得いくという構成なのだ。
結びの部分が、作者が最も言いたい事になっている。そこまで読むとタイトルが敢えて「英仏百年戦争」としたことが納得いくという構成なのだ。
2020年10月23日に日本でレビュー済み
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佐藤さんの、文章の話の運び、テンポがスムースで最後まで楽しく読める本だと思います。
2019年12月11日に日本でレビュー済み
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良い状態でした。百年戦争の概観が理解できて勉強になりました。次はより専門的な本を読もうと思っています。