とにかく何と言っても強烈な一冊です。読み出すや、思い切り頬に一発くらって、活を入れられた気がしました。
とはいえ、ピンターが暴力的なわけではまったくありません。彼の文章が暴力的なわけでもありません。むしろ、諧謔と風刺に満ち溢れ、機智に富み、陽気でさえあります。そこに、しっかりと骨太な勇気と、良心の燃え上がる怒りとを感じることができます。アメリカ合衆国と彼の母国英国が、いかに国家的支配欲によって世界を踏みにじっているか、事実的な知識としては知ってはいたものの、たんに「知っている」というにすぎない自分の無責任さを、思い知らされました。「共感し抵抗する」ピンターの姿勢は、現実に積極的に関わろうとする西欧知識人の良き伝統とともに、彼個人の強靭な良心を伝えてきます。
アメリカを告発する点ではチョムスキーが連想されますが、チョムスキーにはアメリカを批判して民主主義を訴えていながら、逆にその主張やスタンスに民主主義のドグマチズム、「絶対正義」の押しつけがましさがどうも匂う。ピンターにはそういうものがありません。
ノーベル賞記念講演やインタヴュー、短い新聞記事などをまとめた文集なので、内容の重複も見られますが、読みやすい。特に個人的には「アーサー・ミラーの靴下」と「メディアの実態を暴く」をお勧めします。
今、私たちに必要なのは、決して冷静さを失って対話を忘れていいという意味で言うのではありませんが、現状認識をふまえ、その現状に対して「怒ること」ではないのか、と思います。
「ペンの力」を久しぶりに印象づけてくれた本です。
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何も起こりはしなかった ―劇の言葉、政治の言葉 (集英社新書) 新書 – 2007/3/16
ノーベル賞受賞のピンターが痛烈に米英批判。
ノーベル文学賞を受賞した劇作家ハロルド・ピンターの発言集。ノーベル賞受賞記念講演も収録。イラクや中米に対するアメリカの外交政策への批判、ブレア首相への公開書簡など鋭い追求が冴える。
ノーベル文学賞を受賞した劇作家ハロルド・ピンターの発言集。ノーベル賞受賞記念講演も収録。イラクや中米に対するアメリカの外交政策への批判、ブレア首相への公開書簡など鋭い追求が冴える。
- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2007/3/16
- ISBN-104087203840
- ISBN-13978-4087203844
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (2007/3/16)
- 発売日 : 2007/3/16
- 言語 : 日本語
- 新書 : 224ページ
- ISBN-10 : 4087203840
- ISBN-13 : 978-4087203844
- Amazon 売れ筋ランキング: - 743,443位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,338位集英社新書
- - 1,732位外国のエッセー・随筆
- - 4,610位政治入門
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年6月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
作家の政治的発言というのはなんとも醜いことが多い。自分の見解と一致するか否かという問題ではない。門外漢が語るのであるから心情的な要素が強くなるのである。この書もご多分に漏れず読み通すのが苦痛であった。例えばたわいない話が出来て気の置けない心安らぐ友がいたとしよう。その人が急に政治的な話題を熱く語り始めたらどうだろうか?主張の正しさ以前に何かしら奇異な感じ、拒絶する感じを覚えないだろうか。
餅屋は餅屋である。よほどピンターに興味がない人には向かない書である。
餅屋は餅屋である。よほどピンターに興味がない人には向かない書である。
2007年6月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ノーベル賞受賞者の詩人、劇作家のピンターが、アメリカの独善的思想・行動を強烈に批判したもの。アメリカにとっての"正義"を世界中に押し付けて、結果的に世界最大のテロリスト国家となり、中南米、アフリカ、中東で多くの血を流している現状を何とかしようという使命感に溢れている。アメリカがこれだけの血を流しておいて、「何も起こりはしなかった」ような顔をしている態度にも強い憤懣を抱いている。
日頃からの私の考え方と同様なのだが、当然とは言え、こうした発言が思想・言論界からしか出ない事に無念さを感じる。政界、財界、そして軍事関係者からは敵視されるであろう発言。時代が時代ならCIAあたりから抹殺されるかもしれない発言。なにしろ、アメリカは"民主"国家なのだから。
だが、ピンターは自らが創作する(過激なまでの)詩、劇、そして講演で抵抗を試みる。それしか方法がないからである。だが、こうした抵抗が次第に大きなうねりとなって、アメリカの行動原理を動かして行って欲しいと願わずには居られない。
日頃からの私の考え方と同様なのだが、当然とは言え、こうした発言が思想・言論界からしか出ない事に無念さを感じる。政界、財界、そして軍事関係者からは敵視されるであろう発言。時代が時代ならCIAあたりから抹殺されるかもしれない発言。なにしろ、アメリカは"民主"国家なのだから。
だが、ピンターは自らが創作する(過激なまでの)詩、劇、そして講演で抵抗を試みる。それしか方法がないからである。だが、こうした抵抗が次第に大きなうねりとなって、アメリカの行動原理を動かして行って欲しいと願わずには居られない。