料理評論家・谷崎剛造の語り口で、
ミシュラン三つ星を狙うホテル・アンペリアル「ル・プランス」の総料理長であるジェローム・メネ（37）と、
そのもとで働くことになるハナ・ヒルマ（27）との恋愛が綴られる。
二人が出会った当初は、ジェロームには妻フランソワーズと、
アラン（12）とドミニク（10）という二人の息子がいた。
しかし、妻には別の恋人がおり、別居状態であった。
ハナには、ブノア・ランベールという恋人がおり、
ジェロームへの第一印象は「孤独な将軍」であった。
そうしたハナにジェロームが惹かれていく中で、2つの重要な出来事が起こる。
1つは、ブノアがミシュラン社の覆面審査員であり、
「ル・プランス」の審査をすることになるということ。
もう1つは、ハナがSEDS（感覚・感情不全症候群）になってしまうことである。
舞台はパリに置かれ、途中、ハナの実家の料亭のある京都に移る。
ジェロームは、その料亭で、
フランス料理は油絵のような「組み合わせ」であり、
日本料理には墨絵のような「素材」であることに気づく。
その気づきが、彼のその後の料理に大きな影響を与える。
物語の着地点は、ジェロームが念願だった三つ星シェフになれるのか、
そしてハナはどうなるのかに置かれる。
ジェロームが40歳を迎えるとき、
物語はエンディングを迎えるので、この2つの結末はぜひ一読して確認していただきたい。
本作は、辻仁成が2002年に渡仏して1年半後に書き下ろしで刊行された
「いまこの瞬間 愛していること」（2003年12月）が文庫化に際して改題されたものである。
料理人の世界を恋愛に巧みに結びつける着想は、辻仁成の手腕健在で、流石である。
全く関係は無いが、ピクサー映画「レミーのおいしいレストラン」を連想する1冊。
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