第12回朝日新人文学賞という、かつて存在した新人賞を受賞した本作品は、夏目漱石の著作でも最も読まれている「坊っちゃん」をベースに、その後の「坊っちゃん」を描いたミステリ作品。
元となった「坊っちゃん」から3年後。
四国の中学校教師の職を辞めて東京に戻り、街鉄の技手となった(このことは、「坊っちゃん」の結末近くに記述されている)「おれ」は、かつての同僚、山嵐と偶然再会する。
彼の口から聞かされたのは、勤めていた中学校の教頭、通称「赤シャツ」が自殺したということであった。
ふたりは、それが殺人だったのではと疑い、再び四国のかの地を訪れるが…。
たまたま中学生以来、数十年ぶりに、1年ほど前に「坊っちゃん」を再読していたため、これは「贋作」どころか、「続・坊っちゃん」と題してもよいのではないかと思えるくらい、元の作品の文体の特徴をよく捉えているな、とまず、感心させられました。
また、「ミステリ」としての骨格もしっかりしており、元の作品での出来事が「伏線」として、活用されているのは、見事です。
後付けで、よくここまで、辻褄合わせができたものだ、と感銘し、本作品は、傑作と呼んで差支えないと感じました。
さらに、本作品の面白い点は、元の作品で「おれ」(坊っちゃん)が四国で体験した出来事の数々が、単なる田舎の出来事ではなく、全く違った様相に見えてくるという、マジックのような「作品世界を反転させる」筆さばきでしょう。
私のように、元の作品を知る者にとっては、もう一度、元の作品を読み返したくなるでしょうし、元の作品を未読の方は、是非一度読んでみたくなるはずです。
本作品は、「坊っちゃんの新解釈」と言ってもよいのではないでしょうか。
元の作品とセットで読むことで、是非この「ミステリ版坊っちゃん」という傑作を堪能していただきたいと思います。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
贋作『坊っちゃん』殺人事件 (集英社文庫) 文庫 – 2005/3/17
柳 広司
(著)
「坊っちゃん」の裏に浮かぶもう一つの物語。
東京に帰った「坊っちゃん」は、山嵐に赤シャツの自殺を知らされ、再び松山へ。そしてもう一つの物語が明らかになる。漱石の作品世界を再構築した物語。第12回朝日新人文学賞受賞作。(解説・三浦雅士)
東京に帰った「坊っちゃん」は、山嵐に赤シャツの自殺を知らされ、再び松山へ。そしてもう一つの物語が明らかになる。漱石の作品世界を再構築した物語。第12回朝日新人文学賞受賞作。(解説・三浦雅士)
- 本の長さ232ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2005/3/17
- ISBN-104087478033
- ISBN-13978-4087478037
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 集英社 (2005/3/17)
- 発売日 : 2005/3/17
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 232ページ
- ISBN-10 : 4087478033
- ISBN-13 : 978-4087478037
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,495,847位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
1967年三重県生まれ。神戸大学法学部卒業。2001年『黄金の灰』でデビュー。同年『贋作「坊ちゃん」殺人事件』で第12回朝日新人文学賞受賞。08年に刊行した『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『パルテノン』(ISBN-10:4408550078)が刊行された当時に掲載されていたものです)
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2014年3月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2012年10月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
非常に楽しい作品。「坊っちゃん」のミステリ風パスティーシュというアイデアそのものが秀逸だが、作者の漱石への敬愛の念がヒシヒシと感じられる点が嬉しい。原作と頁数がほぼ同一、主なエピソードも全て採り上げ、原作中の人物設定もそのままでいて、新しい解釈を示して見せる作者の手腕には感心した。作中に、"内と外"の世界、"多面性"と言った言葉が出て来るが、作者の意匠・資質を良く表していると思う。文体模写も微笑ましい。
原作は、「猫」の連載期間の終盤に2〜3週間で執筆された由だが、その間に「猫」中で披瀝された漱石の思惟が「坊っちゃん」に反映されている点を作者は良く捉えていると思う。当時の世相や思想的背景が本作にも巧みに織り込まれている。歴史上の著名人を主役にした本シリーズに共通して言える事だが、作者の時代考証の確かさが作品の質の高さを維持している要因の一つだろう。
一見すると痛快小説だが、実は明治の近代化の波に乗った成功者(赤シャツ一派)と対比して、近代化の波に乗り遅れた(敢えて乗らなかった)江戸っ子の敗北の美学を描いた作品と思われる「坊っちゃん」。これだけでも多義性のある作品だと思うが、本作は更なる捻りを加えた訳で、原作の持つ奥深さを改めて再認識させてくれた佳作だと思う。
原作は、「猫」の連載期間の終盤に2〜3週間で執筆された由だが、その間に「猫」中で披瀝された漱石の思惟が「坊っちゃん」に反映されている点を作者は良く捉えていると思う。当時の世相や思想的背景が本作にも巧みに織り込まれている。歴史上の著名人を主役にした本シリーズに共通して言える事だが、作者の時代考証の確かさが作品の質の高さを維持している要因の一つだろう。
一見すると痛快小説だが、実は明治の近代化の波に乗った成功者(赤シャツ一派)と対比して、近代化の波に乗り遅れた(敢えて乗らなかった)江戸っ子の敗北の美学を描いた作品と思われる「坊っちゃん」。これだけでも多義性のある作品だと思うが、本作は更なる捻りを加えた訳で、原作の持つ奥深さを改めて再認識させてくれた佳作だと思う。
2022年12月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
震災復興をでっち上げ、ぼったくり男爵とあだなされる会長に乗って、日本政府も東京
オリンピックを強行。1年経って、汚職まみれで紛糾続きの国。
その東京オリンピックの街を脱出して、関西のK市に猫を連れて移住した、正義漢感の著者。
そのままでずっと居られたら好かったけれど、k市も地方国家。読みが甘かったかもね。
なるほど、現代のぼっちゃん。やることは漱石の『坊ちゃん』と似ている。改めて喝采。
しかし猫好きのくせに、猫の心知らず。猫が可哀そうだな。でも猫も現代の坊っちゃんを
とうに見抜いているか。
オリンピックを強行。1年経って、汚職まみれで紛糾続きの国。
その東京オリンピックの街を脱出して、関西のK市に猫を連れて移住した、正義漢感の著者。
そのままでずっと居られたら好かったけれど、k市も地方国家。読みが甘かったかもね。
なるほど、現代のぼっちゃん。やることは漱石の『坊ちゃん』と似ている。改めて喝采。
しかし猫好きのくせに、猫の心知らず。猫が可哀そうだな。でも猫も現代の坊っちゃんを
とうに見抜いているか。
2012年11月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
漱石の「坊ちゃん」が大好きで、小学生の頃から何度も読み返している。
この本を読む直前にも読み返しており、それで続けて読むことに決めた。
再読の途中から、謎として使われそうな部分を意識して探すような読み方をしたことで、さらに読む楽しみに繋がったので、原作を全く知らないかたで昔の小説はちょっと、という方も、そんなふうに読んでみると、原作自体に推理的要素を見出だせるかもしれない。
原作を読まなくても、柳氏が冒頭で簡潔にまとめており、その後も綺麗に話しと織り交ぜてくれるから、構わないといえば、構わない。
しかし原作を知ってのほうが、まさかの壮大さを持つ事件に実は坊ちゃんは知らずに巻き込まれていたのだ、ということを知った時のインパクトが大きいと思う。
バッタ事件は、もっとトリッキーなものを期待していたものの、なるほど、と思う。
坊ちゃんの耳には入っていなかった会話が補完されることで浮かび上がる事実が、とても面白い。
とにかく、小説の全体を通して、謎解きが成されている。
それが大きな事件へとつながっていく。
物語の面白さも良かったが、坊ちゃんという真っ直ぐで不器用で、でも綺麗な心の持ち主に対しては、原作のとおりにしてくれたことで、物語を心から楽しいと思うことが出来た。
おっちょこちょいの江戸っ子が憤りをそのまんま拳にぶつけて結局職を失う、という物語が、憂国や愛国といった物語へと変化する中で、坊ちゃんはブレない。
気持ちのいい啖呵を切る。清への愛情も大きく持っている。
坊ちゃんの清への愛も清の坊ちゃんへの愛も、強く感じられる。
そうして、原作ではないこの物語から、坊ちゃんという人物の良さを、再確認することが出来る。
ミステリーなのに、読み返したいと思わせてくれる1冊だ。
この本を読む直前にも読み返しており、それで続けて読むことに決めた。
再読の途中から、謎として使われそうな部分を意識して探すような読み方をしたことで、さらに読む楽しみに繋がったので、原作を全く知らないかたで昔の小説はちょっと、という方も、そんなふうに読んでみると、原作自体に推理的要素を見出だせるかもしれない。
原作を読まなくても、柳氏が冒頭で簡潔にまとめており、その後も綺麗に話しと織り交ぜてくれるから、構わないといえば、構わない。
しかし原作を知ってのほうが、まさかの壮大さを持つ事件に実は坊ちゃんは知らずに巻き込まれていたのだ、ということを知った時のインパクトが大きいと思う。
バッタ事件は、もっとトリッキーなものを期待していたものの、なるほど、と思う。
坊ちゃんの耳には入っていなかった会話が補完されることで浮かび上がる事実が、とても面白い。
とにかく、小説の全体を通して、謎解きが成されている。
それが大きな事件へとつながっていく。
物語の面白さも良かったが、坊ちゃんという真っ直ぐで不器用で、でも綺麗な心の持ち主に対しては、原作のとおりにしてくれたことで、物語を心から楽しいと思うことが出来た。
おっちょこちょいの江戸っ子が憤りをそのまんま拳にぶつけて結局職を失う、という物語が、憂国や愛国といった物語へと変化する中で、坊ちゃんはブレない。
気持ちのいい啖呵を切る。清への愛情も大きく持っている。
坊ちゃんの清への愛も清の坊ちゃんへの愛も、強く感じられる。
そうして、原作ではないこの物語から、坊ちゃんという人物の良さを、再確認することが出来る。
ミステリーなのに、読み返したいと思わせてくれる1冊だ。
2023年8月30日に日本でレビュー済み
名作坊ちゃんの隣の推理小説。
名作の読み方を教わったような。
新しい世界を体験させてもらったような。
かつ、史実にも寄り添っているので、
リアルさが増しているとも思いました。
いいと思います
名作の読み方を教わったような。
新しい世界を体験させてもらったような。
かつ、史実にも寄り添っているので、
リアルさが増しているとも思いました。
いいと思います
2013年7月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
草葉の陰で、漱石先生がニヤリと口の端を吊り上げているさまが目に見えるかのような一作。
というか漱石先生自身が、このような鮮やかな謎解きを期待し「坊ちゃん」を記したのではと思わしむるほど鮮烈な推理と洞察の数々・・・
しかし平成の知性は明治のそれを超え近代日本史の暗部へ。
陰惨な犯罪の真相を追いながら我らが坊ちゃんは邂逅する。
自由民権、共産主義、ついには禁断の天皇論まで・・・
平成の知性は未来人の眼差しで戦前日本の歪みを白日のもとに暴き出す。
極上のミステリーを愉しみつつ両時代の第一級の知性に唸ることのできる一作です。
・・・ちなみに、こちらが柳先生の初受賞作だそうです。
この一作を読むと、すでに先生のその後の作品群が透かし彫りのように伺えるのが興味深い。
「ジョーカーゲーム」にしろ「トーキョープリズン」にしろ「ロマンス」にしろ・・・。
というか漱石先生自身が、このような鮮やかな謎解きを期待し「坊ちゃん」を記したのではと思わしむるほど鮮烈な推理と洞察の数々・・・
しかし平成の知性は明治のそれを超え近代日本史の暗部へ。
陰惨な犯罪の真相を追いながら我らが坊ちゃんは邂逅する。
自由民権、共産主義、ついには禁断の天皇論まで・・・
平成の知性は未来人の眼差しで戦前日本の歪みを白日のもとに暴き出す。
極上のミステリーを愉しみつつ両時代の第一級の知性に唸ることのできる一作です。
・・・ちなみに、こちらが柳先生の初受賞作だそうです。
この一作を読むと、すでに先生のその後の作品群が透かし彫りのように伺えるのが興味深い。
「ジョーカーゲーム」にしろ「トーキョープリズン」にしろ「ロマンス」にしろ・・・。
2014年5月1日に日本でレビュー済み
序盤はうまく漱石の文体を模写して良い感じだったが、途中から文体模写は影をひそめ、ちょっとした方言でお茶を濁す程度の完全な現代文になってしまっている。
漱石初期の古くて新しい軽妙な口語体を最後まで維持してほしかった。
事件の背景となるイデオロギー対立や、ほとんど力技で大団円になだれ込むエンディングも、漱石の世界とはひどく異質な感じがした。
漱石の文の軽妙洒脱は思考と感性のそれであって、いくら文を模写しても頭の動きに追随できなければ優れたパスティーシュにはならない。そこが難しいところだろう。
まして漱石ならば、政治やイデオロギーを小説中に用いるなどという野暮はしない。
小説として面白ければ原作との違和感など関係ないと言われるだろうが、この小説は明らかなパスティーシュなのでそうはいかない。
それとも、この違和感を作者自身が自覚のうえで、タイトルの頭に「贋作」とつけたのだろうか?
いずれにしても失礼ながら、パスティーシュとしてもミステリとしてもいま一歩の凡作であった。
数ある漱石のパスティーシュ・ミステリの中では、島田荘司の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』と奥泉光の『「吾輩は猫である」殺人事件』が面白い。
漱石初期の古くて新しい軽妙な口語体を最後まで維持してほしかった。
事件の背景となるイデオロギー対立や、ほとんど力技で大団円になだれ込むエンディングも、漱石の世界とはひどく異質な感じがした。
漱石の文の軽妙洒脱は思考と感性のそれであって、いくら文を模写しても頭の動きに追随できなければ優れたパスティーシュにはならない。そこが難しいところだろう。
まして漱石ならば、政治やイデオロギーを小説中に用いるなどという野暮はしない。
小説として面白ければ原作との違和感など関係ないと言われるだろうが、この小説は明らかなパスティーシュなのでそうはいかない。
それとも、この違和感を作者自身が自覚のうえで、タイトルの頭に「贋作」とつけたのだろうか?
いずれにしても失礼ながら、パスティーシュとしてもミステリとしてもいま一歩の凡作であった。
数ある漱石のパスティーシュ・ミステリの中では、島田荘司の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』と奥泉光の『「吾輩は猫である」殺人事件』が面白い。
2022年1月16日に日本でレビュー済み
夏目漱石『坊ちゃん』のその後を描いた、何と!ミステリ。オマージュと言っても良いたろう。
本作品を読んで、慌てて『坊ちゃん』を読み返した次第。それ程、巧に本家の世界観をなぞっているのである。本家を再読したくなるくらいに優れている。
教職を辞し東京に戻ったおれが、赤シャツの死の真相を探るべく山嵐とともに再び四国へ。冒頭から、ぐっとくるではないか!
坊ちゃんが名探偵さながらに、赤シャツ事件の謎を解くという展開。本作品は、本家のエピソードに違う意味を与え、真相を解明していく。う~ん、凝っている。
本作品を読んで、慌てて『坊ちゃん』を読み返した次第。それ程、巧に本家の世界観をなぞっているのである。本家を再読したくなるくらいに優れている。
教職を辞し東京に戻ったおれが、赤シャツの死の真相を探るべく山嵐とともに再び四国へ。冒頭から、ぐっとくるではないか!
坊ちゃんが名探偵さながらに、赤シャツ事件の謎を解くという展開。本作品は、本家のエピソードに違う意味を与え、真相を解明していく。う~ん、凝っている。