忍法帖短篇から秀吉がらみという観点で選んだ6篇を収載。
最初の「忍法死のうは一定」と最後の「忍法おだまき」は果心居士が登場するので期待して読んだ。
「一定」は、本能寺でまさに死のうとする信長の前に果心居士が現れ、「女陰往生」なる幻術を使って救い出す。しかしその結果は・・・というストーリー。
面白いアイディアとオチがあるが、それ以前の信長と果心居士の会話の方がもっと面白かった。信長が恐怖し、あるいは手こずった最大の強敵、信玄、足利公方義昭、謙信の三人を倒したのは果心の幻術だった!!
史実では、信長を倒す可能性が高かった信玄と謙信は二人とも、まさに信長と雌雄を決する直前に亡くなっている。確かに不思議だし、信長には都合がよすぎる。果心といわず信長の放った工作員による暗殺としてもおかしくない。
また「一定」の冒頭部では、本能寺の変のその日に世界制覇の夢を熱く語る信長が描かれる。制覇にいたる各作戦で麾下の武将の誰を当てるかと考える場面があり、その選び方がいかにも適任で感心してしまう。
問題はこの「女陰往生」という幻術のメカニズムだ。術の対象者を女体の子宮に追い込み、次に再生させるのだが、そのとき己の未来を見せて恐怖させ、狂死、白痴化、あるいは自殺せしめる。
話としては面白いのだが、矛盾がある。再生したときに死ぬのなら、その直前に見た自分の未来は嘘ということになるからだ。もちろん、最初からあり得ない術ではある。しかし、風太郎の忍法小説は虚構世界の中に精密なルール、論理を導入することで成立しているから、この破綻は致命的だ。「一定」はアイディア倒れに終わった作品ではないか。
「おだまき」の方は逆に、数年から数十年前の自分に戻るというタイムトラベル的な術。しかしトラベルして行った先の世界はパラレルワールドに入って行くしかないから、元の世界に戻って来てやり直すことは不可能になる。タイムトラベルSFは読者を納得させるのが難しいと思う。
ということで、いちばんいい出来と思ったのは「忍者石川五右衛門」。淀の方が念仏踊りの笛手と浮気の最中、秘所に入れていた“楊貴妃の鈴”を盗まれてしまう冒頭から快調に飛ばし、甲賀忍者が大暴れする。展開に切れがあり、史実にも矛盾せず、終盤が哀感にあふれた忍法帖らしい忍法帖の傑作。
「おちゃちゃ忍法腹」「叛の忍法帖」「虫の忍法帖」は別にレビュー済み。
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秀吉妖話帖 (集英社文庫 や 13-5) 文庫 – 1995/12/1
山田 風太郎
(著)
- 本の長さ278ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日1995/12/1
- ISBN-104087483878
- ISBN-13978-4087483871
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (1995/12/1)
- 発売日 : 1995/12/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 278ページ
- ISBN-10 : 4087483878
- ISBN-13 : 978-4087483871
- Amazon 売れ筋ランキング: - 387,045位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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1922年、兵庫県生まれ。東京医科大学卒業。47年、「宝石」新人募集に応募した「達磨峠の事件」がデビュー作。48年「眼中の悪魔」で第2回探偵作家 クラブ賞短編賞を受賞。その後「甲賀忍法帖」を始めとした忍法帖シリーズなどを精力的に発表した。2000年、日本ミステリー文学大賞受賞。01年7月死 去(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 八犬傳 下(新装版) (ISBN-13: 978-4331614044)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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