A.J.クィネルの小説として、「燃える男」「ヴァチカンからの暗殺者」などと並んで、よくできた物語だと思います。1981年のイスラエルによるイラクの原子力発電所の爆撃という史実の裏に、こんなことがあったのかもしれない、と思わせる物語です。ただ、他のレビュワーでも書かれている方がいるように、当時もそうだったようですが、今でも、手放しでイスラエルに正義があったとは言いにくいと思います。
本書の良さは、当時の世界的な政治情勢を使って、ベトナムから中東へと舞台を移しながら、ユニークなストーリーを構築している点です。人物造形もそれに見合って、若干強烈な面もありますが、全体的には良くできていて、ここが本書の読みどころだと思います。このストーリーと人物造形がからみあって、最後には独特の高揚感を感じました。
また、イスラエルのスパイになった登場人物たちが、巻き込まれていきながらも、強い意志を持って行動するのが、「燃える男」のクリーシィを思わせます。これがクィネルの小説に共通して感じる良さの1つなのだろうと思います。
大熊榮氏の訳も良いと思います。ただ、ヒロインの言葉遣いが、人物像を造る目的か、少し他の登場人物とは異なる調子にしていることなど、今となっては若干古めかしく感じる点もあります。現実の事件が歴史的な検証や評価を受けて、その後に本書を改訳してまで出し直す意義があるかどうかは疑問ですが、ただ埋もれてしまうのはスパイ小説として惜しい気もします。
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スナップ・ショット (集英社文庫) 文庫 – 2000/7/19
ターゲットはイラクの原子炉。シナイ砂漠からイスラエル空軍機が飛び立った。その陰で一人の戦争写真家が動き出した。世界を震撼させた原子炉爆撃事件を素材にしたスパイ小説。(解説・伴野 朗)
- 本の長さ472ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2000/7/19
- ISBN-104087603849
- ISBN-13978-4087603842
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (2000/7/19)
- 発売日 : 2000/7/19
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 472ページ
- ISBN-10 : 4087603849
- ISBN-13 : 978-4087603842
- Amazon 売れ筋ランキング: - 915,730位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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2019年10月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2016年4月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
主人公はたぶん、男性の天才カメラマン。でも、その天才カメラマンの夫人となる女性の強さに惹かれる。「目」より傷つき、「目」により癒される。その「目」は別々の人間の目だが、どちらも女性。誰かの後者の「目」になりたいと思う。
2015年4月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
このシリーズは、今読んでもとても面白い。新しくてよかった。
zuki
zuki
2006年11月2日に日本でレビュー済み
冒険小説の大御所クィネルの三作目は、スパイ小説仕立てのノンフィクション・ノベル
である。イスラエル空軍機がイラクのタムーズにあった原子力施設を「バビロン作戦」の
名で空爆したのは1981年6月であった。アメリカを含めた国際社会からの激しい批難を
浴びた事件だったが、イスラエルからある信書を受け取った米国は一転して態度を変え、
攻撃の正当性を認めた。本作はその"秘話"をクィネル流の味つけで物語にしたものである。
実話に基づいているから、フランスで保管中のイラク向け原子炉格納容器が爆破されたり、
イラクの核開発責任者が殺害されるといった、本作にあるモサドの妨害工作も史実である。
クィネルと云えばクリーシィシリーズだが、本作に登場するモサドのスパイで戦争写真家
マンガーは、クリーシィのライフルと異なり、カメラでの"スナイプ"に一瞬の命を賭ける。
不思議なスパイのウォルターや、ダフとルースのペイジェット夫妻、可哀相なギデオン・
ガリーリなど個性的な人々が様々な物語を紡ぎ、一編の壮大な叙事詩を織り成していく。
である。イスラエル空軍機がイラクのタムーズにあった原子力施設を「バビロン作戦」の
名で空爆したのは1981年6月であった。アメリカを含めた国際社会からの激しい批難を
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攻撃の正当性を認めた。本作はその"秘話"をクィネル流の味つけで物語にしたものである。
実話に基づいているから、フランスで保管中のイラク向け原子炉格納容器が爆破されたり、
イラクの核開発責任者が殺害されるといった、本作にあるモサドの妨害工作も史実である。
クィネルと云えばクリーシィシリーズだが、本作に登場するモサドのスパイで戦争写真家
マンガーは、クリーシィのライフルと異なり、カメラでの"スナイプ"に一瞬の命を賭ける。
不思議なスパイのウォルターや、ダフとルースのペイジェット夫妻、可哀相なギデオン・
ガリーリなど個性的な人々が様々な物語を紡ぎ、一編の壮大な叙事詩を織り成していく。
2015年9月8日に日本でレビュー済み
先に読んだA.J.クイネルの『燃える男』を読み終え、なにか昔に読んだ面白そうなミステリはないかと押入れを探していたら偶然にも表紙カバーもない本書『スナップ・ショット』を、積んである本の一番上に見つけたので再読することにした。
本書の奥付を見たら昭和59年(1984年)としてあったから評者が読んでから31年も時が過ぎたことになる。
さすがに本書を読んだことはタイトルでは記憶していたが、内容などすべて忘れていたから初めて読むように読み進んだのである。
石川文洋著『戦場カメラマン』という本を3年ほど前に読んだのだが、本書の主人公ディヴィット・マンガーがまさにその本に出てくるような人物であった。
本書は、1981年6月7日イスラエル空軍エツィオン基地から最新鋭機「F15」8機と「F16」8機の16機が飛び立ちイラクのタムーズにあった原子力施設を爆撃したところがプロローグになっている。
銃の代わりにカメラを持ち、最前線の戦場で活躍する多くの戦場カメラマンの中でもずば抜けた能力と実績を積んだディヴィット・マンガーが、ベトナムのある作戦に潜り込んで取材したあと燃え尽きるように戦場カメラマンから引退してしまった。
主人公のマンガーが、戦場カメラマンから引退した8年後、あるきっかけからモサドの一員となり活躍し始めるのだが、このあたりは著者がリアルに書き上げたフィクションである。
1982年に、著者がこの『スナップ・ショット』を、世界を驚かしたイスラエル空軍のイラク原子力施設空爆からたった1年あとに発表したことに、評者は驚いてしまったのである。
当時イスラエルは世界中から非難の的となっていたから、著者クイネルは、イスラエルを擁護するような小説を書き上げたのかしら、とさえ思えてしまったのである。
評者は、物語として本書を楽しむことはできたが、著者があまりにも現実に起きたことを背景にしてリアルに描いていることから少し戸惑う気持ちになってしまったのである。
イスラエルが1960年代にはすでに核兵器を保有していたのは公然たる事実であるし、その後のイラクの辿ってきた悲惨な戦争を知っていることが、主人公への感情移入を妨げることになってしまったようである。
サダム・フセインが危険なイラクの支配者ではあったが、イスラエルに正義があり手放しで支持できることもできないのではないかと思ってしまったのである。(いまだに収束しないパレスチナとの紛争が証明している)
この小説から30年以上過ぎた現在も、百年河清のごとく続いている中東での紛争を思うと、暗澹たる思いで本書を読み終えてしまったのです。
本書の奥付を見たら昭和59年(1984年)としてあったから評者が読んでから31年も時が過ぎたことになる。
さすがに本書を読んだことはタイトルでは記憶していたが、内容などすべて忘れていたから初めて読むように読み進んだのである。
石川文洋著『戦場カメラマン』という本を3年ほど前に読んだのだが、本書の主人公ディヴィット・マンガーがまさにその本に出てくるような人物であった。
本書は、1981年6月7日イスラエル空軍エツィオン基地から最新鋭機「F15」8機と「F16」8機の16機が飛び立ちイラクのタムーズにあった原子力施設を爆撃したところがプロローグになっている。
銃の代わりにカメラを持ち、最前線の戦場で活躍する多くの戦場カメラマンの中でもずば抜けた能力と実績を積んだディヴィット・マンガーが、ベトナムのある作戦に潜り込んで取材したあと燃え尽きるように戦場カメラマンから引退してしまった。
主人公のマンガーが、戦場カメラマンから引退した8年後、あるきっかけからモサドの一員となり活躍し始めるのだが、このあたりは著者がリアルに書き上げたフィクションである。
1982年に、著者がこの『スナップ・ショット』を、世界を驚かしたイスラエル空軍のイラク原子力施設空爆からたった1年あとに発表したことに、評者は驚いてしまったのである。
当時イスラエルは世界中から非難の的となっていたから、著者クイネルは、イスラエルを擁護するような小説を書き上げたのかしら、とさえ思えてしまったのである。
評者は、物語として本書を楽しむことはできたが、著者があまりにも現実に起きたことを背景にしてリアルに描いていることから少し戸惑う気持ちになってしまったのである。
イスラエルが1960年代にはすでに核兵器を保有していたのは公然たる事実であるし、その後のイラクの辿ってきた悲惨な戦争を知っていることが、主人公への感情移入を妨げることになってしまったようである。
サダム・フセインが危険なイラクの支配者ではあったが、イスラエルに正義があり手放しで支持できることもできないのではないかと思ってしまったのである。(いまだに収束しないパレスチナとの紛争が証明している)
この小説から30年以上過ぎた現在も、百年河清のごとく続いている中東での紛争を思うと、暗澹たる思いで本書を読み終えてしまったのです。
2006年10月9日に日本でレビュー済み
好きなクリーシィシリーズではないので、気楽に読み始めた。途中まで完全なフィクションだと思って読んでいたら、イスラエルによるイラクの原子炉攻撃って本当にあった話だったということに気付いた。なんで、アメリカがあんなに、イラクの大量破壊兵器にこだわったのか、ということがこの本を読んでわかった。
ストーリー自体はクリーシィシリーズほど興奮はさせないが、それなりに読める。知らなかった現代史を知ることができたということで評価したい。(クイネルには失礼な評価になっているかも?でも、ファンなのでつい期待してしまうんだな。)
ストーリー自体はクリーシィシリーズほど興奮はさせないが、それなりに読める。知らなかった現代史を知ることができたということで評価したい。(クイネルには失礼な評価になっているかも?でも、ファンなのでつい期待してしまうんだな。)