表題「オープンハウス」とその2ヵ月後を描いた「グッバイ ジェントルランド(オープンハウス2)」、
そして「バチーダ ジフェレンチ(奇妙な鼓動)」という3つの物語で構成される。
オープンハウス〜グッバイ ジェントルランド(オープンハウス2)
20代のトモノリはクレジットカードを使い込み、破産宣告される。
ホームパーティで知り合った、20代後半でモデルのミツワの家に転がり込んで10ヵ月になる。
その家にはミツワの友人マキから預かった中型犬エンリケも半年「居候」状態である。
マンション住まいのため、鳴き声防止訓練首輪をされ、吠えることをしなくなった。
シーンは2つに分かれ、後半には2人でオープンハウスに出かける。
そこでミツワの過去が明かされる。
印象的な台詞はラストにミツワがいう「幸せな人間しか犬は飼っちゃ駄目なのよ」。
このことで、吠えなくなったエンリケが不幸な象徴として浮き彫りになる。
「住処」をテーマにしたこの物語は、トモノリが毎日ミツワのそばにいて世話をするという、
同じ場面を「再生」するような繰り返しの日々にいるのは、
誰も知らないミツワの部分を見ることができるから、
つまりは、それがお金では買えないものであるということに気づくことで一応の帰結を迎える。
その続編(グッバイ ジェントルランド)では、
エンリケを捨てることになり、トモノリは自転車で都内を数時間走り回る。
ここでもシーンは2つに分えられ、後半ではトモノリの実家に行きつく。
町工場を営む父と精神を病む母のもとにエンリケの居場所を見つける。
そのことでトモノリの両親は幸せな人間であることを読者は知り、
住処とは何かについて考えるきっかけを得る。
バチーダ ジフェレンチ(奇妙な鼓動)
冒頭に「奇妙な鼓動(BATIDA DIFERENTE)」の詩が引用されており、
表題の「オープンハウス」とパラレルな世界で、別の男女の物語が展開される。
画廊に勤めるユイコは、怠け者で友人も1人しかいないユキタケとの3年間の夫婦生活にピリオドをうった。
二人で暮らした住処を離れる間際の出来事が綴られる。
シーンは8つに分かれ、その中で、
一人娘のユイコをシングルマザーで育てた50歳になる母トキコ、
女子高時代の親友マキ、
ユキタケの後輩で唯一の友人であるミヤケといった面々がユイコの前に現れ、
自分の知らないユキタケ(饒舌であること、仕事を辞めたこと等)を聞かされ、驚く。
特にマキとは2年にわたり、よく会っており、自分よりはるかに多くユキタケと話をしていたことに嫉妬心を覚える。
それでもユキタケはユイコにしか新しい電話番号を教えておらず、ユイコからの電話を待っている。
キーワードになるのはユイコの「じんましん」と「ラッパ飲み」である。
この物語では犬ではなく、この2つが幸せであるかどうかのバロメータとして設置される。
ミツワとユイコという「女性の逞しさ」が描かれたのは、辻作品で初めてのことである。
以後『愛はプライドより強く』『ニュートンの林檎』『サヨナライツカ』等、
魅力的な女性が多く描かれることになるが、ミツワとユイコはそうした作品系譜の最初に位置づく。
両者ともアラサー女性であることで連作として見事に成立させている。
特に「オープンハウス」は映画シナリオ(ファンクラブ会報誌フラジルで掲載)までつくっていたほど、
映像化したかった作品だった(映画は別の監督で制作された)。
また「オープンハウス」と「グッバイ ジェントルランド」はそれぞれ楽曲のタイトルでもある
(前者は辻仁成、後者はエコーズのナンバー)。
この2曲はつくられた時期が異なり、イメージもかなりかけ離れたものであるが、
小説を読み終えた後に2曲続けて聞いてみると、
それまでとはまた違った鼓動(バチーダ ジフェレンチ)を楽しむことができる。
ちなみに「オープンハウス」という楽曲はこの小説とよく連動しており、
映画の主題歌にもなっているが、
もう1曲は「グッバイ ジェントルランド」というよりも
個人的には「ミーイズム」のイメージがある。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
オープンハウス 単行本 – 1994/3/4
辻 仁成
(著)
「わたし」は「あなた」にとってどんな存在なのか? 破産宣告を受けた僕。飼い主が帰らない犬のエンリケ。ミツワのマンションに居候する僕たちの奇妙な連体感…。現代風景を映した連作集。
- 本の長さ208ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日1994/3/4
- ISBN-104087740579
- ISBN-13978-4087740578
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
もっとそばで聴いてみて、いつもと違う私の鼓動…。私はあなたにとってどんな存在なのだろう。若者の都市生活に描く現代風景、新しい男女の物語。新境地を示す最新作品、表題作ほか2編を収録。
登録情報
- 出版社 : 集英社 (1994/3/4)
- 発売日 : 1994/3/4
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 208ページ
- ISBN-10 : 4087740579
- ISBN-13 : 978-4087740578
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,026,820位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 23,430位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
東京生まれ。
89年「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞し、作家デビュー。97年「海峡の光」で第116回芥川賞、99年「白仏」の仏翻訳語版「Le Bouddlha blan」で、仏フェミナ賞・1999年外国小説賞を日本人としては初めて受賞。
文学以外の分野でも幅広く活動している。監督・脚本・音楽を手がけた映画「千年旅人」「ほとけ」「フィラメント」「ACACIA」でも注目を集め、メディアの垣根を越えたその多岐にわたる活躍は、今、もっとも注目されている。2003年より渡仏。現在はフランスを拠点に創作活動を続けている。
カスタマーレビュー
星5つ中4.8つ
5つのうち4.8つ
7グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2007年12月14日に日本でレビュー済み
ピークの過ぎたモデル女とその女のヒモのように生活する日々を送っているカード破産男、そして2人の住むマンションのベランダで飼われている犬の『エンリケ』ら3人(?)の奇妙な同棲生活の描写が淡々と語られているお話。いったい何を考えているのだかサッパリ分からない山の天気並みに気分がコロコロ変わる女に対して一貫して受動的な態度の男の様子が凄く淡々と描かれるけど読んでる私はなぜかドキドキしぱなっしだった。
辻さんの作品には、なんとなくボーッと都会に佇むけだる気な青年が頻繁に出てくる。そしてそんな喜怒哀楽の少ない一見冷めた様子の主人公がとてもかわいらしく、詩的でストーリーが映像のようにスーッと頭に侵入してきて離れないのはなぜだろう。
辻さんの作品には、なんとなくボーッと都会に佇むけだる気な青年が頻繁に出てくる。そしてそんな喜怒哀楽の少ない一見冷めた様子の主人公がとてもかわいらしく、詩的でストーリーが映像のようにスーッと頭に侵入してきて離れないのはなぜだろう。
2006年8月8日に日本でレビュー済み
短編3部作(その内の2編は、続きもの)です。
最初の続きものの2編は、カード破産して気の強い女性の居候となった「トモノリ」が主人公。物語を通じて、トモノリの育った家庭環境などが明らかになっていく。
最後の1編は、無口でうじうじした男「ユキタケ」と3年の結婚生活の後に別れた、「ユイコ」が主人公。物語を通じて「ユキタケ」の意外な一面などが明らかになっていく。
どちらも、辻氏ならではのリアルな性描写などの泥臭さや青臭さが無く、辻氏の新たな一面が見られる作品でした。
最初の続きものの2編は、カード破産して気の強い女性の居候となった「トモノリ」が主人公。物語を通じて、トモノリの育った家庭環境などが明らかになっていく。
最後の1編は、無口でうじうじした男「ユキタケ」と3年の結婚生活の後に別れた、「ユイコ」が主人公。物語を通じて「ユキタケ」の意外な一面などが明らかになっていく。
どちらも、辻氏ならではのリアルな性描写などの泥臭さや青臭さが無く、辻氏の新たな一面が見られる作品でした。
2003年3月17日に日本でレビュー済み
初めて辻 仁成の本を読んでとても感動しました。
たとえ方がとても上手で読んでいて
参考になる点が数多く見られます。
辻 仁成の独特の感性はとても新鮮で一度読んでみる価値はあると思います。
たとえ方がとても上手で読んでいて
参考になる点が数多く見られます。
辻 仁成の独特の感性はとても新鮮で一度読んでみる価値はあると思います。
2004年1月26日に日本でレビュー済み
ストーリーはほとんどなくて雰囲気で読ませる小説といったかんじでしたが
個人的には好きでした。
正直ストーリものよりいいと思います。
一話目の終わり方が気に入ってます。
個人的には好きでした。
正直ストーリものよりいいと思います。
一話目の終わり方が気に入ってます。