人間の深層心理の不安や記憶に訴えってくる内容であっという間に読んでしまいました。
最初は個人の失踪という不気味なミステリー仕立ての内容に引きつけられそれがいつの間にか登場人物それぞれ個人個人のアイデンティティにまで関わる問題へと発展して行きます。
今でこそキレイに整理され近代的な街になりましたが当時の香港はまだまだ得体の知れない部分があって失踪というのはすごく現実味のある響きでした。
新婚旅行に行ったカップルの妻が試着室に入ったきり行方不明になり人身売買で売り飛ばされたりとかのうわさがまだ残っていた頃です。
そうしてそういったうわさに私達は不安よりもワクワクしていた感があったのを思い出しました。
私自身、今思えば、香港が始まりでした。
やはり団体の社員旅行で香港といえばブランドショッピングのイメージしかなく、さして興味も持てず出かけたはずがその街の熱気にすっかりやられ、
その後会社を辞めてアジアの旅に頻繁に出かける事になったすべてのきっかけだったと・・・。
そして香港の次にはやはりバンコクの安宿街をうろつき、国際色入り乱れるインターネットカフェにいりびたり、この話の中にある「吉田超人」張りのうわさ話を耳にしたり広めたり・・・・。
ツアー中に行方不明になったきりの男、知り合いでもないのに何年も前に書かれた手紙を読み、その行方を追って旅に出るエノキドケイスケ・・・・。
ここまでドラマティックでないとしてもこの時代に彼らのような(自分のような)人間は山ほどいたはず・・・。
そしてそんな個人のアイデンティティをゆるがすような記憶の奥底を揺する様な混乱やアジアの喧噪が当時の香港にはあったと思います。
飛行機から見降ろすと巨大な化け物のような九龍城、
着陸時、街に激突するんじゃないかと思うほど迫力満点に繁華街スレスレに位置していてた旧香港空港、
極彩色の(チャイニーズドリームの)金持ちの悪趣味が見せる夢のようなタイガーバームガーデン、
見上げると建設中の高速ビルの上に乱立する竹製の細工の様な信じられない足場にたつ人影、
ひしめくようにたつビル、家々の窓、熱気あふれる路地、人、人、人・・・。
直接描かれている訳ではないけれどもそういった当時の情景や記憶がこの本を読む事で次々浮かんできました。
遠くは金子光晴に始まり藤原新也、沢木光太郎、小林紀晴、角田光代と繋がる自分=旅のジャンルの中に間違いなくこの本は組み込まれると思います。
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ツアー1989 単行本 – 2006/5/26
中島 京子
(著)
注目作家の“記憶"をめぐる傑作小説!
15年前の香港旅行。その時迷子になった男子大学生をめぐって、女性添乗員、ツアー参加者、彼の手紙を届けられた女性の記憶が錯綜し…。真実は? 記憶をめぐる微妙な心理をミステリタッチで描く。
15年前の香港旅行。その時迷子になった男子大学生をめぐって、女性添乗員、ツアー参加者、彼の手紙を届けられた女性の記憶が錯綜し…。真実は? 記憶をめぐる微妙な心理をミステリタッチで描く。
- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2006/5/26
- ISBN-10408774812X
- ISBN-13978-4087748123
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (2006/5/26)
- 発売日 : 2006/5/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 224ページ
- ISBN-10 : 408774812X
- ISBN-13 : 978-4087748123
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,459,892位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 34,360位日本文学
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2009年12月7日に日本でレビュー済み
不思議な読後感が残りました。話の中の「迷子ツアー」に参加した感覚とは
こんなものではないかと思いました。
この作者の文章はひじょうに読み易いので、普段あまり本を読まない方、
なおかつ近いうちに初の海外旅行を計画中の若い人ならばドンピシャリの
一冊になるかも。
作者はバブル期に青春を謳歌したのか、思い入れを感じます。確かにあの時代
だからこそ活きる設定ですね。
こんなものではないかと思いました。
この作者の文章はひじょうに読み易いので、普段あまり本を読まない方、
なおかつ近いうちに初の海外旅行を計画中の若い人ならばドンピシャリの
一冊になるかも。
作者はバブル期に青春を謳歌したのか、思い入れを感じます。確かにあの時代
だからこそ活きる設定ですね。
2009年8月29日に日本でレビュー済み
香港に住んでいるので、舞台が香港と言うだけで、本屋に平積みにしてあったのを買ってみました。240ページ程の本で、とても薄く、さっと読めます。
一つの出来事を、それに関わった?4人の視点で4部に分けて書かれています。
設定はとてもおもしろく、期待して読み出したのですが、最後までたどり着いたときに、謎というか、矛盾というか、もやもやとしたものが残り、で、結局?という内容でした。
ミステリーとしてなら、もっとスッキリさせて欲しかった・・・
読んだ人に考えさせる(人生や生き方を)事が目的なら、もっと深くして欲しかった・・・
いくつかの謎は提供されたまま、最後にそれに何もふれずに終わっています。
香港の描写は場面を想像できる丁寧なものでしたので、きっと丁寧に取材して書かれたと思うだけに残念でした。
ただ、本はそれぞれ読む人の楽しみ方が違うと思うので、あくまでも私の個人的な感想です。
一つの出来事を、それに関わった?4人の視点で4部に分けて書かれています。
設定はとてもおもしろく、期待して読み出したのですが、最後までたどり着いたときに、謎というか、矛盾というか、もやもやとしたものが残り、で、結局?という内容でした。
ミステリーとしてなら、もっとスッキリさせて欲しかった・・・
読んだ人に考えさせる(人生や生き方を)事が目的なら、もっと深くして欲しかった・・・
いくつかの謎は提供されたまま、最後にそれに何もふれずに終わっています。
香港の描写は場面を想像できる丁寧なものでしたので、きっと丁寧に取材して書かれたと思うだけに残念でした。
ただ、本はそれぞれ読む人の楽しみ方が違うと思うので、あくまでも私の個人的な感想です。
2007年1月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
バブル全盛時代と現代を交差しながら、オムニバス形式で記憶を辿っていくロールプレーイング。
15年前の団体香港旅行での不可解な出来事を若い青年が謎を紐解いていく物語。
謎が謎を呼ぶというような展開に面白くて引き込まれるのですが、後半から鈍く失速したまま結末となって面白さが半減したような印象です。
15年前の団体香港旅行での不可解な出来事を若い青年が謎を紐解いていく物語。
謎が謎を呼ぶというような展開に面白くて引き込まれるのですが、後半から鈍く失速したまま結末となって面白さが半減したような印象です。
2006年9月18日に日本でレビュー済み
1989年にある団体香港旅行が催行された。それから十数年の歳月が流れたが、当時のツアー参加客や添乗員たちは、自分たちが一人の青年を香港に残したまま帰国してしまったらしいということを知らされる。しかし誰一人として、そんな青年がいたことなど憶えていない。本当に青年は自分たちと一緒に旅していたのか…。
物語の終盤でこの青年の謎は、一応の決着を見ることになります。しかしこの小説の眼目は謎解きにはありません。謎の果てに見えてくるのは、私たちが誰か他者を知悉することの絶対的不可能性と、さらには私たちは他者というものを様々な情報の集積によって作り上げていくことしか出来ないというある種の絶望感です。
インターネットによって情報の記録や探索、そしてその創造すらが当たり前の時代にあって、この物語が私たちにつきつけてくるのは、まさにこうした情報の集積が、そもそも存在しないものを生み出し、そしてその存在しないものに多くの人々が群がり追いかけ続ける奇怪な世界です。
言い換えれば、他者は時に恣意的な情報の集積という手段であなたの像を勝手に作り上げ、やがてその像があなたを呑み込んでしまうおそれが十分にある世界に私たちは生きています。この小説の青年はボンヤリした、存在感の希薄な男として登場しますが、それはまさに他人の描いた像に飲み込まれやすい男の喩えとして描かれているわけです。また同時に、この青年を探す人々もそれぞれ自身の存在の希薄さに心のどこかで恐れおののいている様子が見て取れます。
その世界にあって「忘れずにいるべきこと」は、自分が自分であることを揺らぐことなく信じられる自分自身を築くことです。
「自分探し」という言葉が一時もてはやされましたが、自分は探すものではなくて作りあげていくものなのです。そのことをこの小説は大変奇妙な設定のもとに訴えかけているような気がしてなりません。
物語の終盤でこの青年の謎は、一応の決着を見ることになります。しかしこの小説の眼目は謎解きにはありません。謎の果てに見えてくるのは、私たちが誰か他者を知悉することの絶対的不可能性と、さらには私たちは他者というものを様々な情報の集積によって作り上げていくことしか出来ないというある種の絶望感です。
インターネットによって情報の記録や探索、そしてその創造すらが当たり前の時代にあって、この物語が私たちにつきつけてくるのは、まさにこうした情報の集積が、そもそも存在しないものを生み出し、そしてその存在しないものに多くの人々が群がり追いかけ続ける奇怪な世界です。
言い換えれば、他者は時に恣意的な情報の集積という手段であなたの像を勝手に作り上げ、やがてその像があなたを呑み込んでしまうおそれが十分にある世界に私たちは生きています。この小説の青年はボンヤリした、存在感の希薄な男として登場しますが、それはまさに他人の描いた像に飲み込まれやすい男の喩えとして描かれているわけです。また同時に、この青年を探す人々もそれぞれ自身の存在の希薄さに心のどこかで恐れおののいている様子が見て取れます。
その世界にあって「忘れずにいるべきこと」は、自分が自分であることを揺らぐことなく信じられる自分自身を築くことです。
「自分探し」という言葉が一時もてはやされましたが、自分は探すものではなくて作りあげていくものなのです。そのことをこの小説は大変奇妙な設定のもとに訴えかけているような気がしてなりません。
2017年6月4日に日本でレビュー済み
裏表紙に書いてある通りの「ミステリアスな物語」だった。
設定としては面白さを感じるし、新しさもあった(内容は古いけれども)。
ただ、小説を読むことで何かを得たいと思っている人にはおすすめできない小説。その点で個人的に星3つかなと。
その中でも面白かった部分は、
・虚構の広がり方
について。
ある事柄に対しての思い込みが、口伝えで広がっていき、はじめた者の意思とは一切違う方向に進んで行く。
本書はインターネット以前の話ですが、この虚構の広がり方というのは現代にも通ずるものがあるなと感じました。
設定としては面白さを感じるし、新しさもあった(内容は古いけれども)。
ただ、小説を読むことで何かを得たいと思っている人にはおすすめできない小説。その点で個人的に星3つかなと。
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について。
ある事柄に対しての思い込みが、口伝えで広がっていき、はじめた者の意思とは一切違う方向に進んで行く。
本書はインターネット以前の話ですが、この虚構の広がり方というのは現代にも通ずるものがあるなと感じました。
2014年10月15日に日本でレビュー済み
余韻というか、後に残る感慨がまったくなかった。
謎でも何でもなかったし、単に海外で「ドボン」してしまっただけ?と思っただけだった。
結論はあってなきがごとしの話でしょうから、こんなもんだとは思います。
謎でも何でもなかったし、単に海外で「ドボン」してしまっただけ?と思っただけだった。
結論はあってなきがごとしの話でしょうから、こんなもんだとは思います。
2006年8月24日に日本でレビュー済み
舞台は現代、バブル時代(1989年)に行われた香港パッケージツアーを巡り、それに関係した人々の記憶を辿っていく小説。
読み進めるとミステリーと感じるかもしれませんが、ミステリーとして読むと肩透かしをくらいます。
しかし、この点こそがこの小説のターゲットである訳で、時と様々な人間が介在することにより事実は記憶や伝達の中で変化し、様々な逸話や伝説が生まれたりします。
例えば、日記を書き留めることは記憶を残すと言う点で効果的な手段ではありますが、年月が経った時、果たしてそこから蘇る記憶はその当時そのままのものであるのか?
ならば、真実とは今ここで起きていることだけではないか。そして、その瞬間が過ぎれば記憶となる。しかし、記憶は移ろぐものであるから、到底それを真実とは呼ぶことは誰にもできないし、大体はそんな記憶の中で我々は生活しているんじゃないだろうか、とそんなことを考えるお話でした。
とか、示唆的なことはどうでもよくて、物語は、現代的な素材であるインターネットやブログ等も登場したり、関係者それぞれの記憶のエピソードやバブル時代から現在にいたる時代を巧みに紡いで行くので読者は楽しく読書できるエンターテイナー本であると思います。
読み進めるとミステリーと感じるかもしれませんが、ミステリーとして読むと肩透かしをくらいます。
しかし、この点こそがこの小説のターゲットである訳で、時と様々な人間が介在することにより事実は記憶や伝達の中で変化し、様々な逸話や伝説が生まれたりします。
例えば、日記を書き留めることは記憶を残すと言う点で効果的な手段ではありますが、年月が経った時、果たしてそこから蘇る記憶はその当時そのままのものであるのか?
ならば、真実とは今ここで起きていることだけではないか。そして、その瞬間が過ぎれば記憶となる。しかし、記憶は移ろぐものであるから、到底それを真実とは呼ぶことは誰にもできないし、大体はそんな記憶の中で我々は生活しているんじゃないだろうか、とそんなことを考えるお話でした。
とか、示唆的なことはどうでもよくて、物語は、現代的な素材であるインターネットやブログ等も登場したり、関係者それぞれの記憶のエピソードやバブル時代から現在にいたる時代を巧みに紡いで行くので読者は楽しく読書できるエンターテイナー本であると思います。