著者の人物評伝ともいえる「鎌倉のおばさん」・「ヤスケンの海」・「淳之介流」などの作品は、なかなかに読ませるものでした。しかし、この作物はいけません。親しくなったホリプロの創業者から、「わしの自伝書いてくれへん？」と言われ、安易に書いたものと誤解されても仕方がないのではと思わされます。なにかにつけて褒めてばかりで、短所をえぐろうとしていない、従って人物を描こうとしていません。
兎に角、その文章がなっていません。「実に長々しくまた迂回に終始する、私の横ばいでありました」（Ｐ１６０）とか「・・・・村松念のため蛇足」（Ｐ１７４）のような余計な但し書きは作家ならば入れてはいけないでしょう。
なによりも、「バンドマン的な不良」という意味合いの言葉が何十回出てきたことでしょうか？ 又か、とうんざりさせられました。なんでもかんでもその言葉に帰結させてしまいます。実に安易としか言いようがありません。いくらなんでも、繰り返しがひど過ぎます。とても小説家のやることではありません。肝心の「人物描写」というものがその言葉で終わってしまっているのです。
そして最後には突然に「たくあん」と沢庵和尚を結び付けたどうでもよいような記述・・・・あげくの果てに、故人となった井上ひさし氏まで引っ張り出して訳のわからない文章を連ねています。一体村松氏はどうしたのでしょうか？ 編集者でもあった氏ならば、ホリプロのちょうちん記事としか思えない書物になっていることに気付かれると思うのですが・・・・・どうしてこんなものを書いたのでしょうか？
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