1982~83年に漫画雑誌「ぶ~け」で連載された作品の最終巻。大幅加筆(※帯文より抜粋)されたためもあってか、この巻は1986年に発売された。
この作品全体に言えることだが、緻密に描きこまれた美麗な絵に圧倒される。工夫に富んだ構図やコマ割りの絵も多く、時々挟まれる見開きの絵などは眩暈がするほどきれいで、少しおそろしい感じさえする。自分の知るかぎり、作画がここまで凄まじい漫画は他にない。
物語も非凡だ。この作品においては、幽霊屋敷の夢を何度も見るヒューと生粋の故郷喪失者であるウラジーミルの二人が主人公だと言える。ヒューの夢では、その古めかしい屋敷を舞台に、美しい少女と薔薇、金木犀と月が登場する。彼らがその夢を追うなかで、自然を愛する日本人女性の葉月、心理学者でコミック屋も営むリチャード、長身の美しい青年のジョン・ピーター、元女優でデザイナーのヴィなどが関わってくる。夢、故郷、美や愛、魂や意識や精神、科学の進歩や人類の進化、都市と自然、日本文化と西欧文化、宗教、時間と空間、そして宇宙…この作品に織りこまれた問題は多い。「ほんと、お茶マンガだな…」と、この巻の欄外に作者も書いているとおり、お茶をしながら登場人物たちが会話をする場面が度々あるのも印象深い。また、詩情に富む静かな展開の多い物語のなかで、随所にはさまれるコミカルな描写がアクセントになっているとも思う。
ついでに、この巻を読みながら驚かされたことを書く。後半に墓場の場面があるのだが、その墓石の一つに作者の名前が彫られていることだ。何気ない描写だが、若くして漫画家をやめた作者のその後を想うと、複雑な気持ちになる。一方、このような作品をつくる作者がそのような細工を仕込むことは、何となく自然な感じもする。
重要なネタバレを避けつつ書いたものの、感じさせられるところ、考えさせられるところの非常に多い本作の魅力を伝えるのは困難だろう。これまでに何度も読み返しているが、その度に新たな発見がある。絶版のために気軽に入手できる作品ではないかもしれないが、個人的には思いきって手に入れて本当に良かったと思う。
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星の時計のLiddell 3 単行本 – 1986/10/1
内田 善美
(著)
- 本の長さ201ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日1986/10/1
- ISBN-104087821048
- ISBN-13978-4087821048
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (1986/10/1)
- 発売日 : 1986/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 201ページ
- ISBN-10 : 4087821048
- ISBN-13 : 978-4087821048
- Amazon 売れ筋ランキング: - 470,443位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 243,090位コミック
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2004年4月25日に日本でレビュー済み
冒頭からヒューとウラジーミルの旅が現実の始まる。南へ…わたしはプロットの肉付けを明かすようなゲスなまねはしないが、大枠で言えば第3巻は帰結である。しかし1巻の老子の『胡蝶夢』のごとくフィロソフィーは円環的で、キリスト教的と言うよりは仏教的に展開する。初めではないがスパイラルに…。わたしはこの後、『草迷宮・草空間』を描かれたあと作者が断筆状態であられることに共感する。本当のことを言うと内田善美さんとはこの世の人では無いのではないか?と怖れた時期もあった。同時にわたしもParisやN.Y.で過ごした日々があったが、わたしがヒュー的な存在なのか、なぜウラジーミルみたいに旅を続けている者なのかこの作品を思い起こすほどに辛いこともあった。最近は少し距離を置いて再度触れることが出来るような心持ちになったのだが、ここまで美しいパラダイムを描き出した作者の偉業に改めて敬意をはらいたい。これを読まれた方、ページから入手できるチャンスが在れば、是が非にも手に入れませ。
2017年9月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
表題に尽きる。
一連の作品は、絶版にするには惜しい。
今でも十分以上に読むに値する。
若い人たちは、作者・作品の存在すら知らない世代になったのでは。
なんとか、連絡を取って復刻に至って欲しい作家。
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