まず最初に「ごめんなさい」です。
読む前は「タッチ」で一度野球を題材にしているのに、また同じ野球の漫画なんか描いて、作者は「自己模倣」でも始めたのか?・・・なんていう先入観が立ってしまいました。
で、読み始めたんだが・・・「タッチ」とは全然違うよ!
何よりも野球が完全に話の中心となった。タッチでは恋愛がメインで野球はあくまでも小道具だったのに。
こちらは野球と恋愛の比率は「6対4」もしくは「7対3」でタッチと完全に割合が逆転した。
直球の一本やりで三振の山を築いていた「上杉達也」から幾星霜、比呂は変化球も使いこなすようになったし。
タッチで「案山子扱い」だったチームメイトにも光が当てられ、連帯感を持たせる意味でも説得力が加わった。特に最初はスパイとして入部してきたはずの「島」と「大竹」の2人が次第に野球の面白さを知り、試合で活躍するたびにチームメイトや観客から認められる過程で「悪役としての任務」を放棄して、チームの主力となっていくという展開は悪い方向へと行きそうだった2人の運命が好転したという意味で読後感が心地よかった。
2人のヒロインと2人のヒーローを用意した「四角関係」が最後までカップリングの着地点を読ませず、野球の試合内容とは違う意味でも緊迫感が継続されて良かった。
自分は・・・最後まで比呂がひかりとくっ付くかもという可能性も捨て切れなかった。
でもよくよく考えると、ひかりにとっての比呂は「弟」の位置付けなんですよね。
度々、比呂を男として意識しつつも、最後には「血の繋がらない家族の位置」へと還ってきたように思う。
そして比呂のひかりへの初恋も・・もうずっと前に終わっていた。
ひかりの恋人にして比呂の最大のライヴァルの英雄は・・・ひかりと付き合いながらも常に「ひかりが本当に好きなのは自分ではなく比呂ではないのか?」という疑念に囚われていた。
思えば、このお話は英雄にとっては自らの心の疑念を晴らすための戦いの軌跡でもあったわけだ。
最後の夏の甲子園を前にしての比呂とひかりのデートは映画だった。
帰り道で、母親を亡くしたばかりのひかりは別れ際に比呂に言う。
「比呂と幼なじみでよかった」「さよなら」と。
このセリフでひかりが比呂ではなく英雄を選んだのだと思った。
幼い頃から「弟」のように思い、そしていつの間にか比呂を「男」として意識するようになったとき、ひかりにはすでに英雄という恋人がいた。
先に「女」となったひかりに遅れて「男」になった比呂が、もしも、もう少しだけ早くひかりに男を感じさせていてくれたなら・・・・・?
果たして2人の仲はどうなっていた・・・?
・・・・・・・・・・・・おそらくひかりが英雄ではなく、比呂と恋人になった未来もあったことだろう。
けれど、その未来は現実のものとはならなかった。
高校三年生の夏の甲子園の準決勝でついに対決する比呂と英雄。それを見守るひかりと春華。
結果は比呂の勝利・・・も、勝った比呂とそれを見守ったひかりの目からは涙の雫がこぼれ落ちる。
お互いが互いに対する恋心にピリオドを打ったことを悟った、ストーリー中でも屈指の名場面だ。
英雄は比呂との勝負に負けて悟った
「ひかりが最も必要としているのは自分で、そんなひかりのことを誰よりも愛しているのも自身だ」と。
ひかりも気付いていた。
「最初から選択の余地(自分と比呂が結ばれる可能性)なんて無かったのよ」と。
ひかりと比呂は恋人にはなれない。「そうなるチャンス」をとうの昔に過ぎ去ってしまっていた・・・・。
そして失われた時間を取り戻すことは決して叶わない・・・・。
かくて、十年近く英雄の心を曇らせた暗雲も晴れ、物語は終局する。
準決勝を勝ち抜いた千川ナインはいざ決勝戦へと進む!
その比呂の傍らには、彼にとっての「恩人のひとり」といってよい春華の姿があった。
描かれないままに終わった決勝戦だが、比呂の行く未来は広がる夏の青空そのものだった。
「結ばれる可能性も高かったのだが、ボタンの掛け違いで結ばれずに終わった2人。でも、決して不幸ではない」
この作品の最大のセールスポイントは「ひかりと比呂が両想いなのに、結ばれることなく終わる」という点。
だからこそ
「出会いの難しさ」とか、
「人生におけるタイミング」、
「思春期における女子の男子に対する精神的な成長での優位性」
等が感じられて、とてもせつないのです。
でも決して不幸と思えないのは2人は恋人にはなれなくとも「家族」という立ち位置(直接的な血縁関係はないが、実質2人は「姉」と「弟」だった)が保証されているから。
だから、「読後の後味が悪くならない」のですよ。
安易に両想いが結ばれてメデタシメデタシ・・・が多い中、これは異色かつ特筆ですよ。
ここまで読まれた方なら間違いなく想像できるはずです。
物語のラストから数年後、英雄とひかりの結婚式で
「ひかりは俺の姉さんです」と祝福のスピーチをする比呂の姿が!
そして、そこからさらに十数年後。
英雄とひかりの間に生まれた娘に
「そういえば、比呂叔父さんの初恋の相手って、うちのお母さんなんでしょ?」
と問われ、焦ってしどろもどろになる比呂の姿が!
それって…決して「不幸な未来」ではないよね。
間違いなく「幸せな未来」の姿のはず。
結ばれるだけが幸せではないのです。
大切な人を「生涯に渡り見つめ、傍らで支え続ける(夫婦としてではなく)」というのも
同じくらいの男の幸せではないでしょうか。
比呂は間違いなくそれをやり通すはずです。
「義弟として、結ばれられなくても生涯に渡って義姉を支え続ける」
そこに比呂の「男としてのプライド」を見たいと思う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お見事!
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H2 17 (少年サンデーコミックス) コミック – 1996/6/1
あだち 充
(著)
▼第1話/四球でもいいか?▼第2話/あれれ▼第3話/ビキニ?▼第4話/結末やいかに!?▼第5話/スリーバント!?▼第6話/どっちだ?▼第7話/縁起でもねえ▼第8話/泣くわきゃないか▼第9話/ほんどですか!?▼第10話/千川が勝つよ
●登場人物/国見比呂(千川高校野球部のエース)、野田淳(比呂とは黄金バッテリー)、橘英雄(強豪の明和一高校野球部期待の星)、雨宮ひかり(比呂の幼なじみ。英雄と付き合っている)、古賀春華(千川高校野球部のマネージャー)
●登場人物/国見比呂(千川高校野球部のエース)、野田淳(比呂とは黄金バッテリー)、橘英雄(強豪の明和一高校野球部期待の星)、雨宮ひかり(比呂の幼なじみ。英雄と付き合っている)、古賀春華(千川高校野球部のマネージャー)
- 本の長さ179ページ
- 言語日本語
- 出版社小学館
- 発売日1996/6/1
- ISBN-104091235077
- ISBN-13978-4091235077
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商品の説明
出版社からのコメント
比呂(ひろ)、英雄(ひでお)、ひかり、春華(はるか)。恋に、スポーツに、それぞれ「青春」が熱く輝く!大好評バックアップ「青春」ストーリー。
登録情報
- 出版社 : 小学館 (1996/6/1)
- 発売日 : 1996/6/1
- 言語 : 日本語
- コミック : 179ページ
- ISBN-10 : 4091235077
- ISBN-13 : 978-4091235077
- Amazon 売れ筋ランキング: - 380,969位コミック
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2005年7月29日に日本でレビュー済み
やっとH2を全巻読みきる事ができた。
連載中は見たり見なかったりでつまむ程度だった。
連載が終わってからワイド版が出るのをずっと待っていた。
なので決してドラマがはじまったからどうこうっていう訳ではないです...。
(漫画が実写になったりするのは好きではない)
あだち充が書く作品はかなり好きで、「タッチ」や「ラフ」は当然のように見てきました。
ワンパターンと言われればワンパターンなのかもしれないけど、
どの作品ももう少し見ていたい!!と思うからこそ、続きを求めるかの様に惹かれてしまう。
H2も最後は何とも言えない余韻を残して終わった。
僕は高校時代サッカー部だったけど、あの3年間に込められた思いというのはどの種目でも同じものだろう。
だから、自分の過去とリンクさせながら見てしまう部分も多い。
高校時代に戻って熱くなりたい。
ドキドキ感のある恋愛をしたい。
本当にそう思わせてくれる。
あだち充氏にはこれからもこういった作品を書き続けていただきたい。
連載中は見たり見なかったりでつまむ程度だった。
連載が終わってからワイド版が出るのをずっと待っていた。
なので決してドラマがはじまったからどうこうっていう訳ではないです...。
(漫画が実写になったりするのは好きではない)
あだち充が書く作品はかなり好きで、「タッチ」や「ラフ」は当然のように見てきました。
ワンパターンと言われればワンパターンなのかもしれないけど、
どの作品ももう少し見ていたい!!と思うからこそ、続きを求めるかの様に惹かれてしまう。
H2も最後は何とも言えない余韻を残して終わった。
僕は高校時代サッカー部だったけど、あの3年間に込められた思いというのはどの種目でも同じものだろう。
だから、自分の過去とリンクさせながら見てしまう部分も多い。
高校時代に戻って熱くなりたい。
ドキドキ感のある恋愛をしたい。
本当にそう思わせてくれる。
あだち充氏にはこれからもこういった作品を書き続けていただきたい。
2008年12月14日に日本でレビュー済み
この巻だけを評価すると、星5つです。しかし、試合自体の内容が、栄京戦の方がすごく心に残りました。この物語で大事な場面である、幼なじみ対決にも関わらず、悪役だった広田との対決の方が、僕は面白かったです。ですが、この巻自体は面白かったと思いますし、ラストも納得のできるものでした。ですので、この巻は星5つです。
2006年1月11日に日本でレビュー済み
連載をリアルタイムで読んでいたときは高校生だったので終わり方に納得がいきませんでしたが、今読み返して「こういう恋愛もあるかな」と思います。
設定だけを聞くとひかりがヒロインで春華は当て馬的存在に思えますが、彼女の素敵なキャラクターが最後までどっちとくっつくかわからないハラハラ感をひっぱってくれました。春華の"待つ女"の姿勢は尊敬に値します。
となると惜しむらくは英雄のキャラの弱さでしょうか。
ヒロインは2人なのにヒーローはどう考えても2人とは思えません。ここで英雄も比呂に負けないくらい魅力的であったら終わり方にももう少し納得できたんですけれど。
設定だけを聞くとひかりがヒロインで春華は当て馬的存在に思えますが、彼女の素敵なキャラクターが最後までどっちとくっつくかわからないハラハラ感をひっぱってくれました。春華の"待つ女"の姿勢は尊敬に値します。
となると惜しむらくは英雄のキャラの弱さでしょうか。
ヒロインは2人なのにヒーローはどう考えても2人とは思えません。ここで英雄も比呂に負けないくらい魅力的であったら終わり方にももう少し納得できたんですけれど。
2007年2月10日に日本でレビュー済み
最後の最後まで比呂は辛い生き方をするんですね(^_^;)
かっこいいっす(*^ー^)
二回三回と読み返して下さい。
比呂の辛さなどがわかりもっと好きになると思います(;_;)
かっこいいっす(*^ー^)
二回三回と読み返して下さい。
比呂の辛さなどがわかりもっと好きになると思います(;_;)
2015年11月16日に日本でレビュー済み
大人になり時間ができたので、漫喫で読みました。
自分の中でサンデーは、ジャンプはもちろん、マガジンにもはるかに及ばない三流紙。
その三流紙のトップ漫画家・あだち充とH2。
期待してませんでしたが、やっぱり感満載でしたね。
野球を扱ったあだち充作品は、パッケージ変えただけで、やってることが同じ。
よくまぁこんなんが人気を博したなと、違った意味で感心しました。
それとも青春時代に読んだら、違った印象を受けたんでしょうか。
どちらにせよ、途中で止めたとは言え、お金と時間のムダでした。
自分の中でサンデーは、ジャンプはもちろん、マガジンにもはるかに及ばない三流紙。
その三流紙のトップ漫画家・あだち充とH2。
期待してませんでしたが、やっぱり感満載でしたね。
野球を扱ったあだち充作品は、パッケージ変えただけで、やってることが同じ。
よくまぁこんなんが人気を博したなと、違った意味で感心しました。
それとも青春時代に読んだら、違った印象を受けたんでしょうか。
どちらにせよ、途中で止めたとは言え、お金と時間のムダでした。
2005年3月10日に日本でレビュー済み
あだち充の天才的なこの人間模様の描き方はもはや神業。一度二度読んだだけでは、筆者の真意は理解できないのではないか?本作品の中で、一番感激させてくれた人物は、広田と木根の二人。二度目の栄京戦で、肘の壊れた広田がセンターから投げる懇親の一投。ライバル校にも関らず、思わず、届け!と思ってしまった。そしてお調子者の木根。英雄に潰され、ヒロに潰され、それでも負けずに二番投手として千川チームを支える。陰で続けていた練習がたたって入院することになり、しかしそれでもチームは快進撃を続けていく。自分は必要じゃないのか?との疑問に初めて涙する。しかしそんな木根を待っていた大事な場面。ヒロは熱で投げられず、リードはしているものの最終回、絶体絶命の満塁のピンチ。心の弱い木根は、もう負けだ、、と思ったに違いない。しかし、木根はそんな弱い自分との勝負にでる。懇親の一投、しかし打たれた!甲子園ともお別れか、、、と思いきや、センターフライに討ち取る。木根、初めての本当の意味での勝利に、涙が頬を伝っていた。ドラマ化もされているけど、はっきり言って、全然別物。四人のHのキャラクターも全然違うし。漫画版で読むことをお勧めします!
2006年7月17日に日本でレビュー済み
あだち充の得意技
キュートで何でもできちゃう可愛い幼馴染の女の子
自立していてかっこよくて男の子の理想を描いたライバル
グータラでどうしようもないがひとつの能力は飛びぬけている主人公
幼馴染の二人、相思相愛なんだからくっつけば良いのに「あーだこーだ」いってくっつかない。でもまた「あーだこーだ」といって、くっつくかと思いきや結局くっつかない。
「もうどうでもいいやん」と思いながら、物語はエクスタシーの引き伸ばしを続けていく。
しかし、このひたすら『くっつく・くっつかない』の綱引きが恋愛の中毒性を言い当てているとも思う。
理由なくどうしようもない男を好きになる素敵過ぎる女の子、村上春樹ばりに男の子の願望を満たしてくれる、この構造はやはり世の男の子を魅了するのではないかと思う。
この物語のラストで一人の人間として「そりゃそうだろ、そっち選ぶだろ!!」と思ったが、男の子としての私は「嗚呼、やっぱそっちいっちゃうか・・・」と残念にも思ったが、普通の女の子は幼馴染だろうと主人公を選ばないよねぇ・・・
キュートで何でもできちゃう可愛い幼馴染の女の子
自立していてかっこよくて男の子の理想を描いたライバル
グータラでどうしようもないがひとつの能力は飛びぬけている主人公
幼馴染の二人、相思相愛なんだからくっつけば良いのに「あーだこーだ」いってくっつかない。でもまた「あーだこーだ」といって、くっつくかと思いきや結局くっつかない。
「もうどうでもいいやん」と思いながら、物語はエクスタシーの引き伸ばしを続けていく。
しかし、このひたすら『くっつく・くっつかない』の綱引きが恋愛の中毒性を言い当てているとも思う。
理由なくどうしようもない男を好きになる素敵過ぎる女の子、村上春樹ばりに男の子の願望を満たしてくれる、この構造はやはり世の男の子を魅了するのではないかと思う。
この物語のラストで一人の人間として「そりゃそうだろ、そっち選ぶだろ!!」と思ったが、男の子としての私は「嗚呼、やっぱそっちいっちゃうか・・・」と残念にも思ったが、普通の女の子は幼馴染だろうと主人公を選ばないよねぇ・・・