昭和30年代、郊外のアパート群は庶民の憧れであった。その
発展形としてニュータウンが生まれ多くの人々が移り住んでいった。
生活は豊かになり都市はとめどもなく膨張を続けていった。
しかし、「金妻」的郊外の風景は大きな変貌を遂げる。高度
成長的な幸福装置として機能しなくなり、その極限的なまでの
均一感は不気味なイメージを喚起させた。「童夢」の乾いた世
界感が郊外のリアルを獲得していった。
そうして、郊外は文明が生み出した一つの形式として「記憶」
されていった。
「ひかりのまち」は、その名前に反して闇に照らされている。
造形された自然は蝉の声さえなく、人々の本当の声は聞こえな
い。かまびすしい騒音に満ち溢れている。
本作は「記憶」の物語である。
それは、記憶を持たない街への復讐心を持つ男と、記憶に回収
されることを拒み留まろうとする男の奇妙な友情。そして、記憶
に支配される父親を憎む少年と、過去の記憶に支配される少女の
奇妙な愛情といった形で描かれている。
一方は失われた記憶を取り戻そうとするドン・キホーテとなり、
また一方は何でもない公園でのピクニックをかけがえのない旅と
した。
彼らは「ひかりのまち」への度し難い嫌悪感や違和感を感じつ
つ、離れることは困難だ。それはまた、文明に対するエディプス・
コンプレックスのようなものなのかもしれない。
舞台となる郊外は現実のものではない。現実の郊外（ニュータ
ウン）はもっと年老いている。ここにあるのは記憶としての郊外
であり、文明の現像装置なのである。
そこに映写された物語は、悲しくてやりきれなくホロリとさせ
る。全てが「今」を語るお話なのである。
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