白昼夢を見がちな少女が否応なしに大人の女としての現実を突き付けられるという話である。ただし、その妾として放り込まれた現実が苛酷過ぎて、そちらの方が悪夢で、話全体がガルシア=マルケスの『エレンディア』のような寓話のように感じられます。妾にした相手の町長が性を鯨飲馬食するかのような好色家で、夜のお勤めは当然徹夜となります。そして徹夜明けの朝に風呂に入っていると、今度は息子の肉彦が風呂に入って来ます。このあたりの雪子さんの拒否の仕方が好きです。学校に行けば妾という事で同級生から性的関係を求められます。ボーイッシュな雪子さんがそうした不条理を拒否出来ないまでも抗い続けている。何か女性器を付けて産まれた事が一つの業のようでありますが、それに抗い続けているという事で、彼女自身も人間として成長しているというのが、この作品の肝ではないかと思います。
話の後半が、田舎町で一軒だけ営業しているSMクラブの話になります。このあたりの展開で評価が分かれるところですが、むしろ評価が分かれる原因は描写の正確さにあるので私は高く評価したいと思います。SMをファンタジーではなくあくまでリアルとして追求した正確さが、実は前半や中盤での性描写の正確さに通じている気がします。雪子さんは、決して(胸とかの)形のきれいさを見せようという意思は毛頭無く、むしろ見せまいと抗っているのに自分の意思とは裏腹に電気信号の反応の帰結としてオーガズムに至ってしまうという、そんな肌を支える表面張力のバランスが崩れて醸し出されるエロティックさが、この人の漫画の最大の魅力だと思います。
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フラングメンツ 1 単行本 – 1997/2/1
山本 直樹
(著)
▼第1章/雪子さん▼第2章夕ごはんから朝ごはんまで▼第3章1節/料理屋の息子 前編▼第3章2節/料理屋の息子 後編▼別章1節/夕方のおともだち 前編▼別章2節/夕方のおともだち 中編▼別章3節/夕方のおともだち完結編●主な登場人物/浦山雪子(親の借金のカタに町長の妾になる。町長の家で暮らしながら、高校に通う)、海場太郎(海場町の町長。妻は元同級生)、鳴子(町長の正妻。毒薬マニア。元は妾だったが、元々の正妻を毒殺し、現在は正妻の座におさまっているという噂を持つ)、肉彦(町長の息子、のはずだが、母親が誰なのか、父親も町長ではないかもしれない、という不思議な存在の子)、佐場(画家。海場と鳴子とは同級生。以前、鳴子と駈け落ちしようとした過去がある)●あらすじ/ユキ子は借金のカタとして親に売られてしまい、海場町・町長の妾として彼の家で暮らすことになった。そこには、鳴子と肉彦という、ひと癖もふた癖もある人物たちがいた(第1章)。▼町長が画家・佐場を連れて帰ってきた。誘われるまま佐場に付き合うユキ子。そこで佐場はユキ子に「こんなところにいてはダメになるから、一緒に駈け落ちしよう」といいだすのだった(第2章)。●本巻の特徴/自分が初めてM体験をしたときの女王様ユキ子を求めて、プレイを繰り返すヨシダの渇望を描いた『夕方からのおともだち』同時収録。
- 本の長さ212ページ
- 言語日本語
- 出版社小学館
- 発売日1997/2/1
- ISBN-104091792812
- ISBN-13978-4091792815
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商品の説明
出版社からのコメント
借金のカタに売られてしまったユキ子。町長の妾としての毎日が始まった。町長の家で、元・妾で現・正妻の鳴子、誰が母親かもわからない不思議な息子・肉彦と暮らし始めるが……。『夕方からのおともだち』同時収録
登録情報
- 出版社 : 小学館 (1997/2/1)
- 発売日 : 1997/2/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 212ページ
- ISBN-10 : 4091792812
- ISBN-13 : 978-4091792815
- Amazon 売れ筋ランキング: - 392,968位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年1月24日に日本でレビュー済み
さすが、山本直樹さん、スレンダーで可憐な美少女の性愛を描かせたら最高の作家さんです。前半の雪子さんの物語は、5星ですね。ただし、別章のMの話が合わなかったので1つ落としました。1冊の本としての評価です。
2011年2月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
評価が高かったのとこの著者の他の漫画が好きだったので買ってみました。
テイストは同じで綺麗な絵と性のシーンが多いところと淡々と進む感じは相変わらずです。
ただ、SMシーンがしごく痛々しく描かれていて好きではありませんでした。
テイストは同じで綺麗な絵と性のシーンが多いところと淡々と進む感じは相変わらずです。
ただ、SMシーンがしごく痛々しく描かれていて好きではありませんでした。
2022年2月11日に日本でレビュー済み
スピリッツで断続的に掲載された各エピソード三話程度の短編集
連作小説っぽく、何となく共有の設定はありますが、
基本的には独立したエピソードと見ていいでしょう。
本作の特徴はその世界観と作風にあります。
特に「夕方からのおともだち」は屈指でした。
抑圧された感情を表出する際の描写が素晴らしく、一見の価値ありと言えます。
この話に嫌悪感を示す読者は本質的に本作を必要としない層だと思います。
しかし私はこの登場人物こそ共感しましたし、
なんなら他のエピソードは「もっと攻めてもいいのに」とさえ思いました。
まあ主観的な感想は置いておくとして、個々のエピソードを見ても
他の作家が真似できる類のものではないので、独自性においても
本作の価値は際立っているように思いますし、
サブカル的な作品が好きなのであれば、取り敢えず読んで欲しい作品ですね。
連作小説っぽく、何となく共有の設定はありますが、
基本的には独立したエピソードと見ていいでしょう。
本作の特徴はその世界観と作風にあります。
特に「夕方からのおともだち」は屈指でした。
抑圧された感情を表出する際の描写が素晴らしく、一見の価値ありと言えます。
この話に嫌悪感を示す読者は本質的に本作を必要としない層だと思います。
しかし私はこの登場人物こそ共感しましたし、
なんなら他のエピソードは「もっと攻めてもいいのに」とさえ思いました。
まあ主観的な感想は置いておくとして、個々のエピソードを見ても
他の作家が真似できる類のものではないので、独自性においても
本作の価値は際立っているように思いますし、
サブカル的な作品が好きなのであれば、取り敢えず読んで欲しい作品ですね。
2017年4月2日に日本でレビュー済み
地方都市の閉鎖的な倦怠感とコントラストを描く暴力的なリビドーがあまりに青々としていて爽快。物語の筋そのものは陰惨なのにどうしてここまで晴れやかなんだろう?それは適度に崩された画風や心象風景やナラティブの成果というよりはその陰惨さをあくまで通底して当たり前の日常として表現しようとする淡々とした目線にあるのかも。
2011年11月27日に日本でレビュー済み
昔読んで忘れられずまた読みました。こういう倦怠に満ちて絵柄の美しい山本直樹氏の漫画が好きです。山本氏は絵柄の美しさを重んじますが、たまにヘタな(むろんわざとヘタに書いている)絵も出て来ます。ここらへん余裕を持っているのがわかり読んでいて安心します。
さらに、人物描写がいいかげんそうに見えてしっかりしている。ここからも余裕が感じられ面白い。発表当時絶賛されたのも当たり前だ。
こんな山本漫画もあるのだ、とみんなに知ってもらいたい。わたしは『ありがとう』『僕らはみんな生きている』といった山本作品が好きですが、こういった作品群も好きです。
さらに、人物描写がいいかげんそうに見えてしっかりしている。ここからも余裕が感じられ面白い。発表当時絶賛されたのも当たり前だ。
こんな山本漫画もあるのだ、とみんなに知ってもらいたい。わたしは『ありがとう』『僕らはみんな生きている』といった山本作品が好きですが、こういった作品群も好きです。
2005年3月24日に日本でレビュー済み
山本直樹は日本を代表するべき漫画家である。
士郎正宗なんかに日本を任せている場合ではない。
現状でまんがを進化させ続けている作家は非常に少ない。ワンピースもハンターハンターも発展ではあるが進化ではない。
本作は山本の魅力がきっちりつまっており、この本から入っていくのもいいと思う。
まんが文化、なんて簡単に言うけれど、まんがの成長は停滞気味じゃないだろうか。まじめなまんが読みは、必読。
士郎正宗なんかに日本を任せている場合ではない。
現状でまんがを進化させ続けている作家は非常に少ない。ワンピースもハンターハンターも発展ではあるが進化ではない。
本作は山本の魅力がきっちりつまっており、この本から入っていくのもいいと思う。
まんが文化、なんて簡単に言うけれど、まんがの成長は停滞気味じゃないだろうか。まじめなまんが読みは、必読。
2002年2月9日に日本でレビュー済み
鬼才山本直樹の最高傑作が、このフラグメンツであると私は思う。氏の作品を読むとまるで別世界にひきずり込まれる感覚に陥るが、その中でも最たるのがフラグメンツであった。ただの日常で何事もなさそうな町で繰り広げられる話は、読んだ後に嗚咽しそうな気分を味わうだろう。
同時収録である夕方のおともだちも、とてもエグくて目を覆いたくなるような話である。
話が日常的と言ったが、日常的で在るが故にこの二つの作品の本質的な意味は、日常からの離脱であると私は思っている。
同時収録である夕方のおともだちも、とてもエグくて目を覆いたくなるような話である。
話が日常的と言ったが、日常的で在るが故にこの二つの作品の本質的な意味は、日常からの離脱であると私は思っている。