この巻の半分くらいまで読んで、わかりにくかったのでまた1巻から読み直しました。1巻目ではストーリーのレベルの高さと複雑さにただただ驚愕したのですが、ここへきてなんだか釈然としないところが出てきてしまいました。
話のテーマはたぶん神と魔の戦いなんでしょう。まず高校生たち3人が自分たちが太古に魔の仲間であり、神との戦いに負けてどうにか昔の日本、倭国に逃げてきたシーンを共通の夢で見て知ることになります。
普通、ごく平凡な高校生がこんなことを知ったらまず驚きとまどって受け入れがたいと思うのですが、彼らが当たり前のように魔として動こうとし、子供の姿で甦ったルシャナという魔を助けようとする流れが、どうも不自然に感じられました。それにこのルシャナ、蛇神の化身?なんでしょうか、人相も悪いですよね・・。
神は蔓延する汚濁や飢餓、おぞましい欲望を消して安らかな調和の取れた世界を作ろうとしています。そんな神の方が正しいだろうに、なんとかしてそれを阻止しようとする魔が善のように描かれているのは、これはいったい何なのか?このあたりがどうも釈然としない理由だと思います。
神の側とみられるアメリカ企業は、心の平安=涅槃を得られるというマシンを世界に普及させようとしています。1台所有している小さな村が成功例として挙げられますが、そこでは村人がみんな穏やかになり諍いごともなく、子供たちも天使のようにかわいくて幸せに暮らしています。それを主人公のトキや魔は、よくないことで阻止しないといけないと考えているようです。
それはトキオのセリフにも表れています。「俺は他人を救済したくなんかない。確かに人間は頭がおかしい。今にお互いの首をしめあって全滅かもね。いいじゃないか、死にたいやつは死なせろよ。俺は人間以外のものにはなりたくない」。
この作品には、製作時の80年代に日本に多かった考え方が色濃く反映されているのではと思いました。
当時日本はどんどん裕福になり進歩していき、工業化、機械化、デジタル化が進みつつありました。それに抵抗する一定の流れがあって、世の中がだんだん非人間的になっていくとか、自然に帰れとか、今でいう左派の考え方に共通するものがありますが、そういった”進歩”をとにかく否定して昔に帰ろうという考え方がありました。公害問題などもありましたからその影響もあったでしょう。
もし佐藤先生がその考えに沿ってこの作品を描かれたのなら、個人的には正直ちょっとがっかりです。その時代のトレンドや影響からまぬがれなかったというか、時代が変われば訴えていることが古びてしまう、どの時代でも理解される普遍的な作品にはなり得ない気がします。もっとも、まだ途中なので最後まで読んでみないとわかりません。ラストはどこに行きつくのでしょうか。続けて読んでいきたいと思います。
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ワン・ゼロ 第2巻 (小学館文庫 さA 5) 文庫 – 1996/10/1
佐藤 史生
(著)
- 本の長さ287ページ
- 言語日本語
- 出版社小学館
- 発売日1996/10/1
- ISBN-104091911153
- ISBN-13978-4091911155
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商品の説明
出版社からのコメント
明王寺の秘仏・孔雀明王像に反響するマントラに感応した摩由璃はアートマンとして覚醒した。だが、都祈雄はアートマンとなることを拒否し、摩由璃と同時に覚醒した魔族とともに魔王ルシャナを目覚めさせる。都祈雄と対立した魔由璃はみずからの解脱をプログラミングしたコンピュータ・メディックと対になり人類菩薩化を推し進める。人類の菩薩化、それは人間の欲を消滅させ、幸福で上品な生き物に造り変えるプロジェクトだった。
登録情報
- 出版社 : 小学館 (1996/10/1)
- 発売日 : 1996/10/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 287ページ
- ISBN-10 : 4091911153
- ISBN-13 : 978-4091911155
- Amazon 売れ筋ランキング: - 192,142位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 196位小学館文庫コミック版
- - 1,258位小学館文庫
- - 129,925位コミック
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2003年5月19日に日本でレビュー済み
はっきりいって絵はうまくはない。ファンですが正直そう思います。マンガ家には絵で魅せるタイプの人もいますが、佐藤さんは完全に物語で魅せるタイプ。「ワン・ゼロ」は神と悪魔の二元的な対立にコンピュータを通じた宗教を絡めた近未来SF。国産SFの中でも屈指の傑作であることは紛れもない事実。
2009年10月18日に日本でレビュー済み
俄然おもしろくなる第2巻。自己意識を持って覚醒した自己推論型コンピュータのマニアック、不完全なアートマン(覚醒者)として覚醒したマユラ、マユラと同じ視点を持つことが出来るのにそれを拒否し、人間でいることを選ぶ腹違いの兄のトキオ、元ダーサ(魔)だったトキオの友人たち、そして本物のダーサであるビローチャナの目覚め。
マユラの婚約者であるヒカル・マヨワ。周囲のお膳立てで行われたマユラ自身が望んだのではない覚醒。マユラを愛しながら、それを素直に出せなかったことでマユラを失って行くことに苦しむヒカル。
マユラを介して人間界を見るディーバ(神)たち。しかし彼らの言葉を見ると、どうもこの宇宙の外から見ているさらに大きな存在という印象を受ける。
神と魔という対立構図を使ってはいるが、この作品は実は宗教的な話ではない。マニアックは推論する。この世界は誰かが計算するための巨大なアナログコンピュータだと。その計算のためには計算素子である人間の意識の偏りは不都合であり、そのために人間の意識を中和したいのだ、と。
ダーサであるトキオの友人たちと目覚めたビローチャナ、そしてトキオは、ディーバたちの人類総家畜化(意識を中和し、自我をなくす)計画に立ち向かう。勝算はあるのか?
マユラの婚約者であるヒカル・マヨワ。周囲のお膳立てで行われたマユラ自身が望んだのではない覚醒。マユラを愛しながら、それを素直に出せなかったことでマユラを失って行くことに苦しむヒカル。
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神と魔という対立構図を使ってはいるが、この作品は実は宗教的な話ではない。マニアックは推論する。この世界は誰かが計算するための巨大なアナログコンピュータだと。その計算のためには計算素子である人間の意識の偏りは不都合であり、そのために人間の意識を中和したいのだ、と。
ダーサであるトキオの友人たちと目覚めたビローチャナ、そしてトキオは、ディーバたちの人類総家畜化(意識を中和し、自我をなくす)計画に立ち向かう。勝算はあるのか?
2007年1月11日に日本でレビュー済み
そういえば、「まゆり」という名前の友人がいた。
ちょうど彼女が米国に留学したときにこの本を一セット贈った(はず...)。
聞けばこの話と同じサンスクリットから名前をとったなのだそうだ。
やはり、マーヤーの結界は日本を覆っている。
ちょうど彼女が米国に留学したときにこの本を一セット贈った(はず...)。
聞けばこの話と同じサンスクリットから名前をとったなのだそうだ。
やはり、マーヤーの結界は日本を覆っている。