平凡という名の鎧を身に着込んでいる女子高生神楽岡藻琴は、高校入学早々静岡県の私立女子校に転校し、そこの水泳部入部を希望するものの、この学校の水泳部はただの「水泳部」ではなく、顧問の体育教師から少数精鋭の部員全員とも、四六時中競泳水着を身に纏った正義の見方戦隊「競泳戦隊ミズギーズ」であり、藻琴が新たに水泳部入部＝ミズギーズに入隊しミズギーズイエローを名乗り、平凡が悉く打ち砕かれるまでが綴られた一冊である。著者は「競泳水着」「戦隊」「百合」をキーワードとして挙げている。
あとがきで、著者が第2巻刊行を示唆させる言葉がちらっとあるが、本書は、もしかしたら今後刊行されるとも思われる2巻目以降の、「長い長い丸ごと一冊プロローグ」ともいえようか。
転入初日早々、クラスメイトの一人に、教室内でなぜか制服ではなく競泳水着を身に纏った「ありえない」女生徒一人、相内美幌が藻琴の目に焼き付き、彼女が本校の水泳部員の一人であることを知った藻琴は、自分も水泳部入部を希望し見学を申し出、日にちを待たされた挙句いざ見学して、部から支給された水着を着るように命じられ泳ぐや否や、部の「実態」を知らされ、ミズギーズの戦列に加えさせられた「ありえない」結末で本書は終わっている。
尤も、この部分は本書の中で合計数十ページのみを占めているに過ぎないのだが、本書の中間部分は、同じく藻琴のクラスメイトの一人の「ありえない」ボクっ娘百合原萩野とその友人である姫川桔梗・星置星箕2人とのボケツッコミ話で占められている。萩野は、とにかくバイ系百合で「エロい」ことを所構わず平気で口走り、四六時中「エロい」ことのみに頭を費やしているヤツなのだが、どこか憎めない愛嬌があり、萩野・桔梗・星箕と藻琴とのエロネタボケツッコミやり取りが、これまたなく腹が多少はよじれてくる・最低でもクスリと笑えてくるものだ。萩野は陸上部員であり、これまた意外なことに美しいフォームを見せてくれており、普段のエロネタボケツッコミとのギャップがなくはないが、それもまた彼女の一面だ。一方で、萩野は、クラス全体の「空気」として美幌と水泳部には触れず当たらずの対応を取っているので、水泳部とは関係ない藻琴好き好きエロ系百合ボケツッコミキャラとして位置付けられている。一方で、もし2巻目以降が出るのなら、今後の展開如何では、何らかの位置を占めてくるのかもしれない。
萩野・桔梗・星箕とのエロネタボケツッコミを除けば、藻琴の水泳部見学の場面で、男子諸君をモゾモゾさせる描写・文言・うんちくが出てきて、そこは男子諸君にとっては絶対に見逃せない必見ものだ。一方で、藻琴が水泳部（＝ミズギーズ）から支給された水着にはある「秘密」があるので、もしかしたら出るであろう2巻目以降では、これらの描写・文言・うんちくが「見られなくなる」もしくは「（大幅に）減る」かもしれないということも考えられてくるので、この類のものを求めるのであれば、本書だけを手にとって読むのも悪くはない。水泳部（＝ミズギーズ）特製競泳水着シーン・ミズギーズでの戦隊戦闘シーンと百合シーンは、もしかしたら出るかもしれない2巻目以降本格化するのだろう。
タイトルと一冊全体の本文大方の内容の「乖離」（競泳水着シーンは全体的に見ると思ったよりさほど多くはない・戦隊戦闘シーンはプロローグのみ・百合シーンは萩野絡みのエロネタボケツッコミくらい）から、藻琴の競泳水着姿の表紙絵が「客寄せパンダ」という見方もできなくはないが、いざ実際手に取って一冊じっくり読んでみると、萩野絡みのエロネタボケツッコミや、藻琴水泳部見学プロットでの男子諸君をモゾモゾさせる描写・文言・うんちくだけを求めるというのも、決して悪くはない読み方だ。これらのものと本書全般を総合的に勘案すると、もし2巻目以降が出てそこから何巻続いていくかは全く未知数だが、「初刊」である本書のみを手に取って、萩野絡みのエロネタボケツッコミに笑い、藻琴の水泳部見学と水着の描写・文言・うんちくにゾクゾクしながら何度か読んでみるもの十分に面白い本書の楽しみ方だといえる。
最後に、登場人物の名前は、いずれも著者の現在の居住地である北海道の地名の漢字をそのまま使い、読み方をアレンジしたものと思われる。
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