味付けが濃い作品が群なすライトノベル界にあって極め付けの「特濃」ぶりで知られる手代木正太郎の人気シリーズ完結編。
ジャングルの奥地でこれまで相方クリミアの施術で抑えられてきたドゥンが暴走し、怪物化が始まったヴィクター。
打つ手が無くなったクリミアは魔法医師結社本部に救援を要請するけど、
遅れに遅れてやってきた結社のペスト医師たちは実はパンデミック防止の為に送り込まれた暗殺部隊。
身体だけではなく心も怪物化し始めたヴィクターは医療に関わる人間でありながら遂にその手で人を殺めてしまう事に。
暗殺部隊を返り討ちにされた結社本部は魔法医師たちの中でも外法の使い手によって構成されたチームを派遣。
頼みの綱であるガマエ研究家最後の一人ジゼラ・モルガーニを頼って聖庁に向かったクリミア達を追う暗殺チームだが、
そこに若き「鉄槌」たちも絡んで凄惨な殺し合いが始まる事に。
……最後の最後まで特濃!いや、これはもう「極濃」とでも呼ぶべきシリーズだったなと改めて思い知らされた次第。
作者の手代木正太郎の「仕入れたネタを惜しげもなく使い尽くす」というスタイルは
「贅沢な読書経験とは何か?」を読者に思い知らせてくれる。
今回クリミアたちが探し求めてきたヴィクターの病を癒す奇跡の石「ガマエ」の正体が明かされるのだけど、
作者が毎回披露する「ビックリ生物学」に最終巻である今回も「うわ、そうきたか」と仰け反らされてしまった。
長い事医療に関わる業界で働いていきたから疾病に関する勉強はしてきたつもりだけど、
ガマエの正体である「あれ」が結晶化する存在だったとは初めて知った(単に私が不勉強なだけかもしれんが)。
巻ごとにガラリと様相を変える舞台から、次々に登場する奇怪な妖物、改造人間である動く宗教裁判「鉄槌(マルテル)」まで
この作品はありとあらゆる所が「ハッタリ」で満ち溢れているのが最大の特徴であるのだけど、
ハッタリに威力があるのは「ゼロを1に見せる」からではなく、「2か3を10に見せる」からなのだな、と思わされる。
今回出てきた瞬間にやられるぐらい弱い「鉄槌」ルマントの使う体内でアルコールを精製し口から火を噴くメカニズムを
牛の様な複数の胃の機能と菌によるアルコール発酵という実在するギミックを組み合わせる事で説明しているのだが、
こういう実在する「ベース」があるからこそ「人間が口から火を噴く」という「ハッタリ」に説得力が生まれる。
何のベースも無い「魔法だから何でもあり」みたいな薄っぺらいフィクションにはできない芸当である。
今回はシリーズ最終巻という事で主人公とヒロインの「愛」が勝つというオチではあるのだけど、
その一見して陳腐ですらあるオチに冒頭で語られた「愛の持つ医療効果」という部分で説得力を持たせてしまう辺りが
この作品のハッタリにベースを持たせるという基本方針を徹底した所が伺える。
実際、作中で扱われている「ノーシーボ効果」の存在は医学上しっかりと認められているのだし。
精神的作用が医療的効果を持つ事は「まったくの嘘」では無いのである。
ただ、そのハッタリに支えられた作劇、特に奇々怪々な人物造形がこの作品の魅力ではあるのだが、
この最終巻の最大の魅力はその出てきた瞬間に「何だ、これは」と唖然とさせられる様な登場人物を
次から次へと使い捨てていく「蕩尽」の愉しさにある。
最終巻でありながら物語を彩るのは主人公よりもサブキャラクターである結社の放った暗殺チームと
聖庁の「鉄槌」たちによる凄惨な殺し合いなのだが、これが実に贅沢。
主人公が絡む戦いというのはどうしても「先」が読めてしまう所があるのだけど、
サブキャラ同士の殺し合いというのは先が読めない楽しさがある上に、上にも書いた様に殺し合う二つの集団が
どれもこれも極めて個性的なキャラクターで構成されているので絵的に実に華やか。
その個性的なキャラクターが出てきたと思ったら次々と退場していく様は
財を使い尽くす事で己の「豊かさ」を見せ付けるポトラッチ的要素を持つ。
この楽しさはシリーズ2巻(「ちょう凄い」巻であった!)を思い出させてくれた。
仕入れたネタを蕩尽し尽くす作劇を最初から最後まで貫いてみせた作者・手代木正太郎の「太っ腹」ぶりに
「いやもう参りました」と白旗を揚げざるを得ないシリーズが見事に完結。
「贅沢な気分」を味わせてくれる作品とはまさにこういう物だと教えてくれた。
作者とガガガ文庫編集部に拍手を!
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
魔法医師の診療記録 (7) (ガガガ文庫 て 2-10) 文庫 – 2018/2/20
クリミアとヴィクターの絆が試される――。
エルフの奸計によって末期症状となったヴィクターは、肉体が悪魔化したままもとに戻ることができなくなっていた。
クリミアとヴィクターは一縷の望みをかけて最後のガマエ研究者ジゼラ・モルガーニを訪ねに聖庁へと旅に出る。
だが、ヴィクターが末期となったことを知った結社は、彼を抹殺する刺客を送り込んでくる。そんな二人を助けるのは、これまで敵対してきたはずの、ブロー率いる鉄鎚たちであった。
一方、結社がヴィクター抹殺を決定したことを知ったイングリド、ヴァネッサ、クロードは、それを阻止しようとヴィクターとクリミアを追いかける。
その道中、三人は意外な人物からひとつのガラス箱を託される。
その箱のなかに、ヴィクターを治療するヒントがあるという。
預けられたガラス箱を渡すためにクリミアを追うイングリドたち。
ヴィクターの命を狙う刺客たち。
ヴィクターを守り聖庁まで送り届ける鉄鎚チーム。
この三つ巴の中、ヴィクターとクリミアの聖庁への道のりは、血で血を洗う異能力戦の嵐が吹き荒れることとなるのだった。
そして、ヴィクターの病状は時々刻々と増悪し、黙示録の悪魔としての覚醒は間近に迫っていた――。
魔法医学の終焉をみせる第七集。
エルフの奸計によって末期症状となったヴィクターは、肉体が悪魔化したままもとに戻ることができなくなっていた。
クリミアとヴィクターは一縷の望みをかけて最後のガマエ研究者ジゼラ・モルガーニを訪ねに聖庁へと旅に出る。
だが、ヴィクターが末期となったことを知った結社は、彼を抹殺する刺客を送り込んでくる。そんな二人を助けるのは、これまで敵対してきたはずの、ブロー率いる鉄鎚たちであった。
一方、結社がヴィクター抹殺を決定したことを知ったイングリド、ヴァネッサ、クロードは、それを阻止しようとヴィクターとクリミアを追いかける。
その道中、三人は意外な人物からひとつのガラス箱を託される。
その箱のなかに、ヴィクターを治療するヒントがあるという。
預けられたガラス箱を渡すためにクリミアを追うイングリドたち。
ヴィクターの命を狙う刺客たち。
ヴィクターを守り聖庁まで送り届ける鉄鎚チーム。
この三つ巴の中、ヴィクターとクリミアの聖庁への道のりは、血で血を洗う異能力戦の嵐が吹き荒れることとなるのだった。
そして、ヴィクターの病状は時々刻々と増悪し、黙示録の悪魔としての覚醒は間近に迫っていた――。
魔法医学の終焉をみせる第七集。
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社小学館
- 発売日2018/2/20
- ISBN-104094517219
- ISBN-13978-4094517217
登録情報
- 出版社 : 小学館 (2018/2/20)
- 発売日 : 2018/2/20
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 368ページ
- ISBN-10 : 4094517219
- ISBN-13 : 978-4094517217
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,518,192位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中5つ
5つのうち5つ
2グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。