三島の短編集は自薦も含めて特定のテーマで統一したものはなく、いろんな雰囲気のものがばらばらに入っているので1冊の本として一言でレビューするのはむずかしいです。この本も同様ですが、強いて言うならほぼ若い時代の作品といえるでしょうか。
収められた12作のうち(すべて初出で)「彩絵硝子」が15歳、「祈りの日記」が18歳、20代の時のものが8つ、「山の魂」が30歳、そして1つだけ例外として最後の「蘭陵王」は44歳の作品で小説ではなくエッセイ風です。
「彩絵硝子」はラディゲの作品に影響を受けたという上流階級を描いた典雅な心理小説。
「祈りの日記」少女の幼馴染の少年に対する恋心が初々しい。平安時代の王朝文学風でひらがなを多用した文が美しいです。
「慈善」「訃音」「怪物」「美神」は大変皮肉に満ちた作品で、三島のこの種の短編を読むといつもサマセット・モームを思い出します。
この中の「訃音」とタイトル作「鍵のかかる部屋」では官僚の仕事が背景になっていますが、三島が財務省勤務時の同僚や上司の人間観察が元になっていると思われ、入省したばかりの23歳で、ここまでクールに役人の生態を皮肉な目で見ているのが印象的です。
「鍵のかかる部屋」結局、屋敷の女中は自分の幼い娘を差し出すことで主人公を引き留めようとしていたのか?少女の媚態に奇妙な色香の漂う妖しい作品です。
「果実」は死の匂いがする異様なレスビアン小説。
「死の島」旅行記風の作品によく登場する菊田次郎が主人公。北海道の大沼が舞台。
「江口初女覚書」真っ当に生きる気のないサイコパス的悪女が戦後の混乱の中、綱渡りのように危うく悪どく生きる様に魅入られました。
「山の魂」貧しい環境から這い上がり、山林の売買とダム利権で儲けたある豪快な扇動家、そして彼とだましだまされながら手を組んで巨万の富を得て資産家になった男の話。「沈める滝」でもダムが出てきましたが、三島は何かそちら関係の仕事にかかわったことがあるのでしょうか。
「蘭陵王」は恥ずかしいことに「癩王のテラス」と勘違いしていたのでエッセイだったのにびっくりしました。蘭陵王とは中国は北斉の王、長恭のことだそうです。
富士の裾野で自衛隊訓練に参加していた時、静かな夜、その故事に基いた雅楽の曲を楯の会会員の1人が横笛で吹いて三島と他の隊員に聴かせたエピソードです。
最後にこの隊員が「もしあなたの考える敵と自分の考える敵が違っていたらその時は戦わない」と三島に告げます。これは少し後で一部の隊員が楯の会から脱退したことを暗示しているのでしょうか。
これは自決1年前のことで、三島が自衛隊出動があるだろうと希望を持っていた、つまり楯の会も出撃できるだろうと期待していた新宿デモの前で、まだはっきり自決の決心はしていなかったのではないかという説があります。
作風はそれぞればらばらですが、非常に内容の濃いすぐれた短編集だと思います。
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鍵のかかる部屋 (新潮文庫) 文庫 – 2003/9/1
三島 由紀夫
(著)
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財務省に勤務するエリート官吏と少女の密室の中での遊戯。敗戦後の混乱期における一青年の内面と行動を描く表題作など短編12編。
- 本の長さ384ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2003/9/1
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101050287
- ISBN-13978-4101050287
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出版社より
仮面の告白 | 花ざかりの森・憂国 | 愛の渇き | 盗賊 | 禁色 | 鏡子の家 | |
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【新潮文庫】三島由紀夫 作品 | 女を愛することのできない青年が、幼年時代からの自己の宿命を凝視しつつ述べる告白体小説。三島文学の出発点をなす代表的名作。 | 十六歳の時の処女作「花ざかりの森」以来、巧みな手法と完成されたスタイルを駆使して、確固たる世界を築いてきた著者の自選短編集。 | 郊外の隔絶された屋敷に舅と同居する未亡人悦子。夜ごと舅の愛撫を受けながらも、園丁の若い男に惹かれる彼女が求める幸福とは? | 死ぬべき理由もないのに、自分たちの結婚式当夜に心中した一組の男女──精緻微妙な心理のアラベスクが描き出された最初の長編。 | 女を愛することの出来ない同性愛者の美青年を操ることによって、かつて自分を拒んだ女たちに復讐を試みる老作家の悲惨な最期。 | 名門の令嬢である鏡子の家に集まってくる四人の青年たちが描く生の軌跡を、朝鮮戦争直後の頹廃した時代相のなかに浮彫りにする。 |
潮騒 | 金閣寺 | 美徳のよろめき | 永すぎた春 | 沈める滝 | 獣の戯れ | |
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明るい太陽と磯の香りに満ちた小島を舞台に海神の恩寵あつい若くたくましい漁夫と、美しい乙女が奏でる清純で官能的な恋の牧歌。〈新潮社文学賞受賞〉 | 吃音の悩み、身も心も奪われた金閣の美しさ──昭和 2 年 5 の金閣寺焼失に材をとり、放火犯である若い学僧の破滅に至る過程を抉る。〈読売文学賞受賞〉 | 優雅なヒロイン倉越夫人にとって、姦通とは異邦の珍しい宝石のようなものだったが……。魂は無垢で、聖女のごとき人妻の背徳の世界。 | 家柄の違いを乗り越えてようやく婚約にこぎつけた若い男女。一年以上に及ぶ永すぎた婚約期間中に起る二人の危機を洒脱な筆で描く。 | 鉄や石ばかりを相手に成長した城所昇は、女にも即物的関心しかない。既成の愛を信じない人間に、人工の愛の創造を試みた長編小説。 | 放心の微笑をたたえて妻と青年の情事を見つめる夫。死によって愛の共同体を作り上げるためにその夫を殺す青年──愛と死の相姦劇。 |
美しい星 | 近代能楽集 | 午後の曳航 | 宴のあと | 音楽 | 真夏の死 | |
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自分たちは他の天体から飛来した宇宙人であるという意識に目覚めた一家を中心に、核時代の人類滅亡の不安をみごとに捉えた異色作。 | 早くから謡曲に親しんできた著者が、古典文学の永遠の主題を、能楽の自由な空間と時間の中に”近代能”として作品化した名編 8 品。 | 船乗り竜二の㞖しい肉体と精神は登の憧れだった。だが母との愛が竜二を平凡な男に変えた。早熟な少年の眼で日常生活の醜悪を描く。 | 政治と恋愛の葛藤を描いてプライバシー裁判でかずかずの論議を呼びながら、その芸術的価値を海外でのみ正しく評価されていた長編。 | 愛する男との性交渉にオルガスムス=音楽をきくことのできぬ美貌の女性の過去を探る精神分析医──人間心理の奥底を突く長編小説。 | 伊豆の海岸で、一瞬に義妹と二児を失った母親の内に萌した感情をめぐって、宿命の苛酷さを描き出した表題作など自選による 11 編。 |
青の時代 | 女神 | 岬にての物語 | サド侯爵夫人・わが友ヒットラー | 鍵のかかる部屋 | ラディゲの死 | |
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名家に生れ、合理主義に徹し、東大教授への野心を秘めて成長した青年の悲劇的な運命!光クラブ社長をモデルにえがく社会派長編。 | さながら女神のように美しく仕立て上げた妻が、顔に醜い火傷を負った時……女性美を追う男の執念を描く表題作等、 11 編を収録する。 | 夢想家の早熟な少年が岬の上で出会った若い男と女。夏の岬を舞台に、恋人たちが自ら選んだ恩寵としての死を描く表題作など 13 編。 | 獄に繋がれたサド侯爵をかばい続けた妻を突如離婚に駆りたてたものは?人間の謎を描く「サド侯爵夫人」。三島戯曲の代表作2編。 | 財務省に勤務するエリート官吏と少女の密室の中での遊戯。敗戦後の混乱期における一青年の内面と行動を描く表題作など短編 12 編。 | 〈三日のうちに、僕は神の兵隊に銃殺されるんだ〉という言葉を残して夭折したラディゲ。天才の晩年と死を描く表題作等 13 編を収録。 |
小説家の休暇 | 殉教 | 葉隠入門 | 鹿鳴館 | 絹と明察 | 手長姫 英霊の声 1938 -1966 | |
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芸術および芸術家に関わる多岐広汎な問題を、日記の自由な形式をかりて縦横に論考、警抜な逆説と示唆に満ちた表題作等評論全 10 編。 | 少年の性へのめざめと倒錯した肉体的嗜虐の世界を鮮やかに描いた表題作など 9編を収める。著者の死の直前に編まれた自選短編集。 | ”わたしのただ一冊の本”として心酔した「葉隠」の闊達な武士道精神を現代に甦らせ、乱世に生きる〈現代の武士〉たちの心得を説く。 | 明治 19 年の天長節に鹿鳴館で催された大夜会を舞台として、恋と政治の渦の中に乱舞する四人の男女の悲劇の運命を描く表題作等 4 編。 | 家族主義的な経営によって零細な会社を一躍大紡績会社に成長させた男の夢と挫折を描く。近江絹糸の労働争議に題材を得た長編小説。 | 一九三八年の初の小説から一九六六年の「英霊の声」まで、多彩な短篇が映しだす時代の翳、日本人の顔。新潮文庫初収録の九篇。 |
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (2003/9/1)
- 発売日 : 2003/9/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 384ページ
- ISBN-10 : 4101050287
- ISBN-13 : 978-4101050287
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 130,457位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威。
1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。
主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2017年2月14日に日本でレビュー済み
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状態は『非常な良い』とは言えません。20年前の本にしては、きれいな程度かと。
2021年4月24日に日本でレビュー済み
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三島の死から50年が経ったそうで一冊ぐらいは三島の評論でも読んでみようかと思って買った本に、この本の表題作の『鍵のかかる部屋』への言及があって、登場人物の「しげや」は「死」の擬人化、「接吻」をすることになる少女「房子」は死んだ「妹」を暗示しているのではないかと思ったのですが改めて読んだことがなかったので買ってみました(この短編集自体は昔一度買ったことがあったはずですが)。
で読んで見たところでは上の解釈で間違いではなさそうですが、「異母兄弟の恋人同士は、快楽のために墓にとじこもる。……鍵のかかる部屋。……」(p.309)とほぼほぼネタばれ同然のことを自分で作中に書いてしまっているのはどうかなって感じです。
結末の「部屋のなかにいるのは桐子かもしれなかった。」という謎めいた一文も、このままだと、この話全体が怪談というか死者の館の話だというネタばれの説明の一部としか活かされていない気がします。
結局、話は主人公が部屋の「鍵のかかった扉に背を」向けて終わるわけですが、ここで背を向けてしまったものに向き合ったことが、今日に至るまで三島の作品が忘れ去られようがなかった事情でもあるので、実質的に単なる怪談で終わらせてしまった、この一作は自分としてはあまり評価できません。
この本は文庫用に編纂した短編集のひとつで、三島を読んだことがない人の1冊目には薦められませんが、田中美代子氏の解説も適切なものだと思うので買って損はないかと思います。
で読んで見たところでは上の解釈で間違いではなさそうですが、「異母兄弟の恋人同士は、快楽のために墓にとじこもる。……鍵のかかる部屋。……」(p.309)とほぼほぼネタばれ同然のことを自分で作中に書いてしまっているのはどうかなって感じです。
結末の「部屋のなかにいるのは桐子かもしれなかった。」という謎めいた一文も、このままだと、この話全体が怪談というか死者の館の話だというネタばれの説明の一部としか活かされていない気がします。
結局、話は主人公が部屋の「鍵のかかった扉に背を」向けて終わるわけですが、ここで背を向けてしまったものに向き合ったことが、今日に至るまで三島の作品が忘れ去られようがなかった事情でもあるので、実質的に単なる怪談で終わらせてしまった、この一作は自分としてはあまり評価できません。
この本は文庫用に編纂した短編集のひとつで、三島を読んだことがない人の1冊目には薦められませんが、田中美代子氏の解説も適切なものだと思うので買って損はないかと思います。
2015年1月23日に日本でレビュー済み
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Very good! Excelent! PErfect! love it!
2013年8月22日に日本でレビュー済み
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昔知人が読んでいたのをふと思い出し、購入し読んでみました。このような古い本もすぐ見つかるのは、便利で満足しています。古いのに、本もきれいで良かったです。
2012年3月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
年代も様々、文体も様々、題材も様々で楽しめる短編集でした。
最後の短編は楯の会での出来事とされており、
レポートの様な感想の様な異色作ではあると思います。
その後の姿がチラついてしまうせいかぼんやりと死が浮かんでくるような作品でした。
個人的な妄想も手伝ってか読み進めるにつけ、悲劇の予感・怖れを感じた1冊でした。
最後の短編は楯の会での出来事とされており、
レポートの様な感想の様な異色作ではあると思います。
その後の姿がチラついてしまうせいかぼんやりと死が浮かんでくるような作品でした。
個人的な妄想も手伝ってか読み進めるにつけ、悲劇の予感・怖れを感じた1冊でした。
2018年10月30日に日本でレビュー済み
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表題作である「鍵のかかる部屋」は、1954年(昭和29年)、文芸誌『新潮』に掲載され、同年10月に単行本刊行された三島由紀夫の短編小説である。
三島の短編には、デッサン的な習作も多いが、本編は作品が持つ独特な ” グレーの色調 ” が魅力的な作品である。
物語の背景となっているモノトーンな役所勤務の官吏たちの生態や、戦後間もない四谷界隈の描写が、その界隈を知る者にとってノスタルジック かつミステリアスな幻影を脳裡に描き出す。
ゆきずりの女との逢瀬と、女の家の薄暗い「鍵のかかる部屋」に棲息する 日本人形の化身を思わせる不気味な少女。そしてその少女の世界に 「 引きずり込まれ 」 そうな、危うい主人公(若手官吏)の独白により、同様に危うい戦後日本の世相を背景にした物語が進行してゆく。
おそらくは三島の役所勤務の経験がベースとなっているであろう主人公の人物設定と その淡々とした語り口が、深い読後の余韻を残す作品であり、ジャンルは全く違うが 抗(あらが)い難い reality を伴った幻想の世界は、江戸川乱歩の名作短編 「 押絵と旅する男 」 を彷彿とさせる。
現実と幻想が 「境い目」 を喪失し、妖しい香りを放つ本編は、三島の初期短編を代表する佳品と評し得よう。
表題作である「鍵のかかる部屋」は、1954年(昭和29年)、文芸誌『新潮』に掲載され、同年10月に単行本刊行された三島由紀夫の短編小説である。
三島の短編には、デッサン的な習作も多いが、本編は作品が持つ独特な ” グレーの色調 ” が魅力的な作品である。
物語の背景となっているモノトーンな役所勤務の官吏たちの生態や、戦後間もない四谷界隈の描写が、その界隈を知る者にとってノスタルジック かつミステリアスな幻影を脳裡に描き出す。
ゆきずりの女との逢瀬と、女の家の薄暗い「鍵のかかる部屋」に棲息する 日本人形の化身を思わせる不気味な少女。そしてその少女の世界に 「 引きずり込まれ 」 そうな、危うい主人公(若手官吏)の独白により、同様に危うい戦後日本の世相を背景にした物語が進行してゆく。
おそらくは三島の役所勤務の経験がベースとなっているであろう主人公の人物設定と その淡々とした語り口が、深い読後の余韻を残す作品であり、ジャンルは全く違うが 抗(あらが)い難い reality を伴った幻想の世界は、江戸川乱歩の名作短編 「 押絵と旅する男 」 を彷彿とさせる。
現実と幻想が 「境い目」 を喪失し、妖しい香りを放つ本編は、三島の初期短編を代表する佳品と評し得よう。
2021年1月24日に日本でレビュー済み
三島由紀夫はよく、美や愛に純粋に向かい合い、殉ずる人物を描く。
既にそれを許さなくなった(戦後)社会の中で、最後は、死を迎えたり、逃げ場の無い袋小路に陥ったり、逃走したり、敢えてその中で生きる決意を表明したり、それらの予感を匂わせて終わる。
実に様々なシチュエーション、様々な年齢と職業の人物に対して、同じ仕掛けを手を変え品を変え展開する。
短編は、短編「集」として刊行される訳だが、その組み合わせがいかに重要か、ということが、本書を読むとよく分かる。
この短編集は、関連性が薄い短編を、三島氏の各年代から拾い上げて、ただ選んで並べた、という感じがして、バラバラなのだ。
新潮文庫なら、三島氏自選の3冊が、やはり断然素晴らしい、組み合わせの妙を感じる。
河出文庫の「英霊の聲」と中公文庫の「荒野より」も良い。
初版刊行の時には、さすがに出版社も三島氏も練りに練っていて、例えば『三熊野詣』は「月澹荘綺譚」・「孔雀」・「朝の純愛」 との組み合わせだった!!
「蘭陵王」は、三島氏の素直な心情の吐露と、その後の自決を伺わせる作品で、この短編集では、はっきりと異質な一篇と言える。
この作品の最後の文章のなんと孤独なことか!!
その一つ前の文章まで、たった今までは、若き純粋な青年達と、場に共鳴し心情を寄り添わせていたというのに!!
最後の一文で、三島は踵を返して別れを告げ、腹を切るのである。
この短編はやはり、初版当時の、同時代のエッセイに挟まれる形が秀逸で、仮名遣いも戻して、元の姿で文庫にしてほしい。
その他では、「怪物」が良いと思う。美と醜は表裏一体であり、醜さを極めた主人公は、最期まで醜さを通そうとするが、敗れ死ぬ。
それは美に殉ずるのと同じことである。
これは「裏」三島由紀夫なのだ。
既にそれを許さなくなった(戦後)社会の中で、最後は、死を迎えたり、逃げ場の無い袋小路に陥ったり、逃走したり、敢えてその中で生きる決意を表明したり、それらの予感を匂わせて終わる。
実に様々なシチュエーション、様々な年齢と職業の人物に対して、同じ仕掛けを手を変え品を変え展開する。
短編は、短編「集」として刊行される訳だが、その組み合わせがいかに重要か、ということが、本書を読むとよく分かる。
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河出文庫の「英霊の聲」と中公文庫の「荒野より」も良い。
初版刊行の時には、さすがに出版社も三島氏も練りに練っていて、例えば『三熊野詣』は「月澹荘綺譚」・「孔雀」・「朝の純愛」 との組み合わせだった!!
「蘭陵王」は、三島氏の素直な心情の吐露と、その後の自決を伺わせる作品で、この短編集では、はっきりと異質な一篇と言える。
この作品の最後の文章のなんと孤独なことか!!
その一つ前の文章まで、たった今までは、若き純粋な青年達と、場に共鳴し心情を寄り添わせていたというのに!!
最後の一文で、三島は踵を返して別れを告げ、腹を切るのである。
この短編はやはり、初版当時の、同時代のエッセイに挟まれる形が秀逸で、仮名遣いも戻して、元の姿で文庫にしてほしい。
その他では、「怪物」が良いと思う。美と醜は表裏一体であり、醜さを極めた主人公は、最期まで醜さを通そうとするが、敗れ死ぬ。
それは美に殉ずるのと同じことである。
これは「裏」三島由紀夫なのだ。