とても質の高い短編集です。長編もいいですが、短編は簡潔にきりっとまとまったものが多く、その見事さに読み終わるとほうっとため息が出ます。
「みのもの月」、平安時代を舞台にたぶん中年であろう既婚者の恋愛を描いていますが、古典の素養をベースに典雅な日本語で、とても17歳が書いたとは思えない複雑な心理と倦怠を描いて秀逸です。が、あとがきで野島秀勝氏が書いていらっしゃるように、三島は”言葉の捕囚であり、体験していなくとも言葉を巧みに操ることができた”ので、これだけのものを観念だけで書いたのでしょう。そう思えば空疎かもしれませんが、美しい作品に仕上がっています。
観念の世界に生きていた若い三島は、実は戦時中こそ彼の黄金の日々であり、戦争が終わって自分がもう死ぬことはない、”生活”しなければいけないとわかった時、茫然としたといいます。戦後の世の中の移り変わりになじめず、嬉々として生活を楽しみ始めた大衆に対する違和感が「日曜日」や「箱根細工」「魔群の通過」などににじみ出ている気がします。
この「日曜日」「魔群の通過」や「山羊の首」「復讐」の最後のオチの残酷な味に、ふとサマセット・モームの短編を思い出しました。ものすごく皮肉な視点が似通っています。
「偉大な姉妹」は没落しつつある名家、唐沢家の老人たちが登場します。特に自分たちが生きてきた明治時代に固執してやまない姉妹2人が強い印象を残しました。
「ラディゲの死」最愛のラディゲと彼を看取ったコクトー、最後はこんなふうだったのでしょうか。
また、「朝顔」は腸チフスで若くして亡くなってしまった妹、美津子のことをそのまま描いています。オチが怪談仕立てになっているのがめずらしいです。
「旅の墓碑銘」、友人が菊田次郎の話を聞くという形を取っていますが、この菊田は三島そのものです。アメリカや南米、パリ、ギリシャへの旅のこと、その後の内面の変化、いつも自分の存在を不確かに感じていたという三島の屈折した感性が描かれています。
野島秀勝氏のあとがきが三島とその精神、死についての理解にとても助けになります。こちらを最初に読んでもいいと思います。
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ラディゲの死 (新潮文庫) 文庫 – 2006/1/1
三島 由紀夫
(著)
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繊細、緻密、しかも絢爛――。
17歳から31歳までの天才作家の軌跡がわかる、至極の13短編。
〈三日のうちに、僕は神の兵隊に銃殺されるんだ〉という自らの予言通りに、ラディゲは庇護者であるコクトオに見守られながら二十年の生涯を閉じた。
――著者が少年の時より心酔しつづけてきた夭折の天才ラディゲの晩年と臨終を描く表題作。
ほかに、『みのもの月』『魔群の通過』『花山院』『旅の墓碑銘』『施餓鬼舟』など、
現実を明晰・辛辣な筆致で裁断した作品を収める。
昭和十七年から三十一年にかけて書いた短編から13編を選び、執筆年代順に編集した。
三島は大正14年生まれ、よって三島17歳から31歳までの作品である。
目次
みのもの月
山羊の首
大臣
魔群の通過
花山院
日曜日
箱根細工
偉大な姉妹
朝顔
旅の墓碑銘
ラディゲの死
復讐
施餓鬼舟
解説 野島秀勝
本書「解説」より
作品集『ラディゲの死』(注・本書とは別編集)が刊行されたのは昭和三十年七月、翌々月、九月十六日より三島はボディビルをはじめている。彼いうところの「肉体のフェティシズム」がはじまる。現実に直結できるのは肉体を措いてないのであれば、肉体への偏執は彼の現実への熱烈・哀切な希求にほかならなかったのである。
――野島秀勝(文芸評論家)
三島由紀夫(1925-1970)
東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
17歳から31歳までの天才作家の軌跡がわかる、至極の13短編。
〈三日のうちに、僕は神の兵隊に銃殺されるんだ〉という自らの予言通りに、ラディゲは庇護者であるコクトオに見守られながら二十年の生涯を閉じた。
――著者が少年の時より心酔しつづけてきた夭折の天才ラディゲの晩年と臨終を描く表題作。
ほかに、『みのもの月』『魔群の通過』『花山院』『旅の墓碑銘』『施餓鬼舟』など、
現実を明晰・辛辣な筆致で裁断した作品を収める。
昭和十七年から三十一年にかけて書いた短編から13編を選び、執筆年代順に編集した。
三島は大正14年生まれ、よって三島17歳から31歳までの作品である。
目次
みのもの月
山羊の首
大臣
魔群の通過
花山院
日曜日
箱根細工
偉大な姉妹
朝顔
旅の墓碑銘
ラディゲの死
復讐
施餓鬼舟
解説 野島秀勝
本書「解説」より
作品集『ラディゲの死』(注・本書とは別編集)が刊行されたのは昭和三十年七月、翌々月、九月十六日より三島はボディビルをはじめている。彼いうところの「肉体のフェティシズム」がはじまる。現実に直結できるのは肉体を措いてないのであれば、肉体への偏執は彼の現実への熱烈・哀切な希求にほかならなかったのである。
――野島秀勝(文芸評論家)
三島由紀夫(1925-1970)
東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
- 本の長さ384ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2006/1/1
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101050295
- ISBN-13978-4101050294
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【新潮文庫】三島由紀夫 作品 | 女を愛することのできない青年が、幼年時代からの自己の宿命を凝視しつつ述べる告白体小説。三島文学の出発点をなす代表的名作。 | 十六歳の時の処女作「花ざかりの森」以来、巧みな手法と完成されたスタイルを駆使して、確固たる世界を築いてきた著者の自選短編集。 | 郊外の隔絶された屋敷に舅と同居する未亡人悦子。夜ごと舅の愛撫を受けながらも、園丁の若い男に惹かれる彼女が求める幸福とは? | 死ぬべき理由もないのに、自分たちの結婚式当夜に心中した一組の男女──精緻微妙な心理のアラベスクが描き出された最初の長編。 | 女を愛することの出来ない同性愛者の美青年を操ることによって、かつて自分を拒んだ女たちに復讐を試みる老作家の悲惨な最期。 | 名門の令嬢である鏡子の家に集まってくる四人の青年たちが描く生の軌跡を、朝鮮戦争直後の頹廃した時代相のなかに浮彫りにする。 |
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明るい太陽と磯の香りに満ちた小島を舞台に海神の恩寵あつい若くたくましい漁夫と、美しい乙女が奏でる清純で官能的な恋の牧歌。〈新潮社文学賞受賞〉 | 吃音の悩み、身も心も奪われた金閣の美しさ──昭和 2 年 5 の金閣寺焼失に材をとり、放火犯である若い学僧の破滅に至る過程を抉る。〈読売文学賞受賞〉 | 優雅なヒロイン倉越夫人にとって、姦通とは異邦の珍しい宝石のようなものだったが……。魂は無垢で、聖女のごとき人妻の背徳の世界。 | 家柄の違いを乗り越えてようやく婚約にこぎつけた若い男女。一年以上に及ぶ永すぎた婚約期間中に起る二人の危機を洒脱な筆で描く。 | 鉄や石ばかりを相手に成長した城所昇は、女にも即物的関心しかない。既成の愛を信じない人間に、人工の愛の創造を試みた長編小説。 | 放心の微笑をたたえて妻と青年の情事を見つめる夫。死によって愛の共同体を作り上げるためにその夫を殺す青年──愛と死の相姦劇。 |
美しい星 | 近代能楽集 | 午後の曳航 | 宴のあと | 音楽 | 真夏の死 | |
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自分たちは他の天体から飛来した宇宙人であるという意識に目覚めた一家を中心に、核時代の人類滅亡の不安をみごとに捉えた異色作。 | 早くから謡曲に親しんできた著者が、古典文学の永遠の主題を、能楽の自由な空間と時間の中に”近代能”として作品化した名編 8 品。 | 船乗り竜二の㞖しい肉体と精神は登の憧れだった。だが母との愛が竜二を平凡な男に変えた。早熟な少年の眼で日常生活の醜悪を描く。 | 政治と恋愛の葛藤を描いてプライバシー裁判でかずかずの論議を呼びながら、その芸術的価値を海外でのみ正しく評価されていた長編。 | 愛する男との性交渉にオルガスムス=音楽をきくことのできぬ美貌の女性の過去を探る精神分析医──人間心理の奥底を突く長編小説。 | 伊豆の海岸で、一瞬に義妹と二児を失った母親の内に萌した感情をめぐって、宿命の苛酷さを描き出した表題作など自選による 11 編。 |
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小説家の休暇 | 殉教 | 葉隠入門 | 鹿鳴館 | 絹と明察 | 手長姫 英霊の声 1938 -1966 | |
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芸術および芸術家に関わる多岐広汎な問題を、日記の自由な形式をかりて縦横に論考、警抜な逆説と示唆に満ちた表題作等評論全 10 編。 | 少年の性へのめざめと倒錯した肉体的嗜虐の世界を鮮やかに描いた表題作など 9編を収める。著者の死の直前に編まれた自選短編集。 | ”わたしのただ一冊の本”として心酔した「葉隠」の闊達な武士道精神を現代に甦らせ、乱世に生きる〈現代の武士〉たちの心得を説く。 | 明治 19 年の天長節に鹿鳴館で催された大夜会を舞台として、恋と政治の渦の中に乱舞する四人の男女の悲劇の運命を描く表題作等 4 編。 | 家族主義的な経営によって零細な会社を一躍大紡績会社に成長させた男の夢と挫折を描く。近江絹糸の労働争議に題材を得た長編小説。 | 一九三八年の初の小説から一九六六年の「英霊の声」まで、多彩な短篇が映しだす時代の翳、日本人の顔。新潮文庫初収録の九篇。 |
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (2006/1/1)
- 発売日 : 2006/1/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 384ページ
- ISBN-10 : 4101050295
- ISBN-13 : 978-4101050294
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 197,564位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威。
1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。
主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
カスタマーレビュー
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2020年3月30日に日本でレビュー済み
13の短編集です。他の短編集に比べるとそこまでインパクトは強くないかなと思います。憂国やその他の超有名な短篇が収録されているのを既に読んでおり、長編は息が続かないけど。少し短篇を読みたいと言う状況の方にはおすすめです。
2017年2月20日に日本でレビュー済み
短編集ということでいろいろでした。オチが理解できなかったり、唐突に終わったり、でもおもしろいものもありました。
2012年1月12日に日本でレビュー済み
21歳で夭折した早熟の天才、レイモン・ラディゲの死を、
ジャン・コクトオの目を通して描いたキラキラと輝く美しい短編。
三島由紀夫のラディゲに対する、またコクトオに対する悲しみを称えた
愛情が溢れているように感じる。
ラディゲやコクトオを殆ど知らない自分でも、胸にグッとくるものがある。
そして、ラディゲやコクトオのことを知りたくなる。
ジャン・コクトオの目を通して描いたキラキラと輝く美しい短編。
三島由紀夫のラディゲに対する、またコクトオに対する悲しみを称えた
愛情が溢れているように感じる。
ラディゲやコクトオを殆ど知らない自分でも、胸にグッとくるものがある。
そして、ラディゲやコクトオのことを知りたくなる。
2011年11月30日に日本でレビュー済み
彼の作品は殆ど読んだがこの作品は未読である為,今週末に読了planをたてました.
2007年6月12日に日本でレビュー済み
13編の短編の中で特に面白かったのは『旅の墓碑銘』である。作者がボディビルを始める前に書かれたそれは、「肉体」としての「外面」を見つめる中に、アジア的「混沌」が見出される。その話自体興味深いものであるが、それとは別に構成が奇妙であって驚かされる。例を挙げると、菊田次郎が書いた原稿を読む「私」がその彼に感想を述べるくだりがあるのだが、その場面ですら原稿の一部に含まれているのではないかと思われる。ともあれ、『ラディゲの死』が「言葉」と「肉体」の齟齬がテーマだと言われる以上、その前に書かれた『旅の墓碑銘』を精読しておくことに越したことはない。
文学的価値を抜きにして、『箱根細工』はよく出来た話だと思う。内面の葛藤を織り込みつつ、最後まで緊張感を持続させる展開とコントラストを成す滑稽なオチを見る限り、作者の数少ないリアリズム作品と言ってもおかしくはない。
最後の『施餓鬼船』は小説家の葛藤を描いた作品であるが、これは『ラディゲの死』のテーマである「言葉」と「肉体」の問題について、「芸術」と「俗」の観点から迫ったものであると考えられる。作者は『葉隠入門』の中で、「文学」と「芸術」についての考えを述べているが、その一つの考え方が表された作品と言えよう。
17歳から31歳までの若かりし頃に書かれた作品であるが、絢爛な言葉で包み込む筆致であることに変わりはない。
文学的価値を抜きにして、『箱根細工』はよく出来た話だと思う。内面の葛藤を織り込みつつ、最後まで緊張感を持続させる展開とコントラストを成す滑稽なオチを見る限り、作者の数少ないリアリズム作品と言ってもおかしくはない。
最後の『施餓鬼船』は小説家の葛藤を描いた作品であるが、これは『ラディゲの死』のテーマである「言葉」と「肉体」の問題について、「芸術」と「俗」の観点から迫ったものであると考えられる。作者は『葉隠入門』の中で、「文学」と「芸術」についての考えを述べているが、その一つの考え方が表された作品と言えよう。
17歳から31歳までの若かりし頃に書かれた作品であるが、絢爛な言葉で包み込む筆致であることに変わりはない。
2003年4月3日に日本でレビュー済み
これは三島が17歳の時から、31歳までの短編13を納める短編集である。三島は幼い頃からラディゲを敬っていた。題名にもなっている「ラディゲの死」はラディゲの晩年を書いたものである。全体的に受ける印象はまだ幼い文だ、ということであった。